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2 不死



 ぽつりと、冷たいしずくが頬に当たる。目を開ければ、どんよりとした空から雨粒がぽつぽつと落ちていた。


 雨・・・やっぱり降ったんだ。


 このままだと体が冷えてしまう。早く、雨宿りができる場所を見つけなければ。そんなことを考えていた私の耳に、足早に草を踏みしめる音が聞こえた。


 魔物?・・・いや、これは人間かな?


 すぐそばまで足音は迫って止まる。雨が遮られると同時に、私の目に男の顔が映った。


「生きて、いるのか?」


 驚いた様子の男は、金の髪と綺麗な青い瞳をした、快活そうな青年だった。

 もしかしたら、ドラゴンに襲われたのを見られていたかもしれない。そうなると、なかなかまずいな・・・


 人体実験とか、囮だとか、実は魔族だなんて噂を流されて・・・嫌な想像ばかりが廻った。


「息はあるようだな、とりあえずここは危険だ。少し我慢をしてくれ。」


 私に自分のマントをかけて、彼は私を担いだ。お姫様抱っことは、ずいぶんと力があるようだ。

 私を担いでいるとは思えない身軽さで、彼は走り出す。景色がどんどん流れていって、これが人の走るスピードかと疑問に思って、彼の顔をまじまじと見る。


 そこにあるのは、どう見ても人の顔・・・白い肌とはいっても、病的ではなく健康的な白い肌に雨に濡れても鮮やかな金の髪が張り付いている。

 耳も長くない。エルフなどの類ではないだろう。この世界にエルフがいるかはわからないが。


 人間であることを確かめていたら、空のように綺麗な瞳がこちらを向いて、どうしようかと悩んだ。

 明らかに失礼だった・・・


「洞窟が見えた。しばらく辛抱して欲しい。」


「・・・うん。」


 どこへ向かっているのかと思えば、雨宿りの場所を探していたのか。私と同じだな。なんてことを考えていたら、洞窟に着いた。


「今、降ろす。」


「ありがとうございます。」


 そっと地面に降ろされた私はどうすればいいかわからず、とりあえずそのまま座っている。


「少し濡れたな・・・火をおこすが、危険はないので安心して欲しい。」


「あ、うん。」


 青年は、腰に下げた袋から赤い玉を取り出して、それを地面にたたきつけた。ぼうっと炎が上がって、そのまま焚火のように燃え続ける。


 あたたかい。


 火にあたって息をつくと、私のすぐそばに青年が腰を下ろした。近くないか?

 少しだけ距離を取った私に、青年は苦笑して話しかけた。


「自己紹介もまだだったな。俺は冒険者のユズフェルトだ。名前を聞いてもいいか?」


「・・・シーナ。」


「シーナか。よろしくな。」


「よろしく。」



 名乗ったのはもちろん偽名だ。日本名だと違和感があるかと思って、洋風ぽい名前を考えて答えた。まぁ、ゲームで使っていた名前なのだけど。


「見た感じ、冒険者ではなさそうだけど・・・どうしてこの森に?」


「・・・行く当てがなくて。」


「行く当てがないからって、魔物の住む森にいるのか!?」


「ここなら、人が来ないからね。」


「・・・」


 今の返答は、まずかっただろうか?本当に人と会うのは嫌だからここにいたんだが。

 嫌じゃなかったとしても、人の生活はわからない。この世界での常識が全くない状態で町に行くのは、危険なような気がしたのだ。それに、格好も・・・


「この服装だと、町を出歩けないし。」


「・・・確かに、酷い格好だ。怪我はしていないのか?」


「大丈夫。」


「それだけ衣服が破れているのにか?」


「・・・」



 指摘されて気づいたが、確かにこれだけ魔物の爪に引き裂かれているのに傷が一つもないのはおかしい。

 私は確かに怪我をしていた。しかし、一回死んで生き返るとリセットされたかのように、受けた傷がいえるのだ。


「・・・実は、シーナがドラゴンにしっぽで吹き飛ばされているところを、俺は見た。普通の人間なら大けがだ。最悪死んでいる・・・俺は、死んだと思った。」


「あー・・・あれ、しっぽがあたったのか。」


 私の死因は、ドラゴンのしっぽに攻撃されてだったようだ。


「受け身もとれていなかった。それを見た時、俺の背筋はぞっとした・・・もう少し早く来ていれば、助けられたのにって。」


「優しい人だね。」


 見ず知らずの誰かが死んだとして、私はただ怖いと思うけど・・・自分のせいとまでは思わない。責任感が強い人なのかもしれない。

 助けてもらったことだし、悪人ではなさそうだ。


 ちょっと楽観視しているかもしれないけど、私はもうこの生活に限界を感じていた。もしかしたら助けてくれるかもしれないと思い、自分の能力を正直に話すことにした。


「私、死なないの。いや、死ぬには死ぬけど、生き返ることができるみたいで・・・信じられる?」


「あぁ。やはりそうだったのかと思った。俺は、シーナがドラゴンの攻撃を受けた時、間違いなく死んだと確信したからな。生きていたことに驚いた・・・喜ぶべきことだがな。」


 長年の勘という奴で、近くにいなくても私が死んだのはわかったようだ。確かに驚いていたな。最初に見た、驚き顔を思い出していると、ユズフェルトは咳払いをした。


「シーナは、ここでこのまま暮らしたいと思っているのか?」


「できるなら町で暮らしたいよ。ご飯も生ものばかりだし、得体のしれないものばかりだし、何度も殺されるし。」


「そうか。ならちょうどいいな。」


「?」


「どうだろうか、俺と一緒に来ないか?もちろん、生活の面倒はすべて見る。」


「すべて!?」


 ちょっとお世話になることができるかと思えば、すべての面倒を見てくれるなんて・・・怪しすぎる。

 何か裏があるのだろうかと、疑った目で見上げれば、心苦しそうな顔がこちらを見下ろしていた。


「ただ、頼みたいことが・・・このようなことを頼むのは、本当に心苦しいのだが・・・本当にすまないと思うのだが・・・」


 やはり、何か無茶な要求を?

 ごくりと、つばを飲み込んで耳を傾ける。無茶だとしても、私は温かいご飯、綺麗な服、人間らしい生活を手に入れたい!


「俺の代わりに、死んでほしい。」


「へ?」


 俺の代わり・・・ユズフェルトの代わりに死んでほしい。つまり、身代わりということだろう。死ぬのは痛いし嫌だが、それはこの森で生活をしていても避けられない。だったら、生活向上のため、身代わりを引き受けてもいいだろう。


「とても、酷なことを頼んでいると思うが、俺は・・・死にたくないのだ!」


「それは・・・誰でも同じだと思う。」


 死にたくないなんて、人間だれしも思うことだ。でも、ユズフェルトは本当に悪いことを口にしているように言った。まぁ、私を身代わりにしてでも生きたいということに、罪悪感を感じているのだろう。


「本当に、生活の面倒を見てくれるの?」


「あぁ。住む場所、食事・・・服も用意する。ただ、俺のそばにいるために、冒険者ギルドに所属して欲しいのだが・・・」


「冒険者ギルド・・・は、身元が保証できなくても所属できるの?」


「できる。」


「そっか。なら、私は冒険者になって、ユズフェルトの身代わりになるよ。」


「身代わり・・・まぁ、そういうことになるな。本当にいいのか?」


「うん。別に、本当に死ぬわけでもないし。ところで、誰に命を狙われているの?」


 代わりに死んでほしいというからには、ユズフェルトの命を狙うものがいるのだろう。そう思って聞いたが、ユズフェルトは訳が分からないというように、首を傾げた。


「誰にも狙われていないが?」


「・・・?」


 あれ、どういうこと?




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