表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/65

54 勘違い


 決まったようだな。

 そう呟いて、ナガミは正面を見据える。アムは、ユズフェルトを抱え直して、この部屋を出る準備を整えた。


 彼らがこの部屋から飛び出せば、数体のゴーレムは彼らを追うだろうが、残りは私が相手をしなければならない。相手・・・とはいっても、私には逃げることと殺されることしかできないだろうが。


準備が整った。そう感じたのだが、一人だけ準備を整えていないものがいる。


「そんなこと、できるわけがないって、わからないの!?」


 今、まさに龍の宿木の決定権を握っていると思われるアーマスが、叫んだ。

 私は、意味が分からず首をかしげる。


「アーマス、いったい何を言っている?この女を置いて行く、今の状況の最適解だろう?それができないとは、どういうことだ?」

「・・・時間が無い。すぐに地上へ出るべきだ。」


 パラパラと天井から小石が降ってくる中、アムの言う通り時間が無いことはわかり切っているのに、まだ動かない。

 それは、アーマスが私を置いていけないと言ったから。そして、脱出するにはアーマスの力が必要なので、即座に私を置いて行く決断をした2人も動けないでいた。


 なぜ、アーマスがこのようなことを言うのか、理解ができない。確かに、彼はナガミやアムに比べて私に対しての接し方が優しかったが、まさか情がわいたということではないだろう。彼の優しさが偽物だということは、彼の冷たい目を見ればわかっていた。

 それが、なぜ?


「2人共、ユズフェルトに何と言うつもりだい?ここでシーナちゃんを残したら、俺たちはユズフェルトに殺されるよ?」

「・・・考えすぎだ。」

「そうかな?俺はそうは思わないから、シーナちゃんを置いて行くつもりはない。」


 ずいぶんな買い被り?勘違いもいいところだ。

 私が死んだらユズフェルトに殺されるだなんて、まさかそんなことあるわけがない。確かに、ユズフェルトにとって私は命を守るのに必要な身代わりだ。しかし、身代わりが死んだとして、仲間を責めるだろうか?

 たとえば、私を殺したのだとしたら、それは責めるだろうし、勢い余って殺すなどということは考えられる。


 しかし、今回はユズフェルトや自身の命を守るために、私を見捨てるだけなのだ。命を守ってもらったことに感謝はしても、私を見殺しにしたことで恨まれることはないだろう。


「たとえ、そうだとしても・・・アーマス、状況を見ろ。今のメンバーで、全員が助かるのか?私はゴーレムを排除しながら地上へ上がることは可能だが、その人間の女を背負っていくことは不可能だ。体力がないからな。」

「僕も、2人を背負って地上までは・・・走れないな。」

「アーマスには先陣を切ってもらうか、後ろの守りに徹してもらう。そんなこと、人を抱えながらできることではないだろう?ただでさえ、ユズフェルトを背負っているアムを守りながら進むのだ。無理に決まっている。」

「それは・・・そうだけど。」


 ナガミには、私を背負って行く体力がない。

 アムは、もうすでにユズフェルトがいるので手一杯だ。

 アーマスは、体力はあるが、ナガミのように魔法でゴーレムを倒し続ける魔力はないので、体術になってくる。そうなると私を背負っているのは難しい。


 無理だ。私でもわかること。

 私は、戦う力もないし、彼らのスピードに合わせて走ることもできない。一緒に地上に行くことはできないのだ。


 わかっているはずなのに、それでもアーマスは動かない。

 このままでは、全滅してしまう。


 ユズフェルトが、死んでしまう。


 背筋がゾクリとした。


「アーマス、いいから、行って。」

「・・・できない。」

「生きてあなたたちの前に、また現れればいいでしょ?それくらい私ならできるから、早く行って!」

「できるはずがない。そんな力があるなら、俺たちと一緒に逃げられるはずだ。俺たちと行けないってことは、そんな力ないってことだよ。」

「馬鹿にしないで!」


 目を吊り上げて、大声を張り上げる。

 私は怒っていた。先ほどから、アーマスの勘違いがひどいのだ。ユズフェルトが私をどう思っているだとか、私がどういうことができるのかだとか、全くわかっていない。


 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、早く地上へ向かってほしかった。

 パラパラと天井から降る物が、砂から小石、今は度々こぶし大の石まで降ってくる。もう時間が無いのだ。

 このままでは、本当にみんな死んでしまう。・・・私以外。


「なんで、私がユズフェルトと一緒にいると思う!?私は、ユズフェルトに頼まれたの!もしも、ユズフェルトが死にそうになった時、必ず助けて欲しいって・・・だから、生活の面倒を普段見てもらっているの!ここでユズフェルトを死なせたら、私がいる意味がない!」


 私は、アーマスの肩を思いっきりつかんで、突き飛ばした。

 アーマスは倒れることなく、少しバランスを崩した程度だったが、驚いた顔をする。ここまで私が抵抗するとは思わなかったのかもしれない。


「生きていればいいでしょ!?なら、生きて、またあなたの前に現れるから、行って!」

「そんなこと、できるわけ」

「やってみれば、わかるよ。できないなんて、あなたが私を知らないから言えることだよ。ユズフェルトが、何の力もない人を側に置くと思う?置かないでしょう?」


 私は、堂々と、腰に手を当てて、アーマスを見据える。


「魔の大森林で生き抜いた実力、思い知らせてあげるよ。」

「・・・やっぱり。」


 ぼそりとアーマスが呟いたが、その続きはナガミにさえぎられて聞けなかった。


「人間の女がこう言っているのだ、行くぞアーマス。じゃ・・・いや、またな・・・シーナ。」

「うん。ユズフェルトをお願い。」

「言われなくても。」


 ナガミに引っ張られるアーマスと目が合った。

 冷たい赤の瞳は、納得したとでもいうように落ち着いていて、もう私を置いていけないなどとは思っていないようだ。

 最初から、ユズフェルトに怒られるのが嫌という理由だったので、私を置いて行くことに関してはそれ以外抵抗がないのだろう。

 何も不思議なことではない。龍の宿木は、結局ユズフェルトのためにあるようなもの。お互いに仲間意識や情というものはないのだ。


 ユズフェルトとナガミ。

 ユズフェルトとアム。

 ユズフェルトとアーマス。


 そういう関係なのだ。ユズフェルトがいるから、龍の宿木にいる。お互いは、ユズフェルトの関係者程度の情しか持っていない。


 この旅では、よくそれが分かった。


 まぁ、ナガミとアーマスは、少しだけ仲がいいように見えたけどね。



 ナガミが風魔法で、連続してゴーレムを崩す。先へ続く道が開け、アーマスはこちらを一度も見ずに部屋を出た。それにアムが続いて、最後にナガミが私を一瞥してから、部屋を出た。


 ドスンドスン。

 彼らを追いかけるゴーレムの足音が響き渡った。


 そして、ナガミが崩した、ゴーレムだった岩が、私の目の前で再びゴーレムの形へと戻る。

 もう、みんなの背中は見えない。たった一人の部屋で、私は冷や汗を流しながらもそんなゴーレムと対峙する姿勢を見せた。

 痛いから、死にたくないなぁ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ