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51 あばれ竜車



 体が宙に浮いた。

 まるで、無重力空間にでもいるような光景が目の前に広がる。アムが食べていた食べ物が、ナガミの読んでいた本が、私のお尻の下に敷いてあったクッションが、浮いている。


 だがそれも一瞬のこと。ここは重力のある星なので、その重力に従って浮いていたものがすぐさま落ちる。もちろん私の体も。


 衝撃を恐れて、固く目を瞑った。

 どんと、思ったよりも軽い衝撃の後、がたがたと荒々しく揺れる。またいつ大きなのが来るかわからない。私は目を瞑ったまま、何かを掴む。

 それは、私の下敷きになっている、温かいもので・・・


「し、シーナちゃん、ずいぶんと積極的だね。まぁ、危ないから俺にしっかり捕まっててくれた方がいいから、そのままでね。」


 私は、私の下敷きになっていたアーマスに、抱き着く格好になっていた。アーマスも、私の背中を片腕で支えている。


「え、いたっ!」

「口は閉じたほうがいいよ。そうやって舌を噛む、から。」


 思いっきり舌を噛んでしまって、痛みに身もだえるが、腕だけはしっかりとアーマスに抱き着く形で離さないようにした。


 次の大きな衝撃で、私は竜車の外に放り投げられるかもしれない。放り投げられてしまったら、死ぬ!

 死ぬのは、生き返るからいいとして・・・本当はよくないけど。痛いし。

 一番怖いのは、この場所に置いて行かれることだ。食べ物がある場所ならいいが、何もない場所だとしたら・・・餓死して生き返るという苦行を繰り返さなければならない。


 アーマスを掴む手も、自然と力が入る。


 ミシっと、嫌な音が聞こえた。

 すると、アーマスも私を支える腕に力が入って・・・え、大丈夫なの?とかなり不安になった。


「一体どこを走っているのかな?」

「見ない方がいい。谷底とわずかな幅しかない道しか見えない。」

「ひっ!?」

「それも言わないでくれると、だいぶ親切だったよナガミ。」

「言わない方がもっと不安になるだろう。」


 谷底って何!?

 一体どんな道を無茶して走っているのか。コリンナと婚約したくない・・・いや、婚約をしてしまったので一刻も破棄したいという気持ちは、わからなくもない。だが、やりすぎだ。


 馬車を放り出されたら・・・谷底におちるだろうな。絶対痛いし、当分高いところはトラウマになるかもしれない。


 顔から血の気が引いた。ついでに、身体も宙に浮いて、落ちる。今回は、アーマスと一緒だったのでそこまで浮き上がらなかった。


「一応、ロープで俺の体と竜車をつないでいるから、竜車が大破しない限り大丈夫だよ。」

「それのどこが大丈夫なんだ。今にも大破しそうだが?」

「ナガミ、黙ってくれ。シーナちゃんが不安がるだろう!」

「話していたほうが、気がまぎれるだろう。」

「それにしたって、話題を選んでくれるかい?」

「・・・お前、その人間の女のことが好きなのか?」

「へたくそっ!この状況で、それを言うやつあるか!?話題選び、下手糞過ぎるでしょ!」

「好きなのか?」

「まだいうか!これは、不可抗力だ!なんなら、ナガミも来るかい?僕の胸に飛び込んでおいで、ははっ!」


 ちょっと揺れがひどすぎて、アーマスが壊れてしまったようだ。可哀そうに。


「・・・私のことも、好きなのか?」

「引くなっ!?俺はノーマルだ、馬鹿!」

「全人類俺の彼女とか、言い出すのかと思った。」

「俺のことなんだと思ってるの!?」

「軽い男。」

「否定ができないところが悔しい!」


 そんな感じで話しているうちに、少しずつ大きな揺れが減って、ガタガタと揺れることもなくなった。

 どうやら普通の手入れされた道に入ったようで、アーマスがもう大丈夫だと言って体を離した。


 必死だったから気づかなかったが、だいぶ汗をかいていて気持ち悪い。


 アーマスのことは何とも思っていなかったが・・・普通に汗臭いと思われるのは嫌だ。臭ってなければいいけど・・・


「お前、すごい汗だな。」

「・・・!?」

「やはり、この人間の女が好きなのか?」


 私に向けて言ったのかと思ったが、どうやらアーマスに言ったようだ。それにしても、ナガミはコイバナが好きなのだろうか?さっきから、人間の女が好きなのかと何度アーマスに聞いたことか。


「そういうのじゃないよ。これは・・・冷や汗だね。俺には全くよこしまな気持ちはないけど、そうナガミみたいにユズフェルトが思っていたら・・・って思うとね。汗が止まらない。」

「なるほど。ユズフェルトっ!」

「おいっ!」


 ユズフェルトを呼ぶナガミの口を、アーマスは慌ててふさいだ。

 意外と仲がいいようだ。


「面倒ごとはごめんだ。シーナちゃん、さっきのことはユズフェルトに内緒で。抱き合っていたとか、勘違いされるから。」

「抱き合っていたというより、私がしがみついていただけでしょ?それにもしそうだとしても、ユズフェルトは気にしないと思うけど?」

「気にするから!とにかく、発言には気を付けてね!」

「わかった。」


 ユズフェルトは、確かに良くしてくれている。でも、それは私に恋しているだとかそういうものではなく、おそらく義務感や罪悪感によるものだ。


 いつの日か、自分の命を守るために私の命を身代わりに使う。そのことが、ユズフェルトの罪悪感を募らせる。

 私の生活を保障し、ユズフェルトの可能な限り私の命を守る、それを彼は義務として、罪悪感を薄めている。

 恋なんて、甘い話ではない。


 私に危害を加えようとしたならともかく、アーマスが私を抱きしめたとしても、ユズフェルトが何かを感じることはないだろう。


「まぁ、そもそもしがみついただけだしね。」


 転がっているクッションを拾って、私は座りなおした。

 舗装された道に出たということは、もうすぐ着くだろう。その時を待って、私は軽く目を閉じた。




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