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4-21 拘束

「は、酷い目にあったぜ。」


イースタリ帝国 “東区” 貴族街。

その一画、“超越者” カイエンの屋敷。


時刻は朝6時。

前日に命を失い、死に戻りこと “デスワープ” で帰還した超越者が等しく目覚める時間だ。

その法則(ルール)とおり、カイエンは自室のベッドから身体を起こした。


恰好や装備は、死ぬ直前のもの。


だが、受けた傷は完治している。


例え幼少期に受けた古傷があっても、病で床に伏せていても、物理的な手段で命を失いデスワープが発動すれば、その全てが治る超越者にだけ赦された異端の能力だ。



昨日、ラープス村で思わぬ指摘に追い詰められて激高したカイエン。

その場に居た証言者や証人、当事者などを全て皆殺しにして “無かったこと” にしてしまおうと襲い掛かったが、逆に返り討ちに遭ってしまった。


もはやこれまで、と潔く自刃した。

それはある種、逃げの一手であった。


--しかし。



「ククク……オレの勝ちだ。」


首元に手を当て、自身で割いた傷が塞がっていることを確認しながら呟くカイエン。

ベッドから身体を起こし、全身を確かめる。


ガレットとかいう護衛の小僧から受けた盾攻撃で、恐らく身体中あちこちの骨も折れていたのだろうが、それら全て元通り。

五体満足であることを実感し、カイエンはほくそ笑む。


「さて、こうしちゃおれねぇな。」


笑いながらも、忙しく準備を始めるカイエンだった。



“アケラからの通達書”

“アロンの手紙”


事の発端となったこの2通の手紙は、一昨日ラープス村を出発したと思われる使者が携え、早馬でこの帝都に向かっているはずだ。

仮に一昨日の朝方に出発したとなれば、今日の昼前には帝都に到着するだろう。


その前に、妨害工作を施す。


まず、依頼主である “魔戦将” ノーザンに事の顛末を伝える。

プライドの高い男だ、恐らく激高しカイエンを非難してくるだろう。

だが、言い争う時間は無い。


まずは、早馬が帝都の西門へ到着する前に押さえる必要がある。

これはノーザンの息のかかった、薄暗い仕事に慣れている連中が手を下すだろう。


丁度、ノーザンともカイエンとも親交のある、ギルド “荒野の光” が打ってつけだろう。

“剣闘士” レントールと、“司祭” ソリト、“忍者” ブルザキの3人が率いるギルドで、メンバーは盗賊崩れの荒くれ者ばかり。

奴等は、金さえ払えばどんな汚い仕事でも請け負う。


(そう言えば近々、帝国の東南にある “プルソンの迷宮” の攻略に乗り出すとか言っていたな。あそこはラープス村が近い。“拠点化” するよう勧めてみるか。)


凄惨な笑みを深めるカイエン。

脳裏に浮かぶのは、自分(カイエン)を散々虚仮にした村長アケラと、黒銀の全身鎧に身を纏った【暴虐のアロン】だ。


“拠点化”

超越者がダンジョン等の攻略のため、近くにある町や村に一時的に住み着く行為だ。

ただ単純に住むだけでなく、“拠点とする” と宣言すれば、仮にダンジョンなどで死んでも、デスワープの帰還先が拠点となるのだ。


拠点とするのは、部屋を借りても宿の一室でも良い。

ただ、ファントム・イシュバーンで言う “拠点化” は少し意味合いが違う。


それは、自身のギルドの傘下に町や村を治めることだ。


デスワープの拠点だけでなく、町や村の収益をギルドに納めさせ、特産品という名のアイテムの定期的な補充が行われるメリットがある。


方法は二つ。

町や村の特殊クエストを完全達成して友好的に傘下へ収めるか、武力にモノを言わせて無理矢理従わせるか、だ。


無理矢理従わせるのは、楽に傘下に治められる。

ただし、ファントム・イシュバーンのゲームシステムである “ギルドの功罪ポイント” が激減するデメリットもあるため、傘下に治めた際の利益と、功罪ポイント減による影響とを天秤に掛けて実行するか否かを決める。


それは、ゲームの世界なら、だ。


だが、現実世界であるイシュバーンも、ゲームの延長上にあると考えるカイエンやレントール達は実際に武力による拠点化についても躊躇いが無い。

“功罪ポイント” の減少がどう影響してくるか分からないので、実行していないだけだ。


“どうせ、アロンはもうラープス村には居ない”

手紙に、聖国か覇国へ移ると書いてあった。

もし方便であれば、それはそれで “国境跨ぎを仄めかした” として罪に問えるし、実際に国境跨ぎを行おうとすれば、それ自体も罪になる。


さらに手紙には “次は戦場で会いましょう” とまで書いてあった。

カイエンは帝国の法律に詳しくはないが、“国家反逆罪” にも該当するのではないか、と予想する。


どのみちアロンの行動は制限することが出来るし、ラープス村にも戻ることが出来なくなる。



まず、ラープス村からの使者を押さえる。

アロンが国境跨ぎを仄めかしているため、国境跨ぎの取り締まり強化を具申する。

そして、アロンへの見せしめとしてラープス村をレントールに拠点化してもらい、さらにアロンの行動を制限する。


問題点を挙げれば、ラープス村には村長アケラと、リーズルとガレットという異様に強い者が居るということだ。

だが、それでも夜襲を掛ければ対応は出来ないだろうし、村の女子共を人質に取って脅せば、手も足も出せなくなるはずだ。



(ちょいと予定が狂ったが、アロンを従える算段は付いたな。)



心配な点として、アロンが無理矢理国境警備隊の網を潜り抜けること、つまり【暴虐】を尽くして敵国に逃げてしまうことだ。

だが、その可能性はゼロに近いと、カイエンは考える。



(そんな事が出来る奴なら、帝都行きを拒むはずがない。)



帝都行きを拒む理由。

その一点だけが未だ謎であったが、考えられる理由は、


「村への恩義、村に惚れた女がいる、権力に従いたくないから、とか、そういう理由だろうな。」


更に笑みを深めるカイエン。

考えれば考えるほど、【暴虐のアロン】は愚か者だと確信する。


帝都行き拒否の理由がラープス村にあるなら、すでにアロン自身の行動によってラープス村は破滅へと誘うことが出来る。

“権力に従いなくない” という高尚な考えなら、単なる我儘であり、その我儘によってラープス村が巻き込まれ、破滅へと進むからだ。



「オレをハメたみたいだが、やり過ぎなんだよ、アロン。テメェでテメェの首を絞めるんだからな。これが笑わずにいられるか。」



そのためにも、急いで妨害をしなければならない。

カイエンは、足早に部屋を飛び出した。







「だ、旦那様っ!?」


部屋から出るや否や、屋敷付きの使用人(メイド)が驚愕に叫んだ。

任務で出ているはずの主が、自室から姿を現したことによる驚きか。


「応。帰ってきたぜ。知っているだろ? 死に戻りってやつだ。」


頭を掻きながら照れ笑いをするカイエン。

彼の許で仕えるメイドもNPC(モブ)ではあるが、国から与えられた特権の一部であるため暴悪を働くなどすれば、使用人の派遣停止や給金の減額など、相応のペナルティが科せられてしまう。

すでに上位ギルドのギルドマスターである彼はそこからも多額の報酬を得てはいるが、帝国の中枢に睨まれるのは御免被ると、それなりの態度で接しているのだ。


「オレはこれから出かける。悪いが朝飯は抜きにしてくれ。」


笑みを浮かべて手をヒラヒラと振る。

だが、いつもなら「仰せの通り」と甲斐甲斐しく頭を下げるメイドなのだが、手を口に当てながらカイエンを見つめ青褪めている。


その様子に首を傾げる、カイエン。


「ん、どうした?」


「……おはよう、カイエン。」


突然後ろから声を掛けられ、思わず刀に手を掛け振り向くカイエン。

そこに居たのは……。


「レ、レイザー。それにノブツナに、オルト。」


真っ黒の全身鎧と仮面を被り帝国章が刻まれた赤い外套を羽織る小柄な騎士。

高等教育学院の教員の証である紺色の制服を着た、長い黒髪を後ろへ束ね無精髭を生やしたアンバランスな男。

そして、赤茶色の忍装束を着て背中に2振りの刀を背負う背の高い灰髪の男が立っていた。


帝国軍輝天八将 “黒鎧将”

剣士系覚醒職 “剣聖” レイザー


冒険者連合体帝都本部所属ギルド

“白翼騎士団” ギルドマスター

兼、高等教育学院教員 “剣術指南役”

剣士系覚醒職 “修羅道” ノブツナ


冒険者連合体帝都本部所属ギルド

“巨木の大鷲” ギルドマスター

兼、帝国軍万人隊長 “筆頭”

武闘士系覚醒職 “鬼忍” オルト


帝国に所属する超越者の中でも五指に入る実力者の内、3人がカイエンの前に立ちふさがった。



「こ、こんな朝っぱらから。オレの屋敷に、いや、オレに何の用だ?」


あえてお道化て尋ねるカイエン。

ヘラヘラと笑うが、その内心は大いに焦っている。


昨日まで、【暴虐のアロン】獲得のためラープス村に滞在していた。


それは、“魔戦将” ノーザンからの命だった。

目の前に居る小柄の騎士、同じ将軍位であるレイザーが知らない訳がない。


そのレイザーが、この場に居る。


しかも、同じ超越者の中でも遥かに実力の高い2人を引き連れているため、悪い予感しかしない。


「カイエン。残念だよ。“君を捕えよ” と、人民庁に財務庁、それに司法庁と教会本部まで怒鳴り込んできたんだ。いくら君が転生者でも、こちらの世界のルールがある以上、捕らえないわけにはいかない。」


やれやれ、と言ったジェスチャーをして、オルトが答えた。

その言葉に、唖然となるカイエン。


「な、何で、オレがっ!?」


「ラープス村への視察団長である君に、様々な嫌疑が掛けられている。コレさ。」


オルトは胸の中から、一通の手紙を取り出した。

既視感のある、その手紙。


「な、な、なぜ、それがっ!?」


「昨日、ラープス村からの使者よりこれが司法庁へ提出された。今、事実確認のため司法庁の役人がラープス村へ向かっている。結果が出るまで、君を拘束せよという命令なのさ。」


呆れるオルトが持っていた手紙。

ラープス村の村長アケラからの、通達書であった。


「バ、バカなっ!? そんなに早くそれが届くはずが無い!」


焦るカイエンの言葉に、眉を顰めるノブツナ。


「おいおい、カイエン。今のセリフ、すでにお前自身がこの中身を知っていて、しかもこれが帝都に届かないように妨害を企てようとしていたって事になるぜ?」


「あ、いや……。」


ノブツナの指摘に、言い淀むカイエン。

さらに、顔を顰めるノブツナが続ける。


「オレも聞いてビビッたけど、まさか殿下とノーザンの野郎が、あの【暴虐のアロン】獲得のために動いていたとはな。だが、手段が良くなかった。これはノーザンとお前の手落ちだ。おかげで、ラープス村のアロンって奴の獲得のために、そいつが本当に転生者である確たる証拠を示さなければならなくなった。こりゃあ……痛いぜ?」


「何だと! 現にあいつは転生者だ!」


「それは本当にそうなのか?」


今まで黙っていた “黒鎧将” レイザーが、冷たく呟いた。

ゾワリとした空気が場を締め付ける。


「レ、レイザー……。」


「殿下がアロンに会った、という話から何としてでも帝都で囲ってしまおう、というのが今回の主旨だ。だが、殿下……いや、ニーティにその功を奪われたくないという一心から、ノーザンが先走ってしまったのが間違いだったんだ。奴も、お前も、もっと慎重になるべきだった。」


一歩前へ出るレイザーに、思わず身を竦ませるカイエン。


「カイエン。ノーザンはこの一件を全てお前の独断と暴走だとしている。」


「な……。」


「“転生者ではないか?” という疑惑があり、もしそれが本当であれば、皇帝命に沿って帝都への移住を進める必要がある以上、その真偽を確かめるべく使者として送り出したのが、お前や人民庁長官、そして教会本部の神官長。財務調査は、昨年の実施事項に疑義が生じたために進言したところ、財務庁の判断で同行すると決めたことだから、それについてはノーザンの判断ではない、と奴は逃げた。」


青褪めて震えるカイエンに、レイザーは続ける。


「だが、その “転生者ではないか?” という疑惑時点で、正式な鑑定もせず悪戯に帝国民を “悪魔” 呼ばわりしたのは、不味かったな。」


「そ、それはあいつが鑑定妨害のアイテムを!」


「そんな事は俺達が知ることではないし、事実だとしてもすでに意味のない話だ。レオナ嬢……いや、レイジェルトも “愚者の石” で鑑定を試みたがレジストされたという話から、まぁ、アロンが本物の転生者であり、何か理由があって鑑定を妨害したと見るのが自然、だが。」


黒い鉄仮面の奥の眼光が、光る。


「それだけではラープス村のアロンという男が転生者であると、ましてや【暴虐のアロン】だと結び付けられる証拠が無い。」


愕然となるカイエン。


「そんな……そこまでなら、間違いないだろうが!」


「いや。……俺もそうだが、俺たち転生者は、あまりに自分たちの認識と思い込みをこの世界に当てはめてしまっている。」


意味の分からないカイエン。

レイザーの後ろのノブツナもオルトも、顔を顰めている。


「いいか。今回の件は、ラープス村から帝都へ移ってきた “ワルプルギスの夜” のメルティからの情報が発端だ。それを聞いたニーティとレイジェルトが、たまたま帝国軍から退役することとなったアロンの父親に、メルティからの手紙だと偽って帝都に呼びつけたんだ。」


“そんな裏話があったとは”

そこまで聞かされていなかったカイエンは、黙って耳を傾ける。


「そして、本物の【暴虐のアロン】は現れた。しかもその日、西門からラープス村のアロンが帝都へ入っている。その事実から、ラープス村に住むアロンという者が転生者であり、【暴虐のアロン】だと結び付けた。」


「それなら、そのアロンは【暴虐のアロン】ってことにならないっすか? レイザーさん。」


後ろで聞いていたオルトが尋ねる。

しかし、首を横に振るレイザー。


「ラープス村のアロンは、“剣士” だそうだ。所謂 “超越者” ではない。そして教会本部で再鑑定の儀を受けない限り、それは覆らない。」


「だ、だからこそ、オレの視察団に教会本部の神官長が “神眼薬” まで持ち出して鑑定したんじゃねぇか! そこで結果が出れば、即座に人民庁の奴が帝国民証の再発行までする準備を整えていたんだぞ! これは全部、ノーザンの野郎が用意したことだ!」


レイザーの言い分に、まったく話が噛み合わないとすら思うカイエン。

同じように、ノブツナもオルトも不思議そうにレイザーを眺めている。


はぁ、と溜息を吐き出すレイザー。


「それが、俺たちとこの世界との認識の差(・・・・)だ。……どうして俺たちが “超越者” と呼ばれ高待遇を受けている、そもそもの理由が何だか理解しているか?」


「そりゃあ、ファントム・イシュバーンのシステムを踏襲してこの世界に転生したからな。奴等よりも強いスキルを持っていて強くなりやすく、向こうの世界の知識もあって、死なないから、だよな?」



「違う。そもそも “適正職業” を “超越している者” だからだ。」



故に、超越者。

その認識があったとは言え、裏付けているのは今、オルトが告げた “ファントム・イシュバーンの転生特典” を持つ者であると思い込んでいたからだ。


「いいか。イシュバーンの人々にとって “適正職業” は絶対なんだ。聞いただろ、それは神から授かったモノだと。俺たち転生者は余りにその認識が希薄で、軽く考えすぎているんだよ。」


息を飲む3人。

レイザーは溜息交じりで語る。


「俺たちにとって “適正職業” は、自分自身がゲームで選んだキャラクターの職業くらいの認識でしかない。だがこの世界の人々にとっては偉大な女神から賜った人生の大切な指標であり、自らの使命であると信じて疑っていない。俺たちから見れば “基本職” であろうとも、彼らにとっては信仰する神から与えられた、掛け替えのない大切なものなのだ。」



その信仰があり、教会がある。

遥か大昔からイシュバーンという世界に根付く、絶対的な価値観。


それが、“適正職業” なのだ。



「今回、お前が……いや、ノーザンが企てた交渉の場で、神官長が鑑定薬を使用することも、その場で帝国民証を更新し直すことも前代未聞なのだ。将軍命である奴が “何が起きても責任を取る” と明言したからこそ前例を覆して実施に踏み切ったらしいが……結果だけ見ればアロンが “剣神” であるとの証拠は得られず、当然ながら帝国民証の書き換えもされなかった。つまり、アロンは未だ “剣士” のままだ。」


それに、とレイザーは続ける。


「基本、再鑑定の儀は本人の申し出が無ければ受け付けない。再鑑定の結果が覆らなければ、女神に対する重大な背任行為と見なされ即座に処刑されるリスクもあるからだ。“鑑定不能” と出た、と言っても、教会は公にはしないだろうし、アロンを “悪魔” と認定するのも微妙だな。」


「それはどうしてだい?」


「言っただろ。今回の件が前代未聞だったと。そんなのが公になれば、教会の信頼がガタ落ちだ。さっきも言ったが、この世界にとって適正職業は絶対なんだ。それに悪魔認定も……その場に教会の神官長が居ながら、放置してしまったと認めるようなものだ。……俺が教会の立場なら、悪魔認定などしないだろうな。」


淡々と語るレイザーに、ノブツナもオルトも納得するように首を縦に振る。

だが、当のカイエンは顔色を益々悪くしていくのであった。


「ノ、ノーザンの野郎は、“何が起きても責任を取る” と言ったんだよな!? ならどうして、ノーザンはオレの独断とか責任を擦り付けることが出来る!? おかしいだろ!」


納得のできないカイエンが怒鳴る。

だが、やるせないように首を横に振るレイザー。


「確かにあいつは人民庁と教会本部への働きかけをしたが、視察団に同行すると決定したのは、その2つの組織だ。よって、視察団の一切における手落ちは、団長たるカイエン、お前が背負うことになる。」


その余りな決定に、カイエンは膝から崩れ落ちた。


「な、なんで、オレが……。」


「ただ、お前は転生者だ。拘束されても酷い扱いは受けない。それに処刑など絶対にあり得ない。まぁ、多額の賠償金の支払いは免れないだろうけどな。後はまぁ、その一部をノーザンに支払うよう、俺が伝えておく。」


崩れ落ちたカイエンの肩をポンと叩き、レイザーはカイエンを掴んで立ち上がらせた。


「ノブツナ、オルト。連れていけ。」



力なく項垂れるカイエンを、ノブツナとオルトが両肩を組んで連れて行った。

その後ろ姿を眺め、レイザーは呟く。



「……だから言っているだろう。この世界を “ゲーム” などと混同しているから、痛い目に遭うんだ。」



呆れながらも、レイザーも手元にあったラープス村からの通達書を眺める。


「それにしても……見事にノーザンとカイエンを手玉に取ったもんだ。この世界の仕組みを熟知した上で、俺たち転生者の傲りを突かなければできない芸当。……【暴虐のアロン】は、よほど俺たち転生者が御嫌いであると見える。」


嬉しそうに呟き、手紙を仕舞う。



「ま、それでも綱渡りとしか言いようのない、何かが一つでも噛み合わなければ上手くいかなかった、ギリギリの策だったという印象は拭えないな。」



仮面の奥。

帝国一の知将は珍しく笑い、前を歩く3人の後へと続くのであった。



次回、9月23日(月)更新予定です。

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