5-7 人間
『チンッ』
暗闇の中、煌びやかに、仄かに黄金色に光る神剣グロリアスグロウを鞘に戻したアロン。
僅かに漂う死臭。
その原因である、辛うじて残るレントールの死骸、真っ二つで転がるブルザキの死骸、そして頭部を失ったソリトの死骸を睨んだ。
「残しても埋めても、野獣に荒らされるだけだな。」
憎き相手とは言え、それは無残と思ったのか。
――いや、違う。
死骸を放置すれば、野良の野獣、もしくはモンスターに食われるのがオチだ。
そして人間の肉の味を知った野獣やモンスターは、積極的に人を襲うようになる。
“死してもなお、世界に害を振りまくのか”
すでに死体となったレントール達であるが、未だその憎悪が途切れることの無いアロンから見ると死体すらも憎々しいのであった。
アロンは、再び神剣グロリアスグロウを抜いた。
『ドウッ』
無音攻撃が発動しているため音は無いが、大剣が炎に包まれた。
剣士系上位職 “剣豪” スキル “魔法剣発動”
五体系と呼ばれる “火”、“水”、“風”、“雷”、“土” の属性のうち、設定した属性を武器に纏わせることができるスキルだ。
同属性を持つ武器なら属性効果が上乗せとなりが、対属性の場合は元々武器に宿る属性を打ち消してスキルで発動した属性を強制的に纏わせることが出来る。
このスキルの大きな利点として、同じ “剣豪” のカウンタースキル、“剣刃纏い” と合わせることで敵の攻撃に合わせて属性攻撃を打ち当てることが可能となる。
タイミングはシビアそのものだが、魔法スキルやモンスターのブレスにも有効な反撃技となるため、極めようと躍起になるプレイヤーは少なくない。
炎に包まれる剣を、重ねた死体に向けようとした、
その時。
「小僧、待たれよ。」
森の方から声が響いた。
「誰だ?」
アロンは遠視と暗視で気配の方へと視線を飛ばした。
そこには、見慣れぬ女。
少しボサついた長い銀髪に、黄色の釣り目。
奇妙な藍色のタイトな服を身に纏う若い娘であった。
見た目は人間だが、その身から発する気配で、アロンはすぐ理解した。
「貴女は……マガロの護衛の、確か “橋渡しの娘” のカイザーウルフか?」
「左様。」
目を細めて睨む女は、カイザーウルフの婆だった。
「何の用だ?」
剣に纏う炎を消して、アロンは尋ねる。
――もし、何か仕出かすなら容赦はしない。
いくら相手が邪龍マガロ・デステーアの大切な眷属だとしても、マガロとアロンは謂わば “利害の一致” の関係でしかない。
害を成すと判断すれば、容赦なく斬るつもりだ。
「ここまでは姫は来られぬからな。妾が代わりに貴様の復讐を見届けたのだ。」
淡々と理由を語る婆。
はぁ、と一つ息を漏らしてアロンは再度尋ねる。
「それで? 何故止めた?」
「その死体、いらぬなら妾が貰おうと思って。」
呆れるアロン。
剣先を軽く婆に向ける。
「つまり、この肉を食うというのか? 処理をしてくれるのは大歓迎だが、人の肉の味を覚えたモンスターは……。」
「心配には及ばぬ。何百年生きていると思う? 人の肉の味など当の昔から知っとるわ。尤も、久しく口にしてはおらぬがな。」
ククク、と隠す事なく嗤う婆だった。
さらに苦々しく呆れるアロン。
「お前はそうかもしれないが、他の、例えば若いカイザーウルフはどうだ? 聞けばボクがかつて葬った奴は、お前たちの長やマガロの命に背いてまで襲撃してきたのだろう。人の肉の味を覚えたそれらを抑え込めるのか?」
「ふむ。一理あるな。」
「だったら……。」
「心配には及ばぬ。」
手をヒラヒラと振る婆は、口元だけ歪めた。
「知能の低い阿呆共と一緒にするでない。貴様らの村はすでに妾らの森の一部。偉大なマガロ様の庇護下にある妾らと貴様らは、言うなら同じ釜の飯を食った同胞だ。共に知恵を持ち、マガロ様の恵みを共有する同胞を、妾らが喰うと? 侮辱甚だしいぞ?」
最後の台詞で、グルル、と唸る。
どうやら怒りを抑えている様子だった。
「そ、そうか。それは悪かった。」
一匹でも人里に現れれば大災害、とも言えるカイザーウルフだが、今のアロンに掛かれば一撃でオーバーキル出来る相手だ。
しかし、その相手に『同胞だ』と言われ、しかも特段アロンや村に対する実害が無い中でその申し出を無碍にすることや、ましてや殺害するなど、マガロの顔に泥を塗るような行為だ。
アロンは再び神剣グロリアスグロウを鞘に納め、数歩下がる。
「その言葉、マガロとの誓いに合わせ信じよう。」
「うむ。感謝する。」
すると、婆は背中から大きな風呂敷を取り出す。
それを地面に敷くと、転がるレントール達の死体や破片を丁寧に回収し始めた。
「準備が良いな。」
「たまたまじゃ。昼間、姫に言われて貴様の村で使いに出ていたからの。そこの店の主に贔屓してもらった布じゃて。干し肉を包めたのだ、この屑共の死体も包めるだろう。」
“話には聞いていたが、本当に買い物に来ているとは”
さらに呆れるアロン。
その時。
『ブィンッ』
響く音と共に、アロンが銀に輝く光の箱に覆われた。
「なっ!?」
突然のことで反応出来ず、叫ぶアロン。
「小僧っ!?」
婆も異常事態に焦り、叫ぶ。
その瞬間。
『ガギャギャギャギャギャッ!』
アロンの周囲、地面から太い真っ赤な茨が無数に突き出て、アロンを包む銀の箱を打ち破ろうと激しく打ち付けてきた。
『ギョギン、ガオンッ』
鈍い音が響き亘るが、傷一つ付かない。
「これは!? この蔓は、傲慢の魔王!?」
箱の中で叫ぶアロン。
――かつて、ファントム・イシュバーンの世界で倒した相手。
邪龍の森こと【ルシフェルの大迷宮】の最奥の主。
“傲慢の魔王オルグイユ”
その正体は、巨大な薔薇の化け物。
地面から真っ赤な茨を無数に生やし、侵入者を排除しようと執拗に攻撃を打ち付けてくる。
その猛攻は、千を超えるモンスターやギルド戦のプレイヤーの絨毯攻撃を遥かに超えるものであった。
しかも、一撃一撃が、重く鋭い。
攻略サイトにも掲載されない魔王という存在に警戒し、マガロ撃破してもそのまま乗り込まず、何度かマガロを倒しては集めた素材を使って神話級の防具を生み出した。
そしてレベル900に初めて達したプレイヤー特典として渡された最強武器、神剣グロリアスグロウを携え挑戦をした相手。
時間にして6時間。
圧倒的な戦力とプレイヤースキルを有するアロンと言えども、これほど長時間闘い続けた事が無かった。
まさに、桁違いの化け物。
だが、勝った。
6時間に及ぶ死闘の末、オルグイユを撃破した。
だが、そこで得られた素材は、無し。
代わりに渡されたのは、ただ一つのアイテム。
『アジュルードスクロアの鍵』
何に使えるのか、謎に包まれたアイテムだった。
“もしかして隠し扉があるのでは?”
最初はそう思い、オルグイユの居た部屋やその前段のマガロの部屋を隈なく探してみたが、何も見つけることが出来なかった。
その時に知った事だが、ファントム・イシュバーンでは他のモンスターやボスと同じように、邪龍マガロ・デステーアは何度も復活し、その度に偉大な女神への懺悔の言葉と、最奥に眠る魔王を守護しているといったお決まりの台詞を聞いてからの戦闘となった。
だが、傲慢の魔王オルグイユは復活しなかった。
“一度倒したら二度と戦えないモンスター”
それが、魔王という存在だった。
他にもアロンは3体の魔王を撃破しているが、どれも同じく復活することが無かった。
そして、魔王撃破で渡されたアイテム。
全て、『アジュルードスクロアの鍵』だった。
何に使うか分からない鍵。
当然ながら、攻略サイトにも記載無し。
しかも売ることも、捨てることも出来ない “重要アイテム” 扱い。
鑑定しても、出てくる文言は決まって『アジュルードスクロアの鍵』とだけで、説明も何も無い。
そして奇妙な事に、得た『アジュルードスクロアの鍵』は合計4つであったはずなのに、アイテム表記はいつも『1個』であった。
それでも、アイテム枠を一つ潰す謎アイテム。
そのまま、倉庫の肥やしとした。
“使いどころがあれば次元倉庫で取り出せば良い”
その程度の認識だった。
そんなアロンが、転生後に背筋が凍る思いをした。
このイシュバーンへ再び転生し、赤子の身体で何も出来なかった日々、アロンは “装備換装” で持ち込んだ数々のアイテムや武具を確認していた。
最大99種類。
重量10万ポイントという最大値を誇るアイテムバッグのまま、10枠もの登録の出来た装備換装を全て確認するのは容易で無かったが、自分の考えたアイテム持ち込みという裏技が成功したことで嬉々としてアイテム一覧を眺めていた。
そして、最後の10枠目を眺めていた時だった。
すでにあらゆる武具は収めていたので、10枠目にもなれば全て消耗品アイテムばかりだった。
エリクサー、フルキュアポーション、エクスキュアポーション、そして宝石類……これらが並ぶ一番、下。
アロンは、目を見開いた。
『アジュルードスクロアの鍵』
入れた覚えのない、倉庫の肥やし。
慌てて10番目のストレージを確認する。
“アイテム種類、100種”
“重量100,001”
何と、そこだけ数値が増えていた。
――まるで、『アジュルードスクロアの鍵』をアロンがイシュバーンへ持ち込むのが当然とばかりに。
背筋の凍る思いのアロンだが、“何か意味がある” と御使いの顔を思い浮かべ無理矢理納得するのであった。
そんな曰く付きのアイテムの元凶となる魔王が、銀の箱に包まれたアロンを助け出そうとしているのか。
……または、襲い掛かっているのか。
アロンは傷一つ付かない銀の箱に手を触れる。
ひやり、と冷たい感触がするが、瞬時に理解する。
覚えのある感覚。
そして、それはこの箱を用意した元凶が誰だかを、理解するのであった。
『ジュワッ』
弾けるような音と共に、箱は黒く染まった。
突然、漆黒の闇へと誘われるアロン。
触れていたはずの箱の感触が無くなった。
「やぁ! 久しぶりだねー、アロン君♩」
そして、後ろから響く陽気な声。
その声を聞き、アロンは自分の考えが正しかったことを認識した。
『お久し振りです、御使い様。』
振り向き、跪くアロン。
漆黒の空間に、淡く光る背の高い男。
白の髪に、白い肌に、白のスーツ。
全身を白で固める、優男。
それは、かつて自分をファントム・イシュバーンの世界へ転移させ、そしてこの故郷イシュバーンへと再び転生する機会を与えてくれた神の使い。
“狡智神アモシュラッテ”
再び、アロンの前にその姿を現したのだった。
「見ていたよ。おめでとう。」
アモスは手をパンッと叩き開く。
すると両手から色とりどりの花びらとリボンの切れ端が飛び散った。
『貴方様の御導きのおかげです。』
跪くアロンは深々と頭を下げた。
その様子を満足気で長め、ククク、と笑うアモス。
「それで、君はこれからどうするんだい? 復讐を遂げたから、あの可愛らしい奥さんと子作りに励んで平和に生きるかい?」
その言葉にアロンは黒銀の仮面の中で、顔を真っ赤に染める。
ファナと関係を持ったのは、結婚式を挙げたあの日の夜のみだ。
自宅には、祖父母の代わりに行商人として地方を巡る両親は居ないが、大事な妹も一緒に暮らしている。
いずれはファナとの間に子を授かりたい。
だが、そのための行為は、新居が出来るまではしたくとも出来ないアロンであった。
「あははは。照れちゃって。相変わらず初心だね。」
仮面の下の表情が見えているのだろう。
盛大に嗤うアモスへ、苦々しい目線を飛ばすアロンであった。
その様子に気付き、アモスは笑いながら頭を下げた。
「ごめんごめん。君を茶化すために会いに来たわけじゃないんだよ。で、どうなんだい?」
溜息が漏れそうになるが、アロンは御使いの質問に恭しく答える。
『御使い様の御導きのとおり。ボクは、害虫共の “選別” と “殲滅” を実行するまでです。』
復讐は果たした。
後は、この御使いへの恩義を果たす事だ。
そのアロンの言葉に、満足そうに頷くアモス。
「いいねぇ。それでこそ僕が見込んだアロン君だ。そんな君に、僕からのアドバイスさ!」
両腕を広げ、バーンという音と共にアモスの背後から派手に花火が上がった。
「……と、その前に質問だが、君は何を基準にして “選別” を行う?」
しばし考える、アロン。
『この世界に害を成すか、どうかです。』
うんうん、と頷くアモス。
「その判断は、以前、僕は “君に任せる” と告げたが、君はそれで良いと思うかい?」
アモスの質問に、首を傾げるアロン。
意味が分からないからだ。
『どういう意味ですか?』
「つまり、人の身として人を裁く時、明確な基準や拠り所が必要では無いのかい? と聞いているんだよ。ほら、人は僕たちと同じように感情で動く生き物だからね。」
しばし、考えるアロン。
確かに、帝国であっても帝国民に害を成す行為を働いた者は罪に問われ、刑罰が処される。
それが帝国法であり、法の番人として司法庁がある。
ただし、超越者だけは超法規的に行動することが認められている。
帝国の法で裁けず、アロンでなければ殺せない存在。
それが、超越者だ。
『質問を質問で返すことをお赦しいただきたいのですが。』
「構わないよ?」
『もし、貴方様よりその基準とやらを賜れるのなら、お聞きしたいのですが?』
うーん、と唸るアモス。
そして。
「無いよ?」
ガクッと滑り落ちそうになるアロン。
“だったら聞くなよ” と思うのであった。
「あはは。“だったら聞くなよ”、その通りだね!」
――相変わらず、アロンの思考は読めるようだ。
偉大な御使いではあるが、飄々と人を茶化す態度はいつも苛立ちが募る。
「無いけど、全員殺されると厄介だ、とだけは言っておく。」
――つまり、超越者全員は殺すなと言っている。
『仮に全員が、私の基準に合わなければ?』
「それは、君の仲間のセイルちゃんも殺すという意味と聞こえるけど?」
ニヤニヤ笑うアモスの言葉に、アロンは一瞬詰まる。
『今は、そのつもりはありません。』
「へぇー。今は、ねぇ。」
言葉尻を捕えるアモスの態度に、苛立ちが強くなる。
そんなアロンの様子に満足げに、ふふふ、と笑うアモスであった。
「まぁ、そう怒らないでよ。ぶっちゃけ、彼女がダメなら、恐らく全ての超越者が君の基準をクリアなんて出来そうにないからね。」
アモスは跪くアロンに近づき、肩へ手を置いた。
「君も知ってのとおり、奴等の大半は、イシュバーンの人間を人間として見ていない。」
『……ええ。』
歯を食いしばるアロンの肩をポンポンと叩く。
「だが、セイルちゃんみたいに一部の連中はそうでない。ところが、君自身もその肝心な部分で認めていないことがある。」
『……どういう意味ですか?』
「彼らも、人間だよ?」
その言葉に、アロンの全身が粟立った。
先ほど殺害したレントール達は、確かにこのイシュバーンの人々を人間として見てなく、さらにこの世界を “ゲームの世界” だと言い切った。
それが、超越者の思考だ。
だが、他方でセイルのようにこの世界で傷付いた人を治癒しようと、――その行為の結果、同じ超越者たちに “偽善者” と罵られようとも、自分の信念を貫きイシュバーンの人々に溶け込もうとする者も、確かに存在しているのだろう。
「いいかい? どんな世界でも、人間は人間なのさ。聖人君子にはなれない。知識があり、知能があり、それは人間の理性であり本能でもある。その上で、醜い欲求もあり、他者を思い遣る慈悲もある。」
真っ暗に染まる天を見上げるアモス。
その声は、少し寂しそうだった。
「君が先ほど殺した彼らは、確かに僕の目から見ても救いようの無い子たちだったよ。彼らの所為で、望まぬ命を宿した子がどれだけ存在するのやら。」
ギリリッ、とさらに歯を強く食いしばるアロン。
考えたくなかった、聞きたくなかった事実だった。
やはり、レントール達は救いようのない存在だと改めて理解した。
そんなアロンを諭すように、アモスはゆっくりと言葉を掛ける。
「だが、その産まれる命が不幸かどうかは、君が決めることではない。もちろん、神であったとしても主観で決めることでは無いがね。」
レントール達の所為で、望まぬ命を宿した女性は不幸かもしれない。
だが、産まれゆく新たな命には、罪は無い。
――もし、産まれるなら、せめて幸せに。
アロンがそれを願うのは傲慢なのかもしれない。
だが、そう願わずにはいられなかった。
「覚えておきなさい。人間は、どうあっても人間なのさ。汚れた醜い面があっても、それも人間なのさ。寛容に、受け止めなさい。――それでも。」
アモスは、跪くアロンに目を向けた。
「赦せない、そう思ったのなら斬れば良い。君には、その力と権利がある。この狡智神アモシュラッテの名において、それを許可する。」
アロンはアモスの顔を見て、再び頭を下げた。
『ありがたき幸せ。謹んでその大役を果たしてみせます。アモシュラッテ様。』
“神の名において赦された”
イシュバーンの神学で、それを認められたのは三大国を治める皇族・王族のみ。
だからこそ、彼らはそれぞれの神を信仰し、その神を崇めるように各国のモチーフにしているのだ。
その伝説と、並ぶ。
アロンは、自らに課せられた天命を、今一度噛み締めるのであった。
「さぁ、君の帰りを待つ者がいるだろう。それに、さっきから騒がしいからね。マガロちゃん。」
アモスはアロンに立ち上がるように勧めた。
『マガロが……ですか?』
「うん。彼女と僕は腐れ縁でもあってね。彼女に付き従う狼の娘には僕の仕業だなんて死んでも分からないだろうけど、さすがにマガロちゃんは気付いたみたいだ。下手すると、ここまで乗り込んできそうだね?」
驚愕するアロン。
邪龍にそんな真似ができるのか、と。
「ふふふ。君もまだまだ、知らない事だらけってことさ。いずれ知るかもね? この世界のこと、龍のこと、魔王のこと……。」
『そ、それは……。』
言いかけたアロンの身体が淡く光り輝きだした。
「時間だよ、アロン君。次に会う時、恐らく君は色んな疑問を僕にぶつけてくる事だろうね! その時は正直に答えることを約束するよ!」
盛大な笑みを浮かべ、アモスは指をパチンと弾く。
同時に、アロンは光に包まれて姿を消した。
◇
闇の空間。
ただ一人、アモスは佇む。
「そうだ。君は知る必要がある。マガロが何を隠しているのか、世界が何を隠しているのか。僕の口から伝えては意味がない。君自身が自分で気付き、知る必要がある。」
ククク、と笑うアモス。
「その結果、あの悍ましい剣先が喉元に突きつけられるのは、果たして僕か? それとも、マガロか?……いや、」
その目が、邪悪に輝く。
「狂った化け物たちに向けられることを、心より願っているよ。アロン君。」
次回、10月23日(水)更新予定です。