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33 里の英雄




 次々と繰り出される爪の攻撃をかわし、ドラゴンの注意が自分だけに向くようにと、魔力消費を抑えたおざなりの攻撃魔法を連発する。

 もちろん攻撃は効いておらず、いらだったドラゴンが連続して攻撃をして、それをかわすたびにナガミの体力は削られた。


「はぁはぁはぁ・・・くそっ!」


 もう後がない。汗と共に流れた血が地面に落ちて、自分が怪我を負っていることに気づいたナガミは、袖で頬をぬぐう。

 すべてをよけきることが不可能になってきた。もうすぐ、決着がつくことになるだろう。


「ふっ・・・お前も限界が来たようだな。」


 苛立ちが頂点に達し、遂にブレスを放とうとするドラゴンを見て、ナガミは笑った。

 どうせ使うなら、攻撃に魔力を回したかったと思うナガミだが、守りを優先することにした。たとえ守りきれたとしても、魔力が無くなればもう対抗する手段はない。体力もないので、あっけなく倒されるであろう未来を感じて、今までの退屈な日々を思い起こす。


 本当にくだらない。私は、くだらない生き方をしてしまった。もっと、有意義に使える時間はあっただろうに、他人を見下し自分の力におごって、世界をつまらないものだと決めつけてしまった。

 その結果がこれだ。


 上空から、こちらに大きな口を開いて向けるドラゴン、その口の前で膨大な魔力が練り上げられて、光の玉が出来上がった。


 防ぎきれるだろうか?

 

「やって見なければ、わからない。ふっ。」


 死ぬかもしれないはずの状況、しかしナガミはやっと自分が望んでいたことが叶ったかのような、すがすがしい気持ちだった。

 先ほどの感じた後悔はまだある、しかし、自分が片手間で解決できない力が目の前にあることが・・・全力で対峙しても、負けるかもしれない相手がいることが、うれしく感じた。


 もし、生き残れたのなら・・・たとえば、あのブレスでドラゴンの魔力が枯渇して、この場から去ってくれたのなら、これからはもっとマシな生き方をしよう。


一度目を瞑って、自身の中の魔力を練り上げ、目を開いた。


「・・・え?」


 さぁ、魔力も練り上げたことだし、風の盾でも出すか!という気持ちで目を開けたナガミだったが、ドラゴンが落下しているという光景を見て、思考が固まった。

 何があったのだ?ナガミが目を閉じて集中した一瞬に、なぜかドラゴンは墜落するほどの攻撃を受けたようだ。


「・・・」


 呆然とドラゴンが落ちるのを見て数秒、意識を取り戻したナガミは、ドラゴンに駆け寄って制止を確認した。


「死んでいる・・・いったい何が?」


 周囲を見渡すが、ドラゴンを死に至らしめるようなものはない。しかし、ドラゴンの体には貫通するほどの傷ができていて、どぼどぼとあふれ出す血が辺りを真っ赤に染めている。

 ナガミは、先ほどと同じように目を閉じた。何も、自分が目を閉じて集中すればドラゴンを倒すほどの攻撃ができると思ったわけではない。ただ単に、探査魔法を発動しただけだ。


 周囲に人影は・・・いるな。まだ逃げていなかった奴がいたのか?

 ナガミが感じ取った気配は、ひとつ。ゆっくりとナガミのいる地点から離れていく。どうやら呑気に歩いているようだが・・・ドラゴンが落下したところは見えたはずだ。そんなことが起きているのに、呑気に歩いているのは異常である。

 こちらに駆けて来るか、慌てて逃げるか・・・それが普通の反応だろうと思った。


「・・・怪我をしているのか?なら、助ける必要があるな。」


 思い当たったのは、怪我をして逃げ遅れた場合だ。それならば、この場から離れたくても歩みがのろくなるのは頷ける。

 そう判断したナガミは、急いでその気配を追った。




「はぁはぁはぁ・・・はぁ、げほっ!」

「おい、大丈夫か?」


 息を荒くして、せき込みながら追いかけるナガミの前に唐突に現れた男。彼は、飽きれたような声でナガミに声をかけた。

 急いで気配を追ったナガミだが、体力は限界。走って追うような余裕もなく、のろのろと気配よりも遅い歩みで、追いかけていたのだ。


「なんで、そんな無理してまで追ってきたのだ?」

「・・・ごほごほっ・・・お前・・・」


 ナガミは、目の間の男の姿をしっかりととらえると、驚いて目を見開いた。光を反射して輝く金の髪と聡明そうな青い瞳。エルフの里では珍しくない美形だったが、ナガミが驚いたのはその耳だった。


「お前、人間か?」

「そうだが?」


 エルフの特徴である、長くてとんがった耳が、男にはなかった。

 エルフの里に人間が訪れるのはまれで、しかもこのような状況で気をおった様子もなくナガミに心配の声をかける人間など、異常だ。


 そして、この状況から・・・いや、ナガミがしっかりと男を見た時に、確信をする。


 ドラゴンを倒したのは、この男だ。




 それが、ナガミとユズフェルトの出会いだった。

 ユズフェルトを追求したナガミは、ユズフェルトからドラゴンを倒したのはユズフェルトの魔法であることと、ドラゴンと思っていたあの魔物が、ワイバーンであることを聞いて、なんとも言えない気持ちになった。


 しかし、ユズフェルトという、人間ではあるが自分よりも強いと思われる人物に出会ったナガミは、彼と共に里を出ることを決意した。

 ドラゴン・・・ワイバーンと対峙したことで、里の外に出て知識をおさめ技を磨きたいと考えたナガミには、ちょうどいい仲間ができて運がよかった。


 そして、里を救った功績はユズフェルトにあるということを周知し、里を守るという報酬の名目でもらったアイテム袋を、ナガミはユズフェルトに譲ったのだった。




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