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4-17 セイルの宣言

更新が遅くなり申し訳ありません。

「わぁ……大きい……。」


帝都西門。

赤煉瓦で築き上げられた巨大な門を前に、生まれて初めて帝都へやってきたララは目を輝かせて呟く。


「本当、凄いね。」


同じく初めて帝都に来たファナも唖然として呟くのだった。

そんな2人の肩をポンポンと叩き、


「中はもっと凄いよ?」


と告げるアロンであった。

黒銀の鉄仮面のため表情は分からないが、いつもの優しい笑顔だと伝わる。


「うん、楽しみ!」

「早く中に入りたいなー。」


はしゃぐ2人を案内するかのように、検問の列へと並ぶアロン。

だが。


「アロンさん、こちらから入れますよ。」


同行者であるセイルが、首を傾げて伝えてきた。


「え?」


「私が居るので、どうぞこちらから。」


セイルが示したのは、大きな門の横に設けられた、一回り小さい門だった。

そこには、通常の検問とは違い、屈強そうな全身鎧の門番や身なりが整った審査官などが揃っている。

加えて、屋根付きのスペースがあり、清楚そうなメイドが数人、訪れた者に飲み物や軽食などを出していた。


“貴族専用門”

普通の民や冒険者が並ぶ検問には、高貴な者は並ばない。

出来る限りの持て成しを受けつつ、帝都へ入る手続きを待つ。


そこへ向けて、セイルは案内するように歩きだした。


「え、ちょっと、セイルさん?」


「いいから、私に任せてください。」


にっこりと笑うセイル。

焦るアロンに、首を傾げるファナとララが後に続く。



「ん? 君は……セイル殿か!」


貴族門に座っていた身なりの良い男が、笑顔で紡ぐ。

一つ頷き、セイルはその男と握手を交わす。


「はい。一旦帝都へ戻りますので、手続きをお願いします。」


そう言い、セイルは自分の冒険者ライセンスを取り出した。

色は、青。

つまりDランクだ。


ニコニコと笑い、セイルからライセンスを受け取る男。


「畏まりました。……ちなみに、そちらのお連れ様は?」


笑みを浮かべながらも、見定めるような目線。

セイルの後ろに居るアロン達だ。


「はい。私の同行者です。彼は冒険者でして、その後ろの女性たちは新たに冒険者となるべく帝都へやってきたのです。」


ほぉ、と感嘆の声を漏らす男。

目線だけ、チラチラとセイルと同行者であるアロン達を見ては、頷く。


「これはこれは……何とも豪奢な装いですな。これより冒険者に登録されるというのは些か信じられませんが。セイル殿のお連れ様なら問題はないでしょう。一応、規則のためライセンスもしくは帝国民証の提示をよろしくお願いします。」


男の言葉に素直に従うように、まずはアロンが自身の冒険者ライセンスを取り出した。

色は、赤茶色。つまり、新米期間を抜けた最下位 “Fランク” の冒険者だ。


目を丸くする男。

帝国軍の上位隊長でも纏えないような豪華な黒銀の全身鎧に身を包む男が、まさかFランクとは思いもしなかったのだ。


「お、おや。貴方様はその出で立ちで……。」


「見た目から入る性質でね。」


皮肉を言うアロンに、目を細め、笑みを浮かべる男。

その様子に、思わず顔を顰めるセイルであった。


だが、男は特段気にした様子では無かった。


「ふむ。こちらとて無用な詮索はしません。さぁ、後ろのお嬢さんたちもどうぞ。」


“見慣れぬ豪勢な鎧兜”

ランクは低いが、どこぞの領主の子息かもしれない。

貴族専用門の審査官という立場上、ランクや相手の出で立ちで差別などしない。

……下手をすると、貴族に対する不敬と見なされる場合があるからだ。


男に言われるまま、アロンに倣って帝国民証を差し出すファナとララ。

2人は同じ装備であったため、姉妹に見えたが、帝国民証を見る限りでは同じ村人同士で、姉妹では無かった。


「うむ。アロン殿と、ファナ殿とララ殿で間違いないな。ようこそ帝都へ。貴方たちを歓迎しましょう。」


頭を下げる男の言葉と同時に、ギギギと鈍い音を立てて門が開いた。


「ありがとうございます。さあ、行きましょう。」


会釈をしたセイルに続き、アロン、そしてファナとララは帝都内へと入った。




「……それにしても、立派な装備でしたね。」


一言も発しなかった、もう一人の審査官が感心したように呟いた。


「そうだな。あれだけの装いだから、どこぞの領主か貴族の子息かと思ったが……ラープス村のただの村人だ。どこかのダンジョンで手にしたのか?」


男は顎髭を触りながら、呟く。

その言葉に、


「ん? ラープス村?」


もう一人の審査官が呟く。


「どうかしたか?」


「いや……確か、セイル殿はラープス村へ訪問する視察団の護衛として、任務に就いていたはずだったが。」


「終わったのでは無いか? もしや、ラープス村で彼らのような逸材を見つけて、蒼天団への勧誘に成功したのかもしれない。」


ふふふ、と笑いながら答える男。

だが、審査官は少し顔を顰める。


「蒼天団ねぇ。……あそこは評判は良いのだが、どうも団長は好きになれないんですよね。」


「ん、カイエン殿か? 彼は良い人ではないか。」


不思議そうに尋ねる男に、審査官は少し言い淀みながら答える。


「良い人……確かに、人当りは良いけど、やはり “冷刀” って言われるだけあって、私ら一般人に対しては何か、凄く見下した感じがするんですよね。」


ああ、と声を漏らし頷く男。


「それは、彼が “超越者” だからだよ。我らとは立場も存在も、全て違うのだ。むしろ……。」


男は、セイル達が通り過ぎて閉まり始めた門を眺め、呟く。



「超越者でありながら、我々にもあのように普通に接してくれるセイル殿が、異端なのだよ。」





「わああぁ~~。」


再び、ファナは目を大きく輝かせて感嘆の声を漏らす。


帝都の玄関口である西区から北区へ通じる街道。

赤茶色の煉瓦通りに白の塗り壁で統一された街並み。


そこを抜ける間も感動しっぱなしだったが、今、目の前にそびえる大きな建物を前に、その感動は最高潮へと達した。


“冒険者連合体帝都本部”


「よかった。間に合った!」


当たりをキョロキョロと眺めては牛歩となるファナとララに多少急かしてきたセイルは、安堵する。

時刻は午後4時30分。冒険者連合体のカウンターは、午後5時で閉まってしまうからだ。

一応、緊急対応窓口として夜勤の者が居るには居るのだが、冒険者登録やギルドの加盟・脱退などの手続きは一切対応してくれない。


残り30分。

ファナとララの冒険者登録に、アロンのギルドへの加盟。

さらにセイルの蒼天団の脱退の手続きを考えると、ギリギリだ。


「さぁ、急ぎましょう!」


急かすセイルは、足早に帝都本部へと入るのであった。





「おっ。」

「こりゃあ……“黒天使” 様に、えらいベッピンさんだなぁ。」

「あの一緒にいる鎧野郎……ああ、確か……。」


アロン達が冒険者連合体帝都本部へ入るや否や、入口すぐ横に併設された酒場カウンターから下卑た声が聞こえてきた。


時刻は夕方だ。

すでに酒盛りを始め、出来上がっている冒険者がかなり多い。


「よぉよぉ姉ちゃんたち! こっち来て一緒に飲まねぇか!」

「そのままオレ等と夜通し遊ぼうぜ!」

「「「ギャハハハハハハハハハ!」」」



“自分たちに言っている”

何とも言えない悪寒と恐怖を感じながらも、目線を飛ばさず、そのままセイルとアロンの後に着いていくファナとララ。


すぐ、ふっ、とセイルが横に着く。


「ごめんなさいね。この時間、ガラの悪い人たちが多いの。さっさと用件を済ませて、帰りましょう。」

「はい……。」


さすがは先輩女性冒険者に超越者であるセイル。

何とも頼もしく見える、ファナとララはホッとするが……。


実は、セイルも恐怖に足が竦み上がりそうだ。


他の冒険者やギルドの仲間から、夕方4時以降の冒険者連合体の建物には入らない方が良い、と散々聞かされていたのだ。


その理由は、まさに今、セイル達が遭遇している状態。

粗暴の悪い冒険者が、多く集まってくるからだ。



冒険者連合体は、4時を過ぎると併設されているレストラン兼酒場で、夜の営業が始まる。

つまるところ、酒の営業だ。


“待ってました!” とばかり、酒を求める冒険者たち。

冒険者稼業は、いつ死ぬか分からぬ危険と隣りあわせ。冒険者となり、ギルドへ加盟し、危険な場所へと赴き採取やモンスター討伐を繰り返す。


それで得た金や、ギルドを介しての給金。

“その日暮らし” をモットーとする大半の冒険者たちは、明日死んでも良いようにと、自由気ままに生きる。

酒を煽り、喧嘩に華を咲かせ、良い女や男を抱く。


“帝国の狗”

“世間の鼻つまみ者”


それが、冒険者たちのイメージだ。


もちろん、そうでない真っ当な冒険者も数多く存在する。

だが、よほど緊急な用事が無い場合は、4時過ぎに冒険者連合体の建物の中には寄り付かない。


“用事があるなら、3時まで”

初めて4時過ぎにこの施設へ足を運んだセイルは、その言葉の意味をまじまじと感じるのであった。


真っ直ぐ、冒険者カウンターへ向かうアロン達。

後ろから下品な嗤い声や、言葉が聞こえてくるが、無視だ。



「ようこそ、冒険者連合体帝都本部へ!」


胸元が強調された緑色の服に、フリル付きのスカート。

いつもの出で立ちだが、少し疲れ顔の受付嬢が出迎えてくれた。


「こんにちは。」

「あら、セイルさんに……えっと、アロンさんもご一緒とは珍しい。」


以前、アロンが冒険者登録とギルド登録を担当した受付嬢だ。


「じゃあアロンさん。私はこちらのカウンターで手続きをしています。」

「ええ。」


そう言い、セイルは椅子3つ離れたカウンターへと向かった。

アロンはセイルが向かったのを確認して、バッグからギルド認定証を取り出した。


「ご無沙汰しています。早速ですが、ボクのギルドの更新と、この2人の冒険者登録をお願いします。」



アロンはその後も、自らが作った “アロン” ギルドの更新のため、2か月に一度は訪れていた。


その時に渡す、討伐危険度Cランク以上のモンスターの魔石と素材。

条件的には更新クリアとなるため、事務的に受け付けてきた受付嬢だが、“アロン” は未だ本人一人だけのギルドで、紹介出来る依頼も無ければ彼自身が積極的に依頼を受けていなかったため、ギルドランクは相変わらず最低の “E” 評価だ。



「あ、はい。じゃあそこのお二人は帝国民証を提示してください。で、アロンさん。今日は何を持ってきたのですか?」

「これです。」


受付嬢の横のお盆に、アロンは、魔石とモンスターの毛皮を置いた。

その姿に受付嬢は、はぁ、と溜息を吐き出しアロンを睨む。


「アロンさん。一応規則ですのでその素材がC以上でしたら更新は受けますが、貴方、未だに一度も依頼を受けていないのですよ? それでギルドを名乗られることは、伝統と格式高いこの帝都本部の質を落としているのですよ?」


いきなり、アロンに対する嫌味の応酬。

思わずファナは受付嬢に文句を言おうとするが……。


「ええ、ご迷惑をお掛けして申し訳ない。」


ファナの肩に軽く手を乗せ、頭を下げるアロンであった。

つまり、“気にするな” という意味だ。


少しだけムッとしながらも、ファナは帝国民証を差し出した。

しかし、受付嬢はそれを受け取りもせず、嫌味を続ける。


「いつも言っていますけど。そろそろ貴方のところも仲間を募集して、依頼を受けてください。おかげで、当連合体登録ギルド数と、実績ギルド数の数が1つだけ合わず、この前、連合長に散々文句を言われたのですよ? どうしてだか分かります?」


「さぁ。おかしいですね。登録数と実績数が合わないなんて。そもそもその二つを分けてカウントする意味が分かりませんが。」


「貴方ねぇ……。活動実績のないギルドを、実績ギルド数に加える訳ないでしょう?」


顔を歪めながら、アロンの持ち込んだ素材を器具に載せる。

そして、鑑定結果が映し出された。


「はい。今度も大物ですね。討伐危険度Cの “シェルタイガー” の魔石と毛皮と確認とれました。貴方が住むラープス村近くの “プルソンの迷宮” に潜ったのですか? 運良く、他の冒険者が落とした素材を拾ったのでしょうか?」


アロンから受け取ったギルド認定証に更新処理を施し、まるで投げ捨てるかのようにアロンへ返した。


「ちょっと!」


流石のファナは、我慢の限界だった。


「な、なんですか?」


「貴女、さっきから……。」

「ファナ。」


だが、すぐさまアロンが制する。


「いいから。」


「で、でも! あのダンジョンに入ってシェルタイガーを倒したのは……。」


少し涙目になりながら紡ぐファナに、アロンは首を横に振る。


「もうギルドの更新は出来たんだ。余計な口論は無駄だよ。それに、ほら。」


アロンはくいっ、と首を少し横へ触れる。

ファナも目線だけ向けると……。


酒場から、ニヤニヤと様子を見ている男たちだった。

うっ、と顔を顰め、ファナはカウンターへの目を向けた。


アロンはそのまま、受付嬢を見る。

一瞬、何か重々しい雰囲気を放つアロンにたじろいだ。


「確かに、貴女のご指摘とおり、ボクはまだギルドとしての活動は一切していない。ギルド登録も、必要だったからしただけだ。」


「はぁ?」


「だけど、時期が来たら、必ず活動するよ。」


すぐ、アロンはファナとララの方を振り向く。

2人の前には置かれたままの帝国民証。


「あ、失礼しました。今、確認します。」


全く活動しない “朴念仁” のアロンが連れてきたのは、まさに絶世の美女と言っても過言でない女性、しかも2人だった。

同じ装備を纏い、まるで姉妹のようだ。


だが、顔付きが違うため、姉妹じゃない。


受付嬢はムスッとしながら睨むファナとララ受け取った、帝国民証をジッと眺める。

“やっぱり姉妹じゃない” 2人のお揃いの装備は目の前の “朴念仁” の趣味だと、心底、嫌悪感を抱いた。


それどころか、どうやら “ララ” という女は、この全身鎧野郎の妹っぽい!


それ以上に驚いたのが、隣の “ファナ” という貴族の御令嬢と言っても疑いようのない完璧美人は、まさかの鎧野郎の、妻!


“冗談でしょ!?”

吹き出しそうに、叫びそうになったがさすがは受付のプロ。

寸前で堪え、平静を装いつつ受付嬢はファナとララに帝国民証を戻した。


「確かに確認取れました。では、登録料としてお一人5万Rをお支払いください。」


「「ええっ!?」」


ファナとララは、目を丸くする。

そう、2人は冒険者登録に1人当たり5万R、合計10万Rという大金が必要であるなど知らなかったのだ。


それもそのはず。

アロンが告げてなかっただけだからだ。


「どうしました? お支払いいただけなければ登録不可となりますが……。」


「はい。これでお願います。」


すぐさま、アロンはゴトリと音を立てて、10万Rである大銀貨を1枚置いた。

さらに目を丸くする、ファナとララ。


「ちょっと、アロン……?」

「兄さん、こんな大金!?」


「大丈夫。2人のために元々用意していたお金だから。」


むしろ、今現在アロンが次元倉庫に置く金銭からしてみると、微々たるものだ。

何度か帝都へ足を運ぶ次いでに、次元倉庫の宝石や貴金属をこまめに換金していたのだ。


最初に実行したのは、グレーな宝石商。

だが、すでに冒険者ライセンスを持つアロンは、大手を振って真っ当な宝石商に換金を依頼したのだった。


現在、アロンの手持ち金は全部で15億R。

それでも、まだ一部だ。

そして当然ながら、その事をファナもララも知らない。



「良かったですね、優しいお兄さんで。これでお二人は晴れて冒険者です。こちらがライセンスになります。冒険者のイロハは、そこの立派で優しいお兄さんに聞いてくださいね。」


時刻は現在4時40分。

残り20分で受付嬢の本日の業務は終了だ。

目の前にいる珍妙な全身鎧野郎に、美少女2人の相手で終わりだろう。


あとは、入口付近で飲んだくれている冒険者に絡まれないよう、裏口からササッと帰るだけだ。

受付嬢仲間と、食事を摂りながら、この朴念仁がとんでもない美少女を連れてきたことを面白かしく告げてやろう、と思う受付嬢であった。


何故、そんな余計な事を考えているか。

今、目の前の美少女2人が明らかに怒りを宿して受付嬢(自分)を睨んでいるからだ!


“ああ、怖い怖い”


冒険者志望の女性も、大抵、粗暴が悪い。

今、3つ隣のカウンターで何やら手続きをしようとしている超越者セイルのような、お淑やかで常識人な女性冒険者は、本当に少ない。


“セイルさんの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに”


そんな失礼な事を思っていた、矢先。



「えええええええっ!?」


思わずギョッとして、叫び声が聞こえた方へと振り向く。

それこそ、今まさに、お淑やかで常識人なセイルを相手にしていた、先輩受付嬢の叫びだった。


「本気、ですか!? セイルさん!」


「ええ。気持ちは変わりません。」


叫んだ後は、まるで放心状態。

“魂が口から抜ける” とは、あのような姿なのだろう。


セイルは何かの申請を書き、自身のライセンスを提示した。

流石は先輩受付嬢、放心状態でも粛々とセイルの申請の受付を滞りなく終えたようだ。


未だ呆然とする先輩受付嬢に、ペコリとお辞儀をしてセイルは晴れやかな表情でアロン達の許へと再び歩いてきた。


「そちらは終わりましたか?」


「はい!」


笑顔でアロンに告げるセイル。

何が何だか分からない受付嬢は、先輩の許へ行こうとしたが。


「すみません。まだ手続きは終えていませんよ?」


アロンに呼び止められてしまった。

苦々しくアロンを睨む受付嬢は「何でしょうか!?」と叫ぶ。


ゴホン、と咳払いを一つしてアロンは告げる。


「合わせて、この2人をボクのギルドへ加盟させたいので、手続きをお願いします。」

「ええええっ!?」


今日、現時点(・・・)で1番の驚き。

登録してからこの時まで、一切仲間を募っていなかったアロンが、たった今、冒険者となった美少女2人を加えるというのだ。


1人は、妹だから分かる。

だがもう1人、“どこの貴族令嬢?” と言える程、清楚で美しく、スタイル抜群な女性まで加えるなんて。


“こいつ、マジで腹立つ”


最初からアロンを毛嫌いしていた受付嬢は、ますますアロンの評価を下げる。

だが、仕事は仕事だ。


受付嬢は、ギルド加盟の申請用紙を取り出し、2人に渡した。


「本当に加盟するつもりなら、こちらにご記入の上、ライセンスを提示ください。……あと、ギルド加盟時点で、新米ランクの “G” では無くなり、最低ランクの “F” となります、が。」


「……が?」


「いえ。何でもありません。」


言いたい言葉を、グッと堪える受付嬢。


“そんな奴のギルドより、もっと素敵なギルドがある”

“90日間の新米コース(Gランク)を続けた方が良い”

“てか、そんな怪しい奴のギルドでいいの?”


言いたいことは、山ほどある。

しかし、仕事上そんな差別的発言は以ての外だ。


受付嬢は、チラリと先輩を見る。

未だ放心状態だが、ギギギ、と首だけこちらを見る。

思わず「ひっ」と小さく呟いてしまったが、彼女は悪くない。


その時。


「あ、あの!」


まるで意を決したようにセイルが、アロンへ伝える。


「はい。」


振り向くアロンだが、セイルは言い淀んでいる。


“まさかこの朴念仁、セイルさんにまで手を出した!?”


有らぬ誤解が芽生える受付嬢。

もはや、その目線は “女の敵” を見るようだ。


だが、そんな受付嬢の苦々しい睨みなど、気付かないアロンとセイル。

申請用紙を書く手を止めて、ファナとララもセイルを見る。


「あ、あの……。」


また、セイルは何かを言いかけて止める。

首を傾げる、アロン。


「どうしたのですか?」


セイルは、グッと目を閉じる。

そして、ガッと見開き、アロンを真っすぐ見つめる。


覚悟は、決まった。



「アロンさん! 私も、貴方のギルドへ入れてください!!」



「え?」

「へ?」

「ふぇ?」



「「「「ええええええええー!?」」」」



セイルの宣言。


予想だにしていなかった、その願い。

驚き固まる、アロンであった。



次回、9月11日(水)更新予定です。

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