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12 ワイバーン討伐



 ワイバーン。それは、私の知識ではドラゴンの下位種ではあるが、決して初めての依頼で討伐するようなものではない魔物だ。


「絶対おかしい。」

「大丈夫だ。ワイバーンの討伐は何度も受けたことがあるし、俺が初めて倒した魔物はワイバーンだった。」

「えぇ!?」


 信じられないことを聞いた。何度もワイバーンを討伐した?初めて倒した魔物?どうしよう、耳がおかしくなってしまったようだ。

 下位種とはいっても、ドラゴンだよ?それを何度もって・・・そんなにワイバーンいるの!?というか、もしかしてこの世界ではワイバーンは雑魚なのかな?


 そんな、馬鹿なことを考えていた私は、愚かだった。




 王都近くの大森林。魔物が多く生息するこの場所に、なぜかワンピース姿の私はユズフェルトに抱えて連れてこられて、今では腰を支えてもらい私は彼にしがみつくように立っている。かなり高い木の上で、大森林を見下ろしながら・・・


 なぜか・・・なぜか、ワイバーン討伐の依頼を受けて、そのまま大森林に来たのだ。そう、目的はわかっているが、わからないのは準備もせず、ちょっとコンビニ行ってくる、という気軽さでここに連れてこられたことだ。


「大丈夫だ。初めてだから緊張するのは当たり前だが、経験者の俺が一緒だし・・・今回は俺がワイバーンを討伐しているところを見学していればいい。」

「あぁ、それなら・・・あれ、でも武器は?」

「ここに入っている。」


 ユズフェルトは腰に下げた袋から、一振りの剣を出した。袋はアイテムボックスらしく、買った櫛や冒険者の服などもそこに収納していた。


 だから丸腰だったのね。

 王都の治安がいいから帯剣していないのかと思っていたが、すぐに取り出せるからしまっていたのだろう。


 アイテムボックス・・・異世界好きなら憧れるアイテムの一つだよな。いいな、欲しいな。どうにか譲ってもらえないかな?


「その袋便利でいいよね。どこに売っているの?」

「これは貰い物だ。何か入れたいなら、入れるから言ってくれればいい。」

「ありがとう。」


 売っている物ではないようだ。流石に貰い物では、欲しいとは言えない。でも、いいなー。


「そうだ、私その袋持っていようか?それなら荷物係っていう立場になるし。」

「女の子に荷物を持たせるなんて、ありえない。気持ちだけありがたく受け取っておくけど、シーナは俺の主なのだから、そういうことは気にしなくていいから。」

「あ。」

「うん?」


 そうだ、忘れていた。ずっと忘れていた。

 私は、主になった覚えはないと・・・主になるなんて聞いていないと、ユズフェルトに言うつもりだったのだ。


「ユズフェルト、そのことだけど・・・」

「気にしなくていい。」

「いや、主の方。」

「・・・?」

「私、ユズフェルトの主にはなれないよ。どう考えたって、衣食住保証してもらっているユズフェルトの方が主だし。」

「俺はそう思わない。」

「私は、そう思うよ。」


 至近距離で、お互い見つめ合う。青い瞳は、かたくなに自分の意見を、主張を曲げない様子で、たぶん私もそういう目をしていると思う。


「シーナ・・・命あっての生活だと思わないか?」

「それは、そうだけど。」


 生活あっての命とはならないだろう。命がなければ、死んでしまったら生活など送れない。


「シーナは、俺に命を与えた。俺は引き換えに、生活を与えた。どちらがより高い報酬を支払っているか・・・誰が雇われていて、誰が雇っているか明らかだろ。実際、相手を必要としたのは俺で、シーナは俺の頼みを聞いてくれたわけだ。俺の上にシーナはいて、当然だと思う。」

「でも、実際は私ばかりが得をして・・・ユズフェルトだけが私に与えて、私は何も与えてないよ。」


 そう、私は一度も死んでいない。それは、ユズフェルトに報酬を払っていない、役に立っていないということだ。それはいいことだと思うけど、その状態で自分が主だなんて誰が言えるだろうか?


「シーナと出会って、まだ3日くらいか?そんな短い期間に死ぬような目にあってたまるか。俺は、そこまで命の危険があるようなら、冒険者になっていない。」

「確かに、そこまで死と隣り合わせの職業だったら、誰もやりたがらないよね。でも、可能性は少なくても、死ぬ危険があることには変わりがないよね、冒険者って。」

「その通りだ。だから、俺は自分の代わりに死んでくれる人を探していた。」

「なら・・・」

「いたな。」


 なぜユズフェルトは、冒険者になったのだろうか?そう聞こうとしたが、ユズフェルトの言葉にさえぎられた。

 ユズフェルトの視線の先をたどれば、大森林の奥にある山から、こちらに向かって飛んでくる魔物が見えた。おそらく、あれがワイバーンだろう。


 硬そうなうろこ、2つの翼。こちらへと迫って、距離が縮むとかなりの大きさだということが分かってきて、細部まで見えてくる。


「あれって。」

「シーナと出会ったときも、近くにいたな。あれが、ワイバーンだ。」


 ワイバーン・・・だったの!?ドラゴンかと思っていた。

本当によくいる魔物のようだ。何度も倒したというユズフェルトの言葉も、理解できた。なぜなら、この世界に来て数日の私が、2回もワイバーンに遭遇しているからだ。


スピードを緩めず、まっすぐやってくるワイバーンは、かなりの大きさなのですぐ近くにいるような感じさえしたが、まだそれなりの距離があった。

火は吹くのだろうか?ドラゴンの攻撃と言えば、ブレスだろう。ワイバーンがそのような技を使うかわからないが、遠距離攻撃があればそろそろ仕掛けてもいい頃合いではないだろうか?


私を抱えたまま、ユズフェルトは手に持った剣をワイバーンに向けた。

まさか、このまま戦いを開始するのだろうか?私、隣にいるけどいいのかな?


「ライトランサー」

「?」


 ユズフェルトがさらりと呟いたのは、どうやら魔法を発動する言葉だったようで、彼の剣から光が発射されたように見えた。

 唐突の出来事にすべてを目に収めることができなかったが、後からユズフェルトから聞いた話だと、魔法の槍を発射して、ワイバーンを一突きで倒したようだ。


「見ていなかったのか?」

「唐突過ぎて・・・ごめん。」

「なら、次の機会にまた見せるよ。」


 また見せてくれるらしいけど、見た後は実践かな?絶対倒せる気がしないのだけど。




 ワイバーンの死体を回収して、冒険者ギルドで討伐完了報告をする。

 ちょうどそこでナガミと会った。


「なんだ、採集でも教えたのか?」

「いや、ワイバーンを倒してきた。」

「は?」


 ナガミの反応を見て、私は安心した。やはり、ワイバーンは雑魚ではなかった。あれが雑魚と言われて、あれくらい倒せなくてどうすると言われたらどうしようかと思った。


「初討伐にちょうどいいかと思って、今日は手本を見せた。やるかどうかはシーナ次第だが。」

「無理!」

「お前と一緒にするな!あれは、パーティーで討伐にあたる魔物で、個人で倒しに行くような魔物ではない!」

「そうか。まぁ、シーナも無理と言っているから、次は別の依頼を共にしようか。」

「な、なら、採取してみたい!」


 ナガミが採取と言っていたので、私はそれをお願いしてみることにした。ユズフェルトは快く請け負ってくれて、次は採取だなとほほ笑んだ。


「・・・人間の娘、お前は鑑定を使えるのか?」

「え、仕えないけど?」

「そうか。なら、ユズフェルトのやり方は当てにならんだろうな。」


 そう、鑑定があるのとないのとでは、採取の大変さが全く違うのだった。

 それをしっかり理解できるのは、だいぶ先の話だけど。






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