誘拐犯は、捕らえられてなお脅しをかける!
猟銃片手にキッチンに戻ると、彼女は片手を腰に当て、もう片手で栄養補助食品のゼリーを上を向いて飲んでいた。
こちらを見るなり、喉を詰まらせ、
「ゴッホッ、ゴホッ」
と、むせかえった。
彼女に、
「その飲み方は、似合わないね」
と、言うと、
「あなたの銃もね」
と、返された。耳栓を彼女に渡すと、
「いつ打つか分からないから、先にしとけよ」
二人とも笑いながら、外に出た。
彼女は自分のスマホで録画を始めて、言った。
「さっきの会話も撮ってあります」
「まかせるよ。いまさらかっこつけようとは思ってない」
とトラックの荷台に乗り込んだ。
ブルーシートを剥ぐと、縛られた犯人がいる。
犯人は、ガタガタと悶えながらうなっている。口をふさがれ、喋れないようにしてある。目もガムテープで見えない様にしている。
「さて犯人さん、君と交渉に来ました。聞く気があるなら、静かにしてください」
犯人はしばらくもがいたが、あきらめたようだ。
「未だに警察が来ないのも不思議でしょう。取引をするためです」
「先に言っておきますが、私は警察が嫌いです」
「好きなのは、お金です」
「解放条件は、誘拐した人を閉じ込めている場所を言う事」
「君が素直に言えば、誘拐した人を解放して戻ってきて、解放します」
「それを解放出来たら、彼女たちから礼金を徴収します。」
「ちなみに彼女からは、善意で、300万円頂けることになりました」
「もしいなければ、このまま警察を呼びます」
「信用はしてもらえそうにないですが」
「冷静な判断のできる人ならこの条件をのむしかないでしょう」
「さてどうしますか」
犯人の口を縛っいる紐を取ると、犯人は自分舌で口の中に詰めた物を吐き出し、よだれをたらしながら、
「ケーサツ呼べよ、早くな、俺はなぁ、精神病患者なんだよぉ、何やったって刑務所に入らなくていいんだよぉ、直ぐにキサマを殴りころしてやるからな!」
「一人殺すも二人殺すも、一緒なんだよぉ」
これだ。このてかよぉ。やっぱり簡単にはいかないなぁ。眠くなってきた。もう、まる1日寝てないのもあり、目が座ってきた。
「事を成すのに、身を斬らずしては成せずか」
「そうゆうタイプの人でしたか。仕方ありません。交渉し直しです」
「私の母もそういうタイプの人でしてね。基本、相手への思いやりが、欠けてるんですよ」
「逆に言えば、自分の事ばっかり」
「自分がピンチになるとどうなるんでしょうね」
彼女にしゃがむよう合図した。
彼女はしゃがむと、腕だけ伸ばしてスマホの録画を続けた。
彼の目隠しのガムテープを取ると、猟銃を見せた。
「安心してください。これは猟銃なんで、話の分かる人には向けません」
「君を初めて見た時は怖かったのですが、それは人間相手だからで、獣相手なら慣れてますよ。田舎暮らしなもので、君は田舎暮らしをどこまでしっていますか」
「田舎なんで警察が、熊やイノシシが出たからって、追い払いにはきてくれないんです」
「作物を荒らす泥棒でもね」
「そこでこの村では、銃の免許の更新にバスが出るんですよ」
「田舎の方が物騒だとおもいませんか。各家に銃があるんですよ」
「獣と戦争してるんです」
「殺して、解体して、食べる」
「日常的なことなんですよ」
「実は田舎って、異世界ゲームと似てるなって思うことがあるんですよ」
そう言って耳栓をした。彼女も慌てて耳栓をする。
銃に弾を込めて、銃を突きつけると、
「君は、獣ですか?」
「もう一人は殺してるという事は、人間の敵ですかね」
と言って、犯人から少し外して打つそぶりも見せず、表情も変えずに銃を撃った。
音がやまびこのように跳ね返りこだまする。
しばらくして、犯人の耳が戻ったようなので、
「大丈夫ですよ、今のは空砲です。この村ではよくある音なので、誰も気にしません」
そう言って、もう一度弾を込めた。
「事故が起きないように、最初は空砲。お約束ですよね」
「今度は実弾です」
「殺しはしません。君は山で獣に食われて死にます。銃の傷は獲物呼びです。食われるので跡はのこりませんよ。もちろん、重いので馬で運びます。遭難者として私が発見者となります。毎年、何人かは山菜取りや、登山でみえますので」
「わかった。もういい」
と、犯人は叫んだ。
「まだ話半分なのですが、ここで分かるのなら君も田舎の怖さを知っているようで、手間が省けます」
「お前の方が、危ない奴じゃないか」
「立山村聖山橋西中州・・・0658-4」
「嘘だったら、殺します。」
「本当だったら帰ってきて解放します。遠くの山でね。食料も付けます」
「警察に事情を話せば、自分は逮捕まではされないでしょう。なにせ、誘拐された人を救ったヒーローですからね」
「さてホントのアジトは、見つからんと帰ってこれず君は凍死です」
「その先、秋桜が咲いている道から左、舗装されてない道を行って、獣道3分歩けば小屋がある。栗の木の坂を下りればある」
「そこに仲間はいるのか」
「いない。トイレに行かせてくれ」
「行かせるわけないだろう、お前と同じ事をしてるんだよ」
犯人の要求を無視して、目隠しをして、口に物を入れてふさぎ、本通りにブルーシートを掛けた。
彼女とキッチンに戻った。
彼女は、心配そうに、
「犯人の言う事信用していいのかなぁ」
「これを見てくれ」
と、自分のポケットから、犯人の車から持ってきた花びらと栗のイガを見せた。
「おお、さすが、探偵になれるね」
「ありがとう。ワトソンさん」
ちょっと、彼女は笑ってみせた。
「で、本当に開放するの」
更に彼女が、不安そうに聞くので、
「これ以上、犯罪を重ねる気もないし、させるつもりもないよ」
「とにかく眠いんだ。早く終わらせよう」
と、冷蔵庫から、コーヒーを出して、直ぐその場で飲み切った。