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23 恩返し



 さて、今日はユズフェルトが休みの日だ。

 今までは、ユズフェルトが休みの日に町の案内や冒険者の仕事を教えてくれたりなどしていたが、今回は声をかけられていない。

 初めての、外出ができる一人の休日だ。


「冒険者らしいことほとんどしてないから、依頼でも受けようかな。薬草採集が無難だけど・・・あまりもうからないし、ユズフェルトがいないと荷物がかさばるよね。」


 冒険者らしいことはしたいが、自分のできないことをするつもりはない。依頼を受けることになれば、失敗して迷惑する人が出るのはわかっているからだ。

 そうなると、実入りが少ない薬草採集一択となるが、別にお金に不自由しているわけではないから、それはそれで構わない。ただ、すぐに飽きると分かっているのが辛い。


「剣と魔法のファンタジー世界で、ひたすら草取り・・・はぁ。夢がないよね、夢が。もっと夢のある仕事がしたい。」


 自分の実力を考えなければ、ユズフェルトが倒したようなワイバーンの討伐や未開の遺跡の探索・・・うーん。


「どうしてだろう、全然楽しそうって思えない。」


 この世界に来る前だったら、できるならやってみたいと思う事柄が、今はやる気が全く起きない。

 それはきっと、魔の大森林でのことが大きく作用しているのだろう。


 追いかけられて、逃げて、追い詰められて、抗うこともできずに殺された。生き返って、また追いかけられて、逃げて、追い詰められて、また殺される。


 何度も死んで生き返るうちに、魔物の攻撃を回避できるようにはなったが、それも完全ではなかった。何度も何度も殺されて、そのたびに痛くて苦しかった。


「それだけじゃない・・・ね。」


 魔の大森林の経験だけではない、その前に私は人に裏切られて殺されたのだ。お金欲しさに、護衛につけられた兵士だか騎士だかに殺された。

 あの時のなんとも言えないむなしさが、私の中身だ。


 簡単に殺されてしまうような、価値のない人間。


 でも、違う。今は違うから、そう思っても唐突にむなしくなる。

 ベッドにごろんと寝転がった。天蓋付きのベッドなんて、見ることすらなかったのに、今は毎日寝るために使っている。


 私は、右手を天井に向けてあげる。何かに手を伸ばす様に上げた手を下ろして、ため息をついた。


「私、どうしたいのかな?」


 異世界に行ったら・・・なんてこと、次から次に思い浮かべていたはずなのに、実際来てみれば何も浮かばなかった。

 それはなぜかと考えれば簡単なことだ。


 私は、現状に満足している。


 命の保障は、生き返るので問題ないし、ユズフェルトも彼の能力でできる範囲保証してくれる。

 生活は、ユズフェルトが絶対に保証してくれるだろうし、お金の必要性が全くなかった。お金が必要ないのなら、冒険者として働く必要もない。


「強くなりたい・・・とも、思わない。魔法が使いたいなんて、夢も見ることができない。」


 私には魔力がないらしいので、魔法を使うことはできない。それに、魔法を使いたいとも思わない。


 自分のために何かしたいとか、夢とかがないのだ。

 ただ一つ、思うのは・・・


「ユズフェルトには、何かお返しがしたいな。」


 返しきらない音があるユズフェルトのためなら、何かをしようという気が起きた。

 命を失う心配がなくても、死ぬのは痛くて苦しい。魔の大森林での生活は本当に大変で、そこから救い出してくれた彼には感謝をしている。

 そればかりでなく、大事にしてくれているのもわかった。


 大恩人と言っても差し支えのないユズフェルトのために、何かをしたい。


「・・・強くなる必要はない。」


 強くなって冒険の手助けをする。それは、必要のないことだ。

 ユズフェルトは十分に強いし、一緒に冒険する仲間もいる。別に私が強くなる必要はないし、戦力外としてハウスにいたほうがきっと邪魔にならない。

 連れていかれたとしても、下手に動ける方が邪魔になる気がする。


 神殿に行った時のことを思い出す。

 全員が罠にはまって生き埋めにされた時、一番最初に脱出したのは、私というお荷物を抱えたユズフェルトだった。次がアーマス、次いでアム。

 他のナガミとコリンナは気絶していて、自力で脱出することができなかった。


 龍の宿木の中で一番強いのは、間違いなくユズフェルトだ。私を抱えていたにもかかわらず最初に脱出できたし、前にワイバーン討伐を見せてもらったときは一人で討伐していた。


 私が同行する前の守護者討伐の話を聞いても、他のメンバーはユズフェルトの足を引っ張っているようにしか見えない。ここにさらに私が加わるのはまずいだろう。


「本当にユズフェルトが・・・私が死ぬ事態になる。」


 ユズフェルトが命の危険を感じた時、場所を入れ替えるはずなので死ぬのは私だ。別にそれ自体は構わないのだが、そう何度も死にたくはない。

 なので、ユズフェルトが死なないようにいてもらうのが一番だ。


「荷物として抱えられているのが、一番邪魔にならないと思う。うん。一番いいのは、ハウスで留守番だけどね。」


 強くなることに意味を見出せなかった。そのまえに、強くなれそうにないので、別のことでユズフェルトを助けられないか考える。

 ユズフェルトが興味を示すものは何だろう?それをプレゼントすれば、少しは恩返しできるかな?

 助けることを考えていたが、ものが一番無難ではないだろうか?


「プレゼントが、目に見えて感謝が伝わりやすいかな。そうと決まったら、ユズフェルトが喜ぶものを考えないと。」


 男だったら、かっこいいものが欲しいだろう。かっこいい物・・・剣、持っている。服、十分に合う服を持っている。車はないし。


 かっこいいは無理かな。すでにユズフェルトは完璧だった。




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