特訓開始!
ちょっと長くなってしまいましたすみません。
「何のことかなぁ、全く身に覚えがないんだけど」
「とぼけたって無駄だぜ。昨日と今朝のお前の様子を見てれば......な」
(今朝見られてたのかよ! もし俺の存在があいつにバレてんだったら声出したお前のせいだからな! おい! 早く代われ!)
(いいからちょっと黙ってて)
「......僕が勝った時のメリットは」
「もちろん秘密を誰にも言わねぇと誓おう。加えて、俺が所有してる魔導書を一冊お前にやるよ。どうだ? お前が戦う理由と勝って得るもの、どちらも用意したつもりだが。ここで引くのは男じゃねぇよなあ」
「ふー、分かったよ。ただし1ヶ月後の放課後、場所は訓練所の実践エリアで。それがダメなら......」
「その条件で構わないぜ。交渉成立だなぁ! じゃあ来週の放課後、楽しみにしてるぜ......」
そう言い残し、サモン君は教室を後にした。
「お、おい! 本当に大丈夫なのか!? お前の実力は認めてるけど、あいつって確か前衛組で一番成績が良かったはずだろ! 大丈夫なのかよ!」
(げっ! あのチンピラが前衛組最強!? 何の冗談だよそいつは!)
(彼は貴族の出だ。きっと生まれた時から英才教育を受けてきたんだろうね。もちろん、その教育のレベルの高さに見合った才能と努力はしてきたんだろうけど)
「タンタ落ち着いて。大丈夫大丈夫! 何とかなるって! さ、講義が始まるから席に着かなきゃ」
僕らが席に着くと間も無くして先生が来た。
「今日は昨日言ったように実技演習だ! 皆外へ出ろ!」
(えっ、聞いてないよ! 困ったな......)
(なんかまずいことでもあったのか?)
(僕の持病の話したでしょ? 魔法使うって知ってたら今朝みたいに先に錠剤飲んでたのに)
(今飲めばいいじゃねぇかよ)
(知らないと思うけど魔素って全身を経由して、最後に魔石を通るんだ。これは、魔力を使い果たした時に、いち早く身体中に魔力を行き渡らせるためにそういう構造になってるらしいんだけど、まあようするに飲んでから効果が出るまで、少し時間がかかるって訳)
(なんで最後に魔石を通る構造だと身体中に魔力が早く行き渡るんだ?)
(端的に言うと、魔力を使いはたすと心肺機能が低下して、その分魔素を魔力に変える効率を上げるんだ。最後に魔石を通る構造だと、体内に魔素が多く残留しているから早く回復するってこと)
(なるほどな。魔力のある世界では人間はそういう風に進化するのか。なかなか興味深いな)
(君って元の世界で学者だったりした?意外と知りたがりな気質だよね)
(そうか? この世界には元の世界にないものばかりだから多少興味があるだけだと思うが)
(そうなの? まあ何でもいいけどさ)
そんなこんなで、適度に力を抜いて実技を終えた僕は......えっ? 実技の話はしないのかって? あーじゃあ簡単に説明をするよ。今日の実技はクラスメイトとの組手で「僕はシャーリー家の次期当主だぞ!」とか喚いてた饅頭みたいな顔をした人が対戦相手だったんだけど、その人毎週毎週僕の靴隠したり、僕が狩った課題のイノシシとか横取りしてきたりして陰湿だったから、これまでの鬱憤を晴らすのに丁度いいと思って、対戦開始の合図の直後に風魔法で吹っ飛ばしてあげたんだ。今日も後ろ手に何か隠し持ってたみたいだけど、お披露目する暇なく終わっちゃってちょっと可哀想なことしたかな? まあそれはともかく、僕は約束通り放課後、教会へ出向いた。
「こんな夜更けにわが教会に何のご用じゃな?」
「いや、まだ夜更けというには早い時間なんだけど......まあそれはさておき、お久しぶりです神父さん。「身体強化」の入門的な指南書を貸していただきたいのですが、よろしいですか?」
「おぉ、久しぶりだねロオス君。今日は遠距離魔法じゃないのかね?」
「ええ、ちょっと急務で必要になりまして。こちらがお布施になります、お納めください」
「うむうむ。君じゃったら、ここで貸し出せる書物の大半は貸し出しの許可ができるじゃろう。確か「身体強化」の入門じゃったな......ほれ。今日も奥の部屋で覚えるのかい?」
「はい、毎度のことながらありがとうございます」
「ホッホッホ。どうせ誰も使っとらん空き部屋じゃ。感謝するほどの事じゃなかろうて」
神父さんには兄共々よくお世話になっていて、本来冒険家もしくは探検家のライセンスを持っていないと借りることのできない第二階梯の風魔法の指南書を、国に報告せず黙って貸してくれた事が記憶に新しい。他の教会の神父さんのいい噂は聞かないが、この教会はとてもクリーンであると日々実感している。
(じゃあ早速習得を始めよう。前にも言ったと思うけど、サモン君は前衛組でもトップクラスの実力を持っている。そんじょそこらの努力では全く歯が立たないと思った方がいい。見かけによらず頭がいいし、かつ冷静ってのが僕の彼への印象。今朝のパンチだって全力で打ち込んでこなかったのは、僕の実力を測るためにわざと打ち込んできたものだと思うよ。まず僕が彼の圧に気がつくか、そして障壁の強度によって、僕が弱く張ればそこそこの威力で殴れるし、強く張れば相手の底を知れるから来週の戦いが有利になる。そして僕が今朝張ったのはギリギリで彼の攻撃を受けきれる障壁。これは相手の力に合わせて最小限の魔力の消費で受ける高度な技術だからきっと警戒してくれるだろう。そこに君が一発入れる隙はある)
(お、おう。すげー喋るじゃねぇか。しかもさらっと自慢を挟んだ高度な話術だ。俺じゃなきゃ見逃してたぜ)
(わけわかんないこと言ってないで、早く特訓始めるよ!)
(おう! 任しとけ!)
訓練場は、技の特訓のみを行う修練エリアと、対人戦を可能とする広々とした実践エリアに分かれており、実技演習の組手は実践エリアで行います。