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5-20 それぞれの思惑

イースタリ帝国 “帝都” 西区

冒険者専用高級宿 “月夜亭”


夜7時。


「ララちゃん、今頃、どうしているかな。」


夕食と入浴を終え、長い髪を櫛で梳かしながらファナがボソリと呟いた。


「怒っているかもね。急に帝都へ一泊するなんて、明日帰ったら何を言われるか……。」


黒銀の全身鎧と鉄仮面を次元倉庫へ仕舞ったアロンは、普段着。

ラープス村に一人残してきた(ララ)が、ファナと二人で帝都の高級宿に泊まったことを知ったら激怒必至だ。


――この宿は、レイザーが手配したもの。

明日に控えた、皇太子ジークノートと冒険者ジン、そして同郷の者にしてファナにとってかつての恋敵だったメルティとの “決闘” に向けて、心身を休めるためにわざわざレイザーが用意したのだった。


決闘は公平を期するため。

そしてもう一つ、“逃げ出さない” ために。


本来、アロンの “ディメンション・ムーブ” があれば一瞬でラープス村と帝都を行き来できるのだが、“決闘の場に他の仲間を連れてくるような卑劣な手段を取るかもしれない”、“むしろ、勝てない決闘だからといって逃げるかもしれない”、とジークノート達……いや、メルティに散々にあれこれと非難と罵倒を受けたため、帝都に留まることとなったのだ。


尤も、村に一人残してきた(ララ)が心配だったため、アロンはこっそりとディメンション・ムーブで村へ戻り、セイルに事の顛末を告げて “ララの面倒を頼む” と告げて戻ってきたのだった。



“決闘” の話を聞かされたセイル。


『信じられない!』

『私の知らない間に、ジンさん達はそんなに歪んでしまったの!?』


彼女もまた、驚き、そして柄にもなく憤りを露わにしたのであった。


セイルは元所属の蒼天団ギルドマスター、カイエンとの確執やアロンが住むラープス村への卑劣なやり方に嫌気が差したことを切っ掛けに、蒼天団を脱退したから帝都の高等教育学院を退学し、それ以降は殆どラープス村に滞在して働いている。


クラスメイトの超越者、ジークノート達と別れて半年。

アロンとの実力差も分からないほど彼らは歪んでいるのかと、彼女は絶望した。


ただ、アロンも “ララを頼む” ことだけを主にセイルへ伝えたため、決闘に至った経緯までは彼女には分からない。



そして、セイル自身もアロンに話さなければならない(・・・・・・・・・・)事があった(・・・・・)が、言う間もなくアロンはディメンション・ムーブで姿を消してしまったのだ。



一人残されたセイル。

過るは、疑問。



『レオナさんが一緒なのに、何でそうなるの?』



当然、彼女は知る由もない。

――すでに、レオナもジークノート達から離れてしまっている事など。




「……アロン、ごめんね。」


もう何度目になるか。

髪を梳かしたファナは、俯きポツリと呟いた。


しかし、アロンは優しく笑みを零し、ファナの頭を撫でる。



「ありがとう、ファナ。」



ファナの頭を優しく撫でながら、アロンはにこやかに続ける。


「あのまま、奴等に言われっぱなしだったら……。ファナの旦那として誇りが持てなくなるところだった。大切な奥さんの前で、良いように言われっぱなしで。……あのまま言わせておけば良かった、と思っていたけど、どうやらそれは間違いだった。」


「アロン……。」


「奴等は、ボクが憎いんだ。たぶん、あのまま黙っていたら、決闘どころか皇太子への不敬罪で二人別々に投獄するとか何とか言って脅してきただろうね。……それが嫌なら、決闘をしろと無理矢理迫られたんだろう。」


「えっ!?」



このアロンの予測は、メルティ達の思惑そのものだった。



そもそも、“次期皇帝たる第一皇太子ジークノートからの勅命を、正当な理由なく断った” のはアロンである。


あの場でジンが、“黒鎧将” レイザーに指摘したとおり、アロンが【暴虐のアロン】だとネームバリューにおいてのみ価値が見出され、“帝国に必要な人材”、“帝国に無くてはならない男” という潜在意識が先行しているだけ、というのもある。


本来、この世界のアロンは、ただの村人。

しかも冒険者としては、一般の最低ランク “F”


それが、アロンという男の正しい価値だ。


そんな男が、次期皇帝の第一候補であるジークノートだけでなく、補佐役として内定しているジン、メルティにまで不敬と見做される態度を取った。

ファナが激高し異論を述べようとも、あのまま黙って耐えようとも、冒険者Fランク程度の超越者に “決闘” を申し出るのは予定調和であり、仮に断ったとしても権力や罪を振りかざして、無理矢理了承させたのだ。



――それが、あの場でジンとメルティの狙いだった。



冒険者連合体でアロンと再会したのを幸運とばかり、痛い目に――、それこそ、立ち直れないくらいの傷を負わせてやろうと、急遽二人で結託したのだ。



アロンはファナを優しく抱きしめ、もう一度ちいさく「ありがとう」と呟いた。


「ファナ。君は間違っていない。君は、いつもボクが正しいって信じてくれていて、いつも背中を押してくれている。だから、ファナが謝ることじゃない。むしろ、君にあそこまで言わせてしまったボクがいけないんだ。」


悲しそうに告げるアロンに、ファナはボロボロと涙が零れた。


「そん、な。私が、余計な事を言わなければ。」


「……いや、さっきも言った通り君が言おうがどうしようが、奴等はどうあってもボクに復讐がしたいんだ。……特にメルティは、ボクとファナを酷く恨んでいる。いずれにしてもこの結果は覆らなかっただろうね。」



ファナが激高した、背景。

ジークノート達との席において、メルティは一貫してファナに向けてアロンへの暴言と挑発を繰り返していたからだ。



“こうすれば、あの(モブ)は必ず釣れる”



かつて、アロンを巡った恋敵。


適正職業の儀式での暴走や、その後のアロンとの手紙のやり取りなどがあり思うことはあるにはあるが、それでも同郷から帝都へ移った、友であるには違いない。


それが、ファナ自身のメルティに対する視点だ。



ところが、メルティから見たファナは、全くの正反対。



向こうの世界――、ファントム・イシュバーンで心の底から憧れた【暴虐のアロン】を、あろうことか奪ったNPC(モブ女)、ファナ。



“本当なら、(アロン)の隣は(メルティ)が居たはず”


“共に帝都へ移り、二人でこの “ゲームの世界” を思うがまま、無双できたはず“


“富も名声も、権力も、思うがままだったはず”



それを全て台無しにした、ファナ(モブ女)



“悔しい、憎い、許せない”



その憎しみが、全てファナへと向けられている。

それは、同郷の幼馴染でも、ましてや友でも何でもない。


“ゲームの世界”


そこに蔓延る、自我が無いくせに自我があるように振舞う存在。

ただの、NPC(ゲームキャラクター)



それが、メルティから見た、ファナだ。



同時に、メルティはアロンに対しても深い憎悪を抱いている。


かつて憧れたアロンはNPC(ファナ)に想いを寄せている、というだけで女としてのプライドがずたずたに引き裂かれた、だけではなく、人間(・・)としてのプライドも打ち砕かれた。

様々な思惑を台無しにされた挙句、憧れた存在が盲目的にモブ女へ想いを寄せる姿は、滑稽を通り越して嫌悪すら感じていた。


それが決定的になったのは、先日の結婚報告。


もはや、メルティはアロンなど眼中にない。

むしろ、過去の汚点として憎々しい存在へと成り下がった。



そこへ、たまたま冒険者連合体で再開したアロンとファナ。

仲睦まじく腕を組んでいる姿を見せつけられた時、かつての想いだけでなく “人間じゃない相手” に後れを取ったという憎しみから、我を失いそうになるのを必死に押さえつけていた。


――いや、抑えつけられなかった。


だからこそ、アロンを毛嫌いするジンと急遽結託し、未だ冒険者ランク “F” である雑魚のアロンに一泡吹かせてやろうと、画策したのだった。



画策した “決闘” の真意。



アロンは、超越者。

死なぬ、身体。



“そんな奴に、どうすれば傷を負わせられる?”



簡単なことだ。



“彼が愛するNPC(ファナ)を、目の前で痛めつければ良い”



それも、―― 理不尽に。


―― 殺しても、構わない。



“むしろ、殺す”




(恐らく、奴等の狙いはファナだ。)


ファナを抱きしめながら、心が黒くなるアロン。


アロンは、激高したファナが叫んだ瞬間に、見た。

メルティとジンの凄惨な表情を。



『単純な馬鹿女が、引っ掛かった。』



その表情が大いに語っていた。

そして、ファナに投げ飛ばす下卑た目線から、察した。



(ボクの目の前で、ファナを殺す気だ。)



彼らの望む、決闘。

それは弱いアロン(・・・・・)を圧倒した挙句、NPC(ゲームキャラ)でありながらアロンが想いを寄せる妻ファナを、目の前で殺害することだ。


“決闘だから”


弾みで、相手が死んでも、互いに了承済み。

むしろ、その相手も自分たちも、超越者。


死なぬ身だから、仮に死んでも元通り。


復活する命を賭けた。

ただそれだけだ。


――そこに、NPCが巻き込まれるのは、些事。


メルティとジンは、ただアロンを懲らしめるため、苦しめるため、傷付けたいがために、“ファナを殺害する” という選択のもと、あの場で様々な暴言と挑発行為を繰り返していたのだ。



全ては、アロンに対する逆恨み。




「ファナ、もう一度言う。あそこまで君に言わせてしまたのは、ボクの所為だ。君は悪くない。」


「……それでも、私は私が許せない。この前も貴方に迷惑を掛けたのに。これじゃ、奥さん、失格だよね?」


涙を流すメルティの頭を撫でて、アロンはにこやかに、それでいて強く告げる。


「いや。むしろ 、それでこそボクの奥さんだと思ったよ。ボクは気が弱いからね。どうしても皇太子殿下や権力者を前にすると、足が竦んでしまう。それを叱咤してボクを奮い立たせてくれるのは、世界広しと言えど、ファナだけだよ。」


そんなアロンの言葉に、ファナは思わず笑みが零れた。


「……ありがとう、アロン。」


「お礼を言うのはボクの方さ。ありがとう、ファナ。」


二人は、強く抱きしめ合う。



すでに、アロンは御使いの “天命” のため、超越者の “選別” と “殲滅” を粛々と遂行する覚悟がある。


そしてファナも。

その天命を授かった夫を支え、共に生き。


―― 共に、死ぬ。


その覚悟が備わっている。




「それにしても、ファナに……そこまで。」


呟くアロン。

ファナはただ抱きしめ、アロンの言葉を聞いている。


アロンの脳裏に過るは前世の屈辱。

目の前で、ファナが凌辱された姿だ。



“救いようが無い”



彼らは知らないのだ。


アロンが、どうしてイシュバーンに転生したのかを。



――アロンが、イシュバーンの住人であることを。




『ドンドン』


静かに抱き合う二人の耳に、ノック音が響いてきた。


「ファナ。」

「はい。」


抱き合う身体を離した瞬間、普段着だったアロンの姿がいつもの黒銀の全身鎧に変貌した。


書物スキル “装備換装” で、臨戦態勢となった。

――もし、メルティ達が寄越した刺客であっても対応できるように。



アロンはファナを庇うように前へ出て、扉に向かって「どなた?」と尋ねた。


すると、扉の向こうからは女性の声。



『アロンさん。私です。』



一瞬、固まるアロン。


敵意は、感じられない。

それよりも、どこかで聞き覚えのある声だった。



『ガチャッ』



意を決し扉を開けたアロンの前に立っていたのは、一人の女性。

それは、本来ならあの場に居た人物(・・・・・・・・)だった。



「貴女は――!!」





「どうしてそんな話になったのだ?」



イースタリ帝国 “中央区” 帝国城塞内。


“蒼槍将” バルトの報告を受け、頭を抱えるは “輝天八将” のトップ、“大帝将” ハイデン。


「超越者たちが一目置くアロンとやらがその場に居たのは分かった。しかし、どうして決闘の話となる? それも殿下の御学友であるジン殿が申し付けたと? 一体、彼らは “向こうの世界” でどんな関係だったのだ?」


溜息と共に言葉を漏らす。


「レイザー殿がおっしゃるには、向こうの世界では同じ “帝国陣営” の仲間同士だった、という話でした。それがどうしてか、このイシュバーンで彼らは確執を生み出したようですな。」


同じように溜息を吐きだしたバルトは、そのまま告げる。


「決闘は殿下の補佐役候補である超越者のジン殿とメルティ殿のお二人と、そのアロン殿と奥方のファナ殿の4人で行うとのこと。殿下はあくまで部外者であり、彼ら4人の確執とは無関係、といたします。」


「当たり前だ!!」


バルトの言葉に、ハイデンは思わず怒鳴る。


「いよいよ殿下も超越者として、次期皇帝陛下として、聖国軍本陣との衝突で初陣を飾るために冒険者の招集依頼に行った事が、どうして低ランクの冒険者との決闘になるのだ! しかも殿下はトップの連合長とも会われて無いだと? こんなことが陛下の耳に入ってみろ。責任はバルト、お前が取ることとなるのだぞ!」


「そ、そんな!?」


青褪めるバルト。


「それを言うなら……レイザー殿が。」


「奴は超越者だ! 分かっているだろ。」



“この世界は、超越者が絶対”



だから、諍い事があっても不問とされることが多い。

罪になるとすれば、余程、国にとって損害を与えた、もしくは与えそうになったなどと、影響が広範囲に亘る時くらいだ。


――かつて、超越者カイエンが財務庁、教会本部などを巻き込んでラープス村に仕出かした時のような場合くらい。


それでも、多額の罰金のみでその後カイエンは釈放された。

“その程度” で済まされるのが、超越者の特権だ。



「……怒鳴って悪かった。いずれにせよ超越者同士のトラブルだ。そういう意味ではお主でも止められないのも道理。もし陛下にこの事が知れたとしたら、口添えをしてお主に塁が及ばぬよう尽力しよう。」


「ありがとうございます。ハイデン様。」


「……それにしても、最近の殿下の行動は目に余るな。」


ギシリ、と椅子に深く腰を預けハイデンは苦々しく呟いた。

その言葉に、バルトも頷く。


「レオナ嬢との婚約解消……しかも当のレオナ嬢はマキャベル宰相の制止も聞かず公爵家を一方的に廃嫡を願い出て飛び出してしまった。超越者であるから死ぬことはありませんが、それでも御父上であるマキャベル宰相のご心痛はお察しするに余りありますな。」


「……いっそ、死んでくれた方が早いだろう。翌朝には公爵家の自室に戻られるのだからな。」


ハイデンの言葉に、バルトは思わず引きつる。


「それこそ、宰相閣下に聞かれたら不味いですぞ?」


「いや、最悪はその手がある、と進言したばかりだ。親子とは言え、普通の民と超越者。前世の記憶やらもあるから、レオナ嬢がマキャベル宰相を実の父として見ているかも怪しいものだ。」


“この世界の者と超越者との歪な関係”


それを口にし、頭を抱えるハイデンだった。


その時。



『ドンドン』


部屋に響くノック音。


「どうぞ。」


襟を正し、バルトが告げる。

扉が開き、姿を見せるは黒鎧の男。


「遅くなった。すまない。」


レイザーだった。


「遅いぞ、レイザー殿。」


「すまない、ハイデン殿。少し寄るところがあった。」


ぶっきらぼうに告げ、レイザーはハイデンの正面の椅子に腰を掛けた。

思わず小言を言いそうになるバルトであったが。


「バルト。席を外してもらえないか?」


ハイデンからの思わぬ指示に、バルトは目を見開いた。


「それは……。わ、わかりました。」

「すまないな。今日はご苦労だった。ゆっくり休んでくれ。」


少し怪訝そうな顔をするバルトだったが……。


「御意。」


取っていたシルクハットを胸に押し当て、頭を下げて部屋を後にするバルトだった。




「さて、お前の考えを聞こうか。ローア(・・・)。」


ギロリと睨むハイデンは、レイザー……もとい、ビッヅレーゼ公爵令嬢ローアの名を告げて尋ねた。

その言葉に、はぁ、と大きく溜息を吐き出すローア。


「私自身、アロンの力量は知るべきと思いました。」


普段、わざと声を低くしているレイザー。

しかし、この場には自身の正体を知る一人、ハイデンのみ。


声のトーンを戻しただけでなく、一人称が “俺” から “(ワタクシ)” にとなった。

だが、いつ誰がこの部屋に飛び込んでくるか分からない。

そのため、仮面だけは外さないのであった。


「本当に、例のアロンなのか?」


「ええ。例のアロンに間違いありません。ただ、ジンやメルティが主張したように、奴自身の本来の実力は誰にも分かりません。あの二人の意図は恐らく、彼の妻のファナという冒険者を狙っての事でしょうが、奴自身の力量を推し量る意味で、決闘という手段は悪くないと。」


レイザーの言葉に、益々頭を抱えるハイデン。


「本当に、殿下は戦わないよな?」


「それは私が止めました。もし明日、殿下が私との約束を反故にして、奴等に攻撃を仕掛けようものなら四肢を斬ってでも止めます。」


「冗談はやめてくれ!」


思わず叫ぶハイデンだが、レイザー自身、冗談のつもりはない。

むしろ、ジークノートは 獣使士系最強の極醒職 “神獣師”


――レイザー自身も、全力で当たらなければ危うい相手だ。



「それで、お前の目から見てどっちが勝つと思う?」


ハイデンの質問に、レイザーはしばし唸る。


「メルティが言うには適正職業解放直後に戦ったそうですが、手も足も出なかったと。その時点でアロンのレベルは130。しかし、彼女が言うには “職業の性能差” だとか。今は、むしろ雑魚しか出てこない “邪龍の森” で足踏みをしているだろうから、レベル250の自分(メルティ)には手も足も出ないだろう、……加えて同じくレベル250の “銀騎士” ジンも居る。足手まといとなるファナが一緒なら、アロンはそれこそ何も出来ず倒されるだろう、と言っていました。」


“その評価には一理ある”


それがレイザーの考えだった。


しかし。


「適正職業を解放していない12歳未満でレベル130に至ったという事実を考慮すると、私はメルティやジンのような安直な考えには至りません。むしろ、同じレベルくらいにまで辿り着いていても可笑しくないかもしれませんね。」


「そうか……。」


「同レベルなら、それこそ職業の性能差でアロンの圧勝でしょう。ただでさえ戦闘技術が異常な奴なんだ。仮にアロンのほうが低レベルだとしても、その技術やスキル構成によっては、勝てないでしょうね。」


ふむ、と唸るハイデン。

「だが」と呟く。


「メルティとジンは、私も何度か会ったことがあるが……さすがは超越者、そこまで短慮ではない。何か秘策があるのでは?」


その言葉に、頷くレイザーだった。


「ええ。何か秘策……というか必勝の策(・・・・)があるでしょうね。いくら冒険者ランク “F” とは言え、私たちが居た世界、ファントム・イシュバーン内で最強と呼ばれた奴ですよ? 何かしらの絡め手を用意していなければ、あのように自信たっぷりに決闘など申し出ないはずです。」



“それこそ、決闘に泥を塗る行為も平然とやるだろう”



レイザーに、悪い予感が過るのであった。





イースタリ帝国 “帝都” 東区

一等住宅街 “超越者区画”


“ジンの屋敷”



「それが、例の物?」


はやる気持ちを抑え、メルティがジンに尋ねる。

ジンは、目の前に想いを寄せるメルティが尋ねてきた事で心が飛び跳ねるが、まずは明日の決闘だ。



そこで、メルティの願いを叶える。

少しでも、自分に振り向いてもらうために。



「そう、これが例のブツっす。」


長い棒状の物に巻かれた布を取り外すジン。

その姿が露わになったとたん、メルティは引き笑いの表情となった。


「信じられないよね。この世界じゃ(・・・・・・)スキルの方が強いから(・・・・・・・・・・)作られても流通はしなかったみたいだけど……。」


「モブを()るには、十分っすよ。」



その物を目の前にして沸き起こる恐怖感、禁忌感に蓋をして、自らの目的を優先させるべくメルティは目を細めた。



「丁度、言う事を(・・・・)聞いてくれる奴(・・・・・・・)がいるわ。明日はこれで……。」


「あの糞野郎に、目にモノを見せてやろうぜ。」



それは、かつて超越者が “前世の知識” を駆使して作り上げた、武器。

しかし、この世界ではスキルの方が強く、この武器の製造の難しさや生産コストなどを加味すると、全く持って普及しなかった背景があった。



しかし、対イシュバーンの民なら。


それを、暗殺(・・)するなら。


使い道がある。




ジンが用意した、物。

見る者が見れば、こう言うだろう。



“ライフル” と。



次回、12月3日(火)掲載予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今やレベル500超えのファナならライフル銃で撃たれても無傷展開に1票入れます
[良い点] 前回ファナがまたやらかしちゃったかーとなったけどあの状況じゃ決闘しないってのは無理があったのかなら仕方ないね というか周りが腐ってるやつばっかだから真っ直ぐな心を持ってるファナはすごく好感…
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