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50 7通目の手紙



 英雄になりましょう、ユズフェルト様。


 聖剣を手にする栄誉、欲しくはありませんか?




 そんな手紙が、ユズフェルトのもとに昨日届いて、これで6通目だった。送り主は聖女だ。

 ユズフェルトは、全く気にした風はなく、そんな手紙などなかったかのように話題にも上げない。今は私に文字を教えるために、宿の一室に隣り合って座っている。


 ユズフェルトが書いた文字を、私が繰り返しまねして書くということを繰り返し、今日は10単語目に入っていた。

 そんなとき、部屋にノック音が響いて、アーマスが手紙を持って入ってくる。これで、7通目か。


「ユズフェルトー、また届いたよ。」

「あぁ、そこにおいてくれ。後で読む。」

「はいはい。でも、すぐに目を通した方がいいかもよ?」


 11単語目を紙に書いている手を止めて、机の端に手紙を置くアーマスに視線を移すと、アーマスは肩をすくめた。


「昨日は、コリンナと婚約させますって、脅し文句が書いてあったから・・・この手紙にはもっとひどいことが書いてあるかもしれないって、思っただけだよ。」

「なるほど。シーナ、すまないが先に手紙を読ませてもらってもいいか?」

「うん。」

「ありがとう。全く、面倒なことだ。」


 乱暴に手紙を破って、面倒そうにさらっと手紙に目を通していたユズフェルトの目が、鋭くなったと思ったら、手紙が乱暴に破かれた。


「ユズフェルト!?」

「あちゃー・・・何を書いたのかねー全く。」

「・・・外道め。あの女は聖女などではない。城は悪魔でも間違えて召喚したのではないかと、疑うぞ。」

「えっと・・・何が書いてあったの?」

「・・・」


 いつもならさっさと答えてくれるユズフェルトが、私の目を見てそらした。

 本当に何を書いたのだろうか?自然と破かれた手紙を睨みつけてしまう。


「コリンナと・・・婚約させたと書いてあった。」

「・・・は?」

「有言実行ってことか・・・それで?それだけじゃないだろ?」

「俺とコリンナの婚約関係を破棄したければ、聖剣を差し出せと。」

「まだ手にしてないものを差し出せって・・・どれだけ傲慢なのか。それだけユズフェルトの力を信頼してるということだろうけど、迷惑な話だね。」

「聖女の信頼など、聖女ごと谷底に突き落としてやりたいくらいだ。」

「それはやめといて。流石に王家に狙われたら、逃げきれないから。」


 なんて、身勝手なのだろう。

 婚約なんて、物語のなかでしか知らないけど、本人の意思確認もなく行われるものではないだろう。貴族だって、形だけでも意思確認をして・・・


「あっ!」

「どうした?」

「・・・前回の手紙が、意思確認のつもりだったのだって気づいて。最初は、婚約するのに意思確認もしないなんてひどいと思ったけど・・・そう言ったら、あの手紙で意思確認は済ましたって言うよねきっと・・・」

「・・・だろうな。とんだ、性悪女だ・・・だが、ちょうどいいかもしれないな。」

「そうだね・・・」


 ユズフェルトとアーマスは頷き合ってそう言ったが、私には何がちょうどいいのかわからなかった。

 まさかとは思うが、コリンナと婚約するつもりだったのだろうか?


 いやいや、明らかにユズフェルトはコリンナに対して、迷惑だという顔をしていた。そんなコリンナと、婚約したいと思うだろうか?ないな。


 きっと別の理由があるのだろう。




 次の日、旅装を整えた龍の宿木は、前回とは違って竜車を借りて、聖剣都市へと向かうことになった。

 竜車とは、文字通り馬ではなく竜が引く車だ。竜とは言っても、ドラゴンの下位種ワイバーンよりもさらに下位種の下位種、翼もなく飛ぶことができない、とかげのような魔物だ。


 大人しく、人が調教できる魔物は人の生活に溶け込み、人と共存して生きている。この竜車の魔物もそういった魔物の一種だ。

 人より速い馬より速く、その分高い竜車を借りたのは、さっさと聖剣を手にしてコリンナとの婚約を破棄したいからだ。


 御者は、アーマスが務めるかと思えば、ユズフェルトが御者をすると言って、後はみんなに馬車の中に入ることになった。

 一人で馬車を引いていると眠ってしまうかもしれないと思い、私はユズフェルトの隣に座ろうかと思ったが、心配ないから中にいてと言われ、邪魔になるかもしれないと思って中に入った。


 馬車の中では思い思いの格好で各自が座っている。

 アムは、いつも通り次々と食べ物を口に入れて、平常運転だ。アムは一番奥で、その少し離れた場所にアーマス、出入り口付近にナガミが座って本を読んでいる。


「シーナちゃん、おいで。」

「あ、はい。」


 アーマスに隣をポンポンと叩かれたので、その場所に腰を下ろした。腰を下ろした場所にはクッションが置いてあったので、長時間座っていてもさほど苦にはならなそうだ。


「普段だったら、俺が御者を務めるけど、ユズフェルトがやるって言ってね・・・たぶん、ものすごい荒業で走るだろうから、気を付けて。」

「そんなに荒い運転をするの?」

「急ぎだからね。わかると思うけど、龍の宿木の中で戦いにおいて、ユズフェルトの右に出る者はいない。彼と俺たちには大きな差があって・・・まぁ、彼が本気でやるとしたら、俺たちの誰もが足手まといってことなんだ。」


 そうだろうなと、思ってはいた。だが、それをまさか本人たちの口から聞くことになるとは・・・私はあいまいに頷いた。


「おそらく、道なき道を進んで最短距離で向かって、魔物が襲ってきても無視か手早く倒すか・・・俺たちの出番はないだろうね。とにかく、振り落とされないように気を付けて。」

「わかった・・・けど、道なき道を進むってどういうこと?御者をしながら魔物を倒すのは想像できるけど、道なき道って・・・」

「本当の話だ。あいつは、人間の枠を超えている・・・人間の作った道より近い道なら、獣道だって走るぞ。」


 ナガミは本から目を離さずに、そう言った。

 獣道を・・・この馬車で?到底信じられないが、ユズフェルトと付き合いの長い2人がそういうのだ、本当のことなのだろう。


 お尻の下のクッション・・・このクッションだけで足りるだろうか?足りないのだろうなと思って、とりあえず私はしがみつけそうな場所を探すことにした。





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