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第3章幕間(2) 灰髪の女は憎悪を燃やす

イースタリ帝国 “中央区” 高等教育学院


広大な敷地の中央に建つ5階建ての本校舎の最上階。

メルティは一人、学院長室の隣にある応接室の前に立つ。


――ここに来るのは、メルティがこの高等教育学院へ編入した以来だ。

あからさまな長い白髭を蓄えた学院長が美辞麗句を並べ、うんざりした記憶しかない。


だが、今は違う。

この応接室の中に、すでに待っているだろう。


この帝国の次期皇帝たる第一皇子ジークノート。

そしてその婚約者、公爵令嬢のレオナ。


メルティと同じ超越者(転生者)の二人。


一介の村娘として生まれたメルティ。

対して、その二人は所謂 “超テンプレ”


(皇子と公爵のお姫様。しかも婚約者同士!? 何それどこのラノベだよ!)


顔を引きつらせながら怒りすら感じる。

自分は、この帝都に来る直前に散々惨めな想いをしたというのに。



(まぁいいわ。イイ子ちゃんに徹して、情報だけ引き出せばいいや。)



あくまで、メルティが想うのは故郷ラープス村に居る絶対者。

ファントム・イシュバーンで “最強” と誰もが認めた、憧れの人。

【暴虐のアロン】だけが、彼女の心の支えだ。


コンコン、とノックをする。

『どうぞ。』と、中からジークノートの声が聞こえた。

一つ深呼吸をして、高級そうなドアを開けるメルティ。


「失礼します。」


「やぁ、待っていたよメルティ。」


にこやかにメルティを迎えるジークノート。

同じようにニコニコと笑うレオナがその隣に座っていた。


「殿下。レオナお嬢様。御用の申し付けにて伺わせていただきました。」


白ブレザーのような制服のスカートの裾を摘まみ、上品にカーテシーで応える。

その様子に、


「アハハハハハハ! らしくないねー!」


と、盛大に笑うジークノート。

隣にレオナも顔を逸らして笑いを堪えている。


「……え?」


顔を顰めスカートの裾から指を外すメルティ。

何故笑うのか。

それよりも、どこか既視感のある笑いだった。


だが、思い出せない。

ジークノートもレオナも転生者である。


即ち、ファントム・イシュバーンのプレイヤーだ。

どこかで会ったのかもしれないが……。


「さすがに分からないか。」


怪訝そうなメルティの心を読み、笑い涙を拭くジークノートは立ち上がり、メルティの前に立つ。

背が高く、まさに絶世の美男子である皇子に思わずときめいてしまう。


「ねぇ、メルティ。」


悪戯を仕掛けるような子供っぽい笑みを浮かべながら、ジークノートが紡ぐ。


「な、なんでしょうか、殿下。」


「まーだ分からない? 私のこと(・・・・)?」


何か、異様に艶っぽい言葉遣い。

どちらかと言うと “オネエ” のようなセリフだ。


「え、どういう……?」


焦るメルティを見て、レオナも立ち上がる。


「そりゃあ無理だって! わかりっこないぜ、それじゃ。」


絵にかいたような御令嬢。

ピンクの髪を巻きあげるレオナが、突然、乱暴な男言葉を発した。

あまりのギャップにギョッとしてしまう。


腹を抱えて笑うジークノート。


「そりゃあそうね! こう言えば分かるかな?」


涙目のまま、ジークノートは確信的な言葉を発した。



「ねぇ、()。」



その言葉に、全身を硬直させて目を見開くメルティ。

それは、ファントム・イシュバーンで所属したギルド『ワルプルギスの夜』内での、メルティの呼び名だったからだ。


それを知るという事。

つまり、二人とも『ワルプルギスの夜』の関係者ということだ。


呆然とするメルティを見て、はぁ、と溜息を吐き出すレオナ。


「だから、それだけじゃ分かりっこ無いってば。」


仁王立ちするレオナの顔を見て、ジークノートは頷く。



「そうだよね、レイジェルト(・・・・・・)。」



レオナに対する、その呼び名。

さらに目を見開くメルティ。


「レ、レイジェルトって……。」


メルティの問いに、にこやかに笑うレオナ。

そしてジークノートを指さして、伝える。


「そうよ。ちなみにそいつ(・・・)は、ニーティ(・・・・)だ。」



硬直するメルティ。

一瞬の間を置いて、


「え、えええええええええっ!?」


叫ぶ。

その様子に、悪戯が成功したように笑い、


「いえーいっ!」


とハイタッチするジークノートとレオナだった。



「サ、サブマス!?」


「「ピンポーン! 大正解!!」」





「……つまり、あの可憐なニーティさんが実はネカマ(・・・)で、あの猛々しかったレイジェルドさんがネナベ(・・・)だったという訳ね。」


ジークノートとレオナから説明され、頭を抱えるメルティ。

アハハ、と二人とも笑う。


「まぁ、そういう事だ。だけどこの世界に転生したら、職業とスキルはそのままでも、性別は向こうの世界のが反映されて……良かったのか悪かったのか。」


「私は良かったわ。まぁ、男の身体で転生するっていうのもロマンがあって良かったかもしれないけどね。」



この三人。

前世のファントム・イシュバーンで、ギルド『ワルプルギスの夜』の仲間だったのだ。


ジークノートこと、ニーティ。

さらさらの茶髪にクリッとした水色の瞳が印象的な、可憐かつ美貌溢れる女性姿のアバター。

その美しさから『王女』と称されていた。

メルティこと『姫』と双璧を成す、アイドル的存在だった。


そしてレオナこと、レイジェルド。

毒々しいピンクの短髪に、筋肉隆々の男性アバター。

寡黙だが、ギルド戦では率先して最前線で戦い、仲間を守り抜く姿。

その力強さと孤高さから、『兄貴』と呼ばれて慕われていた。


この2人は、ワルプルギスの夜のサブギルドマスターだった。


しかし、両方とも性別を偽っていたとは。

思わず頭を抱えてしまったメルティであった。


ちなみにネカマとは、実性別が男性であるにも関わらずネットゲームで女性キャラを使い、口調や仕草など女性の振りをするプレイヤーを指す。

どちらかと言えば蔑称だ。


そしてネナベはその逆を指す。



「まさか。サブマスの二人が転生しているなんて……。」



“サブマス”

サブギルドマスターの略称だ。


ファントム・イシュバーンで、最大50人まで結成出来るギルドは、基本的に創立者が “ギルドマスター” となる。


その権限は絶大で、ギルドに加盟を希望する者の承認・拒否権を有し、メンバーの追放権までも持つ。

さらにギルド名の変更や、加盟者に対する恩恵の選択なども出来る。


対して、サブギルドマスター。

ギルドマスターが任命することで、その権限の一部を代行させることが出来る。

その権限は、“ギルド解散” 以外の全ての中から、任意で与えられる。


良くあるのが、加盟希望者の承認・拒否、そして追放だ。


ファントム・イシュバーンでは、ギルド加入者の人数によって任命できるサブギルドマスターの人数が変わる。

10人まではサブギルドマスターを任命出来ないが、11人目から1人、21人目から2人、と任命できる人数が増え、最終的には最大4人まで “サブマス” を任せることが出来る。


メルティ所属『ワルプルギスの夜』は常に最大50人を誇る人気ギルドであった。

もちろん、サブマスも最大数の4人だった。

その中でも特に人気で慕われていたのが、目の前の2人だ。



「それは私も驚いたよ。まさか、レイジェルドがこんな可憐な少女で、しかも公爵令嬢として転生して、生まれながらにして私の婚約者になるなんて。どういうギャグかと思った。」


ニーティことジークノートの言葉に、はぁ!? と叫ぶレイジェルドこと、レオナ。


「そりゃあ私のセリフ! まさかアンタが男で、しかも帝国の第一皇子って!? 世も末だわ!」


ガーッと怒るレオナに、まぁまぁと穏やかに宥めるジークノート。

ファントム・イシュバーンでは見られなかった二人の絡みに、新鮮味と非現実感の両方から混乱するメルティだった。


何とか声を絞り出し、尋ねる。


「えっと、とりあえず前世の名前は置いておいて……ジークノートさんは帝国の第一皇子として転生して、レオナさんは宰相様の御令嬢として転生された、と。」


「そう。超絶テンプレだよね。」


卑屈のような笑みを浮かべて答えるジークノート。

その表情に苛立つメルティだった。


「姫、気持ちは分かるわ。私も公爵令嬢なんて妙な立場で生まれたけど、まさかコイツの婚約者に仕立て上げられるなんて、本当絶望でしかないよ。」


メルティの気持ちを汲んでか、レオナがうんざりと言う。

だが、それでも “公爵令嬢” だ。

帝国内で最高位の貴族、しかも婚約者が次期皇帝。

人生勝ち組確定である。


しかも……。


「ジークノートさんは “神獣師”(ゴッズロード) で、レイジェルドさん、じゃなかった、レオナさんは “神拳”(ゴッドハンド)ってことですよね?」



『ワルプルギスの夜』サブギルドマスター

ニーティこと、ジークノートは、獣使士系の最高位、極醒職 “神獣師”

そしてレイジェルドこと、レオナは、武闘士系の最高位、極醒職 “神拳”


それは、この世界で最強の部類であることを意味する。

覚醒職 “魔聖” 、しかも成り立ての中途半端な状態であるメルティとは、雲泥の差だ。


「そうだよ。姫も魔聖なんだよね。女神様の言った通り、ファントム・イシュバーンで就いていた職業がそのままこの世界に反映されているみたいだね。」


ジークノートはお茶を一口飲み、答えた。


「夢にまで見た異世界転生。華々しいかと思いきやそうでも無くてガッカリよね。」


意外や不満そうにレオナが紡ぐ。


「どうしてですか?」


「だって、あのファントム・イシュバーンと全く同じ設定よ、この世界。終わらない戦争を、ずーっと続けている。私もコイツも、いずれこの帝国を背負う運命だけど、それはイコール、聖国と覇国と戦争を繰り広げろって意味よ!」


――それが、ファントム・イシュバーンの世界。

いや、このイシュバーンの世界だ。



「そこでね。」


真剣な表情でジークノートが紡ぐ。

思わずドキリ、と心臓が高鳴るメルティ。


髪質や瞳は、サブマス “ニーティ” と同じ。

ワルプルギスの夜では、頼りがいのあるお姉さんだった。

それがそのまま、絶世のイケメンになっているのだ。

ときめくな、と言われても難しい。


「この戦争を終えるため、今から力を付けたい。」


ジークノートの言葉に、レオナも頷く。


「ちなみにジークノートさんとレオナさんの今のレベルは?」


出されたお茶を一口飲んで、メルティが尋ねる。


「私は85。」

「コイツと同じよ。」


驚くメルティ。

高等教育学院に入り、実地訓練が多く用意されているが、それでも現在レベル62なのだ。

目の前の2人は、遥か先に進む。


「だが、なかなかレベルが上がらず困っているよ。」


「いくら転生者特典があっても、武器が十分に無いからね。」


そう、スキルは合っても、強い装備が無ければ威力も弱い。

ファントム・イシュバーンと違い、イシュバーンの世界は装備が十分に揃っていないのだ。


「それでも、もう85なんて凄いですよ。」


だが、メルティの心の中は別だ。


(アロン様は、すでに100超え♪ やっぱりあの方は凄いよね。)


愛しの、憧れの人物を思い描いた。



「レベルを上げつつ、ステータスはなるべくINT(精神力)に振り分けているけど……やっぱ、SPが低いのがネックだよ。いくら極醒職だからと言っても、SPが十分に無ければスキルも満足に揮えないからね。」


ソファに深く身体を預け、ジークノートが紡ぐ。


「私、知らないんですけど。神獣師の秘奥義ってどのくらいSP使うのです?」


「30万。」


ギョッとするメルティ。


「“秘奥義ピグレーツォ” 最強の悪魔を召喚するスキルなんだけど、放つだけで30万も必要だし、召喚スキル同様、秒毎にSPをゴリゴリ奪われるから今世で使える気がしないわよ。」


思わず、ニーティのような女言葉になるジークノート。

「キモッ」と言ってしまった一応婚約者のレオナに罪は無い。



獣使士系が扱える、召喚スキル。

呼び寄せるに、一定のSPを要する。

そして召喚後、1秒毎に呼び出しに要したSPの1%ずつ、SPが減っていく。


最強の秘奥義ピグレーツォを召喚すると、毎秒3,000ものSPを削られ続けることになり、SP自動回復のスキル付き武具の装備が必須と言われるほどだ。


ただし、そのリスクを負っても召喚スキルは強力。


プレイヤーの代わりにオートで戦闘に加わる召喚獣。

それぞれに “賢さ” が設定されているが、賢い召喚獣は優秀なAIのおかげで、プレイヤーの意図を最大限に汲み取り、攻撃だけでなく、守備に回復にと幅広く活躍する。


もちろん、同時召喚も可能だ。

上位職スキルで2体、覚醒職スキルで3体と同時召喚が可能となり、大量のSPと引き換えに屈強な召喚獣と共に戦える。


召喚獣の強さと派手なエフェクト。

プレイヤーの痒い所に手が届くように立ち回ってくれる賢い召喚獣が多数存在するため、魔法士系に次いで人気の高い職業である。


ただ、やはり癖は強い。

召喚獣を呼び出しているのは、プレイヤーだ。

いくら召喚獣が強かろうと、プレイヤーが倒されてしまえばそこまでだ。


召喚獣に頼り切りとならず、自らも敵を切り裂き往なす力量が求められる。

魔法士同様、極めるには奥の深い職業なのだ。


――そういう意味では、ジークノートことニーティは、神獣師としてファントム・イシュバーン内では最上位のプレイヤースキルを有していた。


ファントム・イシュバーン最強アバター【暴虐のアロン】に次いで、誰が強いか。

帝国陣営では、アロンに次いで5指に入る実力者なのだ。



「戦争を終えるために。」


確認するように呟く、メルティ。

頷くジークノートとレオナ。


「ファントム・イシュバーンじゃそういうものだと(・・・・・・・・)疑問に思わなかったけど、現実の世界となると話が変わる。何千年も戦争を繰り広げているなんて、異常だ。」


両手を組み、目を細めるジークノート。

その隣、でお茶を口に含み、続けるレオナ。


「私達が何故転生させられたか。この世界の住人では辿り着けない、上位職に覚醒職、そして極醒職。スキルもそのままで、殺されても死なない身体。つまり、死ぬことが許されず、殺し合えと言われているようなものよ?」


その言葉に、目を見開く。

――考えたことも、無かった。


“この世界は、遊戯(ゲーム)


散々嵌った、ファントム・イシュバーンをそのまま映したような世界。

そこで、生み出した愛すべきアバターそのままの姿と名前、職業とスキルもそのままで転生した。


つまり、“ゲームのように楽しめ”

そういう意味だと思っていた。


しかし、目の前のサブマス2人は違う。

この世界を、まるで現実世界のように捉えている。

――憧れる、アロンのように。


「現実の、世界。」


呟くメルティに、頷くジークノート。


「そうだ。今まで会った転生者の中には、この世界はゲームだと宣うのも居た。しかし現実は違うと思う。私達が転生させられた意味。何か、裏があるとしか思えない。」


「それが今のところの私達の結論よ。」


皇帝と宰相。

切っても切り離せない両家の同じ年の子として生を授かり、生まれながら婚約者に仕立て上げられた2人。

互いの正体を知ってから、こうして何度もこの世界について検証を繰り広げていたのだ。



「それで、お二人はどうするつもり? あと私は何をすべき?」


かつての仲間。

それも、アロンほどではないが、同じギルドのサブマスであり憧れた二人だ。

出来れば力になりたいと考えるメルティであった。


そのメルティの手を握る、ジークノート。

息を飲み込み、顔を真っ赤に染め上げる。

心臓が、高鳴る。



「私はいずれ、この帝国の皇帝になる。それまでに、まずは帝国の転生者を纏め上げて意思統一を図りたい。そして、同じように聖国と覇国に転生した人達に声を掛け、この世界を変えたい。」


真っ直ぐメルティを見つめるジークノート。

前世でも今世でも、こんなイケメンに手を握られ見つめられる経験の無いメルティは、限界寸前であった。


(や、や、ヤバイっ! このままじゃ……。)


“惚れてしまう”


必死にアロンの事を思い浮かべる。

そんなメルティの心境を知ってか知らずか、さらにギュッと強く手を握るジークノートであった。


「姫。君の力を貸してもらえないか? 同じギルドの仲間として、同じ転生者として。もちろん、クラスメイトのジンさんもセイルさんも一緒に。」


真っ直ぐ見つめてくるジークノートから、目が離せない。

ドギマギしながら、頷くことしか出来ないメルティであった。


それを了承として受け取ったジークノートは、笑みをさらに深める。

しかし。


「で、でも。中には我が物でこの世界を食い物にする、害虫みたいな人もいるんじゃ!?」


転生者特典という、絶大な力を持っているのだ。

全員が、アロンやジークノートのような考えを持っているわけがない。


――メルティも、そうだった。


その問いに、柔らかく笑う。


「中にはそういう者も居るだろう。だが、この世界の秘密や転生の理由を知れば、きっと力を貸してくれるはずさ。私たちは死なぬ身体なのだ。争うなんて無益なことをせず、対話と理解で、この世界から戦争を無くすんだ。」



その言葉に、メルティの心が飛び跳ねた。

瞳は潤み、鼓動と息遣いが自然と荒くなる。


――憧れた、アロンとは違う。

まるで恐怖と殺戮で、暴力で転生者を駆除しようとする男とは、違う。



そもそも、彼はいつも “ファナ(モブ女)” の事ばかりだった。


思い起こせば、同じ転生者であるにも関わらず自分(メルティ)を欺き、あまつさえ “殺す” と脅してきた。


その脅しに屈し、この高等教育学院内に居る転生者の情報を全て、せっせと送っていた。

――彼の役に立ち、いつか振り向いてもらうために。


だが、この3年間で進展はあったのか?


送る手紙は常に一方通行。

彼からの返事など、一度も受けたことが無い。


――きっと、(メルティ)がしたためた想い溢れる手紙を、あのファナ(モブ女)と眺めては嘲笑しているに決まっている。



憧れは、想いに。

想いは、愛に。


――愛は、愛憎に。



目の前の自分を必要としてくれる紳士と、ただ一方的に憧れるが一向に振り向かず、単なるモブ女に想いを注ぐ馬鹿な男。


“どちらが素晴らしいか” など、考えるまでも無い。



メルティの瞳に、憎悪の炎が宿る。



「ど、どうしたの、姫!?」


「……ジークノートさん。レオナさん。聞いて欲しい話があります。」



“完全に、惚れた”

目の前にジークノートに心ときめき、“彼のために役立とう” と決意を変えた、メルティ。


その男にも、隣には婚約者がいる。

しかし、その婚約者はNPC(モブ)ではない。


同じギルドで、ジークノートと同様に憧れたサブマス、“神拳” のレイジェルド、その人だ。



ゲームの世界で。

NPC(モブ女)に入れ込む馬鹿な男とは違う。



(そうよ、どうせ殺せるわけがない。)



今思えば、あの時の脅しなど、意味が無かった。

何故なら、転生者は死なぬ身体なのだから。



ククク、と嗤うメルティ。

その様子に、怪訝な表情のジークノートとレオナ。



「実は、まだ知られていない転生者がいます。」




(さようなら、アロン様。)



憧れ恋焦がれた、男。

今や、憎悪を燃やす相手。



【暴虐のアロン】の情報を、未来の皇帝とその妃に告げるのであった。

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