第3話
何なんだこの人の余裕は。
笑う度に揺れる鎖。
チャリチャリという音に何かいけないことをしている気がする。
厳密にはこの人のいうことを信じるともうすでにいけないことをしているのだが。
とりあえず、大学のことや名前を知られていることに少しでも対抗したくて半ば意地のように名前を聞いた。
「っていうか、あなたの名前を教えてくださいよ。なんて呼べば良いか分かりません。」
「あぁ、そうですね。私は黒木 八雲と申します。職業はサラリーマンです。年は20代後半になりますね。お好きな様にお呼びください。」
年は外したか。
心の中で断言しちゃったなぁ。
じゃあ年上?
この人が?
えぇー…
なんて1人で心の中で話していると男性__黒木八雲さんは若々しいその顔で話を続けた。
「これで良かったですか?」
「えっと…じゃあ、この状況の説明をお願いします。」
「説明と言われても」
「いや、説明すること沢山あるでしょ」
部屋を指差しながら早口につっこむ。
逆にこの状況を把握できる人はなかなかいない…いや、絶対にいないと思う。
「ふむ…では分かりやすく説明しますね。」
「勿論です。」
「ここは私の自宅の地下室です。」
「ほぉ、いきなりぶっこんできますね。」
「それで、私は今身体的にあなたに監禁され、精神的にあなたを監禁しています。」
「もう分かんないですね。」
「あなたはその逆で、精神的に私に監禁され、身体的に私を監禁しています。」
「もうちょっと詳しく教えてくださいよ。」
「はぁ、何でそんなに頭が固いんですか?」
「いや、何だよお前。年上だけど何だよお前。」
「口悪いなぁ。」
「どっちがだよ。」
このやろう!
殴ってやろうか!?
手錠つけたまま溜め息つくなよ!
余裕か!?
「もういいです!出ていきますから!もうここには二度と来ません!」
「おや、良いんですか?」
「何がです!?」
黒木さんの冷静さにイライラしながら叫ぶようにドアノブに手をかけたまま聞く。
しかし本人は何でもないようにまたまた衝撃的な発言をした。
「あなたは人殺しになるんですよ?」
「は…?」
黒木さんはニコニコしながら続けた。
その笑顔に嫌な予感がする。
「私はあなたのポケットに入っている鍵がなければ私はこの手錠を外すことが出来ません。つまり、あなたに見捨てられれば私はこのまま餓死します。」
「鍵なんて…」
反射的にポケットを探ると本当に鍵が出てきた。
冷たい感触が鍵の存在、それとこの状況を現実と物語っていた。