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一つの懸念<アナザーサイド>

何かおかしい。そう最初に感じたのは昨日、ロオスという名の少年にボディブローをかました時だ。


そもそもこの話は半年以上前に、シャーリー家で開催されたパーティに参加したことがきっかけであった。


もともと、シャーリー家の愚息に会いたくなかったため、行く気など毛頭なかったのだが、あちらの方が家柄も良いため我がログマ家が誘いを断ることなどできなかった。理由がそれだけならば、ばっくれることも考えた。最悪、父が顔を出せば面子は保たれるからだ。


しかし俺は出向くことにした。現当主が悩みを抱えており、その解決をどうやら俺に頼みたいらしいという噂が流れていたからである。シャーリー家には特殊な風習があって、当主が代々シャーリーの名を踏襲するというものだ。


元の話に戻すと、12代目当主であるシャーリーさんはとても聡明で、これまで最も優秀とされてきた2代目に迫る才を発揮しているらしい。そこまで言われるほど優れた人間が自分に頼みたいこととは何なのかという興味が湧き、パーティの参加を決断したのである。


当日、パーティ会場に着くと同時にシャーリー家の使者が俺を出迎え、当主の元へと案内した。これは主催者に初めに挨拶をするのが当然の習わしであるため、特筆すべきことはないのだが、どうやらそれだけで済まなそうなただならぬ雰囲気が使者から滲み出ていたため、俺は当主の元へ馳せ参じた。


「お久しぶりですシャーリー殿。お変わりなくお元気なようで何よりです」


「久しぶりだねサモン君。今日は楽しんでいってくれ、と言いたいところなんだが、実は君に頼みたいことがあってね。もしいとまがあるのであればこの後、私の自室に来て欲しいのだが......」


(ここでは話せないような話なのか?)


「わかりました。私でよろしければ、頼み事を聞きましょう」


「おお、助かるよ。では参加者全員との挨拶を終え次第向かうから、君は先にそこの彼の案内のもと私の部屋で待っていてくれ」


「わかりました。では後ほど」


そして屋敷の長い廊下を渡り、自室へ辿り着いた俺は暫く待っていると、シャーリーさんが来た。


「待たせて済まなかったね」


「お気になさらず。それで要件とは?」


「君は私の息子と違って大変優秀だ。才能もあり、それに見合った努力もしている」


「いえいえ、とんでもないです」


「そんな君にしかできないことなんだがね......君と同期の後衛組にミディアム・ロオスという者がいると思うのだが、公の場で打ち負かして欲しい」


「その者が何かしたのですか?」


「どうやらそのロオスとかいう者は大層優秀な男らしいのだが出生に問題があってな。問題があるとは言っても、優秀な者ならスラム街上がりだとしても拒むつもりは勿論ない。差別的な問題ではなく、古くからある風潮的問題というのかねえ......要するに貴族がトップの成績を取らねば面子が立たないのだよ」


「......そういうものなのですか?しかし確か一昨年の前衛組の首席は貴族ではなく平民だったと記憶しているのですが」


「その代は出来のいい子がいなくてね。さっき言ったような手は使えず、止む無く放置したのさ。君は前衛組でトップの成績らしいじゃないか。後衛最強と名高いロオス君を倒せば、君が今期の最強の男であると名実共に証明できるわけだが、どうかね?」


「後衛組には他にも優秀な生徒入るでしょうし、俺自身も前衛組で最も成績が良いだけで実力が一番かは分かりません。しかし男たるもの最強は目指して然る道。まして、古くからご縁のあるシャーリー家の家長直々の頼みであります故、謹んでその頼み受けさせていただきます」


「そうかそうか! すまんね助かったよ」


「礼には及びません。では失礼しました」


そうして俺はロオスとやらを伸すことがこの日、決定した。


その彼だが、とても優秀な後衛で攻守ともに優れているが、その反面、臆病な一面も持ち合わせており、僅かでも自身に危険を感じると即座に障壁を張ることから、彼の才能に妬みを持つものたちからは「亀」などと呼ばれている。といった事前情報から、才能がありながらも驕ることなく振る舞う、危機管理能力の高い、総合的に見ても優れた人間であると判断した。とはいえ、百聞は一見に如かず。ひとまず相手の力量をこの目で見て測るため、教室へ出向くことにした。


事件が起きたのは頼みを承諾した翌日。昼休みに教室に出向こうと考えていた午前の中休み、俺は訓練場で日課の訓練をこなそうと準備をしていた時、奴は現れた。それもかなりの威力の風魔法を携えて。

俺が奴を自分の目で見て認識する前に、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。直前に奴から放たれた殺気に気付きとっさに身体強化を張り、受け身を取れなければ死んでいたかもしれない、そう感じるほどの威力であった。


おそらく第一階梯の威力は悠に超えている。本来はライセンスを所持していないやつでは習得不可能な第二階梯だが、奴ほど優秀な者には切り札の一つや二つ持っていてもおかしくない。それは良い。だが確実に殺せる状況でもないのに法に触れるような切り札を使ったという事実が不可解でならなかった。


何より驚いたのは、先程殺さんとばかりに魔法をぶっ放した奴がこちらを見て驚いたような顔をして走り去って行ったことだ。驚く理由として、殺しきれなかったというのが考えられるが、俺は奴が射程圏内まで接近しているのに気付かなかった。気配を消す冷静さがありながら、なぜ俺に魔法を撃つ前に殺気を出したのかという疑問点が引っかかる。


そしてなぜ殺さずに去ったのかという点。顔を見られ、切り札を知られ、普通なら意地でも殺そうとしてくる状況で逃亡を選択した理由が全く分からない。俺は体制を大きく崩していたし、咄嗟の防御だったため、衝撃を吸収しきれずすぐ起きて戦闘に入れる状態ではなかった。にも関わらず逃げた。


当初の目的に加え、なぜ殺そうとしたのか、何故逃げたのかを問いただすべく、むしゃくしゃした気持ちを押さえ込み、少しでも奴に圧をかけるため、前衛組の輩どもを連れ、奴のいる教室へ向かった。


すると道すがら、シャーリー家の手のかかった者たちが付いてくると言い出した。監視のつもりなのだろうか。くだらない、そう思いつつも無下に断ることなどできる訳もなく、彼らを引き連れ大人数で教室に入った。


するとどうだ、無防備に奴は俺の前に身を晒しやがった。その上先ほどの一件を何とも思っていないような態度をとった挙句、挑発までしてきやがった。腹が立ち、俺は怒りに全てを忘れ、拳を繰り出した。


ふと我に返った時、何が起こったのか分からなかった。奴はノーガードでパンチをくらい、吹っ飛んでいったのだ。あまりに綺麗に一発入ったので一瞬取り乱してしまったほどであった。


失望した。これが後衛最強なのかと。しかしあまりに事前情報と異なったので翌日になっても不審に思っていた矢先のことだった。奴が訓練場に姿を表したのは。


奴は数発の火魔法を撃つとそのまま動かなくなってしまった。とっさに身を隠したものの、奴の硬直が長く、動くに動けないでいると、大声で遅刻する、などと言って奴は走り去って行った。この時点で、俺の中での奴への懐疑が確信に変わりつつあったが、奴を急いで追いかけ、前日と同じように殴りつけた時、それは明確化した。噂通りの完璧な魔力コントロールで、俺の拳を最低限の魔力障壁で防いだ奴の顔つきは僅かに、しかしはっきりと異なっていた。こいつには何かある。そう思わざるを得なかった。


(一体こいつは何者なんだ......)



〜〜〜〜〜〜〜〜



「ふー、なんとか納得してくれたか......これで良いのだな」


「ばっちりだよパパ」


(あー、あいつが負ける様を見るのが楽しみだ。ブヒヒッ)



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