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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「傀儡」  作者: 藤乃宮 雅之
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~友達~


 今日の格技場のガラス壁の前にはギャラリーが少なかった。

 小柄な女の子二人組が体育館側のコンクリート土台に腰かけて観戦している前を通って、美幸と椎名はその少し隣で立ち止まった。

「今日は観客が少ないのね。」

 美幸は辺りを見回した。

「うん、今日は篠崎くん軽音部だってさ。ファンクラブしてる娘たちが音楽室前の廊下に集結してレミ先生に怒られてた。」

「ああ、逸渡(そらしど)先生そういうところきっちりしてるから。」

 美幸は短く頷いてガラス壁に目を向けた。

「じゃあ、皆本くんが軽音部で三味線弾いてても見られないね。」

「あ、そうかも。」

 格技場の中では空手道着を着込んだ部員達が一列に並んで「追い突き」の練習を行っていた。

「美幸。皆本くん、個人戦の枠で出るらしいよ交流戦。」

「そうなんだ。」

「もちろん、応援に行くんでしょ? 第三闘技場。」

「うん、その時間って分かるかな?」

「う~ん。話によると、まず団体戦を先に半分こなしてから、空きが出来たコートで個人戦をするって言ってた。そこ四面のコートがあるんだって。」

「じゃあ、先に別の試合見に行ってみたい。」

 にっこり笑って美幸は椎名を見た。

「うん? テニス部見に行ったら確実に勧誘されるよ。」

「ううん、バスケ部。」

「へ、美幸がバスケ? すごい宗旨替え。どうしたの?」

「さっき友達になったコが出るの。」

「そうなの? なりたてってLIVE感すごいわね、誰? まさか男の子?」

 椎名が妙に喰い付いて来た。

「女の子よ。二組の吉田さん。」

「え・・・でもあの娘、皆本くん・・・」

「知ってる。香澄ちゃんも私の気持ち、知ってる。」

 一通りウオーミングアップの基礎練習を終えた空手部員が、格技場の中をわらわらと動きだした。

 ガラス壁向こうの美幸達と目が合った頼光は軽く手を振った。

 美幸がひらひらと手を振り返す。

 少し隣で座っていた小柄な女の子達も手を上げて微笑んだ。

「みゆきみゆき。」

 椎名が袖を引っ張って小声でささやいた。

「そこの娘たちも皆本くん見てるよ。」

「う・・・まあ、人気投票12位だからそれは仕方ないんじゃないかな。それに確かあの子達、皆本くんと軽音部の友達繋がりだって。」

「そうなんだ・・・ってか、やっぱりしっかりチェック入れてんじゃん投票順位。」

「あ。」

 美幸は右手で口元を覆った。

「それより、さっきの話。それって吉田さんに宣戦布告みたいな?」

 椎名は目をきらきらさせてにじり寄って来た。

「椎名、すごい喰い付き。まあ、最初はそんなつもりだったんだけど、話してみたら私の方にも結構誤解してたところがあって。」

「で?」

「何メモとってんのよ。」

「気にしないで。」

「とにかく、香澄ちゃんも真剣に悩んでいて。何だか親近感みたいなのが湧いちゃって。」

「『かすみちゃん』ね。で、美幸さんは懐柔されたと?」

 椎名は手にしたシャーペンを構えて見せた。

「言い方っ(いいかたっ)。」

 美幸はちょっとむくれて椎名を睨んだ。

「ごめんごめん。でもさ、それってお互いライバル宣言ってことじゃない?」

「そうかも。でもね、不思議と憎しみとか緊迫感とか感じなかったの。何かさ、マンガとかで三角関係ってこうドロドロしてるのあるじゃない。そんなの覚悟してたんだけど。」

「ああ。高笑いして相手の首、ノコギリで()(さば)いたりするやつね。」

「それは怖いヤツ。何かね、香澄ちゃんって・・・憎めないの。ちょっとしっくりする言葉が見つからないんだけど。そんな感じ。」

 美幸はちょっと斜め上を見つめてから微笑んだ。

「ふ~ん。まあ、美幸がそれで良いんなら、それ以上はどうこう言えないな。」

「うん。椎名が心配してくれてるの判るよ。ありがと。でも今の素直な気持ちは、香澄ちゃんと良い友達になれそうって感じ。」

「そっか。」

「うん。」

 二人はガラス壁の方を見た。

 中ではキックミットを装備したメンバーと攻撃側が分かれて、配置に就くところだった。

「なんかさ、美幸、変わったね。」

「うん、私もそう思う。」



 午後五時を回って、校門で合流した頼光と香澄は並んでバス停へと向かった。

「何だかゴキゲンだな香澄。」

「ふふ~ん。大きく良い事が二つあったんだ。」

「へえ? まず一つ目は?」

「チームフォーメーションで序盤の核の動きを任されちゃった。最初にフルで飛ばして、相手にプレッシャーかける役。」

「香澄の適役だと思うよ。相手チームはさぞ、ビビるだろうな。」

「攻撃と陽動のフォーメーションがあるの。先輩達からも推されてて嬉しい。」

「よし、香澄、第二試合だったな。観に行くからな。」

「え! いいよ。空手会場は団体戦始まったら選手は基本外出られないんでしょ?」

 香澄は大きな目をさらに大きくして手を振った。

「良く知ってるな。僕の出番は後半の個人戦だから、まあ何とかなるさ。トイレとか言って。」

「ヤだ。来ちゃだめ。」

「何でだよ。」

「気が散ったらチームみんなに迷惑がかかるじゃん。」

「観衆に僕が混じるぐらい気にならないって。」

「絶対だめ。」

「ちぇ。ま、香澄がどうしてもと言うなら仕方ないか。」

「どうしても。」

 香澄は、にかっと笑って見せた。

「はいはい、でも結構勝てそうなんだろ? 僕が個人戦早くに敗退したら観に行くから。」

「そんなに早く負けたら承知しないから。やる以上はしっかりやってね。ジュニア銀メダルさん。」

「了・解、ベストを尽くすよ。で、もう一つは?」

 香澄はごそごそとカバンをあさって、スマートフォンを引っ張り出した。

「今日、新に友達が出来ちゃった。」

「へえ、誰?」

「有松美幸ちゃん。」

「え、美幸ちゃん?」

「つい二時間ぐらい前になりたて。早速美幸ちゃんからLINE来てたんだ。これ。」

 香澄がスマートフォンの画面を差し出す。

「あ、僕の練習風景。」

 画面に頼光がミットに回し蹴りを打ち付ける写真が写し出されていた。

「私は見られないでしょって送って来てくれてたの。」

 香澄は鼻歌混じりで画面を引っ込めた。

「香澄。」

「ん?」

「ちょっと前まで美幸ちゃんの話が出ると、表情曇らせてただろ?」

「うん。そんな時期もあった。『若さゆえのあやまち』ってヤツ。」

「赤い人かっ。」

 頼光は目を()いた。

「今日の部活前に話すきっかけが有ったんだ。そしたら意気投合しちゃって。何だかお互いのわだかまりが解けた気分。」

「わだかまってたの?」

「え・・・と。ものの例え。」

 香澄は頼光のちょっと前に歩み出て、バス停の待合室の中にぴょんと入った。

 遅れて頼光が待合室に入ると、香澄が隣一人分を開けてベンチに座っていた。

 ちらりと上目遣いに頼光を見た香澄はスマートフォンの画面をタッチし始めた。

 頼光は普通に香澄の隣に腰かける。

 タップしているスマートフォンの画面を覗くのも失礼なので、頼光は正面の壁に掲げてある時刻表をなんとなく眺めた。

 隣でパシャリと電子音がしてその音の方を振り向くと、スマートフォンを構えた香澄が、にへへと笑顔を向けた。

「撮ったの?」

「うん、美幸ちゃんに練習写真のお礼に送るの。ちょっと真剣風なライコウの横顔。」

「『お礼』になるの?」

「少なくとも『イイね』が付く自信はある。」

 香澄はニヤニヤしながらひょいひょいと画面をタップ&スクロールして行く。

「しっかり使いこなしてるんだな。」

「これくらい普通だって。ライコウもスマホに替えたらいいじゃん?」

「う~ん。アプリで遊ぶつもりも無いし、基本料金高いじゃん。通話とメールとちょっとした写真が撮れれば、それでいいよ。」

「おじいちゃんか。っと、送・信♪」

 香澄はスマートフォンを膝に下ろして隣の頼光を見た。

「スマホにしたらLINE出来るんだよ。私とかオミとか、それに美幸ちゃんとか?」

 ちょっと探るように香澄は頼光の顔を覗き込んだ。

「香澄となら声、聴きたいな。」

「ふうおっ!」

 すぐ耳元で言われた香澄は妙な声を上げて硬直した。首から上が熱くなった。

「なんだよ?」

「ふ、不意打ちは反則。」

「?」

 きょとんとする頼光にちょっと背を向ける格好で、香澄は衿元をぱたぱたさせて熱を逃がした。

 その時、頼光の携帯電話に着信音が鳴った。

「ん、崇弘さんからメールだ。」

 頼光はカバンから携帯電話を引っ張り出して、それを開く。

「なあに?」

「うん。今日から楽団のチームと一緒に練習だってさ。奉納舞。」

「え? 去年まではCDじゃなかったっけ。」

「うん。和楽団から申し出があって、今年、試験的に合同でやってみないかって。自分で言うのも何だけど、結構ウチの祭りTVで取り上げてくれてるから。」

「そうか、楽団さんとしては活動アピールにうってつけだね。ライコウも演奏したりする?」

「勝手に参入はマズいだろ。」

 頼光はパチリと携帯電話を畳んでカバンに収めた。

「ライコウ、横笛とお琴と三味線だよね。六年の時、健明がなんでギターとかキーボード習得しないんだって文句言ってたね。一緒にバンド組めないって。」

 香澄は懐かしそうに微笑んだ。

「健明はピアノとギターとヴァイオリンだっけ。さすが、チョイスが音楽一家だよな。」

「そうそう健明からのLINEで、今日の部活はギターを佑理ちゃんに渡して、ヴァイオリンやったんだって。今度のギグ、『ろりぽっぷ』とこの路線でセッションしようかって盛り上がったって言ってた。」

 香澄は膝の上のスマートフォンをひょいと掲げた。

「そりゃあ聴きごたえありそうだ。日取り決まったら一緒に行こうぜ。」

「うん。」

 香澄は嬉しそうに笑った。

「ライコウ、今日からの合同練習って神楽壇でやるの?」

「いや、楽員さん達は拝殿の中でセッティングして演奏だから、練習中はお互いの動きが見えるように僕も拝殿の中で舞うよ。」

「なんだ、それじゃ見物はムリそうだね。」

 香澄は肩をすくめた。

「振付師さんと一緒に、ジャージ姿だから見ててもつまんないよ。」

「え~? 毎年やってるのに振付師さん必要?」

「そりゃ、そうさ。小学生がやっちまって許されるコトも、ある程度大きくなったら許されないっての多いだろ。人生も同じさ・・・。」

「なに黄昏(たそがれ)てんのよ。」



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