被害者は、被害者のままでいられない!
10キロ程山うねり続きの道を走ると数十軒の集落がある。その端の我が家に着いた。
車を止めると、彼女に言った。
「前の扉が風呂の入口だから、」
彼女は、いまいち理解できていないようだったので、前を指して、
「田舎の古い家は、風呂場は外あるの、トイレはその右」
彼女は、やっと理解できたのか、
「ありがとうございます。」
と言って、軽トラから降りると、深々と頭を下げてら、足早にトイレに向かった。
「着替えとかは、姉のを出しておくから、」
服と一緒にタオル、ビニール袋、消臭スプレー、新品の歯ブラシセット等、思いつく限りの物を集めて置いた。
さて、ここからどうするか、MMOゲームの仲間に相談することにした。
なっと 「犯人確保しました」
まとりうす 「おおおおおお!」
マット 「おめでとう」
ななみ 「やればできるこ^^」
キタキツネ 「やるな!ボス攻略おめでとう」
まとりうす 「ボスだったの?」
マット 「これから、真のボス戦ですか?」
なっと 「リアルはボスいりません><」
ユリヒメ 「おめでとうございます。ケガないですか」
なっと 「はい」
テナ 「無事がなによりです」
ニャンちゃん「ニャン全祈願してたニャン」
マット 「w」
なっと 「今、なっと家 警察まだ」
ユリヒメ 「!」
まとりうす 「横取りしたんだ」
マット 「かっさらったのか」
ななみ 「さすがは外道勇者」
テナ 「腐っても勇者なんですよ^^」
なっと 「テナさんまでw」
なっと 「風呂出たら、警察行く予定」
まとりうす 「覗いてる」
マット 「いいな」
ニャンちゃん「うらまニャしい」
テナ 「!女性がなにいってるのw」
ニャンちゃん「覗きに性別はないニャン」
キタキツネ 「ニャンかある。気をつけろよ」
ニャンちゃん「移ってるにゃんw」
ユリヒメ 「動転してるだけかも」
ななみ 「彼女の心を見なさい」
なっと 「はい」
なっと 「彼女から見たら、犯人の仲間とか同類の可能性も考えてるのに、家に来て風呂入るって事
は、かなりの決心があると思う」
ななみ 「誘拐されている人が他にいるなら、警察に言っても、助けることができなかったら、
人殺しを見逃す事になる」
キタキツネ 「犯人のアジトは聞き出せよ」
ななみ 「ですね」
キタキツネ 「警察は、無理には聞き出せないからな」
ななみ 「そそ」
マット 「クエストですな」
まとりうす 「報酬は、助けた人集めてハーレムだ!」
まとりうす 「真のボスにたどりつかねば」
なっと 「どうやって」
キタキツネ 「脅す、ボコる、切り刻む!」
マット 「吐きますw」
まとりうす 「はかせる人まちがえてるw」
ユリヒメ 「仲間と思わせる」
テナ 「優しく聞いてみたら」
ななみ 「そそ、今まで拘束してて、警察も呼んでないなら、交渉の余地ある」
テナ 「警察嫌い設定」
まとりうす 「女性大好き設定」
マット 「それ、設定じゃないw」
テナ 「脅したら、確実に犯罪者になるよ」
キタキツネ 「誘拐犯に情けは無用!」
ななみ 「そそ」
まとりうす 「助けられる人から見れば、勇者だ!」
ななみ 「犯罪者になってこい!外道勇者!」
なっと 「はい><」
キタキツネ 「脅しは、相手が本気で殺されると思わせるかが勝負!」
マット 「がんば」
1時間はたっただろうか。彼女が風呂から出できたので、軽トラから降りると、言葉はかけず、勝手口からキッチンに案内した。キッチンと言っても、壁に流しと冷蔵庫。真ん中にテーブルといったいかにも昭和の間取りのところ。客間もあるが、キッチンの方が落ち着くだろうと思った。隠し事はないですよアピールのつもり。玄関から案内すると不安かと思いそうしたが、どれだけ伝わつているかは不明。
冷蔵庫から、お茶、パン、牛乳、栄養補助食品のゼリーパック等。食べられそうな物を全部積み上げた。
「どれでもどうぞ」
自分がイスに座ると、彼女もイスにすわった。
二人ともが、同時にお茶をのんだ。
そして、同時に挨拶をした。
「初めまして」
二人ともが笑い、落ち着いたようだ。
あらためて、しっかり見ても、すごい美人だ。やさしい感じで、おだやかな雰囲気がある。
この先、これ程の美人と話す機会はないだろう。
これだけは犯人に感謝しないとな。
「あらためまして、夏川 海斗 社会人です。ここで母と二人暮らし。母は精神病なんで、出てこないだろうし、会わないほうがいい」
と、出来るだけ明るく話した。
すこし、彼女は気まずそうにしたが、
「桐ケ谷 さゆり 大学生です」
「これまでの事を話します」
と、イスに深く腰掛けて、市政正しくしてから、話しはじめた。
「西野町の塾のバイトで、いつものように夜中の2時頃退社して、車に乗る所で車の中に連れ込まれました。その場で直ぐ縛り上げられて、口もふさがれて、なぐられました。」
「『騒いだら殺すぞ』と言われて、車は走り出しました。それからかなりたって、あなたが助けに来てくれました。」
夜中の2時にこんな美人が一人で、襲って下さいって、言ってるもんだろうとは思ったが、今更なので、いわないでいたが、もう一つの事は、気になったので聞いてみた。
「助けるまでの間が3時間、給油メーターが、そこまでへっていない。どこかで、給油したとか」
「いわなくていい、ごめん」
と、直ぐに話を止めた。強姦された時間があるかもしれないと思った。まずった。
「いえ、思われるようなことは、起きていません」
「途中、車を止めてスマホを長くさわっていました」
「他にも気づいた事は」
彼女はしばらく考えこむと、
「犯人が、『お前の仲間にあわしてやる』と、言ってました。車の足元に、化粧品の臭いと、色もついてました。」
「犯人は他にも拘束していると思います。監禁場所を聞き出せないでしょうか」
その話しぶりは真剣で率直なものに聞こえた。
一息置いて、切り返した。
「それは、警察任せればよいのでは」
と、普通に返答してみた。彼女は、警察を信用していないのか、できないのか、それとも、何か秘密を聞き出したいのか。判断はできない。
彼女は、更に真剣に、
「犯人が、警察に監禁場所を言わなかったら、警察が見つけられなかったら、見つけた時、餓死していたら。後部座席には、大量の食糧がのっていました。今のあなたなら、犯人から聞き出せる可能性が高いと思います」
「なるほどね。君の言いたい事は分かるが、奴が口を割ると思うか。本当の事を言うかも分からん。単独犯かどうかも」
彼女は、あきらめる気持ちはないようだ。」、
「私は助かりました。でも他の人が危険かもしれないのを見て見ぬふりをしたら、私も人殺しになってしまいます。」
「私が犯人を拷問して、聞き出します。手伝ってもらえないでしょうか」
これはもう、彼女にやらせると復讐になってしまうし彼女の心に更に深い傷がついてしまう。
決断の時なのだろう。人生崖っぷちのところで、今更守るべきものもないのに、なにを臆病風にふかれているのか。人生に彩り添えるチャンスが来たと思うぐらいでいいのかな。
真剣に返答することにした。
「君では、役不足だよ。そう言わせたいことも分かって言っている。美人は大概、男の扱い方を心得ているからな。こちらも脅した時点で犯罪者確定だ。監禁者が助かった時点で、見返りがほしいね。」
「いいわよ」
と、笑顔で、はなから、ここまでが予定通りの様にあっさりと返答してきた。
こちらとしてはどう思われようが、犯罪者となる見返りがあると思う勇気が欲しいのであって、もらえたらラッキーぐらいのつもりだったが、ここまで即答されると欲が出る。
「一発、やらせろ」
にこやかに言い放ち席を立った。
言っちゃったよオイ!
「交渉成立ね。きたいしてるわ」
背中になぜか悪寒が走った。
二階に上がり、自分の部屋の鍵を開けた。母が何をするか分からないので、鍵をする習慣が付いている。
部屋に入り、本棚の鍵を開けて猟銃と薬きょうを取り出した。
この匂いにいいイメージがない。子供の頃なら、花火を思い浮かべるのだが、今は獣の叫び声が耳に残る。
戦闘再開。