持病と異常
一週間前と同じく親に迎えにきてもらい帰宅した僕は一週間前と同じように、家に着くや否や両親は僕に声をかけた。
「また喧嘩? いじめでも受けてるの? 大丈夫?」
「何だまた負けたのかロオス! 拳で戦わないから負けるんだ」
不安そうな表情でこちらを見つめる母、ヒイレ。そして案の定僕を心配するそぶりも見せない父、ロイン。
「今日は拳で戦ったよ。それでこんな状態になったんだよ」
「おーそうなのか! ようやくお前も男らしくなったな! 負けたのは鍛え方が足りないからだ! もっと鍛えて、飯を食え! そしてリベンジすりゃあいい! なーに、お前はサロと同じように才能がある。きっとすぐ強くなるさ」
「お父さん! また勝手なことばっかり言って! ロオスは後衛なのよ!」
「いや、父さんの言う通りだよ。才能があるかはわかんないけど、遠距離魔法だけ鍛えても、一流の前衛の人ならきっと魔法を掻い潜ってくることもある。そう言う時に少しでも接近戦に慣れておけばかなり有利に戦えるってことが今日痛いほど分かったよ」
「そうかそうか! なら明日から父さんが鍛えてやろう!」
「いや、僕が教えた方がきっとロオスのためになると思うよ。あ、ただいまー」
そう言って玄関から家に入ってきたのは兄のサロである。
「父さんは前衛の中でも攻撃を受け切って戦うタンク系でしょ? 多分ロオスは回避とか受け流しとかそっちの方が向いてると思うんだけどなぁ」
「何を! 昔から思っていたが、お前のそういう軟弱な考えは好かん! 男なら相手の攻撃を全て受け切ってナンボだろう!」
「要所要所で受けたりするのが主流ではあるけど、父さんみたいに全ての攻撃を受けるなんて人誰もいないよ。その考え方が無茶だってことは自分がよく分かってるでしょ。せっかくレベル5までいったのに冒険家稼業を断念することになったのだって、全身ボロボロでこれ以上の戦闘は不可能だって医師に診断されたからなんでしょ? そんな考え方してなけりゃ父さんも黄金世代のトップランカーの一人になってたかもしれないのに」
「何だと! よし表に出ろサロ! お前の考えが間違っていると言うことを教えてやる!」
「僕は別にいいけど? 全盛期の父さんなら無理だろうけど、老いた今なら負ける気がしないね」
「二人ともやめなさいっ!」
母の愛の鉄拳が二人の頭にたんこぶを作った。
「痛いよぉー! えーんえーん」
「痛っ! くそー、いつも受け流そうとしてるんだけどなぁ......この前一回だけ躱せたんだけどそれ以降全くできなくなったんだよなぁ」
我が家は最近いつもこうだ。父と兄が冗談半分で口喧嘩をして、それを母が鉄拳一発で黙らせるいつものパターン。
父は元タンクで頑丈だがこの時だけは立場が普段と逆転し、毎回泣かされている。以前語ったと思うが、兄も受け流すことが得意なはずだがここ最近は全く受けながせず直撃している。
これらの原因は全て我が母、ミディアム・ヒイレにある。頑丈な父には幻覚魔法で痛みを感じさせ、回避盾の兄には幻惑魔法で攻撃のタイミングをずらしているのだ。もともと兄には身体強化でただ殴りつけていたのだが、最近兄がそれに対応し始めたので母が本気を出したのである。おっかない母ちゃんだ。離れて見ているからどちらもわかるが、殴られる距離にいたら気付かないであろう巧妙な手口。さすがである。
「とっとと飯食って寝な!」
はーおっかね。
僕は自室へ逃げ込んだ。
(ふーっ、今日も濃い一日だった......なんかロオス(俺)が来てからというものトラブルに巻き込まれてばっかりだよ。それにしてもお腹痛いなぁ。ここ一週間ずっと痛いよ泣)
まだロオス(俺)が起きる気配はない。
(一回おかしいと感じたことを整理してみるか。まず、なぜ僕がサモン君に対して嫌な感情を覚えたのか。次に......ってあっ!!! そういえばサモン君のことばっかり気にしてたけど何であの時魔力切れなんて起こしたんだろう! いくら第二階梯の風魔法とはいえ、一発撃っただけで枯渇するほど僕の魔力は少なく無い。これもどう考えても異常だ。魔力の消耗の変化とサモン君に対する感情の変化に何か関係が......? うーん、心当たりもないしなぁ。サモン君にも身に覚えがないか聞いてみようかな)
次々と浮かび上がる不自然に頭を抱えて布団に蹲るロオスであった。
〜〜〜〜〜〜〜
後日、シャーリーさんから屋敷に呼び出され......招待された俺は再び屋敷を訪れた。
「一体何のご用件で......」
「分かっとるだろ、約束の件だよ」
「先日の件でしたらすでに済ませて......」
「済ませた? あの醜態を晒してか? ......ごほん。他家の子に対しての発言ではなかったな、すまない非礼を詫びよう」
「とんでもないです! こちらこそ後衛相手に接近戦で遅れを取ってしまう、まさに醜態を晒してしまい大変申し訳ないです」
「いや、いいんだ。ただあれでは納得できないという貴族がうるさくてな。私のような辺境伯ではとても言い返せなくてね」
「中央区の貴族が郊外の、それも未だライセンスも取得していない養成所の生徒なんて気にしているんですか?」
「君が私を疑うのも無理はない。しかしこれには訳があってだな。君にあの一件をお願いした日、君は私に『一昨年の前衛組の主席は貴族ではなかった』と言ったんだが、まさにそれが理由なんだよ。その生徒が大層優秀な成績で探検家のライセンスを取得したと検定協会から国に連絡が行ってね、それを受けて騎士団が入隊を促したという珍事があったんだよ。まあその生徒は断ったらしいんだが。とにかくそれからこんな辺鄙な養成所でも気にかけている、という訳なんだ。貴族は例え自分に関係ない場所で起こった下克上だったとしても一度でも耳に挟むと気にしてしまうものなのさ。下克上は貴族が最も恐れることだからね」
「そういう......ものなのですね」
「うむ、分かってくれたようで何より。本音を言えばもう一度戦って欲しいところだが何のきっかけもなしにもう一度というのは無理があるだろう。しばらくはこのことに関して君は関与する必要はない。何か今回の報酬として望むものはあるか?」
「そうですね......本来何も望まないのが正解だとは思っているのですが......一つだけ」
「おお、何だね言ってみなさい」
「ここ最近不審な人物を見かけたりはしませんでしたか?例えば、見ただけで嫌悪感や忌避感などを感じるようなそんな人物なんですが」
「......いや、そんな人物は知らないな」
「そうですか......」
「見つけたらログマ家に一報を入れておくことを約束しよう」
「本当ですか!? 助かります!」
(シャーリー家の諜報力なら思いの外早く見つかるやもしれんな)
「では失礼しました。連絡お待ちしております」
「うむ......あ、一つだけ言い忘れていたよ」
「何ですか?」
「ロオス君にはここでの会話はもちろんのこと、私に会ったことも、この屋敷に来たことも言ってはいけないよ」
「? わかりました」
どうやったら多くの人に見ていただけるんですかね・・・