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47 調査



 男を追うことを諦めたシーナを連れて、ユズフェルトは宿に向かった。

 今回の宿はそれぞれ個室を確保することができ、シーナを部屋に送った後自分の部屋に入ったユズフェルトは、扉に向かって立った。


 数秒後、部屋をノックする音を聞いて、扉を開ける。そこには、アーマスが片手をあげて立っていた。


「入れ。」

「お邪魔しまーす。」


 軽い口調だが、部屋に入る時は周囲を警戒し素早く中へと入ったアーマスを一瞥し、ユズフェルトは扉を閉めて鍵をかけた。


「で?」

「家は抑えたけど、流石にこんな短時間じゃ、調べきれなかった。」


 シーナがアムに捕まった時、ユズフェルトはアーマスに目配せで男の後を追い調べるように命令していた。

 アムの行動は予想外だったが、そのおかげでシーナが男と接触する前に男を調べる時間が作れたので、アムには何も言わなかった。しかし、それがなければ、ユズフェルトはアムに詰め寄っていただろう。

 一体何を考えているのか?まさか、コリンナのような面倒をかけさせるつもりかと。


「なぜ時間をかけなかった?別にしっかりと調べてからでもよかったが?」

「近所の話だと、最近引っ越してきたばかりなんだってさ。これ以上ここで調べても仕方がないだろう?」

「・・・それだと、シーナに近づけていい存在かどうかわからない・・・見た限り、近づけたくはないと思うが。」

「シーナちゃん、だいぶ怒っていたからねー・・・いったい何をしたらあんなに怒るんだろう?ま、俺としては、男が何をしたかより、シーナちゃんが男をどうするつもりなのかが気になるけどね。」

「余計なことはするなよ。」

「わかってるって。」


 ユズフェルトがくぎを刺すまでもなく、アーマスは言われた以上のことをするつもりはなかった。気にはなるが、それだけだ。

 雇い主の意向に沿って行動するのが、一番の選択だと思っているアーマスは、気にはなっていても、ユズフェルトに内緒で男とシーナを引き合わせたりなどはしない。


「それで、あてはあるのか?」

「あー、やっぱり調べないとだめ?」

「当たり前だ。」

「わかったよ・・・明日までには、あてくらいは探しておく。」

「頼んだ。」


 肩を落として部屋を後にするアーマスを見送って、ユズフェルトは部屋に置いてあった椅子に腰を掛けた。

 部屋が薄暗いことに気づいて、その場からサイドテーブルに置かれたランプに、魔法で火をつける。


 ふぅ、と息を吐き出して、燃える火を見ながら、首に下げたシーナとおそろいの首飾りを触る。いつも一人きりになると自然に手がそこへといってしまい、それに気づくとユズフェルトは毎度の様に苦笑する。


 いつでも代わりに死んでくれるものがいる、いざという時に安全圏に逃げることができるという証。それに触れていることで、臆病な自分は安心しているのだろうと。

 ユズフェルトは思考を戻して、シーナと男のことを思い出した。


 知り合いか?そう聞いたとき、シーナはあまりよく知らないが、知っていると答えた。そのあいまいな答えが、それ以上の追求を拒んでいるように思えて、ユズフェルトはそれ以上聞きだすことができなかった。


 男は、どこにでもいるような平凡な顔立ちをした、特徴のないのが特徴といった感じの男だった。強いてあげれば、剣を持ったことがある手をしていたので、冒険者や用心棒などの仕事をしている可能性があった。

 だが、それがなんだというのだ。特に男からは脅威を感じず、大した相手ではないことは明白だ。


 あのような男とシーナの間に、何が起こったというのか?


「何があったとしても、あれだけシーナが怒っているのだ。・・・それなりの報いは受けてもらわねばならないな。」


 ユズフェルトの中で男は有罪が確定していた。

 しかし、男が何をしたかもわからないうちから、何かをするつもりはない。まずは、アーマスに頼んだように男の素性を調べ、シーナとの関係を探るつもりだ。


「・・・この機会に、シーナのことを知ることになるかもしれないな。」


 ユズフェルトにとってのシーナは、自分の主で守るべき存在でしかない。尊敬や罪悪感を抱いているので、強く出ることはできないが問題はない。

 命を守ってもらう以上、シーナの思うままに生きさせてやりたいと思っているからだ。


 それでも、何も思わないわけではない。

 シーナの考えを知りたいと思うし、なぜ不死という存在なのか、魔の大森林で生活することになった理由など、聞きたいことはある。

 ユズフェルトは、気になったらすぐに聞く性格だが、このことに関して・・・シーナ関連に関しては、本人が望んでいないと判断した場合それ以上聞かないようにしている。


 知られたくないのだろう、そう思ってあえて調べないようにしていたユズフェルトだが、ずっと気になっていた。


「何が好きで、何が嫌いか。」


 食べ物なら、一緒に食事をするうちにわかってきた。人間なら、一緒に買い物をするうちにわかってきた。

 好き嫌いは、もう知っている。


「なぜ、不死なのか・・・今まで、どのような生活をしていたのか。男を調べれば、少なからずわかる可能性がある。」


 あるいは、すべてが分かるかもしれない。

 そんな期待を胸に、ユズフェルトは立ち上がった。


「そろそろ夕食にするか。」


 残念ながらこの宿の厨房は貸してもらえなかったので、シーナと共にこの宿で普通に食事をする約束をした。

 そろそろいい頃合いだろうと、部屋の火を消して部屋を出た。




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