55 折った
そなたの力は示された。
次は、共にある者の力を示せ。
あっけなくユズフェルトが抜いた聖剣が光りだすとともに、そんな言葉がユズフェルトの頭に直接響いた。
なんだ?と思う暇もなく、ユズフェルトの意識は奥底へ沈む。
それから10分後、アムに背負われたユズフェルトは、地上に出ると同時に目を覚ました。目を覚ましてすぐにシーナがいないことに気づいて、躊躇なくペンダントの力を使うが、なぜか使えなかった。
「どうして・・・」
「目が覚めたか。」
「ナガミ、シーナはどうした?」
「置いてきた。」
「・・・」
ユズフェルトは、アムの背中から降りると、再び地下へと向かおうと走り出した。
ゴゴゴゴ・・・ガラガラっ。
だが、そんなユズフェルトの目の前で、地下への階段は天井が落ちてきて通れなくなってしまった。あまりのタイミングの良さに顔をしかめると、頭に声が響いた。
資格なきものは見捨てよ。
ギリっ・・・ユズフェルトの歯が、きしんだ音を立てる。
あまりの怒りで、ユズフェルトは聖剣を地面に突き立て、その刃を回し蹴りで折った。
「・・・は?」
「ちょ、何やってんの!?」
「折れるものなのか。」
こんなことをしている暇ではないと分かっていたが、それでも怒りを発散させずにはいられなかった。
シーナを置いて行ったと知った時、すでにユズフェルトの怒りゲージは降り切れていたが、さらに聖剣の嫌がらせのような足止めと言葉で、我慢することができなかった。
「お前、その聖剣・・・聖剣を折ったら、元も子もないだろう。」
「うるさい。」
そもそも、聖剣を手に入れるために来たのだ。その聖剣を追ってしまっては、本末転倒だと言われても仕方がない。だが、ユズフェルトにはそのような意識は無かった。
ユズフェルトは、コリンナとの婚約が破棄できればいいのだ。
もっと言えば、コリンナとの婚約が破棄できなかったとしても、ユズフェルトは逃げ切ればいいと思っている。それを、わざわざ理不尽な交換条件を律義に果たそうとしていたのかというと、気に入らなかったから。
それと、聖女に聞きたいことがあったからだ。
だから、別に聖剣を折ったことは、たいしたことがない。逆に、少しでもうっぷんが晴らせたので、聖剣は役目を果たしたのだ。
役目を果たした聖剣の、柄の方をアーマスの足元に投げ捨てる。アーマスは理解したようにそれを拾って、建物を出た。
それを見届ける間もなく、ユズフェルトは地面を殴りつけて地面に穴をあけ、そこから地下へと入る。
道をふさぐゴーレムを魔法で木っ端みじんにし、ふさがれた道の前で地面に穴をあけてさらに地下へと降りる。
「シーナ・・・」
うっぷんが晴れれば、後は後悔が残るのみ。
すべて自分のせいだと責めるユズフェルトの声は、快進撃を繰り広げるものとしては弱弱しく頼りない。
不安のない足取りで、ゴーレムを倒しながら進む。まるで虫でも払うがごとく、あっけなくゴーレムを倒すユズフェルトの手は、震えていた。
自分のせいだ。
シーナは死なない。
だから、すぐに会える。でも、それとこれとは関係ない、この事態を引き起こしたのは、シーナを危険にさらしたのは自分だ。
謝っても謝り切れない。
聖剣など、取りに行く必要はなかった。取りに行くにしても、一人で行けばいい話だというのに、全員出来たためにシーナを危険にさらし、一人取り残されるようなことになってしまった。
謝っても謝り切れない。
「シーナ、シーナっ!」
パラパラと、天井から落ちる砂。時折床が抜けて、道をふさぐ。全てが埋まる前に、シーナを見つけなければと、ユズフェルトは声を張り上げた。
大きなゴーレム。とはいっても、神殿で見かけたような大きさではなく、私より少し背が高い程度だ。頭3つ分くらいか?
どうでもいい。
そのゴーレムの、明らかに私の頭より大きな拳が、私に向かって振り下ろされた。それを、私は軽々とよける。ゴーレムの拳が地面をえぐっている間に、私はそのゴ-レムを突破し、次のゴーレムの攻撃に備えた。
水平に振られる拳を、姿勢を低くすることでよけて、スライディングしてこちらに拳を振り下ろそうとしているゴーレムの足の間をくぐる。
パラ。
砂が頬にかかった。次に岩が落ちてきて、背後からゴンっという音がした。少し遅ければ、頭に岩がぶつかっていたかもしれない。
ひやりとした瞬間、ぐきっという嫌な音が耳に届き、痛みが背中を襲う。
「がはっ・・・」
吹き飛ばされて、壁に激突する。体全体、特に顔と背中が痛い。生暖かい液体が足に垂れる。ドクドクと嫌な音がする。
痛い、熱い、痛い。
狭くなった視界に、ゴーレムの大きな拳が迫る光景。これは一度死ぬことになるだろうと、そっと目を瞑った。
魔の大森林で逃げ回った際に培った経験は、あまりここでは生かしきれなかった。屋内、しかも何もない遺跡では、森の木々を利用して逃げる私には不利だ。
あと5回くらいかな?
最下層からここまで、何度か階段を上ったので、もうすぐ地上に出てもいい頃合いだろうと、自分を励ます。
あと、5回くらい死ぬ頃には、地上にたどり着いているはずだ。
そうやって励まして、慰めて、私は死を受け入れる。
ぐしゃり。