世知辛い社会
(なるほど......考えたね)
翌朝、僕は早起きして僕が通っている冒険者養成所の訓練場に来た。
そしてロオス(俺)がいた世界とは異なっていた、この世界の常識についての説明や、僕の意識がなかった時の話を交えつつ、特訓すること30分。目の前には、第一階梯の火魔法によって燃え尽きた的が二つ転がっていた。
(君が魔法を使う時の魔力が流れる道筋は、僕が魔法を使う時の道筋と同じだから、一度僕が魔法を使えば、同じように魔力を流すだけで、君も理論上同じ魔法を使えるってことだね)
(そういうこと。まあ第何階梯とかいう奴は決められた術式を脳内で組まなきゃいけねえってのはさっき知ったことだが、それもお前が脳内で組んだのを見よう見まねで組んだら上手くいったしな。まだそんなに複雑じゃねえから見ただけで使えたが、これ以上複雑になると覚えきれねえな)
(反復練習して覚えればいいじゃん)
(それがめんどくせえって言ってんだよ。そういやなんで俺よりお前の方が同じ魔法なのに、撃つまでの時間も射出速度も威力も違うんだ?)
(まあ慣れだよ慣れ。反復練習の賜物じゃないかな)
(けっ! やっぱり今から遠距離魔法でお前を上回るのは無理そうだから、俺は近接を極めるぜ。だから早く身体強化の魔法覚えろ)
(なんだよ! 結局他力本願じゃん! 自分で覚えればいいじゃないか!)
(俺は覚えたくてもこの世界の字が覚えられねぇから無理なんだよ!)
(分かった。じゃあ僕が本の内容を心の中で読み上げるから。それなら理解できるでしょ?)
(それならお前が覚えた方が早いだろ! 二度手間じゃねぇか!)
(君が自身の力で理解して使いこなせるようになった方が2点。1点目、まず前も言ったと思うけど、僕は身体強化の基礎すら使えない。生まれた時から魔法の適正は決められていて、僕はあまり近接魔法の適正が無かったんだ。もちろんゼロって訳じゃないけど、それより適正のある遠距離魔法を伸ばした方が自分の力になると判断して近接は鍛えないことにしたんだ。君は僕と適正が同じなのか違うのかは分からないけど、苦手意識のある僕より君の方が覚えるのが早いと思った。そして2点目、僕が先に覚えてしまったら、君に制御権を渡す利点がなくなる。だってそうでしょ、自分で戦えるんだから)
(あー、もううるせぇうるせぇわーったよ! 俺が自分で覚えるよ!)
(うん! 分かってくれたようで何より! (よかったー! いくらお人好しの僕でも、自分のためでもないのにわざわざ苦手な事について勉強したくないもんね。いや、意識が違うだけで僕の体ではあるか。まあなんだっていいんだけどさ))
(ん? 今なんか本音が聞こえたようなきがしたが)
(え! いやいやそんな事ないよ! じゃあ今日の講義終わったら、放課後お布施を払って教会に「身体強化」の指南書を借りに行こう)
(おいおい、金払わねぇと貸してもらえねえのか? 教会もケチだな!)
(昔、有名な探検家のプロアって人がいて、その人を筆頭に築き上げた文明発展の黄金時代に指南書と魔導書が多く作られたんだけど、そういう書物を悪用する人が世に蔓延っちゃったんだ。それで大規模な規制が敷かれて、見つかった書物の多くは国が高額で買い取って、教会に納めた。そして貸し出しに基準を設けて、簡単には借りられないようにしたんだ)
(ん? ちょっと待て指南書と魔導書って何が違うんだ?)
(指南書は使いたい魔法の効果や魔力の消費量、使い方について記されている書物だよ。国が発行して冒険者や探検者に売ったものが大半なんだけど、中には数多くの弟子をとったりする人が独自に作ったものなんかもあるみたいだね。それに対して、魔導書は一度読めば魔法が使えるようになる不思議な書物だよ。人の手で作られたものや、ダンジョンで発見されたものもあるらしいよ)
(なんだよそれ最強かよ! 早く魔導書手に入れようぜ!)
(待って、話はまだ終わってない)
「ぜってぇ」は絶対という意味です。読みにくいと感じた方、ご迷惑をおかけしますm(_ _)m
説明回があと半話程度続きます。長々と申し訳ないのですが、我慢して読み進めて下さい。