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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「傀儡」  作者: 藤乃宮 雅之
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~目撃者~

<主要登場人物 紹介>

皆本みなもと 頼光よりみつ

   ・・・「明芳学園高校」普通科一年生。鴻池市の神社 源綴宮げんていぐうの宮司の息子。小柄、色白で整った顔つきの為、よく女の子に間違われることを気にしている。見た目によらず、空手黒帯。

吉田よしだ 香澄かすみ 

   ・・・頼光と幼馴染のショートヘアの女の子。小五の頃から頼光に片思いしている。頼光と同じクラスになれて楽しく登校している。明るくコミュりょく高い女子。小柄ながら驚異的なジャンプ力を生かし、バスケ部で活躍している。

有松ありまつ 美幸みゆき

   ・・・頼光の隣のクラスの女の子。おとなしいお嬢さんタイプ。校外のテニススクールに所属し、県大会出場レベルの腕前。猟奇殺人を目撃してしまい、得体のしれない犯人に付け狙われてしまう。

石川いしかわ 紗彩さあや

   ・・・美幸の中学からの後輩。美幸を姉のように慕っている。おっちょこちょいで何かやらかしてしまう女の子。一人称は「さあや」

香月かつき 涼子りょうこ

   ・・・頼光のバイト先の甘味処「雪月花」の美人女将。紗彩から「憧れの人」と慕われている。

皆本みなもと 義晃よしあき

   ・・・頼光の父親で「源綴宮」の宮司。「伊勢鬼狩衆」の陰陽師で、かつては師団長をも務める。いまだに「雷帝」と恐れられている。

紅葉くれは

   ・・・頼光の母親。黒髪、色白、赤い瞳の天狗族の娘。頼光が三歳の頃、天狗族の内乱分子により殺害される。

黒田くろだ 崇弘たかひろ

   ・・・「源綴宮」の禰宜ねぎ。「伊勢鬼狩衆」の陰陽師。冷静で思慮深い学者タイプ。

黒田くろだ 博通ひろみち

   ・・・「源綴宮」の権禰宜ごんのねぎ。「伊勢鬼狩衆」の陰陽師。大柄で豪快な好漢。

禎茂よししげ 保昌やすまさ

   ・・・「加茂家」の流れをくむ陰陽師で私立探偵。義晃、崇弘、博通と親交があり、頼光のことを「頼くん」と呼ぶ間柄。長い黒髪を後ろに束ね、黒い服を好んで着る。

杉浦すぎうら 健明たけあき

   ・・・頼光、香澄と小学校からの友人。音楽一家の家庭に生まれ、ギター・ピアノ・ヴァイオリンの腕は一流。高一にして182センチの長身。中学からバンド活動をしている。

篠崎しのざき 正臣まさおみ

   ・・・明芳学園高校の服飾科一年生。さらさらのボブヘアでオネェな男の子。読者モデルをしていてファンも多い。頼光と同じ空手道場の門下生で黒帯。健明のバンドのベースを担当。

中村なかむら 佑理ゆり佑美ゆみ

   ・・・明芳学園高校の服飾科一年生。小柄で、丸っこいショートヘアの双子姉妹。正臣と同じ読者モデル。かわいい見た目で、結構言いたいことを言う。裁縫、メイクの腕前は目を見張るものがある。

玄昭げんしょう

   ・・・「鞍馬鬼狩衆」を名乗る人物。猟奇事件を追っていて、頼光に協力を仰ぐ。

叢雲むらくも 

   ・・・現・魔王尊の体制に不満を持つ「蒼月派」の天狗族の青年。魔王尊直系の血筋である頼光を敵視し、過去に大ケガを負わせた事がある。


 新緑が微風になびく四月半ば過ぎ。だいぶ長くなってきた日の光を受け、桜の季節が終わった寂しさを若葉達が盛り返してきている。

 ツツジは今を盛りにピンクや白の花弁を開き、桜の後を引き継いで春の色どりを奏でている。

 ツツジに彩られた夕方の公園の散歩道を、制服姿の女の子二人が学生カバンとテニスラケットを小脇に抱えて走っていた。

「美幸がのんびりLINEなんかやってるからっ。」

「そんなこと言ったって椎名。紗彩ちゃん、なかなか話の区切りがつかないんだもん。」

「あんたがこんな時に『概読』にするから、めんどくさいことになるのよ。」

 黒髪でセミロングの娘、小林(こばやし)椎名(しいな)は息を弾ませながら少し後を走っている有松(ありまつ)美幸(みゆき)をちらりと見て口を尖らせた。

「第六コート横のフロア工事まだ終わってないんだから遅刻したら順番待ち確定なの知ってるでしょ。」

「う・・・うん。ごめん。」

 栗色のロングヘアをなびかせながら、美幸はタレ目気味の目を伏し目がちに落とした。短めの椎名のプリーツスカートの裾が風をはらんで不規則に波打っている。

(椎名、先週よりスカート短くなってる。)

「美幸、こっち。ここを突っ切って行ったらスポーツセンターすぐ脇の道のトコに出られるから。」

「ねぇ、椎名ぁ、ちょっと休もうよぉ。」

「何言ってんのよ。県大会が近いから猛練習に付き合ってって言ったの美幸じゃない。さぁ、行くわよ。」

「し、椎名ぁ~。」

 情けない声をあげて美幸はしぶしぶ後に続いた。

 公園の散歩道から外れたこの一角はうっそうと竹が繁り、春の夕刻でまだ日が高い割には薄暗く、ケモノ道程度の小道には枯れた竹の葉が貼り付いてあまり人が通らないことを感じさせた。

「なんか気味悪いよ~。やっぱ引き返そうよ。」

 美幸は椎名の袖を取ろうと手を伸ばした時、前を行く椎名が急に立ち止まった。

「きゃ!」

「しっ。美幸、こっち。」

 椎名の肩口に鼻をぶつけて涙目になった美幸の手を引いて繁みの影に引っ張り込んだ。

「な、なに?」

 椎名は唇に人差し指を押しつけて、繁み越しに竹林の奥の方を指差した。

 竹林の影に白いものが動いている。

 全裸の長い黒髪の女性とシャツをはだけた茶髪の男が、太い竹に寄りかかるように互いの体をまさぐっていた。

「あっ。」

「しっ!」

 女性は男のシャツを剥ぎ取りGパンのベルトを抜き取った。

「・・・ね、ねぇ、椎名・・・もういこうよ。」

 いたたまれなくなった美幸は、椎名の袖をくいくいと引っ張った。

「こんなものめったに見られないわよ。遅れついでに見て行っても悪くないんじゃない。」

「そんな、悪趣味よぉ。」

 女性は舌を這わせながら腰から胸元、首筋へとその白い肢体を纏いつかせた。

「うわぁ・・・」

「すごい・・・」

 高校一年生の多感な好奇心は、目前の衝撃的行為の観賞に釘付けになって、いつしか息を殺して見入ってしまっていた。

 椎名と美幸はモザイク無しの性行為を良く見ようと繁みから体を乗り出した。


 艶っぽい女性の押し殺した声が、溜息混じりに聞こえてきた。

 竹の幹が二人の動きと共にさわさわと揺れ、竹の葉の擦れる音が風になびく葉揺れの音とそぐわないリズムを刻んで行く。


  竹の葉が刻むリズムがさらに速さを増して行く。

 そして男は、うめき声と共に体をびくんと震わせた。

 それと共に女性も胸を合わせたまま上体を仰け反らせた。鼻にかかった嬌声が吐息と共に長く尾を引いた。

「あれ・・・イっちゃったんじゃない?」

「うわ、初めて見た・・・」

 唇をカサカサに乾かして女子高校生二人は凝視した格好のままつぶやいた。

 荒い息使いの女性に異変が起こる。

 長い黒髪がざわざわと蠢き始め、しゅるしゅると男の方へと伸びて行く。

 体表面に赤く太い血管状の模様が浮き出し、皮膚の下をうごめき始めた。

 大きく仰け反らせた首から顔にかけてその皮膚下の動きは激しくなり、身体が小刻みに震え出した。

「あっ?」

 異様な光景に美幸は身を乗り出した。

 黒髪がツタのように相手の体に巻き付き、口から赤紫色のイカの食腕のような物体が無数飛び出した。 

 そのぬらぬらとした触手を剥ぎ取ろうともがく男に馬乗りになった女性は、触手を吐き出したままの口をさらに大きく開け、獲物の喉笛に顔を埋めた。

 ぐちゅっと空気と肉とが混じる音が聞こえた。

 気管から吹きだす空気が笛のような甲高い音を竹林に響かせ、緑色の竹林の幹に朱色の飛沫が勢い良く貼り付いて行くのが見えた。

 力無く崩れ込んだ男を両腿と両腕で抱え込みながら、その女性は首から溢れだす赤い液体にむしゃぶりついていた。白い胸や顔は赤黒く染まり目には異様な光が宿っている。

 あまりのことに覗き見をしていた二人は、叫び声を上げる事も出来ずにその場にへたり込んだ。

ピンポーン♪

 美幸の学生カバンからLINE着信のお知らせ音が鳴った。それはトラックのクラクションのように響き渡った。

 獲物から顔を上げてこちらを見据えた黒髪の女は、血まみれの口元を嬉しそうに歪めて見せた。

 獲物に巻き付いていた赤く発光する触手がするすると口の中に戻る。

 長い黒髪が風をはらんだかのようにふわりと持ち上がり、二人を凝視した目には金色の光が宿った。

 椎名は震える手で美幸の腕を取り、おぼつかない足取りで来た道を駆け出した。

 顔面蒼白になりがむしゃらに走る。

 そんなに長い竹林道では無いはずなのにかなりの距離を走っている感覚に襲われた。

「きゃあ!」

 あと少しで竹林道から抜けるという所で椎名は積もっていた竹の落ち葉に足を滑らせ、うつ伏せに倒れた。

 美幸は椎名の手を取って抱き起こす。

 その時視界に、黒髪の女がふわりふわりと竹の幹を足場にして、こちらに『飛んで』来ている様子が飛びこんで来た。

「いっ、いやあー!」

 美幸は抱き起した椎名の腕を力いっぱい掴んでまた走り出した。

「美幸っ! 痛いっ。」

「振り向いちゃだめぇっ!」

 竹の幹が、たん、たん、と鳴る音が背後から近づいて来る。音の正体が判っているだけに、美幸はそれだけで恐怖が走った。

『そう、あなた、みゆきちゃんて言うの・・・』

 美幸は目の前が真っ白になった。

 二人は渾身の力を絞って竹林道を駆け抜けた。夕暮れ前の光がこんなに明るく感じられたことは今まで無かった。

 ちょうどその場所に散歩中の初老の夫婦を見つけ二人は泣きじゃくりながら抱きついた。

「たっ、助けてください! あれっ!」

 美幸は竹林道の方向を指差した。

「ど、どうしたの?」

 竹林道の小道は普段通りに薄暗いが、ただそれだけの様子でそこにあった。

「なにかあったのかい? 泥だらけになって。」

 しゃがみ込んで椎名のスカートの土埃を払いながら初老の紳士といった感じのおじさんは心配そうに二人を見回した。

「ひっ、ひと、おとこのひとがおんなのひとにかぶってされて・・・」

「ちだらけのおんなのひとがにやってわらってこっちをみてとんできて・・・」

「・・・何を言っているのかさっぱり判らんが、大変な事があったんだね。まぁ、落ち着いて。」

「そうよ。こんなに慌てているのですもの。とにかく、深呼吸して・・・え? あなた何? これ。」

 ニット帽を被ったおばさんは美幸の右肩の後ろを覗き込んで目を丸くした。

 美幸は視線の先に手を回して指先に触れたものをつまみあげた。

「ひっ・・・」

 それが長く艶やかな黒髪の束であることを確認した美幸は、短く叫んでその場に崩れ落ち気を失った。



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