俺様の独裁政権
対戦の翌日、僕は痛みに顔を引きつらせながらも、訓練場に朝早く来て遠距離魔法の特訓を始めた。
(まだロオス寝てるみたいだし今日は遠距離魔法の練習してもいいよね。にしてももう半日以上経ってるのに起きないって......これ精神が僕だけだったら普通に裁判沙汰じゃないかこれ。まあロオスがいなかったら接近戦仕掛けることもなかったし、こんなダメージ受けることもなかったと思けどね)
接近された時に備え、魔法の連射速度を上げようと試みていた最中、再び、あの嫌な気配を感じ取った。
「誰だっ!」
片手に魔力を集めいつでも魔法を行使できる状態にして、訓練場の入り口に構えた。
「昨日あれだけの傷を負ったのに随分と元気がいいな。意外と好戦的なのか?」
姿を現したのはサモン君だった。
「何しに来たの」
「朝の日課の訓練だが、何か文句あるのか」
「あの時と同じ、嫌な気配を感じる」
「何だと?」
「昨日、いつもと違うことしてないか思い出してみて」
「昨日は......特に何も。いつも通りだ」
「そっか......僕は居心地が悪いから教室へ戻るよ」
「そうか......分かった」
まだ授業が始まるまでかなり時間はあったが、あまりに気分が優れないため訓練場を後にした。
(絶対おかしい。昨日は何ともなかったのに今日になったら急に嫌な感じがした。サモン君が何か隠してるのかもしれない)
(いててて......今何時だ?)
(あ、ロオス目覚ましたんだね。君が気絶してから半日以上は経ってるよ)
(まじかよ!?)
(まあ結構ダメージも大きかったししょうがないよ。それよりさ今サモン君に会って、すごく嫌な感じがしたんだけどちょっと君も確認してみてくれない?)
(分かった。じゃあその嫌な感じがしたタイミングで変わってくれ)
(了解)
来た道を引き返し、訓練場近くまで戻ってきたロオス。
(うっ!もうこの辺で嫌な感じがする)
(よし、変われ)
1分が経とうとした時、入れ替わりが完了した。
(ん? なんか今いつもよりちょっと早くなかったか?)
(確かに......もしかして結構回数こなしてるから体が慣れてきたのかな)
(その説はあるな......まあ今はいい。その嫌な感じについてだが、全く感じないな)
(えっ! じゃあもう少し近ずいてみてよ。うわー入れ替わって身体動かしてないのに嫌な感じがまだ続いてるよ)
訓練場の入り口から覗き込みサモンの姿を視界に捉える。
(いや、昨日の一件でイライラは増したが嫌な感じはしないな)
(ごめん早く離れて......)
(でないとわしはあいつを殺してしまうってか? 分かったよ)
急いでその場を離れるロオス。
(はぁはぁ、今日は君に任せるよ。僕が下手に動かしたら攻撃しかねないからね。頼んだよ)
(了解ー。あ、教室わかんねぇから案内頼む)
のんびりと教室へ向かって歩いていたら、よく見ると廊下で雑談していたはずの人や、違うクラスの人が皆こちらをみてヒソヒソと話している。
(何だ? どいつもこいつもひそひそ話か? どれ、一つ聞いてみるか。「聴力強化」)
すると僅かではあるが、話している内容が聞き取れるようになった。
(い、いつの間に派生魔法なんて使えるようになったの!?)
(今即席でやってみただけだ。まあ初めて使うし効果はこんなもんか)
(Wow......すごい才能)
(昨日まで練習してきた魔法の中で、一番長く身体強化使ってたからコツ掴んだ。どれどれ、何を話してるのかおじさんに聞かせてみなさい)
「もしかしてあれミディアム君じゃない!」
(おっ! もしかしてお前モテモテか?)
(多分違うと思うけどね)
「昨日中二病宣言したって話でしょ知ってる! ちょっと痛いよねー......」
「せっかく成績もいいし顔も悪くないのに中二病はちょっとね・・・」
一番近くにいた女子二人の口から出たのは、決して褒め言葉ではなかった。
(もしかしてお前、昨日あれ言ったのか! はっはっは! 学校中の注目の的じゃねぇか!)
(やっぱり言い訳間違えたよなぁこれ......)
他のクラス内の男子同士の会話が聞こえてくる。
「あいつ中二病宣言したらしいぜ!」
「もしかしてやるかもしれねぇぞ! くっ、俺様の封印されし左腕が疼くってさ! ギャハハ!」
(んじゃ希望どうり......)
(ちょ、ちょっと!)
「あぁ、俺の封印されし左手が疼くなぁ! おい!」
先ほど会話していた男子連中にガンを飛ばしながら俺は叫んだ。
あたりのざわめきがより大きなものに変わっていく。
(バカ! 勝手に何やってんだよ!)
(いいんだよ。ああいう調子乗った馬鹿やつらにはお灸を据えてやらねぇと分からねぇんだよ、喧嘩売る相手を間違えたってな)
「ぜ、絶対俺らに言ってるってあれ!」
「......あいつ結構おっかねぇな」
「亀とか言われてた時とは大違いだ。あの時は聞こえる距離で何言ったって一つも反応しなかったのにな」
「もうそういうこと言うのやめようぜ。昨日の戦い見ただろ、俺はまだ死にたくねぇ」
「流石に殺されはしないと思うけどな......そうだな、やめよう」
似たような空気があたりを包み込んだ。
(まさか僕のために......)
(馬鹿かお前は、おもしれぇからやっただけだ)
そんなこんなで教室へたどり着いたロオスは堂々とした態度で入室した。
「おい来たぜ、亀だ」
「亀とか言うなって! しばかれるぞ!」
教室内に囁き声が飛び交う中、真っ先に声をかけてきたのはタンタだった。
(あいつ変なとこで度胸あるよな......)
(そうかも......)
「おはよー! 怪我大丈夫か?」
「大丈夫なわけねぇ......うーんまあ痛いけどなんとか」
「そりゃそうだよな......まあしばらくきついと思うけど頑張れよ」
「う、うん。あ、ありがとう」
(そんな隠キャ隠キャしてないって!)
(いや、お前いつもこんな感じだろ)
「い、いやー昨日はタンタ氏に助けてもらわなかったら、せ、拙者どうなっていたことかわからなかっただござる、ブヒヒッ!」
「え?ロオスどうした?」
「あ、いや、なんでもないよ」
(今のはっきり突っ込んでこないとかこいつ結構アホだな......)
(そうかも......っていうか勝手に変なこと言わないで!?)
「そういえば、今日はライセンス取得試験前最後の実技だけど大丈夫なの?」
「(えっ)」
次話から本格的にライセンス取得編に移っていきます