制御権と記憶の欠落
(それは......)
(いいじゃん! 一瞬だけ! お願い!)
(そんなこと言われてもやったことないし、やり方が分からないよ)
(そりゃそうか。よし、じゃあ俺がガッて行くからお前もガッて来い。じゃ行くぞ!)
(え、そんな、分かんないって! あ、ああぁぁあーーー!)
〜〜〜1分後〜〜〜
「ふうなんとか上手くいったな」
(うわー自分の身体なのに全く動かせないって変な感じ)
(にしても入れ替わるのに1分もかかるのか、これじゃ動かしたいときに動かせないし不便な身体だぜ)
(後から来た新米が何いってんだか)
(お前もそんな冗談言うんだな! はっはっは!)
(全く......そんなに笑うことないだろ。それで、体の調子はどう?)
(うん、問題ないな。これで明日、サモンとやらをぶちのめせるな!)
(え! ちょっと! 何勝手なことしようとしてるんだよ! 体返してくれ!)
(その提案に対する答えはNoだ! あいつの顔面にパンチ一発入れるまでこの体はお前に返さないよーだ!)
(今のままあいつに勝負しかけても、返り討ちに遭うだけだよ!)
(......なんだと?)
(最低でも魔法の一つや二つ使えるようにならないと勝負にならないよ)
(そういえばこの世界では魔法を使うのが当たり前なんだったな)
(当たり前ってほどでもないけど、まあ国民の大半は最低限の魔法は使えるよ)
(成る程な......ってことはサモンも何かしらの魔法を?)
(うん。サモン君は前衛だから身体強化系の魔法を使える筈だよ)
(お前は使えんのか?)
(僕は後衛だから使えないけど、遠距離魔法なら得意だし、中でも風魔法なら第二階梯まで使えるから教えられると思うよ!)
(バカ! それじゃダメだろ! 確かに魔法で伸すのもそれはそれでおもしれぇが、相手が使えない魔法で倒しても意味がない! 相手の得意なフィールドで締めないと俺の気は済まねぇ)
(相手のフィールドって......接近戦!?)
(当たり前だ)
(ぜっっっっったい無理! 僕は前衛の訓練受けたことないしそもそも身体強化の基礎すら使えないんだから!)
(別に端からお前に教えを請うつもりはねぇよ)
(え......じゃあ独学で? 何の魔法も使ったことがない君が?)
(そうだが、なんか文句あんのか)
(大有りだよ! 普通は小さい時から徐々に魔法に慣らしていって、魔素と魔力の循環を体で感じて、魔力だけを抽出して初めて魔法が使えるんだ! 一朝一夕で身につけられる技能じゃないよ!)
(もちろん荒唐無稽な話じゃあない。取り敢えず制御権はお前に返しておく。明日その根拠を教えてやるよ)
(うーん、分かった。じゃあまた明日)
(おう、また明日)
(ごめん、寝る前に一つだけ聞きたいんだけど)
(なんだ)
(君の名前は何て言うの?)
(俺の......名前? ......ダメだ、元の世界のことは思い出せるが、自分の名前が思い出せねえ)
(そうなんだ......まあ仮に思い出せていたとしても、今日で改名してもらうつもりだったから、思い出してもらわなくても大丈夫!)
(はぁ!? 人の名前軽々しく変えるとか抜かしてんじゃねぇぞオイ!)
(別に軽々しく考えてる訳じゃないよ! 君が体制御しているときにロオスって呼ばれても咄嗟に反応できるように、普段から君のこともロオスって呼ぼうと思ってたんだよね)
(うーむ、確かに理に適っちゃいるが......)
(心の中で会話するときは、僕の場合は一人称が僕で、君は君かロオス。君の場合は一人称が俺で、僕のことはいつも通りお前かロオスって呼んでくれればわかりやすいでしょ?)
(まあ分かったよ。どのみち今は名前が思い出せてねぇしな。ひとまずそれでいい。じゃ、明日の朝な)
(うん、分かった)