7 クエスト発生
バタバタと慌ただしい音が聞こえて、私は目を覚ました。
「どこ?」
見慣れない部屋に驚いて飛び起きるが、すぐにここが私の部屋なのだと思い出した。
それにしても、部屋の外がうるさい。何かあったのだろうかと、私は起き上がって部屋を出た。
スリッパなんてものはないから靴を履いたが、部屋着に靴という組み合わせはなんだか落ち着かなくって、不審者のように廊下を歩いていたら、前方の扉が開いてコリンナが出てきた。
出てきたコリンナは私を見て嫌そうな顔をする。
「まさか、あなたも行く気ではないでしょうね?」
「え?」
「足手まといになるから、大人しく留守番していなさい。」
そう言って、さっさと階下に行ってしまった。
「どこかに行くのかな?」
どう見ても好意的ではないコリンナを追いかけて聞いても、答えてはくれないだろう。階下にいるはずのユズフェルトかナガミに聞くしかない。
ナガミが素直に答えてくれるかはわからないので、できればユズフェルトがいればいいが。
ちなみに、ハウスは3階建てで、1階が共有スペース、2階が男子、3階が女子という分かれ方になっている。
とりあえず、2階を見ていなかったら1階に降りてみよう。そう思ったとき、階段を素早く上がる足音が聞こえて、黄色の頭が見えた。
「シーナ、おはよう!」
「おはよう、ユズフェルト・・・どこか行くの?」
「あぁ。ギルマス命令で神殿の守護者を倒しに・・・神殿は、最近見つかった遺跡のことで、守護者っていうのは、遺跡にだいたいいるゴーレムという魔物のことだ。総じて強く、高ランク冒険者が対応することになっている。」
「そうなんだ・・・今から行くの?」
「あぁ、だから準備してくれ。」
「・・・」
「どうした?」
「高ランク冒険者が相手をするってことは、危険な相手だよね。私が行ったら迷惑じゃないかな・・・」
「むしろ、俺の命の危険があるから行って欲しいのだが。」
「あ・・・」
そうだ、私はユズフェルトの代わりに死ぬ約束をして、その見返りに今の生活をさせてもらっていたのだった。むしろ行くべきだろう。
今私は魔道具のネックレスをしているが、これの有効範囲もわからないので近くにいたほうがいいはずなので、一緒に行くべきだ。
「今すぐに支度をする。」
「わかった、下で待っているから。」
部屋に戻って、昨日買ってもらった服から動きやすそうなものを選んで・・・あれ?
「ロングスカート・・・却下。ワンピース・・・うーん。」
ワンピースの丈は、膝が隠れる程度なので、ロングスカートよりは歩きやすそうだ。しかし、これが冒険に行く・・・これから魔物を倒しに行く格好だろうか?実際に私が倒すわけではないが、これでは何もしないことをアピールしているようで、仲間の心証がさらに悪くなりそうだ。
「とりあえず、これに着替えよう。」
ユズフェルトが待っているのだ。着替えてから相談しよう。
「あなた、ふざけているの?」
冷ややかな声が浴びせられる。
1階では、すでに準備を整えた仲間たちがそろっていた。一番最後に来てふざけた服装をして来れば、怒って当然だ。
「悪いなシーナ。今日はその服で我慢してくれ。」
「ちょっと、ユズフェルト様、まさか本気でこの子を連れて行く気ですか?」
「そうだ。シーナは俺の主だからな。」
主・・・そういえば、それについて問い詰めようとしていたのを忘れていた。
「いくら何でも無茶だと思うけど、ユズフェルト。守られるだけのかわいい子ちゃんは、ハウスで待ってもらえばいいと思うよ?」
「アーマスの言う通りだわ。」
「私も同意見だ。」
アーマス、コリンナ、ナガミに反対されたが、ユズフェルトはかたくなに私を連れて行くと言って譲らなかった。どうやら決定権はユズフェルトにあるらしい。彼を説得しない限りは、私を連れていくことになるのだろうが・・・このまま強行すれば、彼らの絆に傷が入るだろう。
「あの、ユズフェルト・・・ちょっと。」
「何だシーナ。まさかお前まで反対する気じゃ・・・」
「いいから。」
私はユズフェルトを引っ張って、他の4人に声が届かないよう2階へ上がった。
「どう説得したものか・・・」
「ここは他の仲間の意見に従ったほうがいいよ。私なら、ユズフェルトの後について行くから・・・」
「それはばれる。」
「あ・・・そうだよね。私素人だし・・・」
Sランク冒険者を尾行・・・なんて無謀だろうか。よく考えてみれば、彼らの速度に追いつくかもわからなかった。
「それに危険だ。」
「危険って・・・」
確かに、一人でいれば魔物に襲われる危険はある。だが、私は死ぬことはないので、それを心配する必要はない。それはユズフェルトもよくわかっているはずなのだが。
「俺はな、シーナに俺の代わりに死んでもらうって約束してもらって、決めたんだ。絶対、それ以外でシーナが不幸になることや傷つくことがないように、俺が守るって。」
「それは、無理だよ。」
そんなことができるはずがない。たとえ、四六時中私に張り付いていたとしても、すべての脅威から救うことなんて無理な話だ。
でも、嬉しい。
無理だと断言できるが、私の胸は高鳴った。
不死を人に話せば、きっと死なないことをいいことに、酷い扱いを受けると思っていた。それが実際はどうだ。傷つけさせることも、苦しませることもさせないという。
いい人だな。
「無理だとしても、俺はそのように行動するつもりだ・・・だから、今回は俺が折れることにする。」
「え?」
「シーナは留守番をしていてくれ。ただし、決して外には出ないように。」
「でも、それだと・・・身変われないかもよ?」
「大丈夫だ。この魔道具の効果範囲はかなり広い。国を3つ隔てていても効果があった。」
「・・・は?」
なら、私が付いて行く意味が全くないね。なんでこの人、私を連れて行きたがったのだろう。
無事、彼らは出発し、私はハウスに残ることになった。
去り際、コリンナが得意げな笑みを浮かべたが・・・なんの意味があったのだろう?