~衝撃~
香澄と頼光は駅に向かう赤レンガ道を並んで歩いていた。
「やっぱりチャリ通は断念だね。」
「今日は朝練だから、練習前に息が上がってちゃ話にならないからさ。」
「そういう事にしときましょうか。」
「香澄のチームはどんな具合?」
「うん。一年~三年の混成チームだけど上手く息が合ってるんだ。結構勝てそうな感じ。」
学校行きのバス停『玄磐免許センター行き』八番ホームで数名の制服姿の学生とスーツ姿の会社員の列に並ぶ。
香澄が頼光に何か話しかけようとした時、不意に後ろから女の子の声がした。
「皆本くんおはよう。」
「やあ、美幸ちゃんおはよー。」
親しげに挨拶を交わす二人を見て、香澄は唇を結んだ。
「お、おはよ。有松さん、テニス部の朝練?」
「ううん。テニスはスポーツクラブでやってるの。今日は皆本くんの練習が見たいから、一緒に行こうってことになって。」
「え? そうなの・・・」
恥ずかしそうにはにかむ美幸を見て、香澄は頼光に目を泳がせた。
「ああ、悪い、香澄。言うのが遅れたけど、俺たち付き合う事になったんだ。親友の香澄には目の前で報告しようと思ってな。」
香澄は涙目になって掛布団を跳ね上げた。
しばらく真っ暗な回りを見回して、事態の理解に努める。
跳ね上がった心拍数が落ち着いてくるに従って状況が解って来た。
「ふぅ~。夢か・・・」
枕元の時計を確認すると午前二時。
「あー、縁起でも無いわね。やっぱ気になったまま寝ちゃったのが良くなかったな~。」
枕元のライトを灯し、ヘッドボードにしつらえてある簡易棚から、平置きにしてあるB5サイズのアルバムを引っ張り出した。
紫の台紙に真鍮箔でネコのイラストがあしらわれたアルバムの表紙をめくり、明芳学園の校門前で入学記念に頼光と一緒に撮った一枚を見つめた。
「どうせ夢で見るなら・・・」
軽く頼光の写真にキスをして、香澄は再び布団にもぐり込んだ。