師弟関係
実技訓練が終了して早2週間が経過した。
ベッドの上での寝たきり生活を強いられていた僕たちは、当然最後の講義も受けられなかったし、体を動かす修行も全くできなかった。
仕方がないのでその期間は、身体強化の練度を上げたり術式を組むスピードを速めたりするような動かずにできる鍛錬を着々とこなしていた。また、制御権の交代を速めたりする特訓なども行い、それなりに充実した時間を過ごせた。
そんなこんなであっという間に2週間が過ぎ退院の日を迎えた。
「先生2週間きっちりで息子を治していただきありがとうございました〜。1秒でも遅れればクレーム言って無料にしていただこうと思っていたのに......ニコッ」
「えぇえぇ、医者ですから。しっかり治しますよ。おかげでこちらも稼がせて頂きました、ありがとうございます。また治療に急を要する場合は是非ここ、中央病院をご利用ください。ニコッ」
「ええ......! 是非ともお願いいたします。では失礼します」
そういって母さんは僕の腕を無理やり引っ張って病院を後にした。
「ち、ちょっと! 母さん痛いって!」
「元はと言えばあんたがあんなバカみたいなことしなければ、あんな大金出さずに済んだんだからもっと反省しなさい! 全く......もうこの話は終わりにするけど、もう今後あんな無茶はしないように。いいわね?」
「はい......ごめんなさい」
(やったの僕じゃないんだけどなぁ)
「よし! じゃあ退院祝いに好きなもの食べさせてあげるから! 何食べたい?」
「そうだなぁ......じゃあ野良のボア肉じゃなくて、畜産のボア肉食べたいなぁ。チラッ」
「あんた遠慮ないねえ......わかった! じゃあ今夜は焼肉にしよう!
「ごめんごめんうそうそ! おふくろの味が一番に決まってるじゃん!その代わりさ、頼みがあるんだけど」
「そんなおだてたって何もでやしないよ。一応聞くだけ聞いてあげるから言ってみなさい」
「母さんが現役で使ってた、前衛に近づかれた時の対処法を教えてほしいんだ」
「別にいいけど......なんでこのタイミングで?」
「後衛は前衛ありきっていう定説を覆したいって思ったんだ。だから接近戦の練習も今後はしていこうと思ってる。けど明日のライセンス取得試験までに絶対間に合わない。だから試験内容に1対1の試合とかあった時に備えて少しでも勝率を上げる努力をしたいんだ」
「言い分は分かった。けどね、お母さんの技術だってそう簡単にできるものじゃないよ?」
「大丈夫。僕後衛の魔法に関しては才能あるから」
「あんたも言うようになったね! いいよ! 帰ったらみっちりしごいてあげるから覚悟しときなよ!」
「お手柔らかにお願いします......」
こうして帰宅後、僕はばっこりとしごかれた。
夕方、ある程度母直伝の魔法が完成した頃、父が帰ってきた。
「ただいまー。何やってんだ?」
「おかえりお父さん。ロオスが前衛に近づかれた時の対処法教えて欲しいって言ったから教えてあげてたの」
「なんだお前まだそんなこと言ってんのか! 男なら拳で語れって何度言えばわかるんだ! 大体なサロもそうだが......」
(おい! 代わってくれ!)
(え?! 今父さん喋ってるじゃん! まあ、いいけどなんで?)
(お前の親父に話がある!)
(わ、分かった)
(......よし、代わったな)
「......父さんが子供の時なんかはな、皆が......」
「父さん」
「なんだ、父さんの話の腰を折るんじゃない。男とはどうあるべきか、折角語ってやっていたのに」
「分かってるって父さんの理論は。僕も最近やっと父さんが正しいって分かったんだ、男たるもの拳で語るべきだって。だから明日のライセンス取得試験が終わったら、前衛の立ち回りとか諸々教えて欲しいんだ」
(ふぁ!? 何言ってんの! 君が前衛担当するのは許可したけど父さんみたいな戦い方するのは許可してないよ!)
(いいだろ別に。それにお前の父ちゃんみたいに全部馬鹿正直に攻撃受けようなんて思ってねぇから安心しろ。そもそもお前の兄ちゃんといいリーブといい、柔の技使う奴が多すぎんだよ! それじゃ俺が目立たねぇだろ)
(目立つ目立たないなんてどうだっていいでしょ! 今すぐ言ったこと取り下げ......)
「おお! そうだったのか! わかった、明後日から父さんがみっちりしごいてやるからな!」
「うん、ありがとう!」
(もう諦めろ)
(分かったよ......ただ無茶だけはしないでよ。この体は君一人のものじゃないんだから)
(いいねその台詞! 男同士ってのはあんまりシチュエーションとしては良くないけどな)
(茶化さないで。ほんとそこんとこだけは頼むよ)
(分かってるって)
(あと父さんが兄さんにこのこと言わないように言っといて)
(分かった、家族間の仲を悪くしない為だな?)
(そうそう)
「父さんに教えてもらうってこと、兄さんには言わないでね。家族内の仲悪くなったら困るし」
「分かったよ。あいつ自分が教えるとか言っちゃってたもんなぁ、ハッハッハ! よしロオス! お前がサロを超えて、俺の考えが正しかったってことを証明するんだ! そのためには俺も協力は惜しまないぞ」
「分かった! 俺頑張るよ!」
「よし! そのいきだ! ハッハッハ!」
「ロオスもお父さんもバカなこと言ってないで、ほら晩御飯食べるから一回家入んなさい」
こうしてロオス(俺)とロインの師弟関係が決まり、食後もヒイレからの指導を受け万全の状態で、ロオスは翌日の取得試験を迎えた。




