表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/65

39 聖女一行



 玉座の間。今は謁見の時間で、希望者の内選ばれたものが王との対面を許される時間だった。今ちょうど大店の商人が謁見中で、自分の店が扱う最先端、最高峰の技術を尽くした品々をお披露目している最中だ。

 この謁見の目的は、自らの店の技術力を認めてもらうことで、最近魔の大森林に出没するワイバーンの素材を譲ってもらうことであった。


 ワイバーンの素材は、よく出没するにもかかわらずあまり出回っていない。それを扱うこと、どの店よりもその素材を生かした商品を作ること、それを一つの目標に商人はここへ来ていた。


 商人は2つの品を王の前に差し出す。それは、どちらも同じ素材で作られた盾であった。

 あらかじめ何をするのか聞かされていた王は、目線で騎士に合図を出す。騎士は恭しく一礼し、盾の前に立った。


 盾は、木製の盾で、通常このような盾は、この騎士の手にかかれば真っ二つになる。事実、騎士が最初に剣を振り下ろした盾は、真っ二つに割れてしまった。


 なら、次はどうか?


 騎士が次の盾の前に立ち、その剣を振り下ろそうとしたその時、玉座の間へ騎士が1人入って来て、近衛騎士に耳打ちをする。王はその様子を見て、盾に剣を振り下ろそうとしていた騎士を、手で制した。


 近衛騎士は、王に報告した。


「ワイバーンを仕損じたようです。しかし、ワイバーンは王都へとは向かわず、南の方へと向かったようです。」


 王都を襲う、魔の大森林の山の向こうから現れるワイバーン。高頻度で現れるワイバーンの討伐は常時依頼となっており、今までは主に龍の宿木が討伐していた。

 しかし、彼らがいなくなった今、ワイバーンの討伐を毎回のように引き受けられる強者はおらず、しかし王都への被害を考えると討伐する以外の方法はなく、有志の冒険者が交代で討伐をしていた。


 それにも限界が来たのだ。

 今回、ワイバーンを討伐することができずに、ワイバーンを魔の森から出してしまった。しかし、幸いにもワイバーンは王都へと向かわず、南の方へと消えていった。


 ワイバーンは王都を目指していたのではないか?それは、たんなる勘違いだったのか?


 なぜ、ワイバーンが王都を狙っていると考えられていたかというと、山の向こう側からくるワイバーンは、決まって王都の方角を目指して飛んでくるからだった。

 そして、一度だけそのワイバーンの王都への侵入を許したことがあった。その時は、すぐさま龍の宿木が対処し、事なきを得たのだが・・・


 これらのことから、ワイバーン討伐は王都の防衛のために必須と思われていたが、今回のことでそれが覆る可能性が出てきた。




 聖女は、この国の様々の問題の解決を求められ、それにこたえるため様々な資料に目を通した。ワイバーン問題についても、彼女は様々な資料に目を通し、一つのことに気づいていた。そして、それは今回の件で確信に変わる。


 国の重鎮が集まる会議にて、聖女は調査という名目で、旅に出ることを表明した。様々な調査項目の中には、ワイバーン問題も含まれており、この問題においてはほぼ解決するだろうと宣言し、彼女は会議を終える。


 会議を終えた後は、旅に同行してもらうメンバーを呼び出し、それぞれの自己紹介と今回の調査について、細かく話をする。


 メンバーの中にはコリンナもいて、彼女は非常に面倒だという表情で聖女の話を聞いている。コリンナがこのメンバーに選ばれた理由は、聖女以外に誰にもわからなかった。

 なので、それを疑問に思い質問するのも自然の流れだ。


「コリンナさんに参加してもらう理由ですか?なぜ、わからないのでしょうか?」

「いや・・・確かに魔法の腕はあるし、魔道具にも詳しい。魔道具を使って、問題を解決するなら適任ではあると思うが・・・」

「へぇ、コリンナさんは魔道具に詳しいのですね。」


 王子の言葉を聞いて、聖女は頭の片隅にメモを追加する。


「魔道具以外だったら、何が理由で参加させるつもりか?魔法なら、宮廷魔術師でも連れていけばいいだろう。」

「ユズフェルトです。」

「ユズフェルト様?」


 ずっと黙ってそっぽを向いていたコリンナだったが、ユズフェルトの名を出した途端興味が出た様子で、聖女に初めて目を合わせる。

 そんなコリンナに、黙って聖女はうなずいた。


「調査目標に、龍の宿木のユズフェルトを加えます。」

「なんだって?それは、どういう理由があるんだ?確かに、魔物の脅威を排除するという意味では、彼を使うのが一番だと思う。そのための調査だというならわかるが・・・」

「ワイバーンの出現に、彼が関与していると、私は感じました。そのための調査です。」

「そんな、まさか・・・彼は今まで、ワイバーンの脅威から王都を守っていた一人だぞ?それが、ワイバーンの出現に関与など。」

「なぜ、わからないのか・・・私は疑問に思いますね。彼が、明らかにワイバーン出現に関与していることはすぐにわかるはずです。」


 反論しようと口を開く王子を手で制し、聖女は人差し指を立てた。


「ひとつ、彼が英雄と呼ばれるのはなぜか?その理由は、ワイバーンを倒した功績が最も多くを占めると思います。確かに彼は強いようですが、その強さを周囲に示すのはワイバーン討伐が、最も効率が良いと感じます。」

「どういう意味だ・・・その言い方だと、まるでワイバーンを利用して、彼が英雄・・・冒険者としてのランクを上げたように聞こえる。」

「冒険者としてのランクですか・・・確かに、それも上がるのでしたら一石二鳥ですね。彼は、ワイバーンを倒すことで名声を得たかったのだと思います。」

「ユズフェルト様は、そんな人ではないわ。あの方の何を知っているというのよ!」

「何も知りません。ですが、状況は・・・彼がワイバーンを何らかの方法で呼び寄せていると、結論づけるものです。ですが、それだけで決めつけるつもりはありません。」


 そのための調査です。そう言って、聖女は窓の外の青い空を眺めた。


 状況は、限りなくユズフェルトが、ワイバーンを呼び出しているといっている。

 ワイバーンを倒し、一番得をしたのはユズフェルト。それに、彼は売ればお金になるワイバーンの素材を全く売りに出していない。

 まるで、何かを隠す様に。ワイバーンを研究されたくない、そのような考えを想像する。


そして、ワイバーンが最初に目撃された場所は、王都から見てユズフェルトの出身地がある方角で、さらに疑いを深めた。


極めつけは、王都を襲っていたワイバーンが、ユズフェルトが王都を去ったとたんに、王都に見向きもしなくなったこと。


明らかにおかしい。故意にしろ、そうでなかったにしろ、徹底的に調査し原因を探る必要がある。


このような思いで、聖女一行は王都を出た。

龍の宿木と違い、豪華な馬車で、優雅な旅が始まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ