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4話

副業勧めてくる同僚多すぎィ!

 

 ー私の名前はディーバ・エスティト。軍備開発省に所属している。君の教授の友人だ。君の技術は非常に繊細で、非常に面白い。目の付け所が違う、という表現が正しいだろう。この書類が届く頃、おそらくレグストルはエースタシアに宣戦布告されている。そこで君の技術力を見込んで一つ提案がある。レグストルは現地でのアシストスーツの点検・修理や施設整備を担当する整備特技兵の不足が直近の課題だったが、現状ではそれを補う策が使えない。そこで君を軍の特技兵としてスカウトしたい。もちろん志願兵扱いになるが、給与や家族への様々な支援、学業分野については私が保証しよう。それなりにツテはある。

 私は時折、友人や上の人間からもまともじゃないとよく言われる。そう言った話も誰かしらから聞いたかもしれない。だが私は狂ってなどいない。至って大真面目な提案だ。私は技術に年齢も性別も関係ないと考えている。基本的には後方基地での仕事になる。もし良い返事をもらえるのであれば、速やかに下記の番号にかけて欲しい。私の部下の1人に繋がるはずだ。志願するつもりがないのであれば、この手紙は破棄してもらって構わない。この機会を潰すのであれば、の話だが…。


「こいつ…」


 こっちに理解があるような言い方をして、後から脅迫するような言い方をする。更には私の作品を見ただけでどういう人間なのか見抜いた…。かなり頭がキレるタイプだ。こういう人間とはあまり付き合いたくない。だけど、この人に連絡を取れば私は自身の技術を実際に現場で扱えるようになる。私が除隊してからもその後の足掛かりにもなる。少なくとも…兵士になることで家族への支援が行われる。私にはこの家に恩がある。返さなければならない。

 …いいだろう。その手に乗ってやる。教授の言っていた事がよく分かった。こいつは言い回しで言いくるめるなんてレベルじゃない。人の性格の穴をついてやらせようとする厄介なやつ。本当に…悪魔と契約でもした気分…。

 私はその日のうちに連絡することにした。書かれていた番号にかけ、部下という人にかかり回線は例のディーバ・エスティトという人物へ回された。


 《…やあ。来ると思っていたよ》

「私を整備特技兵としてスカウトしたいというお話ですが…」

 《かけてきたということは、肯定と私は取っているが?》

「その通りです」

 《ハハハ…思い切りがいい人間は嫌いじゃない。手紙の通り、君の家族への支援は保証しよう。ようこそ…我がレグストル軍へ。さて。諸々の手続きは我々がやっておく。君は…そうだな。まあ、家族と話でもしておくといい…》


 そう言って彼は切れてしまった。家族へ話、か…。黙って手紙だけ置いて出ていくつもりだったけど、しょうがない。ある程度話はしておくか…。

 エリューシヴがそう考えていた頃、軍備開発省では夜中にも関わらず稼働していた。


「…長官。手続きは8割方終わりました」

「ご苦労」

「長官…お言葉ですが…14歳の少女を志願させるというのは…」

「私の力をもってすればそのような些事は問題ない。君は仕事を続けたまえ」

「はっ。失礼します」


 ディーバは部下に作らせた志願兵用の手続き資料を見渡す。経歴も異常なら才能もまた異端。エリューシヴはあらゆる点において一般人とはまた違う生き方をしてきていると分かる。


「…この戦争は長くなる。その時、あなたの遺言を守れなくなるくらいなら、私は悪魔にだってなってみせよう」


 ディーバは紙タバコを出し、一服する。余計な考えを白紙に戻す。そして目の前の経歴書を持ち上げて見上げる。


「…エリューシヴ・ウェールズ。長官…あなたは娘を遠ざけたかったのではないのですか。戦争が起きた時、真っ先に狙われかねないと…いや。あの人のことだ。軍部が安全だと考えてもおかしくはない…。冷酷に見えて仲間を見捨てない…高いカリスマを持つあの人の娘だ。性格も似てなければいいんだが…」


 ディーバが心配する中、雨が降り出す。嵐が近づいているというテレビニュースも入っていた。


「長官が殺されたのも…こんな雨の日だったな…」


 戻ってレグストル郊外。ウェールズ家の屋敷ではよりにもよって真夜中にエリューシヴの選択によって大変なことになっていた。


「…エリューシヴ。お前がどうやって手紙の内容を知ったかは分からない。だが…これは一人で決めて良い問題ではない」

「エリューシヴ…」

「この件は私も擁護できないのね…」


 真夜中の家族会議。私が従軍しようとしていることがどれだけ大変なことなのか。そんなことは分かりきっている。だけど引き下がるわけにはいかない。ここで断たれてしまえばそれこそ現場での体験や実地でしか理解できないものを獲得できないまま無為に過ごしてしまう。私は少しでも恩を返すためならば軍に帰属することもいとわない。

 この話は私の求める技術力の向上と家族への恩返しをこなすことができる唯一無二の求人だ。こんな機会は二度とないだろう。


「エル。少し考え直してみない…?」

「ごめんシグ。私にも譲れない所がある。お父さん。基本的に後方での活動になる。前線に出ることはほとんどない。それでも…」

「はぁ…。エリューシヴ。お前が譲らないところはとことん譲らないのはよく分かっているつもりだ。大学へ飛び級制度を使った時も。お前は譲らなかったな」

「…私は」

「分かっている。お前のことだ。大学へ行く途中で行ってもおかしくない…。ただ、これだけは言わせて欲しい。拾い子でも、私にとっては可愛い娘だ。親友に託されたなら尚更…いや…なんでもない…。とにかく。お前が傷付くのが一番不安なんだ。それだけは覚えておいてくれ…」


 真夜中の家族会議はその一言を最後に終わった。その夜は何一つとして考えことはなかった。これから起こることなど、そんなことを考えることはしなかった。

 翌日、朝食は静かだった。誰かが話すわけでもなく、誰かが昨夜の話を蒸し返すわけでもなく。ただいつも異常に静寂が包んでいた。私は身支度を済ませて外へ出る。いつも通り大学へ向かい、講義を受けたあとは教授の研究室へ向かった。


「こんにちは…」

「エリューシヴ君…」

「…知ってるんでしょう?」

「ディーバから直接連絡があった。今日、放課後に迎えに来るらしい」

「教授」

「君には申し訳ないことをした…。あの時、アレを…君が作った作品を持っていかなければ…こんなことには…」

「私は気にしてません」

「私は気にするに決まっているだろう…。君が家族と血縁関係がないのは私も知っている。世話になった家族への義理を返すためならば家族に危機が至らないような仕事を選び自分を死地へ追い込んででも行こうとする。君はそういう性格だ。危なっかしいんだ…」

「私にとっては良縁でしたが」

「君は…君は現地での技術力向上と給金、そして志願兵制度による家族への支援金が目当てなのかもしれない。だけど…戦地はそう甘くない!」

「死んだとしたらそれはそれで名誉と思うようにしてます。感情を殺す方法は学びました。大丈夫です。壊れて帰ってくるなら…理性ある内に死を選びますよ」

「君という人間を私はこんな形で失くしたくない!それこそ人類にとって最大の損失だ!」

「…ありがとうございます。それでも私は行きます。私の技術が役に立つのなら、これもまた運命という奴なんでしょう」


 それだけ言い残し、私は大学を出た。校門前にはいかにもと言った車両が止まっており、黒服を着たボディガードらしき人物が見張っている。話しかけてみると、やはり例のディーバ・エスティトとかいう人物がよこした人達だった。私は自分を名乗り、黒服達に案内されるまま車に乗った。

 車が向かった先は官庁が密集する通り。しばらくすると立体駐車場についた。厳重な警備をクリアして車はどんどん地下へ向かっていく。何も考えることなどなかった。ただ、吸い込まれるような感覚だけが肌に残った。

 車が駐車し、丁重に出された。少し歩いた先に待ち構えていたのは痩せた男性だった。出立からして40代前半に見える。


「ディーバ・エスティトだ。エリューシヴ君。この度は私の提案に乗ってくれたことを嬉しく思う」

「よろしくお願いします。ディーバ…」

「長官…とでも呼んでくれればいい。早速で申し訳ないが君に最終確認を行いたい。ついてきてくれ」


 黒服達と一緒に案内され、省庁内を進んでいく。本来なら選ばれた人員しか入れない場所。普通の人がここに入ることなんてまず一生ないだろう。それくらい、ここは普通な場所ではないことくらい私にもわかる。

 エレベーターで6階まで上がり、スーツを着た職員達の奇怪な物を見る視線を受けながらたどり着いた先に、その部屋はあった。高そうなドアに貼り付けられている長官室と書かれた銀色のネームプレートは、責務の重さを感じさせられる。ドアをくぐると、様々な書類と共にボールペンが応接用に設置されているであろう机の上に整った形で置かれていた。黒服達は私がドアを過ぎたあたりでいなくなり、後から入ってきた長官は向かい側のソファに座った。


「ああ。そこに座ってくれ」

「失礼します」

「さて…君にはまだ選択する余裕がある。私は決して君を責め立てたりはしない。人は誰しも、恐怖があるものだよ」

「…私を駆り立てておいてその言葉が出ますか」

「狂ってると言いたいならば言いたまえ。私は事実を伝えたまで。君に悔いがない様に」

「…恐怖が無い、と言えば嘘になります。ですが、それ以上に私には為すべきことがある。ただし国のためではありません。家族へ恩返しするためです」

「…そう…か。なら、それでいい。兵士になる理由など、十人十色だ。君の言葉を記憶するつもりもない」

「ご配慮に感謝します」


 私はボールペンを持ち、既にある程度は手続きが完了していた書類に名前や自身の個人情報を書き込んでいく。この書類が書き終わった時点で、私は軍人に等しい扱いとなる。それは分かっている。だから今は哀愁を感じてはいけない。家族のことを…今は全て頭の中から消し去ろう。あるのは自らの技術を信じる力だけ。それ以外は何も必要ない。…必要ない。

 全ての書類を書き終えて長官に渡した。長官はいくつかの部分をチェックしたあと、部下に手渡したあとは私を再び部屋から出るよう促してきたので鞄を持って部屋の外へと出た。とりあえず長官が歩き始めたのでついていく。


「さて。晴れて今日から君はレグストル軍の志願特技兵となった。もちろん…分かってはいると思うが軍人として、まずは訓練を受けてもらうことになる。このまま職場とはいかない。訓練所へ行くのなら送っていくが」

「お願いします」

「…ああ。分かった」


 長官は私の顔を見るなり驚きながら歩いていく。まさか訓練施設へ向かうとでも思わなかったのだろうか。だからなんだとしか言えない。私は1秒も無駄にできない。今は…。


「冷酷な顔をしていながら責任感が強すぎるところまでそっくりだ…」

「長官?何か」

「いや。なんでもない」


 私は再び黒服達に連れられて訓練施設へと向かった。家族への挨拶もあってはならない。決意が揺らぐ。シグルートも…今は…いなかったことにしないといけない…。ごめん…シグ…。

暇だったら感想を書いてやってください。執筆スピードがちょっとあがります。たぶん。

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