決戦当日
約束の一週間が経ち、ついに決戦当日を迎えた。
訓練場には野次馬が数え切れない程集まっていた。
そして隣には口煩い女が一人。
「ちょっとロオス! サモンと戦うなんて正気!? あんたが強いのは知ってるけど......」
そして俺の体内(?)にはもっと口煩い男が一人。
(誰だよこの女! もしかして彼女とか!? ヒューヒュー! 彼氏のこと心配で、見に来ちゃいましたってか? お熱いようでいいですねえ!)
(煩い。静かにしてろ)
(分かった分かった。そんなにキレんなって、なっ)
「大丈夫。これだけ人がいるんだから向こうも殺すような真似はしないさ。それよりリーブは授業中サモン君と組手したことない? 癖とかあれば教えて欲しいんだけど」
「はぁーほんと昔っからマイペースだよねロオスって。まあ良いけどさ、教えてもロオスは後衛なんだから意味ないでしょ?」
「分かってるけど、もし懐に入られた時とか相手の行動パターンが絞れてるとこっちもやりやすいし」
「そういうことね。いいよ、私これでも前衛組の中では成績いい方だから、サモンともよく組むし」
(おい! サモンって呼び捨てで呼び合う仲で、組手もやってるんだってよ! おっ! もしかして嫉妬しちゃうか? はっはっは!)
今日ほど、こいつの存在が今日ほどストレスに感じたのは初めてのことだろうなと感じた。
「それは良かった。ぜひ教えて欲しい」
「まず基本的には自分からは攻めないね。初見の相手と戦うときは、必ず先に相手に攻撃させて、攻撃の癖とかを見てから一気に攻撃に移るって感じかな。後衛相手にどう立ち回るかは分かんないけど、学校では基本的に速攻を仕掛けて、魔法を撃たせないように立ち回れって教えられてるけど、サモン、慎重な奴だからもしかしたら攻めてこないかもしれないね」
「なるほどね......こっちとしては距離をとって戦ってくれる方が好都合なんだけど」
(ま。今日は戦うの僕じゃないけど)
「あ! そういえばこの戦いって貴族が一番優秀だってことを証明するために仕組まれたものなんじゃないかって憶測が飛び交ってるけどどう思う? ほら貴族って面子すごい大事にするじゃん」
「面子かー、まあなくはないかもね。けど理由が何にせよ今から戦わないといけないのは変わらない訳だし、そういうこと考えるのは勝負が終わってからにするよ」
「分かった。じゃあ頑張ってね!」
「ありがと」
(この流れキスできんじゃねぇのか? しちまえって! な!)
(君さぁ、からかうのは勝手だけど、今から戦うの君なんだからもっと集中したらどうなの? 全く......じゃあそろそろ時間だから君に制御権渡すよ)
(おお! 任せろ!)
とそこに、渦中の人物が姿を現した。
「待たせてしまったようだな、すまない」
しかしこちらは譲渡に全神経を注がねばならないため返答できない。
「むっ、精神統一か? まあいい、開始は今からちょうど1分後。1分経ったら遠慮なく攻めさせてもらう」
精神統一か、ちょっと違うね。僕たちがやってるのは精神交換ってとこかな?
......そろそろ交換が終わる頃か?訓練中はずっと俺が動かしてたが、ついさっきまであいつが動かしてたからな、体が鈍ってないか心配だぜ。
「......時間だ。目を開けろ」
(昨日言った作戦通りにやるんだぞ!)
「分かってるよ。だが始める前に一つ聞いてもいいか」
「なんだ」
「二日前、俺に腹パン入れに来た時とは随分喋り方が違うがなんか理由でもあんのか?」
「前衛組は喧嘩っ早い輩が多い。それを俺がまとめることで抑制している。別に好きであの話し方をしているわけじゃない。話し方を奴らに似せた方が抑えやすい、それだけの理由だ」
「なぁるほどな、根は育ちのいいお坊ちゃんってことか。ま、それ聞いたところで殴られた分はきっちり返させてもらうがな。さ、おしゃべりはこの辺にしてさっさとやろうぜ」
そう言って俺は左手を前に構えた。
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奴の話が終わったと同時に開かれた瞳にも違和感を感じざるを得なかった。明らかに昨日とは雰囲気が違う。話し方も昨日は言葉の端々に知性を感じたが、今はそのようなものは全く感じない。そう、全くだ。
とはいえ奴の姿に何も変化はない。
(今はそのことを気にしてもしょうがないか、今はそれより目の前の試合だ。定石通り先手必勝で行きたいところだがな......実力差を示すためにも何度か奴の魔法を弾くなり躱すなりした方が良いかもしれんな。理想は奴に障壁を貼らせた後、障壁ごと殴り飛ばすことだが......まあそこまでの余裕があれば、だがな。今日は杖も持ち込んでいるようだし、一筋縄ではいかないだろうな)
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(やっぱり警戒して来ねぇな。来てくれた方が早く終わって楽なのによ)
(話聞いた限り来ない確率の方が高そうだったし、昨日考えてた作戦も使えるし良かったんじゃない。さ! 今日は薬も飲んでるし派手に暴れていいよ!)
(作戦と呼べるか怪しい稚拙なもんだけどな。じゃ、いっちょやってみっか!)
次回ようやく戦闘シーンです。これが書きたくて投稿始めたのにかなり時間がかかってしまいました汗