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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「傀儡」  作者: 藤乃宮 雅之
32/57

~ウエディング・セレモニー~


 教会から鐘の音が響いた。

説教壇にはミハイル神父が白い司祭の衣装を着て、教会内のベンチに座った人々を眺めていた。

「皆さん、本日はお忙しい中、当教会のイベントに参加いただき大変ありがとうございます。これから当教会での結婚式のデモンストレーションを行います。今回は高校生の可愛らしいお二人に新郎新婦役をやってもらえることになりました。お写真はご自由に撮っていただいて結構ですが、新郎新婦にはお手を触れないようお願いします。」

会場の含み笑いににっこりした神父は後ろに立っているシスター達に合図をして、電子オルガン〈ROLAND RD-800〉の伴奏で賛美歌を斉唱した。

映画『天使にラヴソングを』でお馴染みとなったポップな「I will follow him」の熱唱が終わると会場からは拍手が湧いた。

 会場の照明がすっと落ちて入り口の扉にピンスポットが当てられた。

結婚行進曲が流れ、会場のあちこちでスマートフォンの四角い光が灯る。

扉が外に向かって開き、逆光に腕を組んだ二人の姿が浮かんだ。

 会場から拍手と、聞き覚えのある歓声が湧いた。

「美幸先輩きれいー。」

「きゃー、美幸ちゃんかわいいー。」

「ライコウ、こっち向きなさいよぉ。」

ベールを被った美幸は恥ずかしそうに視線を足元に落とし、頼光は緊張した面持ちで正面を見据えた。

(オミ、佑理・佑美姉妹に紗彩ちゃん、涼子さん、あのウォーリーみたいなのは小林さんかな。)

知り合いの顔をチェックすると深呼吸して軽く目を閉じた。

(香澄はいないみたいだな。)


 説教壇の前に並び、誓いの言葉を復唱する。頼光の「誓います。」の言葉の響きが嬉しくて、美幸は少し涙ぐんだ。

エンゲージリングの乗った青いリングピローをシスターが差し出す。

小さな青い宝石が指輪の中に埋まっているデザインで、エンゲージリングと言うより婚約指輪な感じのものである。

指輪の交換。

頼光は美幸の左手の絹のロンググローブを外し、自分の左腕に掛ける。

リングピローから小ぶりな指輪をつまみ、美幸の左手をそっと取って薬指に滑らせた。

周りをシャッター音とフラッシュが包む。

美幸は自分の左手を軽く揺らせて、プラチナリングの中にサファイヤのような青い石がキラキラと光る様子を、半ば夢を見るように見つめた。

美幸は緊張で震えながら頼光の薬指にリングを通す。

ほっそりとした指が頼光の薬指を包む。

その時、頼光は静電気に似たピリピリとした感覚を指輪に感じた。

いつの間に近づいたのか、すごく良い位置で佑理・佑美姉妹がスマートフォンを構えて、次なるメインイベントに目を輝かせていた。

「さあ、新郎は新婦のベールを上げてください。」

頼光は少し屈んだ美幸のベールをそっと上げて、ふわりと後ろに流した。

「美幸ちゃん、大丈夫?」

そっと耳元で頼光が囁いた。

「し、心臓が飛び出しそう。」

美幸は足元を見つめたまま小声で返した。

「それでは、誓いのキスを。」

神父の言葉と同時に周りに人の気配が増え、佑理・佑美のすぐ横に紗彩が紅潮した顔で身構えている。

 美幸は正視できずにそのまま目を閉じて固まってしまった。

(うわ、鼓動と同じに変な鼻息が出てるよ。皆本くんに笑われちゃう)

顎に指を当てる感覚がして美幸は、ふっと目を開けた。

顎を少し持ち上げられた彼女の目の前に頼光の顔が迫り、少しひんやりとした柔らかい唇の感覚がすっと重なった。

(わぁあっ、うわー、わーっわぁっ!)

不意を突かれた感じになった美幸は、大きく目を見開いて頼光の肌色を眺めた。

辺りにスマートフォンのシャッター音と紗彩の歓声が響いていたが美幸の耳には入らなかった。



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