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 それが起きたのは、何の変哲もない日で、いつものように通学している時だった。高校は、割と近いところにあって、徒歩で通学ができた。

 毎日電車に押しずし状態になって通学するのは嫌だったし、自転車も持っていなかったので、徒歩で行ける距離に高校があったことは幸運だと思った。


 毎日同じ時間、同じ道を通れば顔なじみというものはできるもので、挨拶すら交わさないが親近感を勝手に持ってしまう。逆に、憎しみを抱く場合もあるが。


 信号待ちをしている俺の前にいるのは、バカップル。名前は知らないが、毎日イチャイチャと見せつけてくれる・・・控えめに言って殺したい。


 いまだかつて彼女なんていなかった俺をあざ笑うかのように、仲睦まじい姿を朝から見せつけやがって。


 一度痛い目を見ればいいのに。


 そんなことを願った罰だろうか?この後俺は、青信号を渡っている最中に、信号無視をしたトラックにはねられた。



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「トラックにはねられるパターンか。この部分いらないよね、別に主人公の前世事情とかどうでもいいし。」



 本日3本目のネット小説に文句を垂れる。

 私が小説に求めるものは、非日常。想像もつかない展開の物語、魅力的なキャラクターと無双する主人公。


 私が好きなジャンルは、異世界モノ。転生でも転移でもいいし、そのままファンタジー世界に生きる人々の物語でもよかった。



「まぁ、次のページから異世界編だと思うし、文句言わずにさっさと読もう。」



 そして、私は次のページへをクリックした。




「あー・・・頭痛い。寝すぎたかな?」



 目を覚ましたのは、天蓋付きのベッドの上。

 外は夕焼け・・・これは完全に寝すぎだ。今夜は間違いなく眠れないだろうと、げんなりとして起き上がる。



「それにしても、前の世界の夢を見るなんて・・・」



 この世界に来てから、昨日を除いて野宿続き。浅い眠りで見た夢は、魔物に食われていたり、普通に襲われて殺されたりするものばかりだったのに。


 それだけ、心にゆとりができたのかもしれない。


 衣食住が確保された。差し迫った命の危険はなく、気を張る必要はなくなったので、そんな夢を見たのだろう。

 あの夢は、この世界に来る直前の出来事。



「なんて締まらない転移・・・転生よりはいいけど・・・」



 もしも異世界に行けるのだとしたら、私は転移がいいと常日頃思っていた。それは、死ぬのは怖いだろうし、痛いからだ。

 念願かなって転移をしたわけだが、結局死んでいるので転生と変わりがないように思える。



「もしかしたら、死にたくないって思いが強すぎて・・・こんなチート能力を。」



 不死の能力は正直ありがたいが、どうせなら攻撃できる術や防御できる術・・・無痛とか、そういうのも欲しかった。



「切実に無痛が欲しい・・・」



 痛いのは本当に嫌だ。

 それは、死ぬたびに思うことだ。




 私が目覚めてから1時間も経たずに、ユズフェルトが帰ってきた。



「シーナ、戻ったぞ。」


「おかえり、ユズフェルト。守護者はどうだった?」


「守護者自体は簡単に倒せたが、罠にてこずってこんな時間になってしまった。すぐに夕食の準備をしよう。」


「え、いいよ。疲れているでしょ?」


「全然平気だ。けど、気にするなら外で食べよう。」



 外食・・・この世界では初めてだ。

 ちょっと楽しみになったのが伝わったのか、ユズフェルトは私に微笑みかけながら着替えるよう促した。



「俺も腹が減った。」


「なら、すぐに準備するね。ユズフェルトも着替えたら?」


「?」


「楽な格好の方が、食事がさらにおいしくなるかなって?」



 ユズフェルトの格好は、戦ったり旅をするときの服装だ。皮のベストを着ていたり、マントを付けていたりと、食事をするには邪魔そうだと思ったので、着替えることを勧めた。



「そうなのか。なら俺も着替えてくる。」



 素直だな。




 着替えた私たちは、冒険者ギルドに併設されている酒場に来た。

 熱気と喧噪は慣れないが、マナーなどを気にする必要が全くないのと、一度こういうところに行ってみたかったというのがあって、ここを希望した。



「すごい人だね。」


「王都だからな。依頼には事欠かないから、生活する金に困ることはない。たとえ戦う能力がなかったとしても、店番などの依頼もあるからな。他の町ではこうはいかない。」


「店番・・・なら私もできるかな?あーでも、お金が分からないか。」


「・・・わからないことがあれば俺が教える。だが、働く必要はないからな?」


「これがあるから?」



 首にかけているネックレスをつまんで見せれば、ユズフェルトは大きく頷いた。



「俺がすべての面倒を見る。それを身に付けている限りな。」


「・・・なくさないように気を付けるよ。」



 ちょうど席が空いたので、私達はそこへ腰かける。メニューは何があるかわからなかったので、ユズフェルトと同じものを注文した。



「そういえば、神殿の罠ってどんな感じだったの?」


「ん?あー・・・たぶん、守護者を攻撃したものをターゲットにする罠だ。炎爆弾を投げつけたアムが罠にかけられたんだが、それを俺が代わりに受けた。」


「え、ユズフェルト、アムを助けたの?」


「当然だ。」



 死にたくないから代わりに死んでほしいというわりには、他人が引っ掛かった罠に自分が代わりにかかりに行くなんて、不思議な人だ。



「罠自体は、生き埋めにするというものだった。」


「・・・え。生き埋め!?」


「あぁ。」


「そ、それで?ナガミとかが助けてくれたの?」


「自力で脱出した。」


「生き埋めにされていたのよね?」


「されたけど、別に地中深くにされたわけじゃない。せいぜい2,300メートルだ。」


「・・・十分深いと思うけど。」


「そうか?」



 超人という言葉が頭によぎった。

 ユズフェルトは、机に置かれたパンをちぎって口に放り込む。少し前まで生き埋めにされていたとは思えない。



「ち、ちなみに・・・どうやって脱出したの?」


「それは、体を回転させて・・・それよりも、さっさと食べたらどうだ?スープが冷めるぞ。」


「回転・・・ドリルってこと?」



 信じられないが、もしかしたらそういう魔法か何かがあるのかもしれないと思って納得し、私は温かいスープを口に運ぶ。



「おいしい。」


「それはよかった。」



 よかった、異世界ってメシマズのイメージがあったから。普通においしい食事で、ものすごくうれしい。




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