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不可侵の領域(笑)

「今なんと......?」


「ですから、万が一倒してしまった場合はどうなるんですか、と聞いているんです」


「ほぉ? あり得ない話ですが、万が一私が戦闘不能になった場合はすでに実力が示された人は合格、示せなかった人は再試験となります。また、私を倒せた者は、ランク4に上げてもらえるよう私がギルド長に直訴しましょう。万が一要求が通らなくとも、ランク3になるための推薦状を書きましょう。勿論私の独断ですが何か問題はありますか?」


「いえ、全くありません。質問に答えていただきありがとうございます」


「とんでも無いです。それにしても掌に触れられたら負けというルールでそんなことを言うという事は、前衛では私に触れることなど不可能でしょうから後衛、それも魔術師辺りでしょうか......この試験では武器の持ち込みが禁止されているので少なくとも弓術師ではないですねぇ。ま、雑談はこの辺でいいでしょう。では私が話し終えてから30秒後に鬼ごっこを開始いたします。せいぜい頑張って逃げてください」


唐突に開始した試験に、動揺を隠す余裕もなく他の生徒が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


先ほど僕らに向けていたのは威圧するための殺気だったんだという事が今、はっきりと分かった。


この人、本気で僕を殺したいのかもしれない。そう錯覚してしまうほどの圧が僕の全身を恐怖で蝕んでいく。いや、錯覚じゃなくて本気なのかもしれない。僕一人なら挫けてしまっていたかもしれない。


(いいねぇこういう熱い展開! 自分のことじゃねぇけどぞくぞくすんなぁ......! いや、ある意味自分のことか。まあなんでもいい! さっさと隠れて攻撃する隙を伺うぞ!)


いつもは鬱陶しい場にそぐわない発言も、不思議と今は心地よくすら感じる。煽れなんて言って熱くなっているかと思いきや、正々堂々やって勝てる力量差じゃ無いってことを判断できる冷静さも兼ね備えてるときたもんだ。はぁ、本当に君には敵わないね。今日ばかりは、君がいてくれたことに感謝するよ。


(煽れって言ったの君だろ? 僕はこんなもんじゃ満足できない)


(ハッハッハ! バトルジャンキーが! 今日は俺度出る幕ねぇな! 好きにしろ!)


「ちょっと! 早く逃げよう! あんなに煽ったんだから最初に狙われるの絶対ロオスだよ!」


「特定の生徒ばかり狙ったりはしませんよ。ただ目の前で突っ立っていられると真っ先に狙わざるを得ないですよねぇ」


「いや、僕は大丈夫。リーブは先に逃げてて」


「でも!」


「早く逃げた方がいい。僕は準備してるから」


「そうですよ、彼は何の術式か見えないように後ろで組んでるみたいですねぇ。開始と同時に攻撃を仕掛けるのが狙いでしょうか。それとも風魔法か水魔法によって体勢を崩してからの追撃が本命か。はたまた風魔法による離脱か、それではメリットがありませんが......うーん才能のある生徒は何をしてくるか分からず怖いですねぇ」


(やっぱり気づかれてたか)


「そういうわけだから逃げて」


「わ、分かった! 身体強化ブースト!」


リーブは森の中へ姿を消した。


「うーん、彼女も非常に優秀ですねぇ。君といい彼女といい、今年は随分と豊作のようだ。後々厄介になりそうだし、先に潰してしまおうかなぁ......」


「いい作戦だと思いますよ。トバリさんがリーブを3分以内に捕まえられるなら、ですけどね」


「うーん辛辣、そこまで舐められちゃあ最初に狙っちゃうのは仕方ないですよねぇ......とそろそろ30秒経ちますが遺言などはありますか?」


「では一言だけ。トバリさんの器が大きいことを祈ります」


言い終えたか否か、そんなタイミングで僕は二つの準備していた魔法を同時に発動した。


隠霧フォーグハイド


辺りが霧に包まれる。


(やりますねぇ)


(まさか母さんに教わった対近接の回避をこんな序盤で使う事になるとはね......ちょっと熱くなりすぎたかな)


〜〜〜〜〜〜〜


このクソガキはどれだけ私をおちょくれば気が済むというのか......!

いやこの家系は、と言ったほうが正しいか......


この因縁の始まりは一昨年の再センス取得試験だった。

ミディアム・サロという名の男が、勝てない敵として配置されていた私に勝負を挑んできた。戦闘中、散々人を品定めするような目で見てきやがって、挙げ句の果てに奴は私にこう言った。


「うーん、ここが一番突破しやすそうだったんだけどなぁ。思ってたより厳しめかな」


奴はそのまま旗の位置だけ確認して去っていった。腸が煮えくり返る思いだったが、持てる力全てを使って戦っても戦いを優位に進めることができなかった。正直あのまま戦い続けたら敗北は避けられなかったでしょう。完敗だった。あの顔と名前が何日経っても忘れられなかった。必ずどこかでリベンジをしようとそう誓いを立てたは良いものの、奴はライセンスを得たにも関わらず門番なんかになりやがった。復讐の機会を得られないまま年月が過ぎ、そしてこのガキと対面した。


一目見たときに何か似たような空気を感じたのは私の気のせいではなかった。この生意気なふてぶてしい態度が奴そっくりだ。


ミディアム・ロオス。対ミディアム・サロの前哨戦の相手に相応しい。そんなことを考えながら試験開始のカウントダウンをしていたのだが、あろうことか奴は逃げも隠れもせず、術式を構築してやがる。


(触れられたら負けという圧倒的に不利な状況下で真っ向から私を倒そうということですか......なめんじゃねぇよ)


しかし奴が開幕撃ってきたのは予想に反して、水魔法と幻覚魔法の複合魔法。


(攻撃ではないのか? 逃亡用? いや、霧に乗じて奇襲を仕掛けてくる気か? 仮に逃げるつもりならば、草をかき分ける音が聞こえた後からでも十分追いつける。それは奴も理解しているはず。やはり奇襲の線が濃厚か。幻惑魔法をかけた程度で、差を埋められると思われているのなら心外だな)


不可侵の領域(パーソナルスペース)


半径5m、この範囲内に限り第六感で動きを感知する、私の唯一の原初魔法(オリジナル)。さあ来い! この範囲内に足を踏み入れた時がお前の最期だ!


......来ない。まさかもうこの場から離脱したのか? 全く音を立てずに? いやそれはない。とすると狙いは他にあるのか? まさか時間稼ぎ!? だとするとこの状況はまずい!


不可侵の領域(パーソナルスペース)解除!)


身体強化ブースト!」


(霧の範囲はそこまで大きくない。半径5mの半球の中に奴がいないとなると霧の端もしくは霧の外だが試験開始地点の範囲内から出ずに森に入っていない状態ということ。それならば一度きりの外に出れば......)


「ズドドォン!!!」


(新手の敵襲か!?)


一足で霧を抜け、辺りを見回すが誰の姿はない。


(一直線に草木が倒されている......何のために? いや、単にこちらに気を引くための罠か?)


すると後ろで地を蹴る音が聞こえた。


(今度こそ奇襲か!?この霧に突っ込むのは分が悪い。一度様子を見るか......って何を恐れているんだ! 相手は格下、それもライセンス未所持のガキだぞ! 攻勢に出る以外に選択肢は無い! 奴はここで必ず仕留める!)


最短ルートでロオスとの距離を詰めるトバリ。


霧を抜け、顔を出したトバリの視界に映ったのは、こちらに右手をかざすロオスの姿であった。


「ダ、ダニィ!?」


凄まじい風が吹き荒れる。吹き飛ばされる直前、転瞬の間、トバリは確かに見た。ロオスが勝ち誇ったように口元に笑みを浮かべたのを。

「隠霧」の読み方は「フォーグハイド」です。決して音読みでは読まないで下さい。

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