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4-8 輝天八将

今回、色んなキャラが出てきます。

アロンが帝都でジークノート達と出会った日から、3日後。



【イースタリ帝国】

“帝都” 帝国城塞内 輝天八将専用大会議室

“天帝の間”


巨大な黒曜石を加工した、重々しい円卓のテーブル。

そこに並ぶ八つの椅子のうち、六つの席が埋まっている。


「珍しい。ボルボッゾ殿がまだ見えぬとは。」


灰色の髪をオールバックにした、緑色の鋭い瞳の男が呟く。

銀色に光る豪奢なローブが顔色の悪さを際立たせているにも関わらず、彼はその服装を好んで着る。


「ライザース殿。聞いておらぬのか? ボルボッゾ殿は退任されたぞ?」


顔色の悪そうなライザースの呟きに答えたのは、頭頂部が薄いが両サイドの青髪をストレートロングに伸ばした老齢の男。

右目に片眼鏡を掛けたインテリ風にも見えるが、その見た目に反して身体は筋肉の鎧に覆われている。


「それはまことか、メッサーラ卿。」


驚き半分、“ああ、いよいよか” と得心いった表情でライザースが、片眼鏡の男メッサーラに尋ね返した。


「ボルボッゾ殿もお年ですからな。最後のお孫殿が待望の男子ということで今から嫁探しに精を出さねばと息巻いていらっしゃったので、本格的に腰を据えるのではないでしょうか?」


嘲笑気味に、ちょび髭を生やしたシルクハットの男が話に乗ってきた。

シルクハットだけでなく黒スーツに蝶ネクタイと、あからさまな紳士然の装いだ。


「そう言えば、かの “癒しの黒天使” 殿に嫁に来こないか、と熱烈にアプローチをしておりましたが、どうやらフラれてしまったみたいやね。」


紫色の三角帽子を被った、まさに “魔女” と言った風貌の老婆が薄く笑いながら口を開く。

その様子に、今、話をしていたライザース、メッサーラ、そしてシルクハットの男、バルトが顔を顰める。


「タチーナ殿、あまりボルボッゾ殿を揶揄うな。」


3人の男の表情を察し、上座に座る黒の鉄仮面を付けた騎士が制止した。

ふふふ、と笑う魔女風の老婆、タチーナ。


「こりゃ失礼しました。レイザー卿。」


ふん、と黒仮面の男、レイザーが息を吐き出した。

その時。


「はぁ。どうでもいいけどまだハイデン大将軍は来ないのか?」


彼らの会話に終始興味が無い、と言わんばかりに金髪おかっぱ頭で丸眼鏡の男が呟いた。

さらに顔を顰める、ライザース達。


すると。


「すまない、皆の者。待たせたな。」


白髪交じりの大男が、天帝の間に入ってきた。

金色に輝くフルプレートアーマーを纏うその姿こそ、彼のトレードマークだ。


「遅いぜ、ハイデン大将軍。」


金髪おかっぱ頭が、苦々しく紡ぐ。

さらに周囲が苛立つが、


「悪かったな、ノーザン殿。」


咎めることもせず、笑顔で詫びるのであった。


「まぁいいわ……。ん?」


ノーザンは一瞬固まる。

何故なら、ハイデンの黄金色に輝く鎧の後ろから、青いドレスを纏った派手な女性が着いてきたのだ。


円卓テーブルの上座、黒仮面のレイザーの右隣にハイデンが座る。

さらにハイデンの右隣に、その派手な女性が腰を掛けた。


そこは、先ほど話題に上がった老兵ボルボッゾの席だ。


ザワつく周囲。

その様子に、にこやかにハイデンが紡ぐ。


「今日の議題に入る前に紹介しておこう。この度、ご退任されたボルボッゾ殿の後任として我ら “輝天八将” として就くこととなった、新たな “白金将” こと、アイラ殿だ。アイラ殿、自己紹介を。」


ハイデンに促され、面倒くさそうに立ち上がる女性、アイラ。


「あーっと、新しく将軍の仲間入りしましたー、アイラって言いますー。この春に学院を卒業したばっかですが、よろちきー。」


ダルそうに答え、頭も下げず椅子に座るアイラ。

その態度に、眉を顰める面々。


「これまた珍妙な娘が将に選ばれたものだ。何だ、その爪は?」


片眼鏡のメッサーラがアイラを指さす。

アイラの手の爪は妙に長く、そして宝石が散りばめられたように鮮やかだった。


アイラは見せびらかすように両手を広げる。


「あー、これ、ネイル。おじさん、おばさん達は知らないだろーけどー? アタシらの世界じゃ、当たり前っていうかー? みんなしてたんよー。かわいーでしょー?」


問うたメッサーラに目線も向けず、ただ爪を見せびらかすアイラ。

さらに席から怒気が溢れる。


「……それは誠か、ノーザン殿?」


灰色オールバックのライザースが金髪おっかっぱのノーザンに尋ねる。

はぁ、と深い溜息を吐き出す、ノーザン。


「ああ。頭の悪い女がこぞってやっていたね。」


その言葉に、アイラは「はぁ?」と顔を歪める。


「わりーかよ、根暗。てかアンタさぁ、転生者っしょ? 転生したのに何そのダサい頭と眼鏡! 超ウケるんですけどー?」


「黙れ阿呆。お前と話をしているとこっちまで頭が悪くなりそうだ。」


眼鏡をくいっと上げて睨むノーザン。

そんなノーザンに、肩をすくめて嗤うアイラ。


灰髪オールバックのライザース。

青髪ストレート片眼鏡のメッサーラ。

シルクハットのバルト。

そして魔女のタチーナ。


この4人は顔を顰め、ノーザンとアイラ双方を睨む。

元々、若き頃から将軍位だった嫌味全開のノーザンも毛嫌いしていたが、それ以上にこの場に座る、偉大な先代白金将ボルボッゾの後任だという派手女アイラにも嫌悪感が溢れるのだ。


そこに、手を叩いて制する大帝将ハイデン。


「待て待て。我ら将軍は仲違いされど争うことは禁じられている。偉大なイースタリ帝国の明日のため、敬愛すべき皇帝陛下のため、そして、母なる国母神、暁陽大神ミーアレティーアファッシュ様のために、この場に集ったのだ。その本懐を努々忘れることなかれ。」


ハイデンの言葉に、振り上げそうになった拳を下げる4人。

神経質そうなノーザンも、軽く溜息を吐き出して抑える。


「さぁ、新たな仲間も増えたのだ。各々自己紹介を頼む。」


そう伝え、ハイデンは左隣の黒仮面、レイザーを見る。

立ち上がったレイザーは、アイラの方へ振り向く。


「俺は “黒鎧将” レイザーだ。お前やノーザンと同じ転生者。職業は “剣聖”だ。」


「レイザっちねー。よろぴく。顔見せてよ?」


「断る。」


ガチャリ、と音を立てて座る。

その様子に「つまんねー奴」とアイラはぼやく。

続いてノーザンが立ち上がる。


「はぁ。オレは “魔戦将” のノーザン。知ってのとおり転生者だ。面倒掛けるんじゃねぇぞ、小娘。」


「あーはいはい。わかったよ根暗野郎。」


興味無さそうに手を払う仕草をしたアイラに目を細めるが、何も言わずノーザンは着席する。

続いて、灰髪オールバックのライザースが立ち上がる。


「ふん。儂は “灰智将” のライザースだ。」


短く伝え即座に座る。

アイラはふんふんと頷き、


「オジサン、渋いねー。渋オジって呼ぶわ。」


と笑顔で紡ぐ。

その呼び名に一瞬顔を顰めるが、アイラがニコニコと「激渋―。」「結構好みかも?」と呟く声を聞いて、満更でもない様子で顔を引きつらせていた。


「わ、儂は “騎馬将” メッサーラだ。良しなに頼む、アイラ殿。」


続いて立ち上がった青髪ストレートで片眼鏡を掛けたメッサーラが頭を下げた。

すると、ブフーッ! と盛大に笑うアイラ。


「ちょっと、オジサン!? その頭は何! ウケ狙い!?」

「……は?」


何故笑われるのか。

むしろ、隣のライザースが “渋い”、“好み” だとか言われていたから、自分もそのような評価では無いかと思っていたメッサーラは、何を言われているのか理解出来ず固まる。


「いや、だって……。」

「アイラ殿。静かにせんか。」


さすがのハイデンも憤りを感じ、アイラを制した。

笑いを堪えるアイラは、軽く「はーい」と答えた。


しかし、未だプルプルと震える。

だが、「変なアレだけど割とイケメン?」とも呟いている。


「はぁ、こんな小娘が偉大な輝天八将とは、世も末やね。私はタチーナ。“紅法将” タチーナよ。お前さんは将軍職の何たるかの前に、淑女たるは何かを叩きこむ必要があるさね。」


呆れるように立ち上がり、面倒くさそうに呟く魔女タチーナ。

一瞬、ポカーンとするアイラだが。


「うん。よろしくね、おばあちゃん!」


笑顔で答えた。

アイラなりの誠意だが。


「……淑女に婆呼ばわりとは。こりゃあ相当気合を入れないとダメさね。」


青筋を立てながらも、冷静に椅子に座り直すタチーナであった。


そして、最後。

アイラの右隣りに座っていたシルクハットの男、バルトが立ち上がる。


「初めましてマドモアゼル。私は “蒼槍将” バルトと申します。麗しいお嬢さんが我らの同胞になること、心より歓迎しますぞ。」


そう言い、アイラの手を取るバルト。

ふえー、と気の抜けた声を上げながら、


「オジサンは紳士ね!」


と笑顔で伝えた。

その言葉が嬉しいバルト。


「左様です。私は紳士……」

「あっはっは! マジで紳士だ、紳士!」


“紳士” と呼ばれ嬉しいはずだが……。

何故か、アイラの言葉には侮蔑が含まれている気がしてならないバルトだった。


「これで全員だな、覚えたかな、アイラ?」


ハイデンがにこやかに紡ぐ。


「まー、ボチボチですわー。」


キラキラ輝く爪を眺めながら、適当に答えるアイラだった。

その様子に、数人の将軍が溜息を吐き出した。


だが。


(“黒鎧将” レイザーと、“魔戦将” ノーザンが転生者。“灰智将” ライザースは渋オジだけど顔色和悪し。肝臓でもやってんのかな? “騎馬将” メッサーラはカッパみたいな頭だけど顔はそこそこ。“紅法将” タチーナは、THE・魔女。んで、隣の “蒼槍将” バルトは髭紳士、と。)


前世の職業柄(・・・・・・)か。

顔や職業、特徴を覚えるのが得意なアイラであった。



「ちなみに、アイラ殿はレイザー殿やノーザン殿と同じ超越者という事だが、職業は何かな?」


ライザースが太々しいアイラに眉を顰めながら尋ねる。

ん、と唇を尖らせるアイラ。


「あたしはー、“聖騎士”(ホーリーナイト) って奴だよー。」


戦士系覚醒職、“聖騎士”

それは、未だ帝国には存在していない職業だった。


「は。そのナリで聖騎士とは世も末だな。」

「うっぜぇ、根暗。」


ノーザンの呟きに、げぇ、と顔を歪めるアイラ。


「先ほどアイラ殿が言ったとおり、彼女は春先に高等教育学院を卒業したばかりだ。軍の幹部候補生として入ったが、実力が高くてな。ボルボッゾ殿の退任に合わせて私が後任を命じたのだ。」


ノーザンとアイラのいがみ合いを無視するように、腕を組むハイデンが補足をする。


輝天八将を統べる “大帝将” 直々の使命。

それに異を唱えることは、誰も出来なかった。





「さて、本日の議題だ。」


各々の自己紹介も終わり、落ち着いたところでハイデンが全員の顔を見渡しながら伝えた。


「実は、皇太子ジークノート殿下より火急の報せがあってな。今日はその情報を共有したい。」


「おお、殿下か。」


湧き上がる周囲。

しかし、ジークノートの名を聞き、ノーザンは顔を盛大に歪めた。


「ちっ。あの七光りが何をしゃしゃり出るのか。」

「口が過ぎるぞ、ノーザン。」


即座にハイデンが咎める。

――同じ転生者、しかし片や田舎町で力を見出された男に、片や次期皇帝の第一継承権を持つ皇太子。

しかも、帝国軍の中でも最強と呼び名の高いレイザーと、レイザーに次ぐ実力者であるノーザンすら凌駕する職業 “神獣師” である事実。


プライドの塊のようなノーザンの心を掻きむしるのであった。


「ははっ。ダサ。イケメン皇子に嫉妬丸出し乙。」

「黙れ、汚ギャル。」


即座に馬鹿にするアイラに、ノーザンは怒りを露わにする。

その言葉にまた、アイラが突っかかろうとするが。


「待て待て。話が進まない。」


両手を広げて再度ハイデンが制する。

はぁ、と溜息を一つ吐き出し、


「殿下がおっしゃるには、見逃していた超越者が見つかったそうだ。」


と伝えた。

さらに沸き立つ周囲。

ノーザンもアイラも、目を見開く。


「見逃していた? 儀式はしなかったってことか?」


「いや。儀式は普通に行ったそうだ。記録もきちんとある。」


首を傾げるノーザンとアイラ。

12歳の適正職業の儀式で、必ず超越者であると判明するのだ。

それを見逃すなんてことがあるとは、到底思えない。


「どういう事だ?」


「それが分からない。殿下もそこまでは聞けなかったらしい。」


「って事は、その隠れ転生者にジークノートが会ったってことだよな?」


皇太子を呼び捨てにするノーザンを咎めようとするライザースとメッサーラだが。


「良い。」


“これ以上、話が中断されてはかなわない” とばかりに、ハイデンが止める。


「そうだ。同じ年という縁もあってか、先日、殿下がこの帝都に呼びつけ、宰相閣下の御令嬢であるレオナ様と共に会ったそうだ。向こうの世界の事を知っていたこと、悍ましい程の圧力を感じたこととで、間違いなく超越者であると判断されたそうだ。」


「へぇ~~。私も噂のイケメン皇子に会ってみたかったなー。」


話の趣旨をひっくり返すアイラ。

他の将軍たち、特に同じ女性のタチーナは眉間に皺を寄せて憤りを露わにする。

だが、いちいち構っていたり制したりするのは時間の無駄だ。


「殿下から聞いた話をそのまま伝えよう。その隠れた超越者の名前は、アロン。殿下と同じ15歳で帝都の西側、邪龍の森に面しているラープス村の者だそうだ。」


“アロン”

その名に、ノーザンとアイラ、そしてレイザーは思わず椅子から飛び上がるように腰を上げた。


「ア、アロンだって!?」

「うっそ、やばくね!?」


叫ぶノーザンとアイラ。

レイザーは立ち上がったものの、声はかみ殺している様子だ。


「やはり、知っているのか?」


皇太子ジークノートの様子、そして共に報告してきた公爵令嬢レオナの様子から、アロンという超越者は他の者と一線を画する存在だと睨んだハイデン。

この場にいる、3人の超越者の反応はまさにそれだ。


「知っているも何も……もし、オレ達が知っているアロン本人なら、さっさと囲っておいた方が良い。そんじょそこらの転生者に対する待遇なんざ度外視して、そいつ一人につぎ込むくらい、金に糸目をつけず交渉すべきだ。」


何かにつけて人を小馬鹿にするような態度を取っていたノーザンが、深刻な表情で提案することに、他の将軍たちも固唾を飲みこむ。


「いや、ホントやべーって。マジでアロン様パねーって。あたし、向こうでは覇国陣営だったんだけど、あまりにアロン様強くて帝国に鞍替えしたレベルだかんね。マジでやべーから。」


“超越者の中には敵対陣営を裏切った者もいる”

もちろん、そのことを理解する将軍たちだが、主君や祖国を裏切ることはイシュバーンに住む者たちとって禁忌であり、底知れぬ嫌悪感を抱く行為だ。


だが、向こうの世界(・・・・・・)ではそういう者も居るとのこと。

超越者という絶対的戦力の確保という最優先事項を前に、これらの嫌悪感は抑えなければならなかった。


しかし、それは超越者同士となると別だ。


「お前は裏切者だったか。道理で尻が軽そうだと思った。」


目を細め嘲笑するノーザン。

しかもその理由が、かの【暴虐のアロン】を恐れてというものだから、益々笑えてくるのだ。

だが、当のアイラは悪びれる様子も無い。


「は? アロン様が出てこなきゃ攻城戦も仕掛けられない腰抜けに言われたかねーよ。」

「お前……! オレを他の奴等と一緒にするな!」


「いい加減にしろ! ノーザン、アイラ!!」


流石のハイデンも怒りを露わにして二人を止めた。

超越者で無い、ただの基本職であるはずのハイデンだが、冒険者から叩き上げで将軍の最高位に就いた、現帝国の生きる伝説だ。

その圧倒的圧力に、思わずノーザンもアイラも縮こまる。


「レイザー。我らに分かりやすくアロンなる者を説明してくれ。」


ノーザンとアイラでは話にならない。

唯一、冷静沈着な黒鎧将レイザーに、ハイデンは尋ねたのだ。


「俺の主観でいいのか?」

「構わぬ。」


「もし、その者が俺たちの知るアロンなら、向こうの世界で最強と呼ばれていた存在だ。この場に居る者はスキルのルール(・・・・・・・)は知っているはずだから詳細は省くが、奴は我らを遥かに超えるスキルを有している。」


おお、と感嘆の声が上がる。


「だが最強というのは、あくまでも向こうの世界での話だ。」


「と、言うと。」


「この世界と、向こうの世界とでは作り(・・)が違う。確かにより上位の職業であればあるほど、強力なスキルを得る機会があるが……この世界でモノをいうのはレベルと戦闘技術だ。戦闘技術という点で言えば、アロンも最高峰であると評価できる。しかし、ただの村に居るものが果たしてどこまでレベルを上げられるか。」


黒仮面を上げ、円卓に並ぶ将軍たちをぐるりと見る。


「ここにいる将軍位なら、現状脅威にはなり得ないだろう。」


レイザーの言葉に、安堵する空気が流れる。

ふむ、と頷くハイデン。


「それは良かった。と、いうのも。殿下曰く、何故かそのアロン某は超越者に対して敵対意識を宿している節があるそうだ。現在、高等教育学院に通う超越者の一人、魔聖メルティ殿と同郷らしく、彼女を脅した挙句に学院の超越者情報を流していたそうだ。」


「あー、そういうことかー。」


ハイデンの言葉に、アイラが一人納得する。


「どういうことだ?」


「メルティってさ、ワル何とかの夜っていうギルドで “姫” って呼ばれチヤホヤされていた頭の悪い女なんだけど、なーんか、こそこそというか、転生者の事を嗅ぎまわっている気がしたんよねー。あたしが “ウザい” って釘刺してしたんだけど、あいつさー、一向に辞めなかったの、マジウゼーって。」


“お前が言うなアホ女”

そう言いたくもなるが、先ほどハイデンに怒られた手前、黙るノーザンであった。


「しかし、超越者に敵対意識か。無駄なことを。」


シルクハットの紳士、バルトが呆れるように紡ぐ。

頷く、他の将軍たち。


「そうだ。オレ達は殺されても死なないからな。むしろ、敵対するというよりも別の目的がある線が高いと見えるな。相手が相手なんだ、今までの経過をメルティって奴とジークノート、それにレオナ嬢から詳しく聞くべきだ。」


バルドの言葉に同意しつつ、ノーザンがまとめた。


「ノーザンの言うとおりだ。その者も超越者なら、国内で超越者同士が争うことの無意味さを気付いているはずだ。殿下は敵対意識とおっしゃっていたが、別の目的があると踏んで調査しよう。それと同時進行に、皇帝陛下の勅命通りこの帝都に赴くよう令状を送るとする。この件で他に何かあるか?」


ノーザンの意見を採用したハイデンが、周囲を見渡す。

全員、首を縦に振り同意する。


ただ一人を除いて。


「……まだ何かあるか、アイラ?」


「あ、や、別にぃ? それでいいんじゃね?」


「……よろしい。では、次の議題だ。」




次の議事が進む中、アイラは一人懸念する。



(殺しても死なない超越者(あたし等)の情報を仕入れていた理由が、敵対意識でなく別の目的? 目を逸らしているんじゃねーよ、根暗野郎。)


ギロリ、とノーザンを睨むが、当然ノーザンは気付いていない。

吐き出したい溜息を押さえた、と同時に、アイラは背筋が凍った。


--気付いてしまったからだ。



(……ちょっと待て。アロン様がヤベーのは強さだけじゃなく、あの “永劫の死” の所為じゃね!? 転生者は、スキルがそのまま使える。それは、書物スキルも同じ! ちょっと、ちょっと待って!? それってまさか……!!)



議事の内容など、耳に入らない。


新たな輝天八将 “白金将”

聖騎士アイラは、この世界で初めてその事実に気付いた。




アロンが、超越者を殺害できる術を持っていることを。

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