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3 魔道具



 冒険者、それは依頼次第では命の危険を伴う仕事。冒険者にはランクがあり、最高ランクSともなれば、命の危険が伴う仕事ばかりだ。

 つまりは、そんなSランク冒険者がユズフェルトだった。


「命を懸けるなんて、絶対嫌だ。だから俺は、命をかけなくてもいい依頼しか受けていない。だが、人間死ぬときは唐突だ。俺は、ぽっくり逝きたくない。」


「気を付けていても、いつか死ぬかもしれないって、警戒しているってこと?」


「そうだ。だから、いざという時に代わりに死んでくれる人が欲しい・・・実はそういう人を探していた。」


 そう言って、ユズフェルトは腰に下げた袋から対になったネックレスを出した。銀の鎖にルビーだろうか?赤い石を通したネックレスだ。


「これは魔道具だ。ネックレスを付けた者同士を交換することができる。つまり、これを俺とシーナが付けて、俺に命の危機が及んだ時には魔道具を使って居場所を交換する。」


「・・・とにかく、これを付ければいいのかな?」


「あぁ。俺がシーナに求めるのはそれだけだ。このネックレスを見つけた時から、俺は誰かに死を代わってもらうことを思いついた。最低だよな。」


「いや、元からそういうために作られたネックレスなのでしょう?」


「・・・そうか。確かに、そういう目的で作られたものだとしたら・・・俺がそう考えてしまっても仕方がないよな。」


 ユズフェルトの元気が戻ったようなので、私は手を差し出しネックレスを渡すよう促した。


「後ろを向いてくれ。俺が付ける。これは、俺の罪なのだから。」


「おもっ!?」


 ただネックレスを付けるだけなのに、重い!罪とか言っているけど、本当に私が死ぬわけでもないので、もっと気軽に考えればいいのに。


 ユズフェルトが付けることには反対はないので、私は彼に背中を向けて、髪を手で押さえた。肩に着く程度には長い髪なので、ネックレスを付けるには邪魔になる。

 ヒヤッとした、鎖の冷たさに驚いている間に、ネックレスはつけ終わった。


「これでいい。あとは、いざという時に俺が魔道具を発動させるから、シーナは心の準備だけしてくれ。すまないな。」


「別にいいよ。その代わりおいしいものを食べさせてね。」


「もちろんだ!今日は俺が腕によりをかけた料理をご馳走しよう。あ、その前に一つ言っておくことがある。」


「何?」


 ユズフェルト料理できるんだ―と思っていた私に、真面目な声色でユズフェルトは注意した。


「不用意に魔道具を身に着けないように。魔道具は危険なものばかりだから、最悪命を落とすこともあるし、勝手に服従させられることもあるからな。あとは、呪われて石化したり。」


「怖っ!?」


「そういう代物だから、次からはもっと注意しとけ。俺は鑑定が使えるから、ある程度その魔道具が危険かどうか名前を見てわかるが・・・それでもなじみの鑑定士に鑑定を依頼してから使っている。それくらいの扱いをしなければいけないものだ。」


「わかった。その、鑑定士って人は、名前以外にも魔道具のことが分かるの?」


「あぁ。その性能などが魔道具限定でわかる・・・魔道具鑑定士という職業についている。他にも薬草、職業、魔物の鑑定士などいる。」


「へー。その鑑定士にはどうやったらなれるの?」


 鑑定というスキルは欲しいと思った。特に食べ物に関するものがわかれば、森での生活も楽に・・・あぁ、もう生活しなくていいけど、一応知っておきたい。


「生まれつき、鑑定能力を持っていることが前提だ。知識を蓄えて、目も育てることでなる者もいるけど・・・生活は厳しいな。」


「まー、そうだよね。」


 パパっと能力が得られると思った私は、甘すぎた。


「雨が止んだな。」


「え、本当だ。」


 ユズフェルトの視線を追って洞窟の外を見れば、確かに雨がやんでいた。辺りは薄暗いが、山の向こう側は雲が薄くなって日の光が見える。


「歩けるか?森を出て、仲間たちと合流しよう。」


「仲間たち?」


「あぁ。俺とパーティーを組んでいる、えーと1、2・・・4人だな。会ってから紹介するよ。」


「わかった。それにしても、仲間と別行動ってどうして?」


「・・・俺が先走った。」


「へ?」


 気まずそうに目をそらすユズフェルト、自分がよくないことをしたのはわかっているようだ。


「心配・・・しているよね。」


「だろうな。だから、早く戻らないとな。」


「ま、そうだね。」


 ユズフェルトの問題行動を責めるよりも、仲間と合流することが先決だ。

 ユズフェルトは火を消すと、私に手を差し出した。


「道があれているから、よかったら手を貸す。」


「ありがとう。」


 手を借りて、洞窟を出た。

 ユズフェルトは迷いなく進み、私はそれにただ付いて行く。




 森を抜けると、ユズフェルトの仲間らしき男女が立っていた。女の子はたった一人で、他は男だった。

 女の子は、ユズフェルトの姿を見つけると嬉しそうに名前を呼んで走ってきたが、私を見て固まった。


「ゆ、ユズフェルト様・・・その、その女は?」


「コリンナ、お前たちの新しい仲間だ。」


「新しい・・・仲間?」


 ぎぎぎと音を立てそうな動きで、コリンナと呼ばれた女の子はユズフェルトの顔から、私達がつないだ手に視線を動かした。


 もともと釣り目できつい顔立ちをしていたが、さらにそれが吊り上がった。


「ユズフェルト、それは何の冗談だ?」


「それに、俺たちのって、どういう意味?まるで、ユズフェルトの仲間ではないっていう風に聞こえるけど?」


 ぞろぞろとコリンナの後ろから2人の男たちが現れる。2人は対照的な色の服を着ている。片方は白の服を着た黒髪の男。もう一人は、黒の服を着た金髪の長い髪をした男。よく見れば耳が長いので、もしかしたらエルフかもしれない。


 そんな2人の後ろから、ひょっこりとのぞいたのは茶色髪の大荷物を抱えた男。何も言わなかったが、私が仲間に加わることを良しとしないような空気を感じた。


 そんな仲間たちを見て、ユズフェルトは一度頷く。


「紹介しよう、彼女はシーラ。今日から俺が主と仰ぐ女性だ。」


「「「「「は!?」」」」」


 思わず声が揃ってしまった。初めて会ったユズフェルトたちの仲間と綺麗にそろったものだ。それくらい驚くようなことを、ユズフェルトは言ったのだ。


 聞いていない。ユズフェルトの主になるなんて話、全く聞いていない!




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