煽り人爆誕
(どうせ文字も読めねぇし暇だなぁ)
(そんなこと言われたって僕は何もできないよ)
(1問でいいから問題読んでくれよ)
(えー、問題全部解き終わってからじゃだめ?)
(分かった、じゃあさっさと終わらせてくれ)
(了解ー)
〜〜〜50分後〜〜〜
(終わったよー。ロオス起きて)
(グーグー、フゴッ......んぁ、もう試験終わったのか?)
(さっき終わった。いびきがうるさくて集中できなかったよ全く)
(悪りぃ悪りぃ、暇すぎてちょっとな。で、どんな問題か読んでくれよ)
(分かったよ......問1、『探検家の心得』の第12条における探検家に保障する自由及び権利とはなんのことを指すか述べなさい。問2......)
(あーもういい分かった分かった。これ以上聞きたくない)
(自分が聞きたいって言っておいて随分と身勝手な人だね君も)
(思ってたよりつまんねえ問題だったから聞く気失せた)
(あっそう。じゃあ僕は試験終了まで見直ししてるから終わるまで静かにしてて)
(了解ー)
〜〜〜10分後〜〜〜
「はい、試験終了です。筆記用具を置いて下さい」
試験官が答案用紙を回収していく。
「372、372、372......はい。受験生全員の答案用紙が確認できましたので、今から移動して頂き、続けて実技試験を受けて頂きます。詳しい試験内容に関しては平等を期すため、移動後説明致します。では受験番号1001番から1010番までの受験生の方々は1番ホールへ、1011番から1020番までの方々は2番ホールへ、1021番から1030番までの方々は3番ホールへ移動して下さい。尚注意点が一点あります。実技試験を終えた方はここ中央ホールを経由せず帰宅して下さい。では移動をお願いします」
(あいつちゃんと枚数数えてたのか? 何回も同じ数数えてたけど)
(流石に大丈夫だと思うよ。まあなんか頼りなさそうな人ではあったけど)
(まあいいや。お前何番?)
(僕は1208番だね)
(結構長いな。試験って何すんのか知ってるか?)
(兄さんの代は森みたいな場所で、旗を見つけたらマップに書き込んで、開始場所にいる試験官に渡すって試験だったんだって。旗は5つあるんだけど、森には罠があったり、試験官が敵として配置されているから全部の旗を見つけるのはかなり難しかったらしいよ)
(へー。じゃその年はあんま合格者いなかったのか?)
(いや、別にそういうわけじゃないよ。全部見つけるのが難しいってだけで、何個か見つけて無事に帰れればほとんどの人が合格したらしいし。相手との力量差を見極める力、平常心で罠を回避する冷静さ、攻略難易度を現地で感じ、引き際を見定める力なんかを見る試験なんだとさ)
(へー! なかなか面白そうじゃねぇか! 俺に代わってくれよ!)
(やだよ、それで落ちたらどうすんの。元々は僕の体なんだし、僕がやる)
(ちぇっ、つまんねーの)
「受験番号1031番から1040番までの方々は1番ホールへ、1041番から......」
(おっ! 結構早いな! これならすぐ順番回ってくんじゃねえか?)
(そうだね。まだ最初のグループが入ってから5分くらいしか経ってないから1時間経たずに呼ばれるだろうね)
(だな。暇なら切り替えの練習しようぜ)
(いいよ)
そうこうしているうちに、その時は来た。
「受験番号1181番から1190番までの方々は1番ホールへ、1191番から1200番までの方々は2番ホールへ、1201番から1210番までの方々は3番ホールへ移動して下さい」
(きたきた! 行くぞ!)
(おっけ! 行こう!)
中央ホールを出て長い廊下を歩いていくと、僕らは森に出た。えっ......とこれは......。僕は驚き言葉を失ってしまった。一緒に3番ホールに来た受験生たちも唖然としている。その中にはリーブの姿もあった。
(リーブいたからお前をからかおうと思っていたが......室内に森があるという異常事態に脳の処理が追いつかないな)
(同じく。兄さんが森で試験したって言ってたのって、まさかここの事?)
(かもな。こりゃたまげたな)
「えーみなさん驚かれてる所すみません。まあ僕もここで試験を受けた時は驚いて腰抜かしてしまいましたけどねぇ、ハハハ。......ゴホン! えーここ3番ホールでは、先ほど壇上にて諸々の説明を行いました私トバリが引き続き試験官を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
(この頼りなさそうな奴が試験官か。お前の兄ちゃんの話じゃ実技はその試験官が敵サイドの回るんだろ? 案外楽勝かもな!)
(だといいけどね......)
(おっとここでばっこりと強者フラグが立っていくぅ)
(え、何その言い方)
(元いた世界じゃこういう言い方が流行ってたんだよ。聞き返すなよ恥ずかしい)
(恥ずかしいなら言わなきゃいいのに)
(安心して下さい、言いませんよ!)
(だからそれなんなのって......)
「今からみなさんにやって頂くのは、簡単に言えば鬼ごっこです。私が鬼となって追いかけるので、皆さんはこの森の中で3分間逃げ切って下さい。私の掌が皆さんの体のどこか一部に触れた瞬間、脱落となります。逃げ切った者は無条件で実技試験は合格となります。また、皆さん一人ひとりに監視役をつけており、その方々が皆さんが逃げるために行った策も、全てチェックしておりますので審査についてはご安心ください。説明は以上です。何か質問等ありますか?」
ここでリーブが手を挙げる。
「あの、鬼ってトバリさんだけなんですか?」
「えぇそうですよ。何かご不満でも?」
「い、いえ! そんな事ないです!」
「はぁ、まあ仕方ないですよねぇ僕って弱そうですもんね。しかしその点はご心配なく。私はこう見えてもランク4はありますので」
「おい聞いたかランク4だってよ」
「去年も一昨年も俺が聞いた話じゃランク3の人が試験官だったらしいよ」
「マジかよ。なんでシルバーの人が試験官やってんだよ」
よほど衝撃的だったのか受験生同士でコソコソと話し合っている。
(シルバーってなんだ?)
(探検家ギルドで貢献度とか戦闘力によって10段階のランク付けをしてるんだけど、ランク1から3はブロンズ、4から6はシルバー、7から9はゴールドって呼ばれてるんだ)
(ランク10はなんもないのか?)
(未だに10まで行った人は誰一人いないからね。かの有名な探検家プロアも最後に更新した時のランクは7。突然失踪してそれ以降誰も姿を見てないって話だよ)
(いや、前も言ってたけどそのプロアって誰なんだよ!)
(探検家が冒険家と比較されて揄され続けた歴史の中で唯一世間に認められた探検家。もちろん他の探検家の人が弱いってわけじゃないし認められてる人もいるけど、全国民が認めた探検家は多分プロアだけだよ。偉業の数々に加えて、戦闘力の高さも本物だった。武闘大会も一度だけ出たことあったんだけど、冒険者だらけの決勝リーグを勝ち残って初出場にして初優勝を飾ったっていう華々しい経歴も持ってるし)
(おー......いいねぇ。そいつを超えて自分が最強の探検家になるってか?)
(そこまでは目指してないけど......まあ父さんがランク5までいったんだから、そこまではいきたいよね)
(なんだよ随分ちっせえ夢だな)
「はい皆さん静粛に。僕は手加減しますのでご安心下さい。あくまでランク1の探検家に見合った実力を持っているか審査するだけですので。そういう意味では、僕に捕まったとしてもそれまでに監視役にランク1相当の実力を示せれば合格することだって十分あり得ます」
(なかなか変わった試験だな)
(だね)
「ではそろそろ始めたいのですが......皆さんどうでしょう」
直後、トバリの全身から殺気が迸る。
「「「「「「「「ひっ!」」」」」」」
他の生徒はあまりの恐怖ですくみ上がってしまった。リーブも先ほどより顔がこわばっており、肩に力が入ってしまっている。
(おい)
(何?)
(あいつ煽れ)
(なんでよ!)
(なんか挑発的な態度がイラっときた。言わないなら試験中俺に代われ)
(なんでよ!?ほんと無茶苦茶な人だよね君は......まあいいよ、僕もちょっと思うところあったし)
僕はといえばここ1ヶ月の出来事がなければリーブと同様、緊張してしまっていただろう。しかし今はそれほどの恐怖は感じない。ランク4の試験官の態度が急変すること以上にイレギュラーな状況の連続だったからだろうか。え? 体が震えてる? 強がんな? バカ言え、これはただの武者震い、いや、全身の細胞が戦いたくてウズウズしてるんだよ! プルプル。
「トバリさん、一つ疑問があるんですがいいですか?」
「なんでしょう」
「トバリさんに触られそうになった時にうっかり反撃して、気絶させてしまった場合は試験はどうなりますか?やはり中止でしょうか」
1番ホールは草原ステージ、2番ホールは荒野ステージ、そして3番ホールが森林ステージとなっています。
一見遮蔽物の多い森林が最も難易度が低く見えますが、草を掻き分ける音が逃走の際の足かせとなるので、よほど慣れた者でないと撒くことは困難になります。




