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53 帰りは怖い



 ひんやりとした空気。光源は両サイドの壁に備え付けられた松明のみ。

 特に特徴がない、石を積んだだけの壁が続くだけ。そんな遺跡なので、すぐにわくわくなどなくなって、ただただ進むだけというつまらない時間が過ぎる。

 数分か、もう一時間たったのか?時間感覚が狂って、地下に降りてからどれくらい時間が経ったのかわからない。

 長い何もない道を歩いて、階段を下りてを、何度も繰り返す。


 最初は、何もないところだ・・・とか、薄暗いな・・・など、感想を漏らしていた私たちだが、次第に口数は少なくなって、階段を下りきった時くらいしか話さなくなった。


「まだ下りるのか・・・」

「いっそのこと、地面に穴をあけて最下層まで行く?」

「本当に、下の階に来ているのかな?降りても降りても同じ場所だから、本当に地下へと降りているのか不安になってきた・・・」

「そこは大丈夫。同じような場所だけど、部屋数が違うから。」


 この地下は一本道だが、両サイドに穴が開いていて、いくつかの小部屋がある。何もない小部屋なので、最初の一部屋以外は外からのぞいて見て、何もなければ素通りしていた。

 アーマスが言うには、その部屋数が階数ごとに違うらしい。確かに、最初の階ではもっと部屋があったはずなのに、この階には2部屋しかない。


「一階下りるごとに一部屋無くなっているから、次かその次が最下層じゃないかな?」

「やっとか。」

「よかった・・・」


 少し疲れてきたので、終わりが見えてきたのが嬉しい。

 重くなった足が少しだけ軽くなって、歩きやすくなる。気分というものは大事だなと思いながら、私は次の階段を下りて行った。


 その下りた階段が最後だった。

 階段を下りた先は円形の大広間で、部屋の中央には聖剣らしき剣・・・地面に突き刺さっているので間違いないと思うが・・・その剣を囲うように、松明が置かれている。


「やっと着いたか、さっさと終わらせよう。」

「ユズフェルト、一応気をつけなよー」

「わかっている。」


 大股で、地面に突き刺さっている剣に近づいたユズフェルトは、何のためらいもなく剣の柄を握って、引き抜いた。


「え・・・」

「予想はしていたが、あっけなかったな。」

「誰も抜けなかった聖剣・・・とは思えないね。聖剣はあれで間違いないよね?」

「・・・他にそれらしきものはないから、間違いないだろう。」


 聖剣を抜く・・・というのは、物語において重要な場面で、もっと壮大な、もったいぶったような、とにかく・・・もっと葛藤があったり、抜いたときに大歓声が上がったりというものを想像していたのだが・・・現実はあまりにあっけなかった。


 ユズフェルトなら、聖剣くらい抜けるだろう。そんな確信はあったが、ここまであっさり抜かれるとふに落ちない。


 もうちょっと頑張れよ、聖剣・・・などと文句も言いたくなる。

 だが、それがいけなかったのかもしれない。次の瞬間に、私は頑張った聖剣を罵ることになった。


 唐突に輝きだした聖剣。そして、これまた唐突に、ユズフェルトはドサリと倒れた。


「ゆ、ユズフェルト!?」

「え、嘘でしょ!?」


 私はすぐにユズフェルトに駆け寄ったが、先にアーマスがたどり着いてユズフェルトを抱き起した。私よりも後に気づいたはずなのに、素早い動きで私よりも早くユズフェルトのもとにたどり着いたアーマスは、決断も早い。


「緊急事態だ、すぐにここを出よう!」

「どういうことだ、息はあるのか!?」

「息はしているから大丈夫。だけど、ユズフェルトが倒れたんだ、ここでは何が起こるかわからない、早く出よう。」

「そうだな。こいつが倒れる事態が起きたのだ、ここで何があったとしても私は驚かないぞ。」

「俺が先導するから、アムはユズフェルトを背負って俺の後ろへ。ナガミ、殿を頼む。」

「わかった。人間の女、さっさと行け。私はお前の後ろをいく。」

「うん。」


 指示された通り、ユズフェルトを背負うアムの後ろに続く。ぐったりとしたユズフェルトの背中を見て、大きな不安が押し寄せた。

 今まで彼がここまで弱った姿を見たことがない。もしも、今ここで強い魔物に襲われたら、アーマスでもナガミでも倒せない魔物が襲ってきたら、ユズフェルトはあっけなく殺されてしまう。

 そう思うと、怖くて仕方がない。


「おい、走れ!」

「え、わっ!」


 後ろからナガミに押されて、強制的に走らされる。

 立ち止まることは許されない。それは、後ろの騒がしさから感じた。壁が破壊される音、地下全体が揺れる轟音が響く。


 一体何が起きたのか?

 振り返って確認する暇もなく、ただ押されて走る。


 ドンっ!

 大きな揺れが私たちを襲う。


 いったん足を止めたアムが、道をそれて小部屋に入った。私はどうしてかと正面を見て、足を止めた。


「ゴーレム・・・?」

「止まるな、進め!」


 進行方向の道に、壁を削りながらこちらへ向かってくるゴーレムの姿があった。その数3。

 足を止めた私の背中をナガミはさらに強く推して、アムが入った部屋へ押し込む。


「ウィンド!」


 部屋の中に転がり込んだ私の背後で、ナガミが魔法を放つ声と音が聞こえた。

 どうやら、後ろから迫っていた何かが、すぐそばまで来ていたようだ。


 振り返ってみれば、岩が崩れ落ちるところだった。おそらく、先ほど見たようなゴーレムが、後ろからも追っていたのだろう。


「くっ、どうする!?ウィンド!」

「アム、地上まで走れるかい?」

「・・・大丈夫だ。」

「わかった・・・シーナちゃんは?」

「・・・」


 アーマスの困ったような顔は、もう私の答えが分かっているようだ。


 無理だ。

 階段を一つ上がるのだって自信がない。ここまでこれたのだって、ナガミが背中を押してくれたからだ。それでももう息が上がっているし。

 魔の大森林で足は鍛えられたが、ここから地上に出るまで体力は続かない。足手まといになることは目に見えていて・・・


 アムに背負われている、ユズフェルトを見る。


 意識はまだ戻りそうにない。ずっと守ってくれた、この中の誰よりも強い、唯一の味方はいまだに目を覚まさない。


 ここに残れば、意識を失ったユズフェルトは命を落とす危険が増す。いくらアーマスとナガミが守ってくれていると言っても、いつまでも守り続けるわけではない。

 ゴーレムは、すでに7体ほどナガミが倒した。それでも現れた8、9体目のゴーレム。どれほどのゴーレムが襲い掛かってくるのかはわからない。


 すべてのゴーレムを倒すことができるのか?ゴーレムを倒す前に、アーマスとナガミが力尽きるのではないか?そしたら・・・


 答えは出た。


 パラパラと、天井から落ちてくる小石。この地下でさえいつまでもつかわからないなら、一刻も早く外に出るべきだ。


 死んだら、すべて終わりだ。


「アーマス、ナガミ、アム・・・ユズフェルトを、お願い!先に行ってて。」


 私は完全に足手まとい。私がいれば地上に出るのは困難だろう。でも、私がいなければ、アムはユズフェルトを背負ったままでも十分に走れる脚力と体力がある。

 先ほどのようにアーマスが先陣を切って、アムがそれに続き、ナガミが背後を守りながら行けば・・・大丈夫だろう。


 私は、ここに一人残ることを決断した。




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