8 神殿
ユズフェルトたちが遺跡の神殿に行ってしまったので、することがない。とりあえず部屋着に着替えて、自分の部屋のベッドの上に寝転る。
私に与えられた部屋は、3階の奥にあって、コリンナと一つ部屋を挟んで隣の部屋だ。
家具は、一目で高価だと分かるようなものばかりで、ベッドで横になるのも最初はためらうほどだった。
衣装棚、ドレッサー、机と椅子が2脚。すべて木製で、表面が磨かれていてつやつやとしている。落ち着いた茶色に染められているので、執務室から持ってきたと言われても納得してしまう。
ベッドは天蓋付きで、触り心地のいいシーツは、触っただけで汚してしまうかもと心配になるほど白い。
寝心地がよかった・・・いいや、進行形でいい!
それにしても、運が悪かったというべきか、よかったというべきか。
唐突に異世界に召喚されて、その日のうちに殺された私。でも、不死という能力のおかげで、人間らしくは生きられなかったけど、とりあえず命をつなげることができた。
そして、再び能力のおかげで、衣食住が保証された人間らしい生活を送れることになったが・・・ユズフェルト以外の仲間たちの様子を見る限り、これからの生活は何かしら障害がありそうだ。・・・いや、ユズフェルトもなかなか・・・空気が読めないというか、自分の意見を曲げない頑固なところがあるので、彼のせいで騒ぎが起きる予感もある。
仲間思いで、優しい人だけどね。
それにしても、なぜ私の素性について一切問わないのだろう?私は、名前と居場所がないこと、不死の能力があることくらいしか伝えていない。
得体のしれない人間を、よく仲間に入れたものだ。
「私としては助かるけど・・・まさか、何か裏が・・・」
私を利用しようとしている?
普通ならそう考えるが、ユズフェルトが相手となると、そうは考えられなかった。彼は私を利用しようとしているのかと聞けば、肯定してくるだろう。身代わりとして利用しようとしていると。
「俺の代わりに死んでくれ・・・なんて情けない言葉。普通ならお断りだけど、不死になった今なら、いい話だね。」
死ぬのは嫌だけど、あのまま一人で生きていても何度か死ぬだろう。だったら、同じ死なら、生活を保障してもらえる方を選ぶ。
「・・・なんだか、眠くなってきた。」
たっぷり寝たはずだが、それだけ疲れていたのだろう。寝転がっていたせいか眠気にたいして抵抗できず、遂に瞼を閉じた。
王都近くにある大森林。そこで、新たに発見された遺跡、通称神殿は、数か月前の大雨で土砂が崩れたことで入口が外界に現れ、発見された。
森の中にあるキュリザスの墓と呼ばれていた丘・・・と思われていたものは、神殿を隠す様に人工的に作られたドーム状の壁だったのだ。
キュリザスの墓の内部は、まるで洞窟の中にいるような岩壁におおわれた場所で、ひんやりと冷たい場所だ。
その中に、淡く輝く白い、石造りの建物がある。
人が3人並んで入れるくらいの大きな出入り口に扉などはなく、ただ穴が開いているだけだ。そんな入り口には、両脇に等身大の女神像と男神像が向かい合って設置されている。
その像を見て、コリンナはユズフェルトの腕に腕を絡める。
「見てくださいユズフェルト様、あの神々は恋仲だという意見もあるのですよ。素敵ですよね。」
「そうなのか?」
「はい。調査隊の方に話を伺いました。ただ、これは憶測の話でして、もう少し資料が欲しいと言っていました。守護者を倒せば、さらに奥まで進むことができて、きっと研究がはかどりますわ。」
「研究のために、守護者討伐命令がギルマスから来たのは知っているが、調査内容は聞いていなかったな。」
「そうなのですか?とても素晴らしい話をしていました。ただ、守護者が待ち構えているのは入ってすぐの場所らしく、外観からの憶測でしか語ることができないと・・・」
「フン。それで何が分かるというのか。本当に憶測でしかないのだな。」
「あなたにはわからなくても、知識を蓄えた調査隊の方ならわかるのです。私だって、この像を見ればすぐにわかりましたわ。これは、お互い触れることすら許されなかった悲恋神々・・・」
「コリンナ、そろそろ中に入ろう。さっさと守護者を片付けて俺は帰りたい。」
「・・・わかりましたわ。」
もうしばらく語りたかったコリンナだったが、ユズフェルトの望まないことならば仕方がないと、口を閉じて彼から離れた。
「確か、守護者は神殿に入ると同時に攻撃を仕掛けてくると言っていたな。」
「それなら、俺にいいアイディアがある。」
「なんだ、アーマス?」
「神殿に入る前に攻撃する。先手必勝・・・うまくいけば、こちらは被害ゼロだろう?」
「試してみるか。・・・アム、炎爆弾を出してくれ。」
「わかった。」
持っていた荷物を下ろして、荷物の中からソフトボールくらいの大きさの、赤のラインが入った黒い玉を取り出すアムに、コリンナは近づいた。
「魔力を込めますわ。」
「・・・」
アムが玉を差し出すと、コリンナはその玉に触れて魔力を込める。魔力を込められた玉は、赤のラインが太くなっていき、最後には真っ赤な玉になった。
「準備できたな?中に投げ入れてくれ。」
「わかった。」
ユズフェルトの指示に従って、アムは赤い玉を放り投げた。玉は、見事入口に入って、床にぶつかると同時に、轟音と共に業火に変わる。
建物内は真っ赤な炎で埋まり、ゴーレムも炎に包まれた。
「特に反応はないな。」
「効いていないか、もうすでに倒れたか。炎が収まってから確認するしかないな。」
「・・・炎爆弾の炎がゴーレムに通じるかは不明だけど、衝撃はダメージを与えているとは思うよ。前に打撃武器が効果的って聞いたことがある。」
実は、彼らがゴーレムと対峙するのは初めてだった。このあたりで最近遺跡が改めて見つかったという話はなく、遺跡自体そう見つかる物ではないからゴーレムについて詳しくは知らない。
ただ、寝物語で遺跡を見つけた騎士の話というものがあり、そこで守護者としてゴーレムが出てくるので広く知られているだけだ。
とてつもなく強いことも知られているので、ギルドでは遺跡が発見された場合は高ランク冒険者を派遣することを決めている。
「・・・!アム!」
「!?」
炎を見ていたユズフェルトが、一気にアムの目の前まで距離を詰めて、アムを押し飛ばした。驚いたアムが見たものは、地面に飲み込まれるユズフェルトの姿。
「ユズフェルト様!」
「罠か!」
「馬鹿が!」
それぞれ手を伸ばすが当然届くはずもなく、ユズフェルトは地中へと呑み込まれてしまった。
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