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3-7 守るための戦い

しばらく更新が滞り申し訳ありませんでした。

本業が一月近い連勤で、その山場が土日挟んでようやく落ち着きました。

なるべく一日一話更新を目標に頑張りますので、今後もよろしくお願いいたします。

「ね、ねぇ。アロン。大切な話ってなぁに?」


ここはアロンの自室。

ベッドの上に腰を掛けて、顔を真っ赤に染め上げて尋ねるファナ。


その隣、同じくベッドの上に腰を掛けるアロンは俯いたままだ。



物心付く前から一緒に育った、幼馴染の二人。

11歳の時に相思相愛と知り、14歳となったつい先日、両家公認の元で二人は晴れて婚約者となった。

後は、成人した後に祝言を上げるのみ。


だが、二人はまだ正式な夫婦ではない。

イシュバーンにおける成人は16歳のため、二人は未成年だ。


村の掟で、婚約者同士であっても未成年が交わるのはご法度。

唇を重ねることくらいは大目に見られるが、身体を重ねるのは禁止されている。


もちろん、ファナもそれを十分理解している。

だが、こうして愛するアロンの部屋で、二人きり並んで座っていると、どうしても期待と不安で心が落ち着かないのだ。


さきほどから、心臓の音しか聞こえない。

もう一度、ファナはアロンの横顔を眺めて尋ねる。


「アロン。話って何かしら?」


アロンは組んだ両手を口元に当て、チラリとファナを見た。

言うべきか、言うまいか、未だ悩んでいる。



“邪龍がファナに会いたがっている”



そんな荒唐無稽な話、信じてもらえるかどうか。

だが、約束の期日は4日後。


言い淀むアロン。

さすがのファナも、その様子に首を傾げる。

そして次第に……。


「……ね、え。私、何かしちゃった?」


「へ?」


気の抜けた返事をしてしまったアロンは、ギョッとした。

目の前のファナの表情は曇り、瞳には大粒の涙を溜めていたからだ。


「私のこと。嫌いになっちゃったの……?」


“大切な話” とは、もしや、別れ話かと思ってしまったファナ。

ポロリ、と一筋涙が零れた。


「何言っているんだよ、ファナ! 嫌いになるわけないだろ!」


前世、そして今世とファナ一筋のアロン。

今世も晴れて婚約者として結ばれたファナを嫌うなど、アロンにはあり得ない話だ。


だが、目の前の婚約者は、大切な話を中々切り出せないアロンから、もしや婚約解消の話を切り出すのかと不安で心が押しつぶされそうになった。


「じゃあ……大切な話って?」


涙目のファナに、そんな想いをさせてしまったのかと自己嫌悪に陥るアロン。

優しく頭を撫でて、アロンは真剣に紡ぐ。


「ファナ。これからする話は……ボクとファナの二人だけの秘密にしてもらいたい。」


「え、う、うんっ!」


別れ話じゃない。

それだけでファナの心が晴れた。

涙を拭って、笑顔を向ける。


「二人だけの秘密。うん。」


愛するアロンと、二人だけで共有する話。

くすぐったくも、嬉しいファナ。


だが。

ファナとは真逆に、真剣そのもののアロンであった。


「……信じられないかもしれないが、これから話すことは、全て事実だ。」



その話は、想像を絶する内容であった。





「じゃ、邪龍……。」



夏休み、初めてアロンが一人で森の奥深くへ足を運んだ時に出会った森の番人、邪龍マガロ・デステーア。


その姿は、病的なほど痩せ細った怪しい女であったこと。


アロンと同じく次元倉庫を扱い、中から椅子やテーブルを引きずり出して、何故か一緒にお茶を嗜んだこと。

森の奥深くに生息するモンスターを倒さぬ代わりに、アロンのレベルアップを手伝ってくれると言ったこと。


“再び来い” と言われ、昨日、再会したこと。


その時、ファナのアップルパイを手土産として持って行ったら、いたく気に入り、礼を述べたいからと次はファナも同伴するよう告げられたこと。



マガロとの出会いを、包み隠さず伝えた。



「どう思う、ファナ。」


全てを伝え、恐る恐る尋ねるアロン。

突然、伝説の邪龍に会ってくれなどと言われれば、いくら婚約者とは言え呆れかえるのではないかと不安に思う。


ファナは顔を俯かせて尋ねてきた。



「ねぇ、どうしてアロンにあげたアップルパイを持って行ったの?」



ドキリ、と心臓が高鳴る。

あのアップルパイは、ファナがいつもアロンのためだけに一生懸命作ってくれているのだ。

それを貰ったとは言え、ファナの断りなく無断で持ち出し、邪龍とはいえ他の女に食べさせたという事が、気に入らないのかもしれない。


焦るアロン。

よくよく考えれば、迂闊な行動であった。


――これは、変な言い訳をしても逆効果だ。

アロンは、正直に告げた。


「ファナ。伝説の邪龍が “お茶が好き” だと言っていたから、美味しい物を手土産にしようと思ったんだけど……ボクの中で世界一美味しいは、その、ファナのアップルパイだったから……。」


チラリ、とファナを見る。

顔を伏せているため表情が読めない。


「ごめん! ファナの断りも無く勝手に持ち出して! あれはファナがボクのために一生懸命焼いてくれたアップルパイだったのに。本当に、ごめん!」


こうなれば誠心誠意謝る他無い。

アロンは精一杯、心を籠めて頭を下げる。


ところが、当のファナだが……。



「せ、せ、世界一、美味しい……。」



顔を真っ赤にして、両手で頬を覆う。

アロンの謝罪の言葉など耳に入っていない。


「ファナ?」


怒られるのか、呆れられるのか。

どちらにせよ精一杯謝る他無かったアロンは、気の抜けたようにファナを眺める。

そのアロンの視線に気付き、コホン、と軽く席払いをした。


「分かった、アロン。確かにアロンのために焼いたアップルパイを、他の女の人に持って行ったなんて知ったら絶対に許せないけど、相手が邪龍様なら仕方無いと思う。」


未だ顔を赤らめ、真っ直ぐアロンを見て紡ぐファナ。

顔を抑えていた両手を外して、アロンの手を取る。


「私の事、守ってくれる?」


「それは……。もちろん。何があっても、ファナは絶対に守る。」


アロンの真っ直ぐな瞳。

ファナは微笑み、そのままアロンに口付けをした。


それは今世の二人にとって、初めてのキスであった。



「ファ、ナ……!?」


「……いいよ。私も、その、邪龍様に会ってみたい。」


はにかみながら、了承する。

ファナとしても、自分の知らないところでアロンが強くなっていくのも少し寂しい気持ちがあったが、邪龍などという埒外な存在に見染められた事に、少し危機感を抱いたからだ。


「腕によりをかけて、美味しいアップルパイを焼くね!」


「ああ。ありがとう、ファナ。」


お礼とばかりに、アロンもファナに口付けをした。

――前世では、二人きりになればこうしてキスを交わす。

その時のことを思い出したからだ。


「アロン……。な、なんか、凄く自然にしたけど……。」


湯立つ程、顔を真っ赤に染め上げて目を回すファナが居た。


「あ、ごめん!」


気をつけていたつもりだったが、地が出てしまった。

再び謝るアロンであった。





「邪龍に会いに行く前に、これを装備して欲しい。」


落ち着きを取り戻したところで、アロンは “次元倉庫” から、装備一式を取り出した。


それは白く輝くローブに、金色に光る髪飾り。

さらに不思議な色の水晶が付いた杖であった。


「え、え、えっ!? 何、これ……?」


「ファナのために用意したんだ。受け取って欲しい。」


ファントム・イシュバーンから持ち込んだ武具やアイテムは、何もアロンが自ら使うためのものだけでは無かった。


自分自身が離れてしまっている時のために。

ファナや妹ララ、それに数人分の武具も用意したのだ。


と、言っても、ファナを始めイシュバーンの住人は職業が全て基本職であるため、装備出来る武具は、“最上級” が限度となり、それよりも上の勇者級・英雄級・伝説級・神話級に分類されるものは装備することが出来ない。


それでも、今、ファナの目の前に広げた装備は最上級の中でも最高峰の装備だ。

防御力は低いが、それを補い余りある効果を持つ装備のため、むしろ勇者級どころか、その上の英雄級とも遜色の無いほど高性能なのだ。


まず、防具一式。

“聖職シリーズ” と呼ばれる最高級品。

頭、胴体、両腕、腰背、両脚の5箇所のうち、4箇所をこのシリーズで固める事によって “闇属性” と “邪属性” の攻撃が無効となる。

アロンはファナのために、頭装備以外の “聖職シリーズ” を用意した。


そして頭の装備。

金色に輝く髪飾りだ。


“精霊の髪飾り”


防御力は皆無に等しいが、この装備効果は何と “ありとあらゆる状態異常を無効にする” という破格の性能なのだ。

つまり、邪龍や森の奥に生息する凶悪なモンスターが常時発動しているバッドステータス効果を、全て跳ねのけてくれる。


そしてもう一つ。

不思議な輝きを放つ水晶の杖。


“セイントスタッフ”


基本職 “僧侶” が装備出来る最強の武器だ。

特色は高い魔法攻撃力だけでなく、ヒール等を使う度に使用するSPの使用量を30%も減らしてくれるのだ。


ちなみにSP使用量30%減というのは、ファントム・イシュバーンで最高値だ。

最強部類の英雄級、神話級でも10%減が上限。


これは初心者救済措置による効果なのかもしれないが、敵に攻撃をしない高レベルヒーラーとして活動している上位職や覚醒職プレイヤーも好んで装備されるほど、メジャーな僧侶系の武器である。


笑顔でこれらの装備を差し出すアロン。

ところが、そんなアロンとは裏腹に、ガクガクと全身を震わすファナであった。


それもそのはず。

目の前に置かれたのは、見たことも無い高価な武具の数々。

とても一介の村人が手にするような物では無い。



「ア、アロン……これ、も御使い様が用意された物なの?」


アロンの次元倉庫やディメンション・ムーブなどは、御使いから与えられた能力(スキル)であると、ファナやリーズル達に説明している。


ただ、アロンが次元倉庫内に納めている屈強な武具や高価なアイテムについては、ファナにしか明らかにしていない。

もちろん、それらも “御使いから与えたられた物” だと説明した。


「そうだよ。ボクが御使い様に与えられた天命を全うするために必要だと告げたら、用意してくださったんだ。」


どこかで、この方便を御使いが聞いているかもしれない。

だが超越者(害虫)の “選別” と “殲滅” には些細な事で、あの御使いがわざわざ咎めるなど到底思えない。

不安もあるが、何かにつけて御使いを理由に使うのであった。



アロンの心境とは裏腹に、震えていたファナは目を輝かせて、再度尋ねた。


「……これ、本当に私が着てもいいの?」


絵本の物語にあるような、勇者様と結ばれるお姫様のような服装。

ファナにとって幼少期からの勇者様はアロンであり、晴れて婚約者となった自分に、このような 豪奢な装いを差し出してくれることに、心から感動を寄せている。


そんなファナに、若干の罪悪感を覚えながら頷くアロン。

この装備はファナのために用意した物であるから、どう思ってもらおうと装備してもらえる事に越したことは無い。


ただ。


「これをファナにあげるとしても、他の人の目に付くのは不味い。森の奥へ行く時に、この部屋で着替えて欲しい。」


もちろん、アロンもいつもの装備を着けていくつもりだ。

だからこそ、ファナにも同じようにしてもらいたいと提案したのだが……。


「ア、ア、ア、アロンの部屋で、着替えるの?」


「あ、いや! 変な意味で言ったわけじゃないからね!」


両手で左右の腕を掴み、目を潤ませるファナ。

アロンは通算36年を生きるが、ファナは違う。

多感なお年頃だ、そういう事にも興味があり、色々と想像が膨らんでしまうのであった。


「とにかく、4日後! ファナ、よろしくね!」


「う、うん! 分かった……。」



何とかファナの了承を得たアロン。

まだ不安はあるが、約束の日に再び邪龍マガロ・デステーアの許へと赴くこととなった。





そして、4日後。

約束の日。


アロンの部屋に来たファナは、早速アロンが用意した聖者シリーズの装備と “精霊の髪飾り” を装備して、準備を整えた。

もちろんアロンも、いつもの黒銀のフルプレートアーマだ。



「何かアロン……騎士様みたいだね。」


「あ、ありがとう。」


ファントム・イシュバーンで慣れ親しんだ装備。

考えれば、この現実世界イシュバーンにおいて他の誰かにこの姿を見せる日がこんなにも早く来るとは思っていなかった。

ましてや、その相手が婚約者のファナであるとは。



「よし。一気に邪龍のところへ行く。ファナ、手を離さないでね。」


手を繋ぐアロンが、鉄仮面の中からくぐもった声で伝えた。

うん、と返事をして、しっかりとアロンの手を繋ぐファナ。


アロンの腕は、“金剛獣鬼剛腕GX” という神話級防具である。

現在、黒銀の見た目(アバター)装備を纏っているため普通のガントレットにしか見えないが、様々な “龍” の素材で造り上げたアロン自慢の装備だ。


その見た目は禍々しく、鋭い龍の鱗に覆われているため、触れるだけで身体に傷を負うような形状をしている。

しかしアバター装備の効果か、特段ファナを傷つけることは無い。

ファントム・イシュバーンのシステム上スキルの効果か分からないが、ありがたく思うアロンであった。



そしてアロンは、一瞬でマガロとの約束の場まで飛んだ。





「来たね。」


アロンとファナがその場所へ降り立った瞬間、豪奢なテーブルと椅子に腰を掛けて優雅にお茶を啜る、細く病的な女が呟いた。


「約束通り(どおり)連れてきました。」


初のディメンション・ムーブでの移動と、神秘的な雰囲気を醸し出す森の奥へと、全てが初体験で言葉も出ないファナの手をしっかりと握りしめて伝えた。


口元だけ緩く微笑み、女、――マガロはファナに目線を向けた。

約束通り(・・・・)、あの凶悪なインパラトールヴォルフやカイザーウルフといった、邪龍の番人は随伴せず、マガロ一人だけだった。


「初めまして、アロン殿の大切な方。聞いてはいると思うけど、私はマガロ・デステーア。この森の最奥の番人をしている者よ。」


病的なほど細いが、予想以上の美少女であり驚くファナ。

ハッ、と我に返り思い切り頭を下げた。


「は、始めまして! アロンの婚約者のファナと申します!」


顔をあげたファナを見つめ、クスクスと軽く笑う。


「これはご丁寧に。先日、アロン殿が持ってきた、貴女が作ったパイが凄く美味しくてお礼を言いたかったの。ありがとう。」


立ち上がり、会釈をするマガロ。

身体は非常に細く背丈はファナと同じでアロンより頭一つ分ほど低いが、両サイドに巻かれた厚い髪と、どこかの貴族令嬢のようなドレスを身に纏っていたため、ファナから見て非常に大きく映るマガロであった。


ファナは慌てて、持ってきた籠から大皿を取り出した。

その上には、今朝ほど焼いたアップルパイが。


「あ、あの! これ……マガロ様がお気に召したとのことで、僭越ながらお持ちいたしました。」


まだホカホカと湯気が立ち上るアップルパイを目の当たりにして、目を輝かせるマガロ。


「わあ、ありがとう! ファナ殿、大切にいただくね。」


大皿ごと受け取り、次元倉庫へ仕舞うマガロであった。

首を傾げるアロン。


「召し上がらないのですか?」


あれだけ、ファナのアップルパイを所望していたのに。

しかも、すでにお茶会よろしくテーブルの上にお茶やお菓子を並べていた。


クスクスと再度嗤うマガロ。



その笑みは、邪気が孕んでいた。




「本当、お馬鹿ね。」




突然、マガロの周囲に禍々しい気配が立ち上る。


「マ、マガロ!?」


思わず警戒するアロン。

ファナを守るように、前へせり出す。


マガロは一歩、また一歩とアロンとファナへ近づく。



「アロン殿? 貴方は人が好過ぎるわ。私はこの森を守る邪龍であり、貴方から見れば、所謂モンスターよ? 何故、信用出来たのかしら?」



呟くように言い、マガロは右腕に黒い槍を取り出した。


同時にアロンは背の鞘から聖剣セイブオブクロスを抜き、左腕に取り付けていた天盾イーザーを構えて、叫んだ。


「元からそういうつもりかっ!!」


「ええ、お人好し過ぎる人の子に戯れで近づいたの。本当に、貴方は馬鹿ね。」


『ズリュッ』

マガロは豪奢なドレス姿から、出会った時と同じくボサボサの厚い黒髪を無造作にして、黒い布を巻きつけたような服装のとなった。



「さぁ、守ってごらんなさい?」



マガロの言葉と同時に、周囲に浮かぶ、黒い光の球体。

それは、マガロの使い魔であった。


その数、10。


思わず、叫ぶアロン。


「約束が違うだろ、マガロ! それでも、偉大な龍なのか!?」


「さぁ? それは貴方たち人間の幻想では? 」


同時。

アロンとファナ目掛けて2体の使い魔が急襲してきた。


『ズバンッ、ズバッ』


アロンは問題なく、使い魔を切り裂いた。

空中で朽ち果てるように、ボロボロと消える使い魔。


その瞬間。


『ガンッ!!』


「キャア!」


背後に現れたマガロの凶悪な一閃を、防ぐアロン。

マガロの黒槍は、まるでファナを狙ったようだった。


「き、貴様……!!」


「うん、なかなか良い反応ね。でも、後ろは大丈夫?」


背後から、残りの8体の使い魔が襲い掛かってきた。


「くっ!」


アロンはファナの手を取り、ディメンション・ムーブでマガロの背後へと一瞬で移動した。

本来なら自宅まで逃げるのも手であったが、そこにファナを置いてアロンだけこの場に来たとしても、マガロがファナを追いかけてしまったら元も子も無い。


ふよふよと浮かぶ使い魔に囲まれ、悠然と振り向くマガロ。


「その移動法。回数に制限があるでしょ? それに頼っていてばかりじゃダメでしょ?」


マガロの指摘は図星であった。

ディメンション・ムーブは、連続5回が限界。

回数の回復は、1時間に1回分。


このような戦闘で連発するのは非常に不味い。

離脱は最終手段であるため、戦闘で使えるのは4回まで。


この場に来るのに1回、たった今1回。

使えても、残り2回だ。


「ア、ア、アロン……。」


涙目で震えるファナ。

装備のおかげで、マガロから発するバッドステータス効果はレジスト出来ているが、そもそも伝説の邪龍を目前として、しかも悍ましい殺意を剥き出しにされて、冷静ではいられるはずが無い。


一つ、深い息を吐き出してアロンはファナに伝える。



「大丈夫。何があっても、ボクがファナを守る。」



何度も何度も、そう決意した。

例え、相手がラスボス級の邪龍マガロ・デステーアであろうとも、愛するファナを前にして引くなどあり得ない。


ファントム・イシュバーンでは、何度も倒した相手。

例え、現時点でのレベルが足りなくても、神話級防具に、伝説級の剣を握っているのだ。


倒せなくても、手傷を負わして戻ることも可能と考える。

問題は、“ファナを守りながら” どこまでやれるかということだ。


そんなアロンの思考を読んでか、薄く嗤うマガロ。


「貴方は強い。でも、その強さはきっと独りでの強さ。誰かを守るとか、守りながらとか、意志は強くても身体がついてこないのでは?」


またしても図星だった。

ファントム・イシュバーンでは、常に一人のアロン。

そこで培った技術は高い。


だが、誰かを守る、ということに主眼は置いていなかった。


そこに、アロンは大きな矛盾を感じた。

愛するファナや家族、村人を守るために、御使いの手でファントム・イシュバーンの世界に移って、“最強” と称される力を得て、再びイシュバーンへ戻ってきたはずだ。


だが、ファントム・イシュバーンでは常に独りだった。

その弊害か、誰を守るという戦いにおいては、素人同然であったのだ。



「さぁ。存分に守ってごらんなさい? 貴方と違って死ねば終わり子がそこに居るのだから。」



残酷なマガロの言葉。

そして迫りくる、使い魔たち。



アロンは初めて、決意した “守るため” の戦いに身を置いたのであった。

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