~玲子 襲来~
薄暗い倉庫部屋の中は静まり返り、ただハイヒールのカツンという高い音が響いていた。
「お二人さーん。どこかしら。ケガの手当てをしましょうよ。出ていらっしゃい。」
余裕綽々とも聞こえる声で玲子は辺りをうかがった。
視界に乱れた段ボール箱の山と、傍らに置かれている配管部品が入り、ニヤリと笑ってその方向へと歩を進めた。
「ダメねぇ。隠れる箱の中身を放り出したままじゃ、どこに居るかバレバレじゃないの。」
彼女は横倒しになった段ボール箱に手を掛けると、壁に向かって乱暴に打ち払った。
段ボール箱はすんなりと壁まで飛んで行き、数個の配管パーツを床に吐き出した。
「あら、違ったみたい。」
見回すと足先が少し出ている箱が目に入り、玲子はそぉっと覗き込んだ。
「みゆきちゃあん?」
そこにはマネキンが折りたたまれ、その段ボール箱の内側に頼光の血でメッセージが書かれてあった。
《ハズレ》
彼女はその段ボール箱を蹴飛ばして叫んだ。
「かくれんぼは終わりよ!」
玲子の瞳が金色に輝き、白い肌の下に無数の血管のような筋が浮き上がった。
それは太さを増して皮膚の下でうねうねと動き始めた。
大きく開かれた彼女の口から赤紫色をしたイカの触腕のような物体が数本、勢い良く飛び出して段ボールを貫きながら中を探った。
「・・・ここから逃げたみたいね。次回からは、あの扉に鍵を掛けなきゃダメね。」
彼女は触腕を収めて忌々しそうに呟き、倉庫部屋のドアノブに手を掛けた。
扉は一センチ程奥に開いた所で止まった。
何度やってもそこからは扉は開かない。
隙間から覗いて見ると、向こう側の両ドアノブに配線コードが何重にも巻き付けられて結び止められているのが見えた。
「あのガキ。よくもコケにしてくれたわねっ。」
頼光と美幸はスチールシャッターを背にして靴音がしていた方向へと小走りに進んだ。
この青い光の列柱室はL字型になっているようで、壁沿いに右に進む。
振り向くと倉庫部屋の両開きドアがあり、ドアノブには配線コードがぐるぐる巻きに結わえられているのが見えた。
それを尻目に真っ直ぐに進む。
壁面には細い配管が整然と並んで走り、ロッカー型のタッチパネル付きのスチールボックスへと繋がっている。
いくつかあるスチールボックスには真空管のようなガラス筒と真鍮の金属管が付いていて、時折青白く光りを放っている。
(ここの設計者は、よっぽどのスチームパンクマニアだな)
頼光は感心しながら歩を進めた。
部屋の突き当りから右を覗くと昇り階段があり、真っ直ぐに扉へと繋がっている。
美幸と顔を見合わせた時、後ろで倉庫部屋の扉がガタガタと音を立て始めた。
「おっと、気付いたみたいだ。急ごう。」
二人は手を取ったまま階段を駆け上がった。