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3-8 二人の覚悟

――何故、こうなった?


目の前に迫りくる黒い光を放つ球体の使い魔を切り裂きながら、アロンは必死に活路を見出そうとする。

アロンのすぐ後ろには、怯え、震える最愛の婚約者ファナ。


“自分が、邪龍の甘言に乗ってしまった所為だ”


先日、出会った人型の邪龍マガロ・デステーアの風貌と対話を臨む姿勢、そして “アロンが不在時はラープス村を守って欲しい” という望みに対し、条件付きで了承してくれたはずだ。


その条件の一つ。

マガロがいたく気に入ったアップルパイを焼いたファナをこの場に連れてくること。

彼女は “ただお礼が言いたい” だけと告げた。


それがまさか、アロンごと排除に乗り出すとは思いもしなかった。


マガロは言った。


『貴方は人が好過ぎるわ。』

『何故、信用できたのかしら?』


その言葉通りだった。

ファナを、妹ララや家族を、村の皆を超越者(害虫)から守るために、そして御使いの男から告げられた超越者の “選別” と “殲滅” のために、別世界へ転移して、力と武具を携えてこのイシュバーンに再度生まれ変わったのだ。


赤子から始め、ファントム・イシュバーンで得た力は12歳の儀式まで “年齢補正中” という名の制限が掛かり、それが解除されようやくレベリングをし始めた矢先だった。


突如、邪龍マガロ・デステーアや凶悪なインパラトールヴォルフに出会ってしまったショックからか、意外やマガロは話の通る者だったからか。


――そもそも、前世も今世もラープス村で生まれ育ち、恵みの森こと “邪龍の森” の恩恵に預かっていた。

“邪龍” は女神の力で改心し、森の奥底で女神や人間に対する懺悔と後悔を繰り返している存在だと、言われ続けていた。


ファントム・イシュバーンで出会った邪龍マガロ・デステーアは、まさしく邪龍そのものであったが、現実世界のイシュバーンで出会ったマガロは、病的なまでに細い少女の姿であった。


こうしたアロンが生まれ育った背景や、ファントム・イシュバーンと現実世界とのギャップ、さらに当初のマガロの人当りがあってこそ、アロンは彼女を信じてしまったのだ。



“森の恵みを享受する村の民を守ってくれるだろう”



だめで元々。

あわよくば、という淡い期待からだった。


それがまさか、このような事になるとは……。



「キャアッ!!」


使い魔はアロンよりもファナを執拗に狙ってくる。

それもそのはず、アロンにとって “弱点” はファナなのだから。


超越者として死に戻り “デスワープ” が発動するアロンは、不死の存在だ。

いくら殺しても復活してしまうなら意味が無い。


つまりマガロは、死ねば終わりのファナを狙っているのだ。


もちろん、それを理解するアロン。

執拗に迫りくる使い魔を次々と切り裂く。


だが、数が多い。


最初は10体程度であったが、次第に数が増え、今では30体ほど空中に浮かび、弾丸のように次々と襲い掛かってくる。

次第に押されはじめ、ファナの眼前で使い魔を切り裂くような状況となってきてしまっているのだ。


「苦しそうね?」


掌から使い魔を生み続けるマガロが、口角を歪めて嗤う。

迫りくる使い魔を、苦悶の表情で切り裂いているアロンを滑稽に思っているのか。


“遊ばれている”


そもそも、マガロの本性は “邪龍” だ。

何故か人の姿をしているが、もし仮にこの場で本性を露わにされたら、現時点でのアロンでは手も足も出ないだろう。


そして人の姿のマガロも、その力量は計り知れない。

先ほど、ファナを急襲した時の動きは、辛うじてアロンが防げるレベルであった。


それでも余裕がある様子。

恐らく人の姿の状態でも、今のアロンでは太刀打ち出来ない。


ただ、それでもやられっぱなしではない。

こうして使い魔を倒している間も、アロンはレベルアップをしているのだ。

ステータス画面を開けないため溜まったステータスポイントを振り分けられないが、このままの状態でやり過ごし、隙を狙って一度離脱してポイントを全部STR(腕力)に振り分ければ、仮にアロンとファナを追いかけてきたマガロを返り討ちに出来るかもしれない。


アロンが昨夜確認した時のレベルは、166だった。

先日、森の奥でパラライズエイプやカイザーウルフを撃退した際にレベルアップしていた。


マガロが生み出す使い魔で、どれほどレベルが上がるか分からないが……。

それに賭けるしか、アロンには手立てが無かった。


それに。

背後で怯えるファナの精神も、限界が近い。


アロンが一瞬でも気を抜けば、ファナは使い魔によって一撃で殺されてしまう。

何とか隙を見出し、限界スレスレでディメンション・ムーブによる離脱を試みるのだった。


「ふふふ、その状態で逃げられると思うの?」


だが、そんなアロンの思考も目の前の邪龍には看破されていた。

苦々しく舌打ちをしても、アロンは攻撃の手を休めない。


気付いたら、使い魔の数は50体を超えていた。

徐々に、アロンの身体にも使い魔の攻撃が当たり始めた。


「うん。さすがにアロン殿は傷つけるのは無理そうね。」


アロンの防具は、全て神話級だ。

さらにマガロの攻撃である “闇属性” と “邪属性” は無効となる。

純粋な体当たりでのダメージのみとなるが、強靭な防御力と大量のHPを前に、ほぼ無傷だ。


マガロは、ファナへ目線を流した。

その目線に合わせてファナへの急襲が激しくなる。


「おの、れ、マガロ!!」


さらにアロンは剣速を上げて、使い魔を切り裂く。


“指一本たりとも、ファナには触れさせない”

ファントム・イシュバーンで培った技術と、底知れない精神力でファナを守る。



アロンを眺め、涙を零すファナ。

それは、言葉通り、約束通り、守られているという安堵からか。


――違う。


――悔しい。



ファナは、愛するアロンに守られるだけで、何も出来ずただうずくまっているだけの自分自身が許せなかった。

邪龍が生み出す使い魔の攻撃を受けつつも守ってくれるアロン。


実際、アロンが受けるダメージは皆無だが、ファナにはそうは映らない。

身を挺して守ってくれている、最愛の婚約者の姿だった。



“何て無力なの?”



この場に着いてきたのは、自分の意思だ。

“アロンが居るから大丈夫” という安易な気持ちで着いてきた。


その結果、最愛のアロンの足手まといとなる屈辱。

苦しく、悲しく。


そして、悔しい。


そんなファナの気持ちを見抜いたのか、マガロが嘲笑する。



「貴女はただうずくまっているだけなの?」



使い魔を絶えず生み出しながら、半分呆れたように呟いた。

その言葉が、ファナの心を深く抉った。


「黙れ!」


マガロの言葉を制するアロン。

使い魔を切り裂きながらもファナを気遣う。


それが余計、ファナの心を抉る。


「貴女の婚約者はこんなにも強く優しいのに、貴女はただそうやって守られているだけ。アロン殿の足枷になっていると、自覚しているでしょ?」


さらに続く、マガロの口撃。

ファナの目から止めどなく涙が溢れる。


――そんな事を指摘されるまでも無い。

この状況こそ、その証左なのだから。


「アロン殿は神々の使徒(超越者)。しかし、彼等とは何もかもが違う存在。いわゆる彼の天命を全うするに、貴女が最大の障害よね。」


「黙れ! それ以上ファナを侮辱することは許さない!」


激高するアロンはスキルを揮い、一気に使い魔を消滅させた。

驚くマガロに、そのまま豪速で駆け出し、切りつける。


『ガンッ!』


だが、マガロが握っていた黒い槍に、簡単に防がれた。


「さぁ、どうするのかしら?」


アロンの剣を防いだのと同時に、無数の使い魔を再び生み出した。

顔を歪め、ファナの許へ駆け出そうとするアロン。


しかし。


『ギインッ!』


ファナとの間に、マガロは一瞬で移動してアロンを抑えた。


「グッ!」


「さぁ、そこで眺めていなさい。」


ファナの周囲に、使い魔が浮かぶ。


「あ、あ……。」


脚が竦み、震えるファナ。


「ファナーー!!!」


アロンの慟哭。

その大きな叫びが、衝撃のようにファナに駆け巡る。



何故、こうなった?


一体、今までの修行の日々は何だったのか?



恋敵(メルティ)曰く、“最強” のアロンの隣に相応しい、女になるべく日夜励んでいたのではないか?



無様に、涙を流して足を震わせるだけで終わるのか?



「……違う。」



ボソリ、とファナは呟く。

両手で握る、セイントスタッフ。


アロンから貰った、とても一介の村娘が身に着けられるものでない、素敵な装備の数々。


――浮かれた自分が、恥ずかしい。


愛する彼の隣に立つ資格がある者だけに許された装いだ。

ただ守られ震える者には、足手まといには、その資格は無い。



「これで終わりね。さようなら。」


「や、やめろーーー!!」



アロンの叫びを無視する無情なマガロ。

同時に、使い魔の一体がゴウッと音を立ててファナ目掛けて突っ込んでいった。


その勢いは、いくら聖職シリーズとは言え、闇と邪の両属性を無効化にするとは言え、ファナの細い身体を貫くには十分な勢いであった。


刹那。

ファナの “死” が確定した。



少なくとも、アロンには、そう見えた。



だが。



「あああああああああああっ!!!」



目を見開き、手に握るセイントスタッフを振り抜くファナ。

美しい魔石が取り付けられた杖は、豪速で襲い掛かる使い魔と激突した。


『パアアンッ!!』


響く破裂音。

同時に、使い魔は空中で、霧散した。


「はぁっ、はぁっ。」


肩で息をする。

辛うじて、命が繋がった。


「やるじゃない。」


そんなファナを眺めて、目元を緩めるマガロ。

すると、今度は使い魔が二体同時にファナに襲い掛かった。


「あああああっ!!」


叫ぶファナ。

まず手前の1体を打ち抜き、もう1体を辛うじて交わし、そして。


『パンッ!』


軽快な破裂音と共に、2体目も打ち抜いた。


「ファナッ!!」


アロンの目には、奇跡のように映ったのだろう。

だが、極限状態で神経が研ぎ澄まされたファナには、使い魔の動きが読めたのであった。


「ふふふ。ならこれはどうかしら?」


今度は3体。

真っ直ぐと、左右から同時に襲い掛かる。


だが、ファナは3体とも躱し、後ろからセイントスタッフを振り抜いて何とか3体を撃破するのであった。


続けざまに襲い掛かる使い魔を、躱し、防ぎ、そして打ち付けるファナ。

まるで呆然とするようなマガロ。


それが隙だった。


『ギンッ!』


「おっと?」


アロンもただ指を咥えて見ているだけではない。

マガロの槍を弾き、そのままファナの許へ駆け出した。


「大丈夫か、ファナ!」


無事であるファナの様子を確認して、再びファナを背にマガロへ向き合うアロン。

だが。



「もう……嫌。」



ファナの呟き。

アロンは一瞬、自己嫌悪が過る。

こんな場所へ無理矢理連れてきたのは、自分だからだ。


しかし、ファナの言葉は全く別であった。



「もう……アロンに守られるばかりは、嫌なの!」



ファナは涙を豪快に拭い、アロンの隣に立った。


「ファナ!? 一体……。」


「私はっ!!」


杖を構えながら、アロンの目を見据えて叫ぶ。



「私は! 貴方と一緒に戦う!」



幼い頃からずっと一緒だった、大切なアロン。

(ファナ)の、勇者様。


そんな彼と婚約を結んだ自分は、お姫様?


“違うっ!”



ファナは、そんな夢見る過去の自分と決別した。


大切なアロンは、神からの天命を背負う勇者。

だからこそ、彼は独りで戦おうとする。


愛する者を、家族を、村の人たちを守るため。


だが、そんな責任をアロン一人に背負わせるのか?

“違う”

それは、婚約者で未来の妻たる、(ファナ)が許さない。



未来の夫婦として、共に歩む。

そうでなければ、彼の隣に立つ資格は無い。


彼が天命を背負うなら、足枷にはなりたくない。

その重荷を、共に背負う。



真っ直ぐ、真剣なファナの叫び。

アロンの心が、歓喜を叫ぶ。



ずっと、独りだった。

周囲は “敵” にしか見えなかった別世界。

ファントム・イシュバーンで、ただ強くなるため過ごした、孤独な時間。


全ては、目の前のファナを守るため。


だが、ファナは守られるだけではない。

先ほどの気迫に、この叫び。



その覚悟は、本物だった。




アロンは溢れそうになる涙を堪え、頷く。



“何て自分は幸せなんだろうか”



ただ、可愛いだけじゃない。

ただ、優しいだけじゃない。


真なる強者とは何か。

絶体絶命でも諦めず、純粋にただ、想いを貫く姿勢。



アロンはまた、ファナという存在に心を救われた。



「ああ、ファナ! 一緒に戦おう!」


心は決まった。

例え相手が最悪の邪龍だとしても、愛する未来の妻となら乗り越えられる。


ここで限界を超えなければ、未来(さき)は無い。

――ファナのように。



アロンは、剣を構えながら左手で次元倉庫を開こうとする。

取り出そうとするは、アロン最強の武器。


ファントム・イシュバーンで愛用した、神話級武器。



“神剣グロリアスグロウ”



巨大な両手剣。

14歳で、身体はある程度大人に向けて大きくなったアロンとは言え、満足に揮えるとは思えない。

だが、ファナと共に戦い、目の前の邪龍を祓うにはそれしか無い。


アロンもまた、覚悟が決まったのだ。



その時。



「素晴らしい。」



右手に握っていた黒い槍を消し、手を叩くマガロ。

同時に、周囲に浮かんでいた50を超える使い魔が、消えた。



「……いよいよ本番ってわけか。」



アロンは次元倉庫から、神剣グロリアスグロウを取り出そうとする。

しかし。



「いいえ、ここまでよ。」



『グリュッ』


マガロは長い黒髪に覆われ、装いを変えた。

厚く長い黒髪は巻かれ、紫と黒のドレスに着替えた令嬢風の姿となったのだ。


そのまま、出しっぱなしであった豪奢な椅子に腰を掛けた。



「さぁ、改めてお茶にしましょう?」



「はぁ!?」


次元倉庫かお茶とお菓子、そして仕舞っていたファナのアップルパイを出して笑みを浮かべるマガロに、アロンは剣を構えたまま叫ぶ。

隣のファナも、怪訝顔だ。


くくく、と笑うマガロ。


「言ったでしょ? 私の戯れだと。ここまで付き合ってくれてありがとう。面白かったわ。」


そう言い、3つの茶器にお茶を注ぐ。

その様子、頭に血が上るアロン。


「ふざけているのか、マガロッ!!」


あら? と首を傾げる。


「ふざけてなんていないわよ? さぁ、お茶にしましょう。ファナ殿のアップルパイ、本当に美味しそう。アロン殿の大好物なのでしょ、一緒に食べましょう?」


そんなマガロに、ファナも怒り心頭。


「どういう事ですかっ! 馬鹿にしているのですか!?」


「そうね。もし相手が私じゃなくて、もっと狡い相手なら……例えば、どこぞの糞女(・・・・・・)だとしたら、貴方たち二人とも、あっさり後ろから刺されていたかもね。」


その言葉で、ハッとするアロン。


「まさか……わざと?」


「ええ。前回、貴方はすっかり忘れていたようだけど、レベルアップの約束。それを果たそうとしたんだけど、ただ単に使い魔を斬らせるだけじゃ芸が無いからね。貴方たちの甘さや弱点も断ち切ってあげようと思ったの。」


お茶を淹れ終え、二人に椅子に座るようにジェスチャーで指示するマガロ。

その言葉で、アロンとファナは目を見合わせる。


「じゃあ……ファナを襲ったのは?」


「本当に殺すわけないでしょ? こんな素敵なパイを焼く子よ? 世界の宝だわ。」


「私に使い魔をけしかけたのは……?」


「あれはアロン殿に向かわせた個体とは違うわ。見た目じゃ分からないだろうけど、ファナ殿の実力なら一発で潰せるくらいの子だったの。尤も、ぶつかる直前で消すつもりだったけど、ちゃんと攻撃出来て良かったわ。」



淡々と答えるマガロに、徐々に呆れるアロンとファナ。

だが、考えれば考えるほど、マガロなりの警告も含まれていたと理解した。



「そ、そこまで考えてくださったのですか……?」


「もちろんよ。アロン殿の役目の話、そして婚約者の話。聞いた時に、これは不味いと思ったのよ。確かにアロン殿は強いし、これからどんどん高みに辿り着くでしょう。でも、そんなアロン殿の弱点になるのが、大切な人。つまり、貴女。」


震えるアロンとファナ。

アロンはその可能性もあると考えていたため、なるべく自分自身の正体を明らかにせず、超越者に対しても秘密裏に動くつもりでいた。


しかし、それでもいつか限界が来る。

最悪、アロンの正体やファナの存在が割れ、レントール達以上の実力を持つ超越者たちが徒党を組んでラープス村を襲撃してきたら、アロン一人で守り切る自信が無い。


だからこそ、邪龍マガロ・デステーアに “村を守ってくれないか” と提案したのだ。


だが、マガロはさらに予防線を張ったこととなる。

それはつまり。


「……私も、強くなれ、と?」


恐る恐る尋ねるファナ。

満足そうに、頷くマガロであった。


「帰ったら確認してみてね。アロン殿なら見られるのでしょ? 人の強さの指標を。」


アロンだけでなく、ファナにも使い魔を倒させていた。

それは、ファナにもレベリングを施したこととなる。


「マガロ……。」


「礼には及ばないわ。理由如何に関わらず、貴方たちを危険に晒したのは事実よ? でも、貴方たち二人は乗り越え、私の想像以上に絆を強めた。本当に素晴らしいわ。」


さらに、椅子に座るように促すマガロ。

しかし、二人は立ち尽くしたままだ。


「どうして、そこまでしてくれるのだ?」


アロンにとって、最大の疑問。

何故、この邪龍はそこまでアロン達に肩入れしてくれるのだろうか。


ふぅ、と溜息を吐き出すアガロ。


「強いて言えば、興味と期待があるからかしら?」


「興味?」


尋ねるアロンだが、再び深い溜息を吐き出すマガロ。


「ねぇ、いい加減座ってくれないかしら? 早く、ファナ殿のアップルパイを堪能したいの。二人が座らず一人で飲み食いするわけにはいかない。」


アロンとファナを見るが、目線はチラチラとアップルパイにも向く。

相当我慢している様子だ。


顔を見合わせるアロンとファナ。


「座れば、話をしてくれるか?」


「もちろんよ。一緒に楽しみましょう。……それに、私も貴方に聞きたいことが幾つかあるの。お互い、腹を割って話しましょう?」


頬杖をついて吐き出すように答えるマガロ。

そして。


「もちろん、ファナ殿も聞く権利があるわ。夫婦に隠し事は無しでしょ?」


うっ、と言葉が詰まるアロン。


「それは、つまり。」

「ええ、全部話してもらうわ? ……私も、出来る限り全てに答える。恐らく、貴方の天命とやらと私の話は、繋がっている気がするから。」


躊躇するアロン。

だが、先ほど、覚悟を決めたのだ。


ファナと共に、歩んでいくことを。


「ファナ。」


アロンは黒銀の鉄仮面を取り外してファナを見つめる。



「ボクの全てを……知る覚悟はあるか?」



前世のこと。

ファントム・イシュバーンでの5年間のこと。


超越者とは、何か。

そして、アロンが御使いに与えられた役割とは何か。


包み隠さず、ファナに伝える覚悟を決めた。



アロンの尋常じゃない覚悟を受け、ゴクリ、と喉を鳴らしファナは頷く。


「うん。アロンの事、全部教えて。」



“アロンが背負っている、何か”

次元倉庫に、ディメンション・ムーブ。

そして恐ろしい武具の数々。


それらを与えられてまでやり遂げなければならない天命。

人知を超える、何かが絡んでいることは確実だ。


だが、ファナも覚悟を決めた。

愛するアロンの背負うものを、共に背負う覚悟を。



「素晴らしい。」



改めて呟く、マガロ。

そして。



「さぁ、早く座って? いい加減、お茶にしましょう!」


待ちきれない様子のマガロ。

その姿に、思わず笑ってしまうアロンとファナであった。




――この後、二人は知ることとなる。

マガロから語られる、絶望的な “真実” を。

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