いざ、筆記試験
「それじゃあ父さん、母さん。僕は今日一人前になってくるよ」
「馬鹿野郎! ライセンス取ったくらいで一人前だ? 舐めたこと言ってんじゃねぇ! さっさと行って合格してこい! 帰ったら修行だぞ!」
「ほら早く行かないと遅刻するよ! とっとと行きな!」
僕の両親はどうやらノリが悪いらしい......
そんなことがありつつ、ロオスは無事試験会場に到着した。まず受付で手荷物検査を受けた後、大きなホールに連れて行かれる。そこにはすでに大勢の人が集まっていた。
話は変わるが、冒険家ギルドと探検家ギルドが発足してから今に至るまで、お互いの試験会場及び試験内容が同一のものになったことはない。これは偏に活動内容が異なるからである。
探検家は未開の地の調査が活動の主となる。そのほかにもダンジョン等価値のあるものをを発見した場合は、報告することで別途報酬が支払われる。また、ダンジョン発見から1週間は探検家のみが探索を許可されており、その間にマッピングをして冒険家に売る者や、探索中手に入れた宝などを売る者もいる。ただし探検家にはダンジョンを踏破してはいけないという制約がある。
それに対し冒険家には唯一、ダンジョンを踏破する権利が与えられている。ダンジョンを踏破するにはダンジョン毎に存在する守護者を倒さなければいけないため高い実力が要されるが、ダンジョンの最奥には道中の宝とは比べ物にならないほどの価値の財宝が眠っている。踏破者は金銀財宝の7割、魔導書や武器など稼業に必要なものに関しては10割受け取ることができ、国からは勲章を授与される。
とはいえダンジョンは容易に見つけられるものではない。そのため彼らは普段は野生の魔物や動物を狩って、生計を立てているのである。
そもそもダンジョンとは、世界に点在する魔素溜まりと呼ばれるスポットの付近に形成される。魔素溜まりをなくすことは現状不可能であり、発生を防ぐ術はない。ダンジョン内の魔物は半実体であるため、倒しても死体がその場に残らない。よって肉や毛皮を剥ぎ取ることも不可能である。
ダンジョンにはルールがいくつかある。
一つは、ダンジョン産の魔物はダンジョン外へ出られないということ。
二つ目はダンジョンが踏破される、即ち守護者が倒されると、ダンジョン産の魔物の生成が停止するということ。
そして3つ目、互いのギルドでダンジョン踏破後人を派遣し、内部の魔物を全て倒す決まりがある。しかし全滅させていたはずの、数年前に踏破されたダンジョン内に魔物が生息していたため、ダンジョンは数年周期で復活するということが分かった。
以上3点が現段階で判明しているルールであるが、ダンジョンは謎多く、未だに全てが解明された訳ではない。
この話が物語に関わるための終着点としては、サモンは冒険家志望であるためロオスとは別会場である、といったところであろうか。
(うーわ、人がうじゃうじゃいるけどこれ全員探検家志望なのか?)
(そうだよ。冒険家志望者より探検家志望者の方が毎年多いんだよね。冒険家はダンジョンを踏破するための競争倍率が高いから、それよりは開拓の方が夢があると思ってみんなこっちに来るんだよ。探検家だって開拓すればするほど難易度も上がっていく厳しい職業なんだけど。それに冒険家はダンジョン踏破数がステータスみたいな風潮あるからね......長いこと冒険者やってて踏破数0だと肩身狭い思いするらしいし。それに比べてダンジョン見つける倍率はかえって高すぎて数えるくらいしかいないから、そんなに肩身狭い思いはしない。探検家が安牌のつもりなんだろうね)
(お、おう。さりげなくディスってないか?)
(ん? 気のせいだよ気のせい)
「あ! いたいた! ロオスー!」
(お!この声は愛しのハニーちゃんじゃないか?)
(はぁ、もういいよ好きに言ってな)
「おはようリーブ。リーブも探検家志望なんだね」
「えー前も言ったじゃん忘れたの?」
(これは所謂『私の誕生日忘れてたの?』的なイベントですか! 答え方次第では修羅場になるぞ......)
「あぁごめんごめん、すっかり忘れてた」
(おぉっとぉ! ここは正直に打ち明けるパターン、正攻法で攻略しようとするロオス選手! しかしこれは恋愛趣味レーションゲームだったら0点の回答!)
(うるさい!静かにしてて!)
「まあいいけどさ、私も言ったの一回だけだったし」
「ほんとごめん。なんか今度埋め合わせするからそれで許して」
「え! それならいいよ!」
(おぉー!!! ここで上級テクニック『埋め合わせ』戦術でバットエンドを回避したぁぁぁあああ!!!)
(......おい、黙ってろって言ったよな)
(......すまんもうやめる(こえぇぇえー!! 煽りすぎ注意だな......))
ここで壇上に試験監督者と思われる人物が姿を現した。
「えー、ここに集まっている方全員が探検家希望ということで......いやはや多いですねぇ。僕の時はこんなにいなかったのに。まあ無駄話はこの辺にいたしまして、さっそく本題に移りたいと思います」
ここまで緩やかな口調で話していた監督者の空気が変わった。
「まずみなさんに心得ていて欲しいのは、探検家は冒険家以上に過酷な職業であるということです。探検家は冒険家と違って未知との遭遇が非常に多い。よって探検家にはどんなにイレギュラーな環境になっても生き残るだけの実力、判断力、さらにはそのような危機に陥らないための諜報力が必要とされます。確かに世間での印象通り単純な腕っ節では冒険家に劣るかもしれません。かの有名な探検家プロアによって多少のイメージアップはありましたが、それでも探検家が冒険家よりも劣っているとみられがちなのは事実です。しかしながら探検家が冒険家の劣化職かと言われれば、決してそうではないということを忘れないで頂きたい」
会場が静寂に包まれる中、男は話を続ける。
「それではみなさんにはこれから筆記試験を受けていただいた後、会場を移動して実技試験を受けてもらいます。では今から問題用紙を配りますのでそのまま静かにお待ちください」
(お前筆記試験の勉強なんてしてたか?)
(してないけど、兄さんの年も簡単だって言ってたから大丈夫かなぁって思って)
(いやその年だけ簡単だったかもしれねぇだろ)
(仮に難しくても大丈夫だと思うよ。所詮は最低限の篩にかける程度のものだろうし)
(その根拠のない自信はどこから......)
そして全ての受験生に用紙が配られて数分後。
「はい、それでは試験開始!」
きついなぁ




