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3-4 茶会

『あ、主よ……。この人間が、彼の者なのですか?』


見上げるほど遥か巨体のインパラトールヴォルフが、前足の関節部分ほどの背丈しかない黒髪の女に怪訝そうな声で尋ねた。


「ええ、間違いないわ。」


主と呼ばれた黒髪の女。

全身を覆うほどの厚く長い黒髪の間から覗くその表情は、人間の美醜感覚からすれば “絶世の美女” と称しても過言でないほど、整っていた。

憂いを帯びるその表情とは反面に、瞳は燃え盛る火焔のように赤く、深い。

しかしその身体は、がりがりと言えるほど細く、腕も足も、まるで骨に皮が張り付いているかのようだ。

その痩せ細った身体には、とても服とは言えないボロボロの黒い布切れが巻かれているだけであった。


後ろに佇むインパラトールヴォルフが一撫ですれば簡単に四肢はもげ、全身がはじけ飛びそうなほど、病的なまでに貧弱な身体付き。


しかし、それはあくまでも見た目の話だ。

その身体付きからは想像できないほど、深淵の闇を彷彿とさせる圧倒的強者の存在を、アロンは感じ取っていた。


全身から嫌な汗が滲みだす。

だが、尻込みしたり、怯えたりしてはならない。


隙を見せた瞬間、黒髪の女が握る禍々しい黒の槍に全身を突かれ、あっさりと命を刈り取られてしまいそうだから。


「お前は……マガロ・デステーア、か?」


辛うじて絞り出すような声で、アロンは尋ねた。

女は軽く頷き、


「そうよ。」


と、短く答えた。


アロンの予感は、当たってしまった。

まさか、【ルシフェルの大迷宮】の最奥の番人である、“邪龍” マガロ・デステーアが、このダンジョンの中間辺りにその姿を見せるとは思っていなかった。


それも、ファントム・イシュバーンとは違う、人間の姿で。


VRMMO(向こうのゲーム)で出会ったマガロは、正真正銘の龍であった。


四本の禍々しい角を持つ黒く巨大な四枚翼の邪龍。

人語を解しコミュニケーションは取れるが、結局は戦闘となり、倒す事でさらに最奥にいる【ルシフェルの大迷宮】の真の主と対面できる権利が与えられる。


尤も、ゲームであるため、出入りを繰り返すことでマガロは復活する。

一度倒せばやり過ごして、最奥の主に会うことも出来るが、得られる素材から “神話級防具” を精製できるため、アロンは単独で10回は倒した相手である。


だが、それはあくまでもゲームの世界での話。

現実のイシュバーンで出会ったマガロは、何故か女の姿であり、そしてゲームでは絶対にあり得なかった住処を離れるという行為まで仕出かした。


“ゲームとは違う”

それを十分に理解し、むしろ、世界に蔓延る超越者(害虫)どもにその意味を、その重みを突きつけて駆除するつもりでいた。


まさか、自分自身がその現実を突きつけられるとは。

“マガロは最奥に居る” という先入観こそ、ファントム・イシュバーンの世界観や常識を、知らず知らずに現実世界のイシュバーンに当てはめてしまっていた、とアロンは自らを諫めた。



『貴様。我らの主を呼び捨てとは。畏れも知らんのか?』


怒りや憎悪と言った敵愾心ではなく、むしろ、目の前の人間(アロン)が豪胆にも(邪龍)に対して呼び捨てたということに、興味と好奇心を覚えた。

そんなインパラトールヴォルフの眼前、女--、マガロは手を軽く上げて、制する。


「間違いなく、この子は、“神々の使徒” よ。それよりも身に着けている物……どうやって持ち込んだのかしら? 梯世神(ていせいしん)エンジェドラス様がお認めになるはずが……ううん、持ち込むなんて、理を歪める行為を……。」


マガロは、アロンを見つめながらブツブツと呟く。

だが、マガロが発した言葉に、アロンは思わず叫んでしまった。


「エ、エンジェドラス様だって!?」


それはこの世界で、人類に “適正職業” を与える善神。

戦争を繰り返す三大国はそれぞれ、国神として崇めている神は別々だが、このイシュバーンで唯一、三大国を跨ぎ信仰されている神。


それが、エンジェドラスだ。


アロンの言葉に、マガロは首を傾げる。


「……貴方、神々の使徒――、超越者でしょ? お会いになられたのではないの? もしかして名乗らなかったのかしら、あのお方。」


まるで、エンジェドラスを知っているかのような口ぶりだ。


「貴女は……一体、何なんだ?」


アロンが知る、“邪龍” ではない。

むしろ、アロンが知っている邪龍マガロ・デステーアは、ファントム・イシュバーンというゲームの世界で出会った、モンスターの一匹に過ぎなかった。


そういう意味でも、アロンは何も知らない。


「貴方自身で言ったじゃない。私はマガロ・デステーア。この森の番人よ。さて、私は名乗った。貴方は、誰かしら?」


マガロから発せられる圧。

“恐慌”、“威圧”、“怯み”、“烙印” といったバッドステータスを与える邪龍の威圧だ。

だが、アロンは装備でこれらをレジストしている。

マガロの迫力でたじろいでしまうが、耐えられないわけではない。


「へぇ。」


アロンが答える前に、マガロは感嘆の声を漏らした。


「ボクは……アロン。超越者だが、元はこのイシュバーンの生まれだ。」


剣を構えたまま、アロンは静かに答えた。

その回答に、マガロは首を傾げる。


「“元はこのイシュバーンの生まれ”、どういう意味かしら? 貴方は向こうの世界の住人なんでしょ?」


マガロの疑問に、アロンは言い淀む。


『歯切れの悪い小僧だ。主の問いに速やかに答えぬか。』


呆れるように、後ろのインパラトールヴォルフが釘を刺した。

ジロ、とそんなインパラトールヴォルフを見るマガロに『失礼』と軽く謝罪するのであった。


「……話したく無いな。ボクが与えられた天命に、貴方たちが障害とならない保証が無ければ、決して言う訳にはいかない。」


アロンからの明確な拒否に、マガロとインパラトールヴォルフは一度目を合わせ、そして頷いた。


『ズンッ』


何故か、身体を地面に横たわらせて休むインパラトールヴォルフ。

マガロは一歩、二歩、とアロンへ近づく。


アロンは最大限警戒する。

間合いに入った瞬間、どんな動きをしても瞬時にディメンション・ムーブで逃げるつもりだ。


だが、マガロは五歩ほどで歩みを止め、手を空中に突き刺した。

グニャリと空間が歪む、その光景。


「まさか!!」


アロンも日々扱っている能力(スキル)であった。


「貴方も使えるのね? 次元倉庫。」


口元を少し緩め、マガロは次元倉庫から豪華な椅子とテーブルを取り出した。


「は?」


何か武具が飛び出してくるかと警戒したアロンだが、出てきたのは貴族が好んで使いそうな、金銀や宝石をあしらい、豪奢な紋様が刻まれたテーブルと、同じく豪奢な椅子が二脚であった。


マガロは、次元倉庫から白い布を引っ張り出してテーブルに掛け、さらに中から、高級そうな茶器と菓子などを取り出した。


マガロは鼻歌交じりで、取り出したポットから茶器に液体を注ぐ。

器からは湯気が立ち上り、森の中に華やかな香りが立ち込めた。


「まずは、貴方から信頼を得ることが先決ね。長くなりそうなので、お茶をしながら語り合いましょう。」


マガロは椅子に腰かけ、もう一つの椅子を指し示す。


が、アロンは盛大に唖然としている。

黒銀の仮面があるためその表情は分からないが、異常に混乱している。


「どうしたの? ……ああ、そうか。人間はお茶をする時は正しい装いがあるって、聞いたわ。」


一度立ち上がったマガロの全身が長い黒髪覆われた。

黒い球体を形作り、『ズリュッ』と気味の悪い音が響く。


「どうかしら?」


黒い髪が解け、そこから現れた姿。

厚い黒髪は束ねられ、上品に巻かれることでスッキリとし、何より黒い布を巻きつけていただけの身体には、黒と紫であしらわれた上品なドレスに様変わりしていた。


再度、椅子に座るマガロ。

だが、アロンは完全に硬直している。


「……これでもダメなのかしら? 難しいわね、人間って。」


首を傾げ、若干不満そうに呟くマガロ。

アロンは、絞り出すように、正直な気持ちを伝えた。


「す、すまない……。余りに逸脱過ぎて頭がついてこなかった。だが、こんな森の奥で、伝説の邪龍とお茶を嗜むなど、ボクにはそこまでの胆力は備わっていない。」


「気にしなくても良いのに。私は純粋にお茶が好きなの。私がまだ自由に動けた時に溜め込んだお茶やお菓子はたっぷりあるわ。遠慮せず、楽しみましょうよ?」


――自由に動けた時。

その言葉に、アロンは引っ掛かりを覚えた。


「それは……貴女が、かつて人類や神々を相手取った時、ということですか?」


思わず尋ねてしまった。

マガロは、口元だけ緩めてもう一つの椅子を指し示す。


「語りたければ、聞きたければ、そちらにお掛けください。……大丈夫、今日のところは、貴方がその剣を私達に向けない限り、私や後ろの番人の長が貴方に害を成す真似はしないわ。」


“今日のところは”

つまり、今後は分からないということだ。


それはアロンも同感だ。

元々、この森にはレベリングのために入った。

今後、それを禁止されたり、禁を破った時の報復が “村への襲撃” で無ければ良いのだが。


だが、それでも。


「信用は出来ない。」


アロンは再び、剣を構えて伝える。

ふぅ、とマガロは溜息を吐き出す。


「せっかくのお茶が冷めてしまうわ。客人を前に、私から口を付けるわけにもいかない。」


まだ湯気が立ち上るお茶を眺めて、寂しそうに呟いた。

若干、罪悪感が湧きだすアロン。


「それに。今、貴方と敵対して仮に殺したとします。……意味が無いでしょ?」


真っ直ぐアロンを見つめるマガロ。

その言葉、即ち。


「そういう事も、知っているんだな。」


“超越者は不死の存在”

死に戻り、デスワープのことも知っているということだ。


「ええ。どうあっても殺せない(・・・・・・・・・・)存在(・・)を相手にするだけ、無駄でしょ? もちろん、私たちに害意があるなら別だけど? それに……。」


射抜くような視線。

思わず一歩下がってしまうアロンであった。


「貴方の装備。向こうの世界の、私を使っているわね?」


ビクッ、と身体が大きく仰け反った。

この黒銀のフルプレートアーマーで見た目を隠していたが、目の前の邪龍には全て見通されていたのだった。


「どうしてそれがこの世界に存在しているか、全く理解が出来ないけど……少なくとも、貴方は神々にとって特別な存在である、とは理解出来たわ。」


そう言い、マガロは再度アロンに席に座るよう勧めた。


「はぁ……参りました。そこまで分かっているとなれば、逆に聞くことの方が多いのはボクですね。」


アロンは観念した。

握っていた剣を鞘へ戻し、マガロが指し示す対面の椅子の前まで歩み寄った。

そして、兜に手を掛けて素顔を晒した。


「改めて、この森の恵みに預かるラープス村のアロンと申します。森の主、邪龍マガロ・デステーアよ、このような茶の席をご用意いただき感謝します。」


丁寧に頭を下げるアロンに、満足そうに頷くマガロ。


「ご丁寧にありがとう。さぁ、掛けて。」

「失礼します。」


ガチャリ、と硬質音を立ててアロンは座った。

そして勧められるまま、茶器を手に取る。


「心配しなくても毒なんて入っていませんから。むしろ、貴方には毒なんて効かなそうだけど?」


「そこまで見通せるとは。」


装備の効果で、毒もレジスト出来る。

アロンは一口、お茶をすする。


「……!! う、うまっ!」


それはアロンが前世、そして今世で飲んできたお茶とはまるで別物だった。

華やかな香りに口いっぱい広がる旨味と、柑橘のさっぱりとした後味。

思わずもう一口、もう一口と飲みたくなる。


「お口に合ってよかった。お替りもあるよ?」


アロンの後に続いてお茶を一口飲む。

ふぅ、と満足そうに吐息を漏らすマガロであった。


「さて、アロン殿。先ほど貴方は “元はこのイシュバーン生まれ” と言ったけど。もしや、何かの拍子で向こうの世界へ飛び、そして再びこの世界へ転生したとか、そういう事かしら?」


ゴホッ! とアロンは咽てしまう。

マガロの予想が的中したからだ。


「ポーカーフェイスには向いていないのね。その背景を聞いても?」


「ゴ、ホッ。……全ては言えないが、大切な人を、守るためです。」


御使いから与えられた “選別” と “殲滅” は伏せる。


“超越者はイシュバーンの救済のために存在する”

それが、御使いから聞かされた超越者の役割だ。

だが転生特典で、ファントム・イシュバーンで得たスキルをそのまま宿し、不死を始めとするシステム上のスキルまでも与えられ、このイシュバーンを “ゲームの世界” だと宣い、我が物顔で蹂躙する害虫たち。


それを見定め、殺す。

それがアロンに与えられた天命だ。


仮に、この目の前の邪龍が御使いの天命に否定的なら、厄介な障害となる。

アロンはマガロを始めとするモンスター達によって殺されても、不死システム、“デスワープ” があるため翌日には復活する。


しかし、守るべきファナや家族、村人たちは違う。

アロンを抑えるため、心を砕くため、そういった大切な者たちが狙われる危険性だって十分あるのだ。


だからこそ、アロンは自らの正体や目的を極力伏せたい。


「大切な人を守るため……? それだけで、世界の理を丸々と歪めるような真似を? あり得ないわね。そんなことをすればミーアレティーアファッシュやサティースジュゼッテが黙っていないと思うのに……妙ね。」


何やらマガロは一人でブツブツと呟く。

“ミーア何とか” とか “サティース何とか” はアロンには全く心当たりがないどころか、長い名称のためしっかりと聞き取れなかった。


その時、ハッとしてマガロはアロンの顔を見つめる。



「貴方……。白い長身の男には会った?」



目を見開くアロン。

それは、“御使い” のことだ。


驚きを隠せない様子に、無言。

肯定の意だ。



「そう。」



複雑そうな表情で、呟くマガロ。

すると、スッ、と立ち上がり、アロンに告げた。


「今日のところはここでお開きにしましょう。」


「え。」


思わず声が漏れてしまった。

あまりに美味しいお茶と菓子に、心が揺れてしまっているからだ。


クスリと笑うマガロ。


「少し私も整理してみたいの。出来れば2日後、再びこの場所に来てはくれない? 少しは貴方の要望も聞けるかもしれないわ。」


立ち上がるアロン。

意を決し、要望を告げる。


「ボクは強くなるためにここへ来た。自分のレベルを上げたい。それはつまり……。」


“森のモンスターを殺すこと”


さぁ、森の主はどう答える!?

アロンは背中や額から汗を垂れ流しつつも、真っ直ぐマガロを見つめる。


「なるほど。そのためにも命を刈り取る必要があるのね。分かったわ。」


意外や了承したマガロ。

だが、その言葉に異を唱える者が。


『あ、主よ! その矮小な人間のために、森の者の命を供物になさるおつもりですか!?』


後ろで寝そべっていたインパラトールヴォルフが驚愕で顔を歪めて叫ぶ。

マガロは後ろを振り向き、ガチガチと歯を鳴らしながら震えるインパラトールヴォルフへほほ笑み掛け、そしてアロンに告げた。


「貴方のために森の者を捧げるつもりはない。互いに出会い、互いに命散らすという自然の摂理なら兎に角、ただ、強くなるという手段のために森の者たちは差し出せない。」


“分かった” と了承した割には、否定された。

怪訝そうな顔をするアロンだが……。


「つまり、命なら何でも良いのよ。」


マガロの含みのある言葉。

ますます意味の分からないアロン。


「いずれにせよ、貴方は再び二日後にここへ来て。森の手前から一瞬で移動した能力があるのでしょ? 容易いのでは?」


「確かに、ここへ再度訪れるのは簡単なことだ。しかし、どうやってレベルを?」


それを聞かずして、信頼は出来ない。

マガロは右手からボヤッと黒く光る、光球を出した。


「私の魔力と生命力より生み出した、使い魔よ。」


その言葉でアロンは、ああ、と納得をした。


ファントム・イシュバーンでも、一部魔力の高いモンスターは “使い魔” と呼ばれる眷属を生み出したりすることがある。


使い魔の強さや種類は生み出したモンスターの力量次第。

中には大量の使い魔を生み出して物量で攻めてくる者や、厄介な状態異常攻撃を仕掛けてくる使い魔を呼び出す者もいる。


ただ、一様にして使い魔は弱い。

モンスター討伐を妨害してくる存在であるので、さっさと倒してしまうか、無視するか、それもプレイヤーの力量や判断に委ねられる。


そして、この使い魔を倒しても、経験値やJP(ジョブポイント)は入手できる。

つまり、マガロの提案はとは……。


「二日後、再会した際にこちらの使い魔を満足いくまで倒してね。その代わり……。」


「“ここから先には踏み込むな” ということか?」


“邪龍” が生み出す使い魔は、それなりに経験値が高い。

それを提供する代わりに、ここから先、【ルシフェルの大迷宮】の最奥まで踏み込むなという交換条件であったのだ。


「察しが良くて助かるわ。見たところ、貴方の装備は向こうの私そのもの。この地に降りて、それ以上必要とはしないのでは? それに……。」


マガロの目が、語る。



“最奥の旦那様(あるじ)には、用は無いでしょ?”



頷くアロン。

邪龍マガロ・デステーアを倒した先にいる、真のボス。



“傲慢の魔王オルグイユ”



倒しても素材は手に入らない。

代わりに、強靭な “神話級武器” を入手することになる。


その武器は、すでにアロンの手元にある。

マガロの言うとおり、用など無い。




「良かった。交渉は成立ね。」


満足そうに頷くマガロ。

アロンも頷き、伝える。


「それじゃあ二日後。もう一度来るよ。」


アロンは黒銀の鉄仮面を脇に抱え、ファナ達が待つ場所より少し離れた地点を映し出して、ディメンション・ムーブで移動した。


マガロ、インパラトールヴォルフの目の前から消えるアロンであった。




『良かったのですか、主よ。』


インパラトールヴォルフが立ち上がりながら尋ねる。

マガロはテーブルや椅子、それに着飾ったドレスを元に戻して振り向く。


「本気で私達の命を狙うようなら、単騎では来ないでしょう。」


ふむ、と得心するインパラトールヴォルフ。

それに、とマガロは続ける。


「彼は、あの(道化)に会っている。そして、奴曰く “世界の変革者” よ? 大切な人を守るため、だけな訳がない。恐らく、彼は……。」



アロンから感じた、底知れぬ憎悪。

邪龍・・の前で、それは隠し通す事など、不可能であった。



「この世界から向こうの世界へ飛ばされる時に、死すら超越するほどの絶望と憎悪を覚えたのでしょうね。」


マガロは思案する。

――仮にそれが、超越者絡みなら。

――仮にそれが、復讐なら。



「いずれ、あの女(・・・)と刃を交える日が来るのかもしれない。」



数千年、抑え込んでいた感情が溢れそうになる。

マガロはそれを諫め、手を組んだ。



「偉大なる女神様。愚かな邪龍たる我、マガロ・デステーアをお赦しください。」



何百万、何千万回、紡いだ言葉か。

そして名付けられたのが、“忠義と嘆きの龍”


森の者たちからは、“腰抜け” と蔑まされる。



だが、その実は。




暁陽(きょうよう)大神ミーアレティーアファッシュ。その首、必ず跳ねてあげる。)



狙うはただ一つ。

この地に押し込んだ、憎き女神の首であった。

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