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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「傀儡」  作者: 藤乃宮 雅之
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~発動~


 参加者と共に教会の中庭から数十個のバルーンを空に放って模擬結婚式は幕を閉じた。

 青い空に色とりどりの風船が吸い込まれて、参加者から拍手が上がる。

 美幸は頼光の左腕にそっと体を預けて風船の行方を目で追った。


「今日はありがとうございました。こちらお写真です。」

 すらりと背の高いシスターが美幸の所にやって来た。

 愛想良く笑って、このシスターは結婚式の衣装から着替えた二人にÅ4サイズのフォトブックを差し出した。

 茶色地に金色のトリミング装飾の革表紙を開けると、椅子に腰かける美幸とその肩に手を添えて立っている頼光の姿が現れた。

「うん。美幸ちゃんキレイ。」

「ありがとう、皆本くんもカッコ良いよ。」

 美幸はにっこりと微笑み顔を上げ、頼光の唇が視界に入ると慌てて顔を戻した。

「神父様の方からもお礼を述べたいそうですので、説教壇の前で少しお待ちくださいね。」

 シスターはにっこりと笑うと美幸の肩にそっと手を添えて促した。

 シスター装束からでも判る見事なスタイルの彼女は二人の前を歩いて行った。

「美幸ちゃん、疲れちゃった?」

 うつむいて歩く美幸に、心配そうに頼光は声をかけた。

 びくっとなった彼女は赤い顔のまま明るく振舞った。

「ううん、大丈夫。すっごい楽しい。きっと今日は興奮して眠れないわ。」

 そう言って頼光を見た美幸は誓いのキスを思い出した。

「や、あの、興奮て、その。」

 顔を赤らめてもじもじしている美幸を覗き込んで、頼光は神妙な顔を作って自分の唇に手を当てた。

「あ、興奮って、そう言う興奮?」

「ち、違うわよ。もう、意地悪っ。」

 美幸は軽く頼光の肩を叩いて数歩前を歩いた。

 説教壇の前には先ほどの式のままの赤いマットが敷かれていて、二人は式の立ち位置に並んで説教壇から祭壇を見上げた。

「さっきは緊張してあまり見て無かったけど、祭壇ってこんな風になってるんだ。」

 頼光は真鍮の十字架に掛けられている大理石製のキリスト像を眺めた。

 すぐに左手奥の扉が開き、黒い立ち襟ベストを着たミハイル神父が姿を現した。

「やあ、お待たせしました。司祭服から着替えるのに手間取ってしまってね。」

 神父は白いカラーをちょっと触って立ち襟を整えた。

「今日はありがとう、おかげで皆さん喜んでくれたみたいですよ。これで当教会のPRもしっかり出来てお客さん倍増間違いなしデス。」

 ミハイル神父は左人差し指と親指で円マークを作って見せてニヤリと笑い、そのおどけた様子に頼光と美幸は吹き出した。

「さて、君たちに見てもらいたいものがあるのですが、良いですか?」

 ツカミのギャグに気を良くした神父はにこにこして先ほど自分が入ってきた扉を指差した。

 神父の合図と同時に扉が開き、修道士のようなフード付きのトーガを着た人物が二人、頼光と美幸の前に並んだ。

 すっぽりとフードで顔を隠した二人は長めの袖を滑らすように各々の左手を胸の高さに掲げた。

「?」

 二人の薬指には先ほどの青い宝石のついたリングがはめられている。

 どういうことかとちらりと神父の方に頼光は視線を泳がせた。

 フードが払い落とされる衣擦れの音がした。

 そのフードの下から頼光と美幸の顔が現れ、美幸は悲鳴を上げて頼光にしがみついた。

「きゃあ!」

「どういう事だ!」

 頼光は美幸の肩を抱き抱えて神父を睨みつけた。

「ちょっとしたテクノロジーだよ。さっき君たちが付けてくれたリングで、君たちのSeele・・・魂魄(こんぱく)と言ったかな、それをちょっとだけいただいてマリオネットに投影させたんだ。」

「それは東京ビックサイトに出展した方が良いんじゃないか。」

「なかなか面白い切り替えしをするね。彼らには、しばらく君たちの代わりとして行動してもらうつもりだよ。」

 ミハイル神父はパチリと指を鳴らした。

 その途端、頼光達が立っている床が観音開きに口を開け、二人は床下の闇に飲み込まれて行った。

 床はパタンと元通りに閉まり、一見しただけではそこに落とし穴があるとは思えない。

「古典的な仕掛けだが、なかなか効果的だな。」

 ミハイル神父は顎髭を撫でながら満足そうにつぶやいて頼光・美幸のマリオネット二体を眺め、傍らに立つシスターにウインクした。

「よし、シスター瑠美はあの二人の写真を部屋まで持ってきておくれ。このマリオネットに同じ衣装を着ているよう術をかけてからこの教会から出てもらう。ではおいで。」

 マリオネットはそれぞれ頷いて神父の後に続いた。

「え、何? 何が起こったの?」

 空ビールケースを踏み台に教会の窓から覗いていた香澄は目の前での光景に足が震えた。

「とにかく、普通じゃない事は確かよね。急いでライコウのお父さんに知らせなきゃ。」

 香澄は踏み台からぴょんと飛び降りて顔をテント広場の方に向けた。

 そこから二メートルも離れていない所に、シルクハットにゴーグルを付けたイギリス紳士風の男性が、コルセットドレス姿の細身の女性を伴って立っていた。

「お嬢さん、どうしたんだい? そんなに慌てて。」

 落ち着いた声でそのスチームパンク風の男性は香澄の前に立った。

「あ、あのっ。友達が大変なんです。教会の中で・・・」

「そうかい。見ちゃったんだね。」

 香澄の説明を途中で遮った彼は香澄の肩をむんずと掴んで目の中を見据えた。

「え・・・」

 あまりの事に悲鳴を上げる余裕の無い香澄のすぐ隣に、コルセットドレスの女性の顔が近づいた。

 彼女の左右の口角から顎に向かって垂直の裂け目が走り、下唇から顎にかけてのパーツがスライドする。 上唇の中央から眉間にかけて切れ目が走り、顔面が観音開きに開いた。

 香澄の目の前に歯車や金属のフレーム、赤と黒の配線コードと緑色の基盤、LEDの小さなライト、顔だった部分の真ん中に青みがかった丸い鏡が現れた。

「ひい!」

 恐怖に歪む香澄の顔を映したその鏡はストロボのように光り、まともに光を受けた彼女はそのまま力無く崩れ落ちた。

「ふむ。やはり十七年も調整しないでおくと、この程度の威力か。次からはもっと小まめに整備するとしよう。」

 彼はシルクハットのブリムをちょっと上げて納得したようにつぶやくと、倒れた香澄を抱えあげて『納骨堂』の方へと歩いて行った。


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