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1話

書いていきます。詳細は状況報告をご覧ください。


 某日某所…。大雨が降る嵐が近づいた日。ある屋敷が夜中にも関わらず小さな光を灯している。光のもとでは、二つの家族が対面して座っていた。


「…貴方達家族とはとても良い関係を築いていると思っている。もちろん、この先も変わらない。私達は貴方達と対等な関係だ。だが…これは…」

「我々に猶予は無い。既に彼らは動き出している。力及ばず。彼らを止められなかった責任は我々にある」

「そして彼らが動き出している以上、私達は狙われる。もう既に反戦派の同胞の何人かが暗殺されました」

「だから…この子を追い出すのか?生まれてまだ間もないだろうに…」

「この子は一族最後の子。そして私達の唯一の娘。こんなことで死なすわけにはいきません」

「分かりました」

「ヘレナ…」

「うちにはもう2人いるではないですか。新しい子も生まれたばかり。たった2人増えた程度、大丈夫ですよ。双子みたいなものです」

「申し訳ない。独り立ちできるまでの養育費と報酬は払っておいた。分かっているとは思うが、我々のことを聞いても他人事で頼む」

「娘へ真実を伝えるかどうかは…あなた方にお任せします…」

「あとは頼んだ。我が永遠の親友よ」

「君が死なないことを祈る。親友」

「…ありがとう。その期待、応えるよう努力する」


 片方の家族は机に赤ん坊を置いて外を出ると、待たせてあった車両に乗って雨の向こう側へと消えた。見送るのはもう片方の家族。家の中から、男はただじっともはや見えない霧の向こうを見つめる。女は机の上の赤ん坊を抱く。


「あなた…私はこの子を寝かせて来ますね」

「ああ。悪いな。ヘレナ」

「大丈夫ですよ。これでも元々体力勝負な人生送ってきたのですから」

「私はその逞しさが羨ましいよ」

「ふふっ…おやすみなさい。あなた」

「おやすみ」


 部屋から女が出て行く。男はまだ雨の向こう側を見つめていた。ただじっと。片手には普段からよく飲んでいる紅茶を持っていたが、紅茶はもうとっくに冷え切っていた。


「良かったのだろうか…これで…」


 翌日、男が朝食を食べる前に朝刊を開いた。そこには『男女2人死亡。車両爆発。電気系統にトラブルか』と小さな見出しで書かれていた。そして死亡者の名前には、自分の掛け替えのない友人の家族の名前が書かれていた。

 朝刊を閉じて静かに出された朝食を食べる男。何も言わなかった。何も考えなかった。家政婦が玄関を掃除していたが、普段は聞こえるはずのホウキの音が男には聞こえなかった。ただ…その日の朝食は塩気が強く、目の前が歪んだ。味も段々分からなくなり、黙り込み、身支度をすると妻が心配して声をかけているのに気付かずに車に乗り、出勤する。

 だが職場につくと、男は車の中で1人ぽつりと呟いた。


「…分かった。我が親友。君の名にかけてあの娘は立派に育てよう。だが親友よ。君は大事なことを忘れていってくれたな…。あの娘の名前がないじゃないか」


 しばらくして仕事が終わったあと、再び家に帰る男。その道中、男はずっと考えていた。

 あの娘の名前は何が良いのだろうか。とても可愛い名前がいいだろうか。かっこいい名前がいいだろうか。いっそのことまた不思議な名前がいいだろうか。しかしありきたりな名前はなんだかつまらない。かと言って派手な名前は注目をひいてしまうだろう。

 そんなこんなを考えている内に家に着いてしまった男は悶々としながら家に入る。家政婦に仕事着と鞄を預け、妻と子供達がいる部屋へと向かう。部屋には2人の娘である長女シェリルと次女イネス。生まれたばかりの長男、シグルート。そして親友の子がいた。


「おとーさまおかえりなさい!」

「おかえりなさい!」

「シグルートはまだ寝てるの。おこしちゃめなの」

「ああ。そうだね。お母さんはどこに?」

「あなた。おかえりなさい」

「ただいまヘレナ。実は…」


 男は道中に考えていたことを妻に話す。しかし面白がった娘達も話に入り込んできてしまい、理由を簡単に各所を朧げにしながら説明した結果、親友の娘の名前決めは争奪戦へと様変わりしていた。


「いいやソフィアだ!」

「アンナがいいわ!」

「カミーユがいいの!」

「セレスト!」

「クッ…これでは今日中に決まらないぞ!」

「名前がない赤ちゃんなんてかわいそうだから早く決めてあげないと…」

「かわいそうなの!」

「んー!もうや!これで決める!」

「シェリル?」


 長女シェリルが持ってきたのは分厚い辞書。普段は男が仕事で時折使っている、学生時代からの愛用の辞書だ。


「これで出たとこのまんなかの字にする!」

「ふむ。確かに一理ある。いつまでもこんな争いをしていては名無しの子になってしまう」

「そうね。ここはシェリルの言う通りにしましょ」

「さすがおねーさまなの!」

「じゃあ…行くよー!」


 シェリルが辞書を横にして机に置き、開くように立てるとそのまま手を離した。ドンッと鈍い音がしたあと、数ページが風で仰がれてめくられる。そして中心に出てきたのは…


「えりゅー…しゔ…?」

「えっと。あなた。意味は?」

「エリューシヴ。掴み所のない。神出鬼没な、という意味だな。名前としてはちょっと…」

「えりゅーしゔ!かっこいいよ!」

「え?」

「なんだってかわしちゃいそう!」


 男は思い出した。ああ、そうだ。親友は命を狙われていた。この娘だって狙われていたとしてもおかしくないと。娘達と違って髪色も瞳の色も違う。少し見れば分かってしまうだろう。

 男は思った。ならば追跡者から、この娘の両親を狙った組織の目からも逃れられるように願ってもいいだろうと。


「…決まりだ。今日からこの娘の名前はエリューシヴ。エリューシヴ・ウェールズだ」

「エリューシヴ…響きは悪くないわね」

「えりゅーしゔ!」

「えるーしぶなの!」


 神出鬼没。掴み所のない少女。エリューシヴ・ウェールズはここに生まれた。

 黒き髪と蒼き瞳を持つ少女が向かう先は果たして明るい未来か。はたまた茨の道か。それを知るのはまた先の話である。

いつになるかは分かりません。暇なら感想を書いてやってください。執筆スピードが1%だけあがります。

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