空白の10分間
薄暗い照明と乾いた空気に包まれ、僕は目を覚ました。
(うーん、ここは......保健室? 何でこんなとこに)
「痛っ!」
身動ぐと、腹部に身に覚えのない痛みを感じた。
「ロオス大丈夫?! ずいぶん魘されてたみたいだけど」
「何でかお腹が痛むこと以外は調子は悪くないかな」
「ふふっ、ちっちゃい時からロオスのこと知ってるけど、そんな冗談初めて聞いた」
僕と話しているのは幼馴染のリーブ。僕とは違って前衛職希望なので講義を受ける教室もカリキュラムも異なる。
「あれ、そういえば講義は!?」
「もう講義は終わってるよ。忘れたの? 寝落ちしたけど、講義の最後は起きて先生の話聞いてたってタンタから聞いてるんだけど」
(えっ、そんな筈は......意識が朦朧としてきて、授業中意識をなくしてからの記憶がない。講義の最後は寝てた筈だ)
「寝ぼけてるのかなぁ。今日あったいざこざの記憶ある?」
「いざこざ......それって僕がサモン君に第一階梯の風魔法撃った事と関係ある?」
「関係あるもなにも、それが原因で腹パンされたんでしょ。しかも簡易物理障壁も張らずに腕力強化したパンチ受けたんだって?ビビリなロオスがサモンに喧嘩売ったってのもびっくりだけど、人一倍傷がつくのを怖がるロオスが障壁一つ張らずにサモンの前に顔出したってのが一番の驚きだよ」
「え! イタタ、僕がサモン君に腹パンされた!?」
「そうよ、だからお腹に青痣出来て痛むんでしょ」
(おかしい、全く覚えてない。記憶喪失か? そもそも授業中寝ることなんて今まで一度もなかった。まあこれは錠剤服用前に魔法を使用したからだよなあ......使ったあとすぐ飲んだけど効果が出るまで少し時間がかかるからな、回復する前に枯渇しちゃったんだろ。記憶がないのはその副作用? なにが理由かは分からないな)
僕は「慢性魔石不全」と言う持病を患っている。この病は魔石に備わっている、魔素を魔力に変換する機能、そして魔素を蓄積する機能のどちらも低下させるため、魔法を行使する時は他者より魔力の消耗が激しく、また、魔力の回復が遅くなる。
どのくらい遅くなるのかと問われると、自然回復は見込めず、魔力が枯渇してから生命を維持させるために体内で行われる、緊急魔力生成によって辛うじて魔力が回復する程度である。
よって僕は一日一回、魔素が込められた錠剤を服用し、体内の魔素量を強制的に増加させないと、魔力が回復しないのである。
「まあいいわ、なにはともあれ無事で良かった。私はもう帰るけど、しばらくしたら親御さん来るはずだから」
そう言い残し、リーブは部屋から立ち去った。
数刻経ち親が迎えに来てくれて、僕は無事帰宅した。
「ロオス! あんた大丈夫だったの?」
「ロオスも男ならな、殴られっぱなしになってないで、拳で抵抗するくらいしてみろ!」
我が家に着くや否や、正反対な言葉を口にしたのはミディアム・ロインとミディアム・ヒイレ、僕の父と母である。
「父さん、無理言うなよ。ロオスは後衛なんだから接近戦は無理だって」
爽やかスマイルを振りまいて僕を擁護するのはミディアム・サロ、僕の兄だ。
「サロ、俺が言ってんのはな、前衛とか後衛とかそう言う話じゃねぇんだよ。心の問題だ。わかるか?」
「はいはいわかったわかった。俺は外でトレーニングしてくるけどロオスはどうする?」
「今日はやめとくよ、体調良くないし」
「そっか、分かった。じゃあ行ってくるね」
僕の兄はとても優秀な前衛だ。敵のヘイト管理がとても上手い。
兄は戦士職の中でも回避盾と言われる役割をしていて、敵の攻撃を受けるのではなく、回避したり、小ぶりの盾でいなしたりする。ただしそれは一般的な回避盾と言われる人にも、前提条件として要求される技能である。
兄はそれに加えて火力が非常に高い。身体強化だけでなく、属性を操ることもできるため、相手によって臨機応変に属性を変化させ常に有利な状況を作り続け、敵からのヘイトを一切切らすことなく戦い続けるのである。
魔法についての勉強をしていない為、剣に属性を付与することしかできないが本気で勉強したらきっと第三階梯くらいまでは余裕で行使できるだろう。
ここまで長々と兄の魅力について語ってきたが、結局何が言いたいのかと言うと、僕の兄は天才だと言うことだ。
「ロオスも今日は身体休めるために早く寝なよー」
「分かってる。ご飯食べて体洗ったらすぐ寝るよ」
そうして雑事を終え、僕は自分の部屋へ向かった。
前話と文字数合わせるのって難しいですね・・・
サロについて少々語りすぎてしまった感が否めない。