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5-5 覆る常識

“超越者”

異世界イシュバーンで、その存在は絶大だ。


前世の知識を持ち、多彩なスキルを有する、不死なる存在。

それ以上に、イシュバーンで絶対視される8種の “適正職業” の枠を超えた存在。


故に、超越者。

またの名を、“神の使徒”


遥か太古より終わらぬ戦争を繰り広げる三大国は、圧倒的戦力を有する彼らを手中に収めようと躍起だ。


他者を圧倒する力に、死なぬ身体。


どの国も、喉から手が出るほど欲しい。

どんな手段を講じてでも、死地に送り出したい。


引き換えに、待遇が厚くなるのは当然だった。

充分すぎる金品を与え、贅を尽くした住処を与え、満足のいく学業に、満足のいく役職へと重用する。



全ては、終わらない戦争のため。




では、超越者視点ではどうだろうか?


彼らは、別世界で科学の粋を結集させたような世界最大の仮想現実空間、VRMMO【ファントム・イシュバーン】の愛好家たちだ。


そこで、ある条件を満たした者(・・・・・・・・・・)には “女神” から声を掛けられる。



『ファントム・イシュバーンで培った職業とスキルのまま、異世界へ転生しませんか?』



それは、ファントム・イシュバーンをさらにリアルにした世界。


【異世界イシュバーン】


剣と魔法のファンタジー。

三大国が終わらぬ戦争を繰り返す異世界。


ゲームで。

小説で。

漫画で。

アニメで。


あらゆる娯楽で謳われる “異世界転生” が現実に。

女神に見染められ、飛びついた者はその願いが叶う。


それも基本職しか居ない、異世界。


同じ転生者がそれなりに存在するが、他者から見れば圧倒的存在。

しかも、死なぬ身体なのだ。


全ては、ファントム・イシュバーンのシステムスキルと言うべき恩恵。


ステータスの表示。

パラメーターの自由な振り分け。

そして、デスワープ。


例え、殺されても。

餓死しても。

生き埋めにあっても。

地下深くの牢獄に閉じ込められても。


老衰という肉体の限界を迎えない限り、生き返る。


翌日の朝6時。

必ず、五体満足で自室にて目が覚める。



“まるで、ゲームの世界”



全てが、そう誤認(・・)させるように噛み合う(・・・・)、世界。


しかも転生した者に与えられるのは最高の持て成し。



そんな世界へ、転生した者はどう考える?



―――――



イシュバーンでの時間で言えば、28年前。

この世界に、レントールという者が転生した。


憧れた異世界転生。

しかも、他者を圧倒出来る力を有しての存在として。


死なぬ身体。


だが、傲慢に事を進めては失敗する。

彼は虎視眈々と、世界のこと、自分の力のことを理解していった。



転機が訪れたのは、12歳の鑑定の儀だ。

街に訪れた神官の鑑定で、彼は “超越者” であると判明した。

そこから始まる、黄金時代。


煌びやかな帝都での暮らし。

一等地に構えられた豪邸。

約束されたのは、遊んで暮らせるほどの給金。

そして、甲斐甲斐しく世話をする、美しい使用人。


超越者という絶対的存在に、何一つ口答えをしない若く美しい娘たち。


彼は、移住2日目にして若い使用人の操を散らした。


その娘は、処女だった。

婚約者もいた。


だが、関係無い。


憧れた異世界転生を果たしたが今日まで抑え込んでいた欲望のまま、娘を抱いた。

身体は少年であるが、精通は経ていたので抱けた。


次の日は、亭主を持つ20歳の使用人を抱いた。

その翌日は、その使用人が連れてきた妹を抱いた。


抱いた。

毎日、日替わりで、抱いた。


そのうち、最初に抱いた娘が妊娠をした。

その事実を知った時はさすがに焦ったが、なんてことはない。


執事に命じ、娘を放逐した。

屋敷の主と関係を持ったこと、その主は憧れの超越者であり、主の子を宿した悦びから自ら婚約を解消してレントールと生涯を添い遂げようと考えていた娘であったが、あっさりと捨てた。


次いで亭主の居る女が妊娠した。

それが自分の子であるかどうかの証拠は無いとして、その女も放逐した。


放逐すれば、また新しい使用人が入る。


“ああ、簡単な事だ”


何をしても許される身であると、うぬぼれた。



そのうち、使用人を抱くのを飽きた。

どうやら送り主である帝都の執政官も気付いたようで、そういう関係を望む超越者を任せるに適した女性たちを送ってきたのだ。


彼女らは多額の給金の約束と引き換えに、子を宿さぬ身体へと身を捧げた者たちだった。



“それでは面白くない”



歪みに歪んだレントールは、標的を変えた。




帝都に移り住む彼は、高等教育学院へ通学していた。


前世の知識に、他者を圧倒する実力。

当然ながら、最高位のSクラス配属。


そこで、運命の出会いがあった。

同じ超越者、司祭ソリトと忍者ブルザキという2人の男だ。


ファントム・イシュバーンでは同じ帝国陣営であったにも関わらず別々のギルド所属であったため絡みは一切無かったが、話を聞けば、ソリトもブルザキも、レントールと似たか寄ったかの思考と嗜好の持ち主であった。


“これは好都合”


超越者という絶対的な立場を最大限利用し、彼らは高等教育学院に通う若い娘を標的とした。


最初は、気の弱そうな女。

三人で囲み、順番で姦した。


次にその女を脅し、別の女を連れて来させた。

やる事は同じ、順番で姦すことだ。


そうやって、芋づる式に学院生を犯し続けた。


幸運なことに、レントールも、ソリトも、ブルザキも容姿は優れていた。

甘い言葉と表情で宥め、言葉巧みに操る。


最初は怯えていた女が、次第に彼らに陶酔するようになった。


だが、そうなったらおしまい。

いつでも抱ける女など、興味が無い。



彼らは堕ちるところまで、堕ちていった。




タガが外れたのは、貴族の女を犯した時だった。


超越者で無いくせに高飛車で鼻もちならぬ女だった。

それを一人で居たところを攫い、無理矢理に犯した。


見下され、罵倒され、激しい抵抗にあったが、それを押さえ付けて犯す。


今までに無かった状況。

レントールは、その状況に強い興奮を覚えた。


高飛車な女が、喚き、泣き叫び、汚い言葉で罵ってくるのを、圧倒的な力で抑えこみ、無理矢理犯す。

殴り、掴み、締め上げるなど、暴力で圧倒する。


犯しても、抵抗をしない他の女とは違う。



“これが、追い求めていたものだ!”



ついに、3人は手を出してはならぬ者を標的とした。



帝国には、最上位貴族の公爵家が三家ある。


帝国の財政と流通の屋台骨を支える “ビッヅレーゼ家”

あらゆる機関から独立した司法の番人 “ランバラル家”

そして帝国の政事の頂点 “マキャベル家”


彼ら三人と同じSクラスに、ビッヅレーゼ家の公爵令嬢が在籍していた。


“ローア・フォン・ビッヅレーゼ”


当時、高等教育学院で最も美しく、最も権威ある令嬢。細身で背は低いが、出るところが出ている美しい娘だった。


超越者では無いが、貴族頂点の公爵家の御令嬢ということもあり、クラスメイトとは言え滅多に会話することなど出来なかった。


むしろ、ローアに避けられていた。


『Sクラスの超越者3人組は、獣だ』

『泣き叫ぶ貴族令嬢を、強姦した』

『被害にあった女性が数多く存在する』


そんな噂話が、学院中に響いていたから。


だが、噂は噂。

ましてや超越者、教員すら意見するなど出来ない。



だから公爵令嬢とて、例外ではない。



まずは、一番端正なレントールが彼女に近づく。

そして、紳士の仮面を被ったソリトとブルザキが傍に寄る。


『話がしたい』『相談したい』そういった取り留めのない事から、徐々に心の壁を取り払い、いずれは人通りの少ない場所へ彼女を呼びつけ、犯す。

犯す際は、かつての超越者が発明した “カメラ” を用いて一部始終を撮影し、それをネタに脅し、身も心も支配する。


それが三人の手口だった。



『分かりました、レントール様。伺いますわ。』



その手口にまんまと乗ってきたローア。

何となく避けてはいたが、あくまでも噂話。


何度か会話を試みる中で『所詮は噂話』と判断されたのだろう。



そして、呼び出しの時。

薄暗い、校舎の死角。



約束とおり一人でやってきたローアを、ブルザキが問答無用で羽交い絞めにする。

即座にソリトがローアの服に手を掛ける。


レントールはその様子を、カメラを構えて眺める。


最も美しい公爵令嬢。

どんな罵倒が、その小さな唇から飛び交うのか。

どんな憎悪を瞳に宿し、泣き叫ぶか。


それを想像していたレントールは、思わず何もしないまま果てそうになってしまった。


“危ない、危ない”


気持ちを落ち着かせ、二人の男に剥かれる公爵令嬢を見た。




直後。

信じられない光景が飛び込んだ。




羽交い絞めしていたブルザキは、両腕が吹き飛んだと同時に、頭と足を180度回転させて地面に叩きつけられ、服を剥こうとしていたソリトの両腕が、肩から無くなっていた。


為す術なく犯されるはずだったローアが、服に隠していた短い木刀で二人を圧倒したのだった。



『貴様らの悪事はお見通しだ。下衆め。』



いつものお嬢様口調からは想像できない蔑んだ言葉。

血の滴る木刀を振り抜き、腰を抜かすレントールの首元に突き立てる。



ローアは(・・・・)超越者だった(・・・・・・)

それもレントール達を圧倒する程の上位の存在。


ずっと、その正体を隠していたのだ。



それからの事を、レントールはあまり覚えていない。


ローアが用意した公爵家の騎士たちに連行され、地下牢へ入れられた。

腕を失ったソリトとブルザキが苦しみ悶えるという地獄の中、彼らに告げられた沙汰は、退学だった。


……余談ではあるが、それを機に高等教育学院では超越者の中でも実力の高い者を招聘教員として招き、超越者が在籍しやすいSやAクラスを受け持ってもらう事を決定したのであった。



退学となった彼らだが、超越者である以上、帝国は真の意味で裁くことが出来ない。


対外的に彼らは “死罪” となったが、超越者である以上、意味が無かった。

ローアの手によって失ったソリトとブルザキの両腕を取り戻すための、デスワープ発動が目的だったのかもしれない。


だが、彼らに与えていた特権を奪うことは出来る。


彼ら3人の屋敷は取り壊しとなり、住んでいた家族たちも元の街へと戻された。

加えて、彼らが犯してきた全ての女性に対する賠償を負わせた。


その総額、白金貨30枚。

30億Rという大金だった。


普通に過ごしていたら、そんな大金は払えない。


そこで帝国が彼らに課した条件。

冒険者となり、様々な任務の遂行に戦争への出兵することだ。


――要するに、多額の賠償金を課しただけで、後は超越者に対する “期待” だけであった。



それから、彼らは “荒野の光” を結成した。

他のギルドがやりたがらない、盗賊の討伐や町村の護衛など、善行とされる余り旨味の無い依頼ばかりを受けた。


それも、帝国からの条件であった。


だが、そのことが裏目に出た。

いくら帝国の条件とは言え、それら他のギルドが受けたがらない依頼は、得てして功罪ポイントが高い。


地に落ちた彼らの名誉とは裏腹に、“荒野の光” は、帝都一の功罪ポイント獲得ギルドとして表彰されるほど、高い名声を得てしまったのだ。


そう、得てしまった(・・・・・・)


超越者という立場。

高い功罪ポイント。


ある程度の “おいた” は許される状況。

レントール達は、再び、人知れず女性を毒牙に掛けるようになった。


表向きは、善行を積むギルド。

裏では、仲間と共に女を犯す。


両極端な行動は、そのままギルドの評判となった。



その内、潰した盗賊が恩赦を求め、彼らに従うようになった。


使い潰しの利く、駒を得た。


ある時は盗賊行為を行わせ、それを捕らえ冒険者連合体へ突き出す。

ある時は報われぬドブ攫いのような仕事をやらせる。


結果、噂話とは真逆に、荒野の光の功罪ポイントは益々積み上がっていった。


その辺りから、同じ善行を積み上げる “蒼天団” のギルドマスター、カイエンという男と懇意となった。

彼もまた、同類。

意気投合した彼らは、互いの功罪ポイントのため、あの手この手の抜け道を使っていった。



目的はただ一つ。

いつか町か村を支配して、好き勝手に生きること。


男は殺し、女は犯す。

財産を得て、その富を使って新たな女を招く。


壮大なハーレム計画。

欲望と劣情が渦巻くまま、過ごす事。


それがまかり通るのが、超越者という存在。

それを後押しするのが、功罪ポイント。


だが、そのためにも力がいる。


いくつかのダンジョンにもチャレンジしたが、ファントム・イシュバーンのように上手く行かない。

攻略には、近くの町か村を拠点にする必要があった。


拠点。

支配。


趣味と欲望、そして実益が噛み合った。


その計画を立てていた矢先、懇意にしていたカイエンがヘマをして投獄されたという話を聞いた。

まさかと思い、ブルザキを帝都の地下牢最下層へ派遣した。


その地下牢で、豪華な暮らしをするカイエンから聞かされた事。



蒼天団の超越者セイルが、裏切ったという話だった。



セイルは、帝国軍で非常に有名な超越者だった。


極東系の黒髪に、端正な容姿。

分け隔てなく、怪我人を一生懸命治療する姿。


付いた二つ名が、“癒しの黒天使”


だが、カイエンや他の超越者からしてみれば彼女の行動は奇妙だった。

何故なら、この世界の人間は全て “NPC(モブ)” だ。


そんなモブを治して何になる?


ただの自己満足。偽善。

周りの評価とは逆に、セイルは戦場に立つ超越者からの評判は悪かった。


だが、目を見張る程の美女であるには違いない。


“いつか犯したい”


それが3人の共通する考え。

まさか、その願いが叶うチャンスが訪れるとは!


カイエンから、裏切ったセイルを犯して壊すこと、そしてカイエンの前に引きずり出すことを依頼として受けたのだった。


加えて、カイエンを陥れたラープス村という田舎村の美しい村長、アケラを犯すこと、村を支配下に治めることも依頼として出された。


嬉々として受託するブルザキ。

すぐさまレントールとソリトに告げ、大喜びで準備を整えた。


功罪ポイントは十分。

しかもラープス村は、攻略を検討していた【プルソンの迷宮】の近くで、願ったりかなったりだ。


配下の盗賊共を使い、ラープス村を調べさせた。

すると、驚くべき事実が入った。



“超越者セイルは、ラープス村に滞在している”



一石二鳥、いや、一石三鳥か。



準備を整え、配下を従え、3人は万感の想いでラープス村へと足を運んだ。


季節は、間もなく冬の、秋。

きっと雪が降る前に、カイエンに良い報せが出来る。



村に着いた3人は早速、村長宅へと向かおうとする。

噂の、美人村長を一目見るのが最大の目的だが、村を友好的に拠点として使うか、支配するか、どちらにせよまずは治める長への交渉が前段となる。


“問答無用で襲撃したのではない”

“きちんと交渉する場を設けた”


これが、盗賊行為であるか、超越者のギルドとして必要不可欠な行動かの違いに関わってくる。

避けては通れぬ手続きなのだ。



道中、謎の巨大荷物を背負う美しい娘に会い欲情のまま犯したくなったが “下手な事をして支障が出たら不味い” と判断し、当初の予定通り村人に声を掛けて村長の居る場所へと向かった。



村長は、村の集会場で働いていた。



超越者の冒険者が訪れたということで、最初は機嫌良く対応してくれたアケラという村長。

噂に違わぬ、美しい女性であった。


年齢は、レントール達と変わらないくらい。

それが村長をしているという事に驚きもしたが、確かに、この世界に住むモブにしては中々高い実力を有していると感じた。


その隣にいる、睨みを利かせているガレットとか名乗った護衛の小僧も、相当の手練れだろう。


だが、所詮は “基本職”

超越者であるレントール達に、敵うはずがない。


レントールは、予定通りアケラに条件を突きつけた。



一つ、ラープス村を拠点として使わせること。


二つ、ラープス村で生み出した利益を荒野の光へ一部提供し、ギルドの目的達成のためには協力を惜しまないこと。


三つ、ラープス村の住民は荒野の光に従うこと。


四つ、これらを遵守すれば、1年以内にラープス村から撤収する。



攻略未達成のダンジョンを、攻略するための措置。

……そう言えば聞こえが良いが、むしろ目的はラープス村の実効支配にある。


どうやらその意志を感じ取ったのだろう。

憤慨する、アケラに護衛のガレット。


当然と言えば当然だ。

どうしても、醜い劣情を美しいアケラに向けてしまったし、何より、ギルドの若い男たちの慰み者として、村の若い女を提供せよ、と遠回りながらも要求したのだからだ。


本来なら、超越者でもそんな横暴が許されない。

だが『村側が頼んでもいないのに勝手にやった』なら話は別だ。


だからこその支配なのだ。


憤慨するアケラは、この事は帝都の各省庁へ訴えると喚き散らした。


『どうぞ? 無駄なことですから。』



それだけ伝え、レントール達は村を後にした。


これが、宣戦布告だ。



あとは、深夜。

ラープス村の近くの森に待機させた12人の子分たちと、村を蹂躙すれば目的は達成だ。





「なぁ、ブルザキ。お前はどっちが好みだった?」


間もなく深夜。

闇夜の空は雲が多く、風流れで月明かりが雲で覆われた時が、襲撃の合図だ。


そのタイミングを今か今かと待つ司祭ソリト。

“どっちが好みだった?” と聞いたのは、夕暮れで偶然に出会ったセイルと一緒に居た、ラープス村の村娘と思わしき女性二人のことだった。


「オレは断然、茶髪の方だな。」


黒装束を纏う忍者ブルザキは、クナイと呼ばれる投げナイフを地面に並べながら答えた。

真面目な準備のように見えるが、表情は厭らしく歪んでいる。


「ああ、あの女は良い身体付きしていたな。着やせしていたが、ありゃあ相当胸がデカイと見た。」


「オマケに美人。あれほどの美人ってローアか、宰相のところのレオナくらいじゃね?」


「そうかもな……ってオイ、ローアの名前を出すなよ。胸糞悪ぃ。」


「悪い悪い。あぁ、早く茶髪ちゃんを犯したいぜ。」



その女は、村娘とは思えないほどの美女だった。


様子からして、一緒にいた男共の中で一番冴えない、背の低い奴と恋人同士だったのだろうか?

自分たちの姿を見て、そいつの背中に身を隠すようにしていたが、ブルザキは見逃さなかった。


仲睦まじく、手を繋いでいたことを。


正直、信じられなかった。

あんな冴えない小僧が、恋人!?

正面に居た背の高いイケメン野郎なら分かるが、あのモブ野郎が美人の恋人とは……。


悔しい思いもあるが、残念にも思う。


何故なら、もしあのイケメン野郎の恋人なら、目の前で犯して見下してやれたのに、と思うのであった。

端正な顔が絶望と憎悪と悲哀に歪むところを肴に、女を滅茶苦茶に犯す。


考えただけで得も言えぬ興奮が沸き起こる。


「お前はどうなんだよ? 茶髪ちゃんなら、最初はオレに譲れよ?」


「オレは金髪ちゃんだな。」


“思ったとおり”

ブルザキは下卑た表情を浮かべた。


「相変わらずのロリコン趣味だな、お前は。」


「ひひひっ。」


セイルと一緒に居た、もう一人の女性。

いや、少女だった。


薄暗い街道でもはっきりと分かるほど、美しく輝く細い金の髪。

少々気の強そうな猫目であったが、セイル、茶髪女に負けずとも劣らない可愛らしい少女であった。


だが、セイルや茶髪女とは違い、胸は大きく無い。

未だ少女の殻を抜けきれない、幼い娘。


ソリトは、少女趣味だった。

成熟した娘や女性よりも、成長が半ばの少女を犯す事が、最も興奮するのであった。



そんな幹部二人の会話を、ソワソワとしながら聞き耳を立てる部下たち。

どうやら幹部二人は、茶髪と金髪の美しい娘が好みのようだ。


ならば、自分たちは噂の美人村長か。

あわよくば、“癒しの黒天使” セイルか。


全ては、リーダー。

レントールの言葉で決まる。


「お前さんはまず誰から犯す? レントール。」


ソリトが振り向き、優雅に椅子に腰を掛けるレントールへ訪ねた。

しばし考え、レントールは口元を歪める。


「セイルだな。カイエンとの義理もある。下手打って逃げられたら溜まったもんじゃない。ボロボロに犯して逃げられないように、そして自害してデスワープされないように拘束する必要がある。お前達も村娘を犯すのはいいが、依頼内容は忘れるなよ?」


歪んだ笑みを浮かべながらも、釘を刺す。

ああ、と声を揃えるソリトとブルザキだった。


「村長ちゃんはどうするよ?」


「こいつらで囲ってしまえば良い。確かに美人で犯し甲斐がありそうだが、セイルやあの村娘たちと比べると見劣りしてしまうな。」


レントールは、後ろに控える子分たちを見る。


「そういう訳だ。卑劣な罠で投獄されたカイエンの敵討ちでもある。村の女村長をお前らで囲め。子どもの一人二人を人質に取れば充分だろ。あと、若い女たちは捕えても手は出すな。まずはオレ達……だぞ?」


「「「へぇっ!!」」」


その時、サアァァァッと冷たい風が吹き込んだ。

同時に、厚い雲が月明かりを隠した。



「よし、行くぞ。」



静かにレントールは立ち上がる。

それが、襲撃の合図だ。


「“毒蛇”」


ブルザキは、武器や投擲物にバッドステータス “猛毒” 効果を発生させる、忍者のスキル “毒蛇” を地面に並べた数十本のクナイ全てに付与した。


ぬらり、と深緑の液体が刃に付着する。

これで掠り傷でも、相手に “猛毒” を与える危険な武器となった。


『猛毒』

・状態異常

・30秒間 HP0.25%/0.25秒 割合減少

・30秒間 HP500/0.25秒 減少

AGI(回避力)50% 減少


紐に括ったクナイを持ち上げ、ブルザキは村の方へと目を向ける。



「ん? なんだ、あいつは?」



忍者スキル “忍者の心得” の常時発動能力(パッシブルスキル)の一つ、“視覚増強” によって、遠視・暗視が可能となる。

そのため、他の者とは違う光景をブルザキは見ることが出来るのだが。


「どうした?」


「村の入口に……妙な門番がいる。」


帝都の騎士のような出で立ち。

村の門番にしては、装備が仰々しい。

しかも高価そうな白マントまで羽織っている。


田舎村に似つかわしくない姿に、ブルザキは思わず躊躇った。


しかし。


「一人か?」


「一人だな。オレ達が宣戦布告したのに、ナメているのか?」


徐々に苛立ちを露わにするブルザキ。

それを宥めるように、ソリトが笑みを浮かべた。


「あの村長ちゃん、オレ達の襲撃が今夜だと思っていないんじゃないか? 」


村に訪れたのは、超越者とはいえ、3人だけ。

他の配下を村の近くで待機させている可能性を考慮しなかったのか “3人だけですぐ襲撃してくるわけがない” とでも考えたのだろうな、とソリトは考える。


「平和ボケ過ぎだろ?」


小声で笑うブルザキ。

だが、その証拠と言わんばかりに門番は一人だけ。


歪みそうになる口元を押さえる、レントール。


「どうせ、何人居ようともブルザキの毒クナイで殺されたことも理解出来ぬまま、あの世行きだ。そいつの鎧は貫けそうか?」


ブルザキは “遠視” で全身鎧を見る。


「問題ねぇな。安物だな、ありゃ。」


黒銀に輝く鎧だが、あの手の防具はファントム・イシュバーンでは程度の低い初心者防具にありがちだ。

この超リアルゲーム、異世界イシュバーンでも同じだと判断した。


ブルザキは紐に括られた数十本の毒クナイのうち、丁度10本を紐から滑らせるように落とした。

すると、空中でフワッと浮かぶ。


「“蓮華打ち”」


武闘士系上位職 “忍者” 、そして覚醒職 “鬼忍” と “武聖”、極醒職 “神拳” に自動的に備わる特殊効果 “武器投げ”

文字通り武器や専用の投擲アイテムを投げるこの技は、武器のATK(攻撃力)に現在ATKとDEX(器用)をそのまま上乗せして、敵に大ダメージを与える。


デメリットは、投げた武器やアイテムが失われること、“英雄級” 以上の武器は投擲出来ないことだ。


“蓮華打ち” は、同時に最大10個の武器・投擲アイテムを投げつけるスキルだ。

しかも、ファントム・イシュバーンでは不可能であった “スキルの重ね合わせ” を可能としている。


まず、“毒蛇” で猛毒効果を複数付与する。

それを “蓮華打ち” で放つ。


加えて、“忍者の心得” のもう一つの常時発動能力(パッシブスキル)


無音攻撃(サイレンサー)


VRMMOファントム・イシュバーンは、視覚や聴覚だけでなくVR機器から発する電気信号で脳のシナプスが刺激されることで、ほぼ五感を駆使してゲームに没頭することが出来る。

即ち、より現実に近づけた世界で五感を駆使して動き回ることが出来るのだ。


“無音攻撃” は、スキル発動音や気配すらもかき消す。

一見地味な効果だが、ファントム・イシュバーンの世界ではその仕様のため、厄介な能力ともなる。

しかも、発動後の風を切る音や、スキルそのものから発せられる音すらも消してしまうため、気付かぬままその攻撃をもろに食らう事にもなる。


“視覚増強”、そして “無音攻撃”

“忍者” をジョブマスターにさせすれば、他職でも “忍者の心得” を選択することが出来るようになるため、別系統の転職先として “薬士” に次いで人気なのが、“武闘士” だ。


なお “薬士” が人気な理由は、基本職である “薬士” をジョブマスターにして他職で常時発動型スキル “薬士の心得” を選択すれば、薬士の専売特許とも言うべき『調合』が扱えるようになるからだ。

他職で調合が使えるようになるという状況から調合成功率は薬士系に比べ10%減に設定されるが、誤差の範囲として捉える上位プレイヤーは多い。




月明かりが、雲に覆われた完全な暗闇。

約200m先の村の入口に立つ全身鎧の護衛向けて、ブルザキ渾身の “蓮華打ち” が音もなく放たれた。


毒が塗られたクナイが10本。


1本でも突き刺されば、バッドステータス “猛毒” が発生する。

毒消しポーションが無ければ、食らうダメージは30秒で60,000、そして全HPの3割が削られる。


基本職しか居ない、しかも超越者以上にレベリングが上手く出来ないNPC(モブ)は、たった1本の猛毒クナイでも致死となる。


もちろん、投擲したクナイ自体の攻撃力も高い。



“突き刺されば、あんな安物鎧など貫通し、中身の人間はそれだけで絶命するはずだ”



それが当然。

それが予定調和。


音もなく、苦しむまでもなく。

門番は、死ぬ。



「あ?」


その光景を脳裏に浮かべながら遠視で門番を見るブルザキは、気の抜けた声を漏らした。



先ほど、立ち上がった全身鎧の門番は、ブルザキの “蓮華打ち” と合わせるかのように、背に背負った大剣を掴み、振りかぶった。



同時に、信じられない事が起きた。



投げたクナイが、全て地面に落ちた。



唖然とするブルザキ。

スキル発動後の硬直という、最も隙の大きい態勢であったことも仇となった。



「ギャアッ!」



口から漏れる、悲鳴。

上手く、息が吸えない。


“暗視” で、昼間のように風景が見えるブルザキの目に映るは、吹き出す真っ赤な血飛沫だった。


――それが、ブルザキが見た、最期の光景(・・・・・)だった。



「な……に……?」



一瞬で視界を闇へと閉ざし、大きく後ろへ倒れた。




“異世界イシュバーン”

遥か太古より続く三大国の戦争に、遥か太古から存在する超越者たち。



地下深くの牢獄に閉じ込められても。

生き埋めにあっても。

餓死しても。

例え、殺されても。


老衰という肉体の限界を迎えない限り、生き返る。



それが、超越者と世界の常識。



その常識が、今、覆る。




次回、10月18日(金)更新予定です。

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