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 色々あって王都を出た私たちだが、唐突に王都に戻ることになった。何かがあったわけではなく、本当に唐突に、ユズフェルトに王都に戻ろうと言われたからだ。


「コリンナは聖女とともに各地を周っているようだし、王都に戻ってもいいだろう。」


 そんな風に言われて、戻ってきた王都。

 正直王都に戻る必要はあるのか?と思ったが、私が一か月程度しかいなかった王都も、彼らにとっては数年暮らした場所・・・なのかもしれない。実際何年ここにいたのかはわからないが、私よりは愛着があるのだろう。

 お荷物な私は、ただ頷いて付いて行くだけだ。


 ユズフェルトは、王都に着くなり私を連れまわした。服屋にカフェ、雑貨屋、飯処、屋台。ほぼ何かを食べている状態で、夕ご飯は食べられそうにない。


 まぁ、今日も宿屋のご飯だろうし、いいか。ユズフェルトの作ったご飯なら、もったいないと思うけど。


 王都には、もう龍の宿木のハウスはない。当然だ、戻ってくるつもりなどなかったのだから。

 なので宿屋を取る必要があり、そこはいつものように、宿屋はアーマスが取って、私はユズフェルトと、ナガミとアムはそれぞれ別行動で王都を周った。


 ユズフェルトに連れまわされた後は、アーマスの取った宿屋へと向かう。いつも通り、王都に来ても変わらない。それが、もう王都は彼らの居場所ではないことを印象付けた。


「そういえば・・・」

「どうかした?」

「・・・誰も、声かけてこなかったね。」


 言っていいのか迷ったが、声に出してしまったのでいうことにした。

 王都を出る前は、ユズフェルトを英雄だと呼び、気軽に声をかけてくるものが多かった。だが、今回はそれが全くない。まるで、彼のことなんて忘れてしまったかのように。


「?・・・あぁ、それは当然だ。認識疎外の魔法具を身に着けていたからな。」

「・・・え?」


 何それ、聞いていない。


「俺だと認識されると厄介だからな。これは便利だな、自分を知っている相手でも、第三者に見えるようにしてくれる。まぁ、魔力が強い者には効かないようだが。」


 顔を上げたユズフェルトの視線の先には、軽く手を上げるナガミが立っていた。ナガミは様々な魔法を使うし、魔力が強いのだろう。ユズフェルトをしっかりとユズフェルトだと認識しているようだ。


「あれ、でも私には、認識疎外は効かないの?私もはっきりユズフェルトだってわかっているけど・・・」


 私は魔力がない。なので、認識疎外を見破ることはできないはずだが、はっきりとユズフェルトを認識していた。

 仲間だと効かない仕組みなのだろうか?


「おそらく、身代わりの・・・その、ネックレスのおかげだろう。お互いに共鳴しあっているのか、お互い見失うことはないようだ。俺は、シーナがどのあたりにいるかなど、離れていてもわかるからな。」

「・・・私はわからないけど?」


 ユズフェルトがどこにいるのか、同じ建物にいてもなんとなく察する・・・なんていうことは一度もなかった。

 そんなことを察せられたら怖い。ストーカーみたいだ。


「あれ?」

「?」


 ユズフェルトって、まさか・・・いやいや、ストーカーなんて、そんな。


 ユズフェルトの顔を見上げれば、不思議そうに見つめ返す美形がいた。このような顔面偏差値の高いストーカーは物語の中だけに存在を許される、幻想だ。


 本人もネックレスの効果みたいなことを言っていた。感覚の鋭いユズフェルトには感じることが、凡庸な私には感じられないということだろう。


 私は一人で頷いて納得し、ユズフェルトに笑いかける。


「なら、どこにいても、ユズフェルトは助けに来てくれるね。」

「当然だ。」

「即答・・・ありがとう、ユズフェルト。いつももらいっぱなしで、守られてばかりだけど・・・いつか、返すから。」


 私ができるのは、ユズフェルトの代わりに死ぬこと、それだけだ。最初からその覚悟はできているし、その時が来たら受け入れる。

 痛いのは嫌だけど、私は生き返る。なら、我慢すればいいだけだ。


 それで生活の面倒を見てもらえて、守ってもらえるなら安いものだ。最初はそう思っていた。でも、今はそれ以外にも思っていることがある。


「絶対に、ユズフェルトを死なせないよ。私・・・ユズフェルトに何かあったら、嫌だから。だから、ためらわないでね。」


 優しいユズフェルト。この身代わりのネックレスだって、私を身代わりにするために使ったことは一度もない。逆に、私を守るために使っただけだ。


 ドラゴンと戦ったとき以外も、何度も彼に守られた。それは私だけでなくナガミ、アーマス、アム・・・コリンナだって、守っていた。

 そんな彼が、自分の命の危機に私の命を差し出す・・・たとえ生き返るとしても、そんなことできないように感じた。それくらい、ユズフェルトは優しいのだ。


 だが、ユズフェルトはそれを否定する。


「シーナの中で、俺がどれだけ美化されているのかは知らない。だが、俺はその時が来たら、躊躇なくこのネックレスを使う。・・・失望されるかな?」

「何言っているの?逆に使わなかったら怒るから・・・使ってね。」


 私は、本気でそう言った。本当に、このネックレスを使わないでユズフェルトが命を落としたとしたら、私は彼を憎むだろう。

 それくらいもう、ユズフェルトが大切だった。


「そんな日が来なければいいがな・・・」

「そうだね。」


 合流したナガミと共に、王都滞在中に泊まる宿屋へ向かった。たどり着いた宿は、もうすでにアーマスがいて、食堂で次々と料理を胃袋に収めていた。

 いつもの光景・・・なぜか少しだけ違和感を覚えたが、その正体を突き止めることはできずに。その日が終わった。


 いつも出迎えてくれたアーマスが、なぜかいないことに気づかなかった。そのことに、ユズフェルトやナガミが何も言わないことも。


 気づかなかった。




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