4-1 最強への道
季節は春を過ぎ、夏を迎える雨季に入った。
アロン、転生して15度目の誕生月だ。
いよいよ最上級生となり、クラスメイト達は将来の進路に向けて動き出す時期となった。
すでに超越者として帝都で暮らすメルティを除く19人の生徒は、それぞれ夢と現実を語り合い、冒険者や帝国兵を目指して帝都や大きな市街へ移り住もうとする者、行商人や職人として卒業後に修行へ出る者、そして村に住み続け “支える側” としての人生を歩もうとする者と、分かれた。
その中で。
前世、“支える側” としての道を選んだ臆病者のアロン。
転生後、絶大な力を得た彼が目指す道は。
「アロンさんは、予定通り村に残るのね。」
「はい。」
担任でもあるアケラとの面談。
彼女はアロンの秘密を知る数少ない仲間の一人だ。
加えて、共に訓練をする中で、アロンは “村を拠点にして活動する” ことを告げていた。
即ち、表向きは “支える側” となると決めた。
「今年は稀に見る、村での定住希望者が多い年になったわね。」
自虐的に笑うアケラに、ハハハ、と頭を掻くアロン。
前世。
クラスメイト19人の内、村に残ったのはアロンとファナを含め、7人だ。
残り12人は全員、帝都や大きな市街へ移り住んだ。
その大半が、冒険者や帝国兵となり、いずれ英雄のように世界へ名を轟かせる事を夢見てだ。
ところが今世。
何と、19人中15人も村に残った。
その原因の多くが、アロンを発端としている。
彼に憧れ、共に村で生きようとする者が多く現れたのだ。
まず、ファナ。
前世でもそうだったが、すでにアロンの婚約者たる彼女はアロンと共に生きることを誓う。
仮にアロンが帝都に移り住もうと言うものなら、もちろん着いていくつもりだった。
ところが今世でもアロンは村を拠点とすることとしたので、ファナも前世通り村の住人として過ごす事となった。
そんなファナの夢は、村でパン屋を営む事だ。
アロンが絶賛するアップルパイに、邪龍マガロ・デステーアが太鼓判を押した多種多様なパイ。
元々料理上手という事もあって、彼女が焼き上げるパンも絶品。
いずれ村の名物となり、多くの人に味わってもらいたいと、ファナは思うのだ。
もちろん、将来一緒になるアロンもファナの夢を支えるつもりだ。
たまに時間を見つけは、ファナからパンの作り方を教わる。
近い将来、2人でパン屋を営むための準備を着々と進めているのだ。
御使いからの天命、超越者の “選別” と “殲滅” という修羅の道の傍ら、人間らしく平穏な人生を歩む時間も、自分にとっては大切な事だと理解しているアロンだった。
次いで、アロンの仲間となったリーズル、ガレット、オズロンの3人。
前世では3人揃って帝都へ向かったが、今世は全員村に残る。
リーズルは、長身を活かした持ち前の剣技をもって、今では村の中でアロンに次いで(と言っても実力差は超えられない大きな壁があるが)強い剣士となった。
すでに帝都に出て、冒険者でも帝国兵でも十二分に暮らしていける実力が備わっているにも関わらず『師匠が守ろうとするラープス村をオレも守る』と言い、村の護衛隊に志願するつもりだ。
ガレットは、2m近い隆々とした体躯を持ち、どの大人よりも力強く成長した。
盾重士として高い才覚を持ち、同じ村の盾重士にも真似が出来ない、“魔法をかき消す” 術まで会得しているのだ。
そんな彼もリーズル同様、村の護衛隊に志願するつもりだ。
オズロンも村に残り、護衛隊だけでなくその深い博識を買われ、来年の春から新任教員としてこの学校に勤める。
それだけでなく、元帝国軍百人隊長を歴任したアケラと互角な魔法士として成長を遂げた。
――すでに、村の大人では太刀打ちできないほど、リーズル達は成長を遂げた。
職業自体は基本職であるが、身に宿るレベルは全員130超え。
成長期に合わせ、毎日欠かさず繰り返してきたアロン式訓練によって、リーズル達のステータスは一般的な者よりも遥かに高く振り分けられている。
さらに、スキルも全8種を解放しており、スキルレベルも平均7と高い。
この力量は、帝国兵に置き換えるとすでに千人隊長クラス。
立ち回りさえ誤らなければ、単騎でブルーウルフの群れを蹴散らす事が出来る。
「全く。教員としては優秀な人材を帝都に送り出すことが評価されるのですがね。……でも。」
ニコリと笑うアケラ。
「私個人としては、終わりの見えない戦争に身を投じることよりも、村で平穏に逞しく暮らしていただく事のほうが、ずっと有意義な人生だと思います。」
終わりの見えない三大国の戦争に疑問を呈する、元帝国兵。
その言葉に頷き、同意するアロンであった。
「それに、村にとって優秀な人材を留めたという事は、為政者としては非常に高く評価されることですからね。」
少し遠い目をしながら呟く。
クスリと笑うアロンは、またも同意するように答えた。
「もうすぐですね、先生。いや、次期村長。」
◇
「おかえりなさい、アロン。」
「おかえり、兄さん。」
アロンが自宅に戻ると、キッチンに立つファナと妹ララが迎えてくれた。
「ただいま、ファナ。ララ。」
荷物を降ろし、手を洗ってアロンもキッチンへ向かう。
「先生との面談、どうだった?」
シチューの味見をしながら、ファナが尋ねる。
ララに指示された皿出しをしながら、
「予定通り村に残る事を伝えてきたよ。“こんなに帝都へ向かわない学年は初めてだ” って嫌味言われたけどね。」
笑いながら答えた。
その言葉に、呆れるララ。
「それ、全部兄さんの所為じゃない。」
「もちろん自覚しているよ。」
ダイニングテーブルに皿を並べるアロンを、さらにジト目で睨む妹。
「それに……アケラ先生、本当に村長さんに立候補しちゃうなんて。全部兄さんの思惑通りになっている何て、嫌だわ。」
13歳、多感な妹は最近アロンに突っかかってくるようになった。
幼い頃は、あれだけファナとアロンを巡っていがみ合っていたのに。
その頃を懐かしく思いつつ、“本当はアロンの事、大好きなくせに” とほくそ笑むファナであった。
「村に残る15人のクラスメイトが、全員アケラ先生を押しているからね。若い人たちって帝都に憧れるのに村に残って支えていこう何て、今時珍しい、素晴らしい教育の賜物だって。それに大人たちからの支持もあるから、“村長の座” についてもいきなり罷免されるような事も無さそうだよ。」
「そりゃあ、アケラ先生は美人で綺麗だからね。教員で忙しそうだから良い話が無いだけで、村長になったら求愛合戦になるのが目に見えるわ。」
それはそれで、アケラにとって朗報だ。
だが。
「来年にはガレット君も成人だからね。頑張って先生のハートを射止めてもらいたいな。」
その求愛合戦に名乗りを上げそうなのが、ガレットだ。
アロンの訓練では、アケラとガレットはパートナーである。
その甲斐あって、2人はアロンの想定通りに強くなった。
加えて、ガレットはここ最近、自らの頭の悪さを嘆いては時間をみつけ、アケラに個別指導を願い出ている。
教員職に、アロン達との訓練で時間が殆ど無いアケラであったが、それでも可愛い教え子のために合間を見つけてはガレットに勉強の手ほどきを行っている。
顔も身体付きも、大人顔負けになったガレット。
リーズル、オズロンと共に、若い村娘たちから非常にモテる3人だ。
アケラ一筋を貫き、ぜひとも結ばれて欲しいと考えるアロン達であった。
「来週は、村長の座を賭けて現村長とアケラ先生との一騎打ち。」
「最初は争い事を避けようって、ボードゲームで雌雄を決しようと提案があったんだけど、村長、そういうの苦手らしいからね。」
「良い人なんだけど、脳筋だからなー。」
“ボードゲームの方が、まだ村長に勝てる芽があったのに”
口にはしないが、同じ事を考える3人であった。
元帝国兵で百人隊長を歴任したアケラ。
アロンの訓練法で、現在の平均スキルレベルは9を超えている。
その実力は、帝国軍の万人隊長――即ち、部隊長クラス。
それも上位どころか、筆頭者を張れるほど。
加えて、村長の職業 “戦士” に対する立ち回りもアケラは熱心に研究を繰り返した。
村長も同じ百人隊長歴任者であったとしても、勝てる要素は皆無なのだ。
◇
「よし、準備は万端。後はお義父様が戻ってくるのを待つだけね。」
エプロンを外すファナが笑顔で紡ぐ。
その言葉で、少し顔を伏せるララ。
「父さん……。」
「心配ないよ、ララ。ボクに任せてくれ。」
そんなララの肩を叩き、慰めるアロンであった。
――今日、アロン達の父ルーディンがラープス村に戻ってくる。
今までも年数回の休暇の時は戻ってきていたが、今回は訳が違う。
戦争で、取り返しのつかない傷を負っての退任。
百人隊長を歴任した父ルーディンは、2か月前に起きた聖国との小競り合いで敵兵の魔法士から受けた “呪怨魔法” によって戦線を離脱せざるを得なくなった。
“呪怨魔法” を扱う魔法士は少なく、喰らっても大抵はダメージのみだが、運が悪いと “呪怨” という消すことの出来ない呪いを受け苦しむこととなる。
そう、イシュバーンの世界で “呪怨” は最も恐ろしい呪いなのだ。
全身の気怠さが抜けず、時折、思い出したように痛みと苦しみが生じる。
その時は動くことすらままならなくなり、生涯苦しむ事になる。
中には、その苦しみから解放されたいという一心で、自害する者もいるほどだ。
バッドステータス “呪怨”
ファントム・イシュバーンでも、その効果は忌み嫌われる。
他のバッドステータスと違い、休眠しても効果を消せないのだ。
しかし効果を消す方法は、幾らでもある。
時折町に訪れる “聖職者” に金を払って取り除いてもらうか、僧侶系覚醒職 “聖者” のスキル、“聖者解放” で底上げされた僧侶スキル “リフレッシュ” をかけてもらうか、エクスキュアポーション以上の回復アイテムで効果を打ち消すなど、だ。
しかし、基本職ばかりが溢れる現実世界イシュバーンでは、そうはいかない。
そもそも、“呪怨” を解ける聖職者など存在しない。
居るとすれば、超越者の “聖者” だ。
そして、聖者は圧倒的に少ない。
帝国にも一人しか存在しておらず、しかも皇帝直属の医療官として召し上げられているため、上位貴族ですら会う事が叶わないのだ。
また、効果を打ち消すエクスキュアポーションも、薬士系覚醒職以上でなければ “調合” が出来ない。
薬士系は、“クリエイトアイテムスキル” と呼ばれる、SPを消費してその場で効果を発揮するアイテムを精製できると同時に、素材や他のアイテムを使用して、別の消費アイテムを生み出す “調合” というスキルを持っている。
この調合は特殊スキルであり、JPを使用して取得したり、レベルを上げたりするものでは無い。
薬士系になれば必ず付与され、バッグや次元倉庫などでアイテム一覧を見るとコマンドの一つに “調合” が含まれ、いつでもどこでも操作が可能。
調合アイテムは、基本職、上位職、そして覚醒職で種類が増える。
その場で効果が消費されるクリエイトアイテムスキルとは違い、消費アイテムとしてストックすることが出来る。
薬士系のメリットの一つだ。
アロンは次元倉庫から細かく装飾の施された美しいガラスの小瓶を取り出し、テーブルに置いた。
小瓶の中には、淡く輝く青白い液体が入っていた。
「それが、お義父様の傷を治すポーションなの?」
取り出された小瓶をまじまじと眺め、ファナが尋ねる。
「うん。エクスキュアポーション。父さんが受けた “呪怨” を治す力がある。」
そう答え、ララを見る。
一瞬ピクッと震える。
「え、何?」
「ララも薬士。転職していけばいずれは作れるようになるけどね。」
アロンの言葉に、ええー、と言いながらファナと同じようにエクスキュアポーションを眺める。
「透き通っているのに……凄い力を感じる。こんなの、人の手に作れるの?」
「作れるさ。ララなら。」
アロンの期待を受けて顔を真っ赤に染めるララ。
現在、薬士でスキルレベル平均、7。
リーズル達と遜色がない。
そしてレベルは何と、270だ。
その理由。
「また、マガロ様のところでうんと修行して、強くならなくちゃだね。」
そう、ララもアロンとファナと共に、邪龍マガロ・デステーアの許で修行をしているのだ。
ただし、残すところ卒業を控えた最高学年のアロン達と違い、13歳のララは学業が目白押しだ。
5日に一回のマガロの修行は、3回に1回行ければ良いほうだ。
それでも、強くなった。
当初、ララを連れてきたアロン達にマガロは不信感を露わにしたが、ファナが用意した “パイのフルコース” ですっかり懐柔され、アロン、ファナ、ララの3人のレベルアップを手伝うのであった。
「それにしても、戦争ってそんなに酷い状況なのかな?」
父、そして途中まで迎えに行った母を待つ間、紅茶を飲む。
出迎えるための御馳走は全て準備を終えたので、あとは到着を待つばかりだ。
ファナの呟きに、紅茶が揺れる茶器を眺めるアロンが答える。
「こんな村までには、どういう状況かは殆ど情報が入らないからね。」
帝都、もしくは大きな市街なら前線の情報はあるだろう。
しかし、大街道から外れるこんな田舎村には、戦況などの情報は入らない。
「……そう言えば、メルティちゃん、最近手紙をよこさなくなったね。」
ボソッと呟くファナ。
“情報が無い” と言う意味では、帝都暮らしのメルティからの情報が、春の終わり頃から一切途絶えたのだ。
月一で、高等教育学院や冒険者組合、中には帝国軍の超越者の情報やどこで仕入れたか分からない帝都の情報をせっせと送ってきた。
必ず、アロンへの愛のメッセージ付きで。
そんな恋敵の恋文が届かなくなったことで、ファナの精神状態はかなり良いが、些か疑問もある。
あれだけ『アロン様馬鹿』だったメルティが、ぱったり手紙を送らなくなる事など、あるのか。
「今年の新入学生の情報は欲しいところだったけど、彼女も忙しいんだろう。そのうち連絡してくるさ。」
紅茶を飲み干すアロン。
だが、その心は全くの別だ。
(裏切ったな。)
【暴虐のアロン】を妄信しているようなメルティ。
12歳の儀式の事件で散々脅しをかけた直後に帝都へ移った。
“恐怖と暴力による屈服”
信頼や友愛による信用や協力ではないのだ。
恐怖や暴力によって屈服させた相手が付き従うなど、いずれ限界を迎える。
しかもメルティはラープス村では無く遠く離れた帝都に住むのだ。
そこで出会った超越者次第で、心変わりしてもおかしく無い。
むしろ、3年もの間せっせと情報を流してくれたのは予想以上の上出来だと考える。
もし、メルティがアロンを裏切った場合に考えられることはただ一つ、超越者にアロンの情報を売り渡すことだろう。
イシュバーンに転生した、絶対強者【暴虐のアロン】
適正職業、“剣神”
全ての職業をジョブマスターに達した唯一の存在。
所持スキル数、最高値の72個。
しかも、どういう方法を取ったのか分からないが、ファントム・イシュバーンのアイテムをいくつか持ち込んでいると考えられる。
超越者を “害虫” と蔑み、敵対感情を持つ危険人物。
そして、その危険人物には “ファナ” という婚約者がいる。
これが、メルティが知り得るアロンの情報だ。
超越者こと、イシュバーンに転生してきた者の多くは、恐らく【暴虐のアロン】は知っているし、その恐ろしさも理解するだろう。
敵対してくるか、懐柔してくるか。
仮に敵対してくるとすれば、同じ転生者同士。
“どうあっても殺す事ができない” 死に戻り “デスワープ” が存在する以上、超越者は殺せないのだ。
ならば、どういう手段に出るか。
アロンを脅し、屈服させようと考えれば、その手段は明白だ。
ファナを、家族を、村を脅迫材料にする。
逆を言えば、ファナを、家族を、村を脅迫材料にならないように守ること、もしくは “無駄な労力に終わる” と諦めさせればよいのだ。
そのための算段は、昨年から積み上げてきている。
その一つが、“邪龍の森” こと【ルシフェルの大迷宮】の最後の門番、邪龍マガロ・デステーアによる庇護だ。
修行の傍ら、霊木を何本か切り倒させてもらい、ディメンション・ムーブにて村の外れにその丸太を積み上げている。
リーズル達にも手伝ってもらい、大量の板や杭に加工している最中だ。
後日、これを村の木柵に繋がるよう取り付けて、森の端から端までをも結ぶことで邪龍の庇護下、つまりマガロの行動範囲に含まれることとなる。
デメリットは、村も “森の一部” として森のモンスターが訪れやすくなるという点だ。
これは森の入口にある柵を強化することで対応可能だろう。
元々、森からの襲撃に備えて護衛隊が交代で毎日見張っているのだ、柵を強化するに合わせて見張り台などを補強すれば、むしろ喜ばれるだろう。
そして、もう一つの算段。
ファナ自身だ。
ララだけでなく、ファナもマガロの修行でかなり強くなったのだ。
「そう言えばファナ、例のスキルは覚えた?」
ファナもララも毛嫌いするメルティの話になりそうだったのを逸らそうと、アロンは別の話題に触れる。
笑みを浮かべる、ファナ。
「うん。昨日 “ホーリーレイ” と “レイズ” を使えるようになったよ!」
「さすがファナ。」
同じように笑顔で答える、アロン。
ファナ、レベル380。
適正職業、僧侶系上位職 “司祭”
ファナは春先に基本職 “僧侶” をジョブマスターにまで辿り着き、ついに、アロンが持ち込んだ “転職の書” を持って上位職の扉を開いたのだ。
それは、純粋なイシュバーンの人間で初めて “上位” の存在に辿り着いたという意味だ。
『超越者以外は、上位職以上の職業に就けない』
超越者という存在と、転生の書というアイテムが無いイシュバーンの世界において、それは常識とされた。
だが蓋を開ければ、ファントム・イシュバーン同様に、全てのスキルレベルを最高値にまで達したジョブマスターなら、転職が可能であったのだ。
上位職に辿り着き、さらにレベルとスキルを底上げするファナ。
超越者と違って “デスワープ” は備わっていないが、身に纏うファントム・イシュバーンの装備に、本人の力量も相まって、簡単にはやられないはずだ。
(後は……ダンジョンに眠る勇者級や英雄級の武具を回収出来れば、さらにファナの身は安全になるな。)
誤算があるとすれば、アロンが持ち込んだ武具は自身が使う物以外、ファナやララ用に持ってきた物は基本職でも装備できる “最上級品” までだ。
上位職となると、最上級の一つ上、勇者級や、さらに上の英雄級も装備が出来る。
持ってきた武器の中には装備出来るものがあるが、目的は身を守ることだ。
アロンのやるべき事に、ダンジョン踏破で得られる僧侶系や薬士系の防具を整えることが追加された。
“邪龍の森” でも手に入る物があるが、マガロが果たして許可してくれるかどうか。
許可が得られなければ、手ごろなダンジョンへ潜るつもりだ。
そして、もう一つの手段。
それは、アロン自身だ。
メルティが知るのは、12歳の時のステータス。
その時点でも、レベルは100を超えていた。
だが、現在。
5日置きに繰り返されるマガロとの修行。
ファナやララと違い、マガロはアロンに対しては容赦が無かった。
周囲を埋め尽くすような数の使い魔を生み出し、四方八方からアロンを執拗に狙う。
それを、余す事なく全て打ち倒すアロンだった。
“ダメージを受けたらアップルパイは無しね”
修行終了後の、ささやかなお茶会も日課だ。
そこで、ファナ特製アップルパイを独占しつつ、悔しがるアロンを前に頬張るのがマガロの最近の楽しみなのだ。
もちろん、全て防がれた時は逆となる。
あまり感情の変化が読み取れないマガロがハンカチを噛みながら悔し涙を流した時は、さすがのアロンも驚いた。
そんな、アロンの現在。
(メルティ……どこまでボクらの事を読み切っているか分からないが、相応の覚悟を決めろよ?)
レベル659。
ラープス村の大人の平均レベル、20。
帝国軍兵の平均レベル、70。
隊長クラス、レベル100。
成人を迎えた超越者の平均レベル、150。
アロンは、イシュバーンの世界でも最強への道を歩みつつあったのだ。